確信は現実へ
鳥のさえずりが空気に響きまわり朝の訪れを知らせる。
すがすがしい朝の空気に登りたての朝日はまだ優しい眩しさを地上に降り注いでいた。
おはよう、おはようございます、と生徒同士や生徒と教員による挨拶のやり取りを終え、生徒達は校舎へと入って行く。
教員も登校時間が過ぎれば校舎へと入る。
「リオリおはよー」
眠そうに目を擦り、欠伸をしている少年がリオリと挨拶を交わす。
席につけば授業開始まで子供達はガヤガヤと雑談を繰り広げていた。
「昨日とーちゃんが久しぶりに帰ってきたんだよ!」
眠そうにしていた少年はリオリの話の内容に食いついて眠気はどこかへと消し去る。
リオリの父親が族長というのは大蛇族では当たり前のように子供達にも知られていた。
禁忌の子キョクビは父親の大蛇が族長であることを知らされておらず、族長という単語に興味を示さないこともあってか、リオリの存在を認知していない。
たまに大蛇という名前を聞いても同じ名を持つ違う人物と判断していた。
族長は偉い人と印象を持つ子供には、どんな生活をするのか気になるものである。
しかし、リオリの話す大蛇は普通の父親と同じだなと感じた少年は段々と興味を示さなくなっていた。
一通り話し終えたリオリは興味を無くして退屈そうにしている友達の姿にムスッと不満を募らせ拗ねる。
昨日の父は話し掛ければ内容が続く返事を返してくれて会話という会話が出来、いつもより少し優しく感じ喜びでいっぱいのリオリなのだ。
やたらと現実味のあった悪夢に出てきた少年を思い出す。
薄い水色の長髪で瞳はあの美しい猫の魔女と同じだった。
昼休みになり、外へ遊びに出たリオリは悪夢に出てきた人物と酷似する少年を視界に捉えてしまったのだ。
自分と同年代くらいの少年と、少し年上であろう上級生が数人で砂遊びをしている。
その上級生の一人が薄い水色の長髪で、瞳は遠くて確認出来ないが瞳色が同じ。
ドク、ドク、ドク、と動揺で心臓の鼓動が早まり、冷や汗が全身に滲み出る。
脳内で夢と処理した筈が今、目の前に夢の登場人物であった人物が現実に居るという事態にリオリは混乱状態で立ち尽くしていた。
勘違いかもしれない可能性に掛けて混乱する頭で砂遊びをしているグループに話し掛ける。
「オレも……混ぜて貰えるかな…?」
ぱぁぁぁと瞳を輝かせるのは同年代くらいの少年で、上級生の数人はにこやかに笑って向かい入れた。
この時リオリは確信した。
あの酷似している少年は悪夢に出てきた人物であり、夢で無く現実だったことを。
瞳が黄色のネコ目であるからだ。
砂遊びを開始して早々に具合悪いと伝えてグループから外れていく。
憎しみを募らせる対象と平然を装い遊ぶという行為をまだ幼く素直なリオリには出来なかったのだ。
夢は現実だったと確信し、禁忌の重さについて幼いながらも考え、この世に存在してはならない存在と結論を導き出す。
先程のキョクビを取り巻く複数の上級生や同年代の少年は禁忌という事実を知らないで普通に接していると簡単に分かった。
ネコ目について不思議は思っても見た目や姿形は蛇族特有そのもので、禁忌という重罪について微動だに思っていないのだろう。
知恵と理性を持った人型は、この世界には存在しないが思考は人間に限りなく近い。
子供の素直さは時に残酷である。
この世に存在してはならない存在を見つけてしまえば排除しようとするのは当たり前で。
更にその対象が欲しても欲しても自分には向かない父からの愛情を、これでもかと対象には向けられていた。
父を惑わし禁忌という重罪を背負わせた魔女も勿論、排除の対象だが力の無い自分が敵う相手でもない。
そうなれば必然的に禁忌の子キョクビが排除対象となってしまうのだ。
学友でもある学校の生徒仲間を、排除させるという行為は大人達には後ろめたいものがある。
昨夜は優しく感じた父親にガッカリされたくない、また冷酷な態度に戻ってしまうのは御免だという気持ちも同時に湧き出る。
ならば子供達だけで憎き禁忌の子を排除しようと、最終的にリオリは決心してしまったのだ。
帰宅の時間にリオリの作成が始動する。
まずはキョクビが禁忌の子供という事実を広める為に、学校から帰宅路地へ向かう生徒達へ必死で「薄い水色の長い髪でネコ目の人は禁忌だ」と叫び続けていた。
途中、あまりに相手にされないことへの惨めさや、あいつのせいでオレは今まで寂しかった、辛かったと感極まり涙を流しながら叫び続ける。
そうすると必死で涙の訴えを続けているリオリに下校中の生徒達が興味を示し、心配して近寄る者や野次馬目的で近寄る者が集まり、リオリの言葉を聞いていく。
キョクビの存在を認知していない生徒も、薄い水色の長い髪でネコ目をした人物が禁忌の子であると伝わっていった。
キョクビと親しかったり、話したことある生徒達はネコ目の不思議について疑問を感じ始めていく。
存在を認知する生徒達の大半は疑問を感じても、キョクビと触れ合い優しく真面目なアイツに限ってそれは無いと信じていなかった。
リオリによる必死の訴えに心打たれて信じる者と、下級生が目立ちたいだけと馬鹿にする者と、半信半疑の者と様々な反応を見せた生徒達である。
後に、この出来事が大きな騒ぎを生んでいく。