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禁童録  作者: 雲符
1章 
12/44

変わる世界

深緑髪をした幼い少年が涙ながらに必死の訴えを叫んでいた日、蛇の人里にある学校で魔力持ちかの身体検査が行われた。


必ず魔力持ちとして生まれてくる唯一の種族であった山猫の血を引く禁忌の子キョクビは魔力持ちの可能性が高かったが、父親が魔力無しな事もあってどっちになるか未知の領域であった。


そしてこの日、ついに結果が出たのである。



「母上ー!!!!僕……あ、俺、魔力持ちでした!!」


森の木々を高速で乗り移り過去最短記録で森奥地の自宅へ帰宅したキョクビは、ドアを開けるや否や母サンミャに嬉しそうに診断結果を報告する。

未だに自分の呼び方を戸惑っている辺り、俺呼びが合っていないのが分かってしまうが本人は気付いていない様子だ。



毎度毎度、勢いよいドアが開けばすぐにキョクビの声が建物中に響く時は嬉しい事や楽しみな事がある時と決まってきている。

たまにサンミャが畑や食材調達で不在の時にキョクビが帰ってきて反応が無い場合があるが、後に帰宅したサンミャはキョクビが物静かに部屋の片隅で課題をこなす姿に落ち込み具合を感じて申し訳ない気持ちになってしまうのだ。


しかし夕飯の頃には、いつも通りにその日の出来事を報告してくる様子に安心しつつ切り替えの早さにも感心していた。



キョクビが魔力持ちと判断出来て、サンミャは嬉しくもあり不安でもあった。


山猫特有の特殊能力で魔力を大幅に増大させる覚醒とい現象は通常の山猫族であれば成長と共に取得出来る。

ただし例外もあり少人数しか前例がないが、幼い頃に歳相応以上の激しい怒りと激しい絶望を同時に芽生えさせてしまうと無自覚に覚醒を起こしてしまうのだ。

精神的ショックで自我を無くして敵味方見境無く攻撃を繰り出す。

自我を無くした状態の覚醒は好戦的で大人の山猫族でも数人係で止めるのがやっとである。


この事例で覚醒を起こしてしまった子供は小さな怒りで覚醒を起こしてしまうため、覚醒のコントロール取得が難しいのだ。

コントロールも出来ない状態で下手に覚醒すればそれだけ反動はあり、体力魔力消耗は激しく数日動けなくもなる。


取得した状態で適度に覚醒すれば、強力な戦力として使える。

勿論、元の体力も関係するが使い過ぎれば消耗は激しい。


例外で覚醒を起こした子供には特別な処置を施されて取得させていく。



サンミャはキョクビが覚醒の能力まで持っていた場合も考え、禁忌の子供故に万が一の事があった時の対処について不安を覚えたのである。

ただの魔力持ちなら中学で得意とする魔法を判断し、同じ攻撃特化であれば魔法を伝授するという楽しみがあるのだが。


「得意魔法は何かしらね~!」


不安を振り払い楽しみな未来を想像する。

この間の魔法攻撃を教えて下さいと早速教えを請うキョクビにサンミャは首を横に振り断った。


焦って大人になろうとする子供には今はまだ、魔力関係無しの楽しい小学校生活を味わって貰いたいのだ。

断られてしまったキョクビはしょんぼりと肩を落としていたが、夕飯の食料調達へ向かっていった。



朝日は昇っているが分厚い雲で日光は遮られて視界に映る世界は薄暗い。


日射しが現れる天気であれば元気に朝の知らせを伝えてくれる鳥達も今は静かにしていた。

ポツポツと降る雨の滴は湿った場所が好きな蛇族にとっては良い湿気となり嬉しい天気である。


日なたぼっこが好きな猫の血が混ざるキョクビは晴れも好きだが、蛇の血も混ざっていて雨も好きで天気によってテンションが上がったり下がったりするのは少ない。


この地は寒さを苦手とする種族が集まる熱帯地方であり、雪が振らない。

山猫も蛇も両方共に寒さが共通して弱点だが、両方共に血の混ざるキョクビは寒さが最大の弱点である。


雪が振る寒い地域に行けば間違いなく常にテンションは低いであろう。



恒例の挨拶合戦を済まして校舎へ入っていく生徒達。

キョクビもいつも通りに挨拶をすれば、普通に返す者とぎこちない口調で返す者と分かれていた。

 

ぎこちない口調で返されるのは初めてで不思議に思いながらも教室へ入っていく。

キョクビの入室で教室にいた生徒達がざわつき、控えめだが確実に視線を向けている。

異様な光景と突き刺さる視線に戸惑いながら友人達との会話を試む。


「おはよう…、お、俺なんかした……?」


周りの視線から感じる疑惑の念と何かを探るような観察に心地良さは無くむしろ居心地悪い。

答えを求めようと小さく呟き問いを投げれば、友人達からは戸惑いと小さな拒絶を感じた。


何も知らないと返されたが、確実に答えを知っていると勘は働く。

友人をこれ以上困らせなまいと気を遣い、そっかと笑う顔は悲しみを覗かせていた。



噂が広がるのは早いものだ。

昨夜のリオリによる悲痛の叫びに深く共感した者や、野次馬していた者がキョクビが禁忌だと話し広めていた。


キョクビの友人達は初めは信じてはいなかったが、商店街や宿屋に現れる猫種族の旅人や冒険者の種族特有の動きをキョクビも行動している時があり、更に信憑性を高めた決定打はやはり猫の目である。


今まで疑問に思わなかった訳ではないが、気にしなかっただけだった。


今回の噂を耳にした友人達は話し合い、結果は噂通りで禁忌の子供かもしれないとなったのだ。

そこにキョクビの登場で、猫の目を見ては確信してしまったのである。

今までの友情という宝石と禁忌という重罪の事実を、秤にかけることはしたくない友人達は必死に抗っていた。いや、今も抗っている。


そんな友人達の心境を知らないキョクビだが、異常事態が起こっているのは確実だと悟って大人しく様子を見ていた。



昼休み、いつもなら友人達とグループを作り遊びに校庭へ向かっている頃だ。

キョクビは気を遣い一人で校庭の隅で佇みながら遊んでいる生徒達を眺めていた。



今朝は雨だった空は薄暗いままだが、雨は朝のうちに上がり地面は乾き遊べる状態となっている。


空を眺めると今の自分の重い気持ちと同じだなと思うキョクビ。

やはりキョクビを捉える周りの視線は異常で、今まで感じた事の無い疎外感と孤立を嫌でも味あわせていた。


ふと昨日砂遊びをした下級生の子が、深緑の髪をした下級生の子と同年代くらい少年と会話をしているのを見つけ視線を送る。

あの深緑の少年は……と記憶をたどり、混ぜてと言ってきたはいいが直ぐに体調不良を訴えてどこかに行った子と思い出す。


仲良くなったんだね、と嬉しい気持ちが今のキョクビの心に安らぎを与える。


会話の内容がキョクビは禁忌の子で居てはならない存在、オレ達子供で消そう!という残虐な話であることは本人は知らない。



下校時間になればキョクビは直ぐに姿を消していた。

毎日が幸せで楽しい学校生活が、一日であまりに変わり過ぎて頭と気持ちが追いつかないのだ。


リオリはまた、キョクビへの憎悪を膨らませながらこの日も訴えて続けていた。







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