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禁童録  作者: 雲符
1章 
10/44

不安を覚える世界

人里は森と比べて空気は重苦しく濁りを感じる。

森が大半の面積を占める大蛇族の里は綺麗な空気と評判だが、人里へと開拓されたこの地は森と比べて遥かに息苦しい。


反面、森の静寂で綺麗過ぎる空気とは違い人里の空気には温もりがある。

どちらも良く、どちらも悪い点が存在するのが世界だ。



愛妻にはお姫様抱っこされ、愛息子には重荷を持たせながら一緒に見送りを同行させてしまったヒロイン旦那大蛇(オロチ)は人里に戻って来ていた。


天国のようで楽しく幸福に満ち溢れた時間は過ぎ、また山積みとなっている難問へ向き合う毎日となる。

明日からの日常に深いため息を吐き出し、足取り重く幼なじみの元へ向う。

森のふもとまで送ってくれた愛妻サンミャと愛息子キョクビが持たせてくれた料理を届けるのだ。


「中身は何だろうか」


各家から漂う様々な料理の美味しそうな香りが嗅覚を刺激し、体が自然と空腹の知らせをする。


大蛇は手に持つ料理の中身を知らされずに渡されしまっており、別れ際には別れを惜しみ過ぎて中身を確認することをすっかり忘れていた。

空腹状態の大蛇は料理の中身が気になり仕方ないと、歩く速さを加速させるのであった。



木造の一軒家にドアの叩く音が響く。


コンコン、コン、コンコン


独特なリズムを刻む音は来客の正体も同時に知らせていた。


「大蛇か、お帰りさん~」


茶色の長髪は留めたりせず、そのまま自然状態で流している姿は女性に見間違えたりもしないガッチリ体系のショーヒが来客を出迎える。


幼なじみで相棒である大蛇の帰宅に笑顔で自宅へ招き、用件を問う。


「サンミャとキョクビからの手料理の差し入れをショーヒに、と持たされた」


大蛇の少々渋る顔からは、本当は独り占めしたいという思考が読めてしまったショーヒだが、あえて気付いてない振る舞いをする。


「マジで!?嬉しいなぁ~、サンミャさんの料理美味いもんな!」


キョクビも一緒だ、と一言告げる顔は不愉快極まりないといった表情で、ショーヒは料理渡したいのか渡したくないのかどっちだよと内心笑いながら素直に謝罪の言葉を述べた。



料理を受け取ったショーヒの視界は大蛇の傍に置かれるいくつかの量の多い荷物を捉える。

後はカヨリ辺りの分かと思考を巡らせ、サンミャさんらしい気遣いだなと感心していた。


カヨリという単語で重要な要件を思い出し大蛇に伝えようと真剣な顔になれば、何かを感じ取り真剣な顔を返す。


ショーヒの真剣な顔は冗談交じりと本当に重要な場合と二種類あり、長年の付き合いである大蛇はショーヒの醸し出す雰囲気で瞬時に見分けられるのである。


「大蛇は森に入った時、周囲を注意してたか?」


この一言で大蛇の顔は青ざめていく。

愛おしい妻子に会える期待で周囲への警戒を怠っていた事実を自覚したのだ。


激しい後悔で押し潰されそうな姿を気の毒と感じるが、呆れの混ざる深いため息を吐き出す。

少し間を置いてから口を再び開けて大蛇に追い打ちをかけていく。


「リオリくんがお前の後を付けてたぞ」


尾行の犯人が予想外の人物で、顔を上げ心底信じられないといった表情で大蛇はショーヒを見上げる。

俺も信じられなかったといった表情で眉をひそめ首を振るショーヒ。


ショーヒからリオリの件を一通り聞かされた大蛇は黙り込んでいた。



送り出した来客の背中は様々な重荷を背負い過ぎてしまい、今にも倒れてしまいそうだった。

大切な者を守るなら甘えは効かないと教え背中を叩く人物も必要だと信じ、時には辛く接しているショーヒですら言うタイミングを間違えたかと悩んでしまう。


サンミャとキョクビからの料理はショーヒの家に居るカヨリとの子供達が食べ始めていた。



ショーヒの家から徒歩5分圏内に今の大蛇の住んでいる場でもあるカヨリ達が住む家がある。


リオリの一件を聞いて衝撃は勿論、気づかなかった自分への嫌悪や、森奥地に小さな子供が独りぼっちという辛い経験をさせてしまった後悔、と様々な負の感情に襲われ続けている大蛇にはリオリも居る自宅へ帰る勇気が無かった。


しかし、いつまでも帰らないとカヨリが心配してショーヒに大蛇探索を協力を求め、先ほどまで大蛇がいたことが知られるのは考えついてしまう。


そうなれば、拉致されただのと更に騒ぎが大きくなり最終的にはサンミャやキョクビの耳へ届いて全力で探索に当たるだろう。



折角手に入れたキョクビの日常の幸せやサンミャの静かだが幸せな世界を壊したくない大蛇は、勇気を振り絞ると自宅のドアを叩く。


コンコン、コン、コンコン


大蛇帰宅の合図に建物の中から走ってこちらに向かう子供の足音がする。


「とーちゃん!!おかえり!!久しぶりにお家に帰ってきたんだね!」


カヨリ譲りの威勢の良さを感じる元気な子供が出迎えた。

深緑の髪が親である自分の血が混じるのを実感させ、酷い父親にも関わらず懐いてくる息子の姿に複雑な心境を抱く。

それと同時に息子リオリのいつも通りの元気さに違和感と疑問を浮かべる。


ただいまの言葉も無く、不思議そうな顔で此方を眺める父親の姿にリオリも同様に不思議そうな顔で見返していた。

もう一度、とーちゃんおかえりと声をかければ生返事の薄い反応で大蛇は自宅へ入っていく。


「おお!これは!」


大蛇から渡されたサンミャとキョクビからの手料理に歓喜の声をあげるカヨリは、早速とばかりに料理の包まれていた容器を開け中身を確認していた。


リオリの居る手前、サンミャとキョクビの名を出さずに土産とだけ伝える大蛇だが二人からの手土産とカヨリだけが知っている。



リオリはカヨリ以外の手料理は商店街の屋台ぐらいしか無く、食べたことのある料理のレパートリーは食材豊かな自然界で生きているサンミャとキョクビの料理レパートリーと比べて遥かに少なかった。


サンミャとキョクビの作った料理はシチューなのだが、初めて見る料理で興味津々に眺めていた。


「どうしたの?」


先程から考え込む大蛇にカヨリが声を掛ける。

自宅の前にショーヒの所にも料理を届け、その際にリオリの事を聞いたと呟く。

大蛇の言葉にカヨリも一瞬黙っていたが、子供達が寝た後に話し合おうと提案し大蛇も同意した。




族長の家とあり贅沢な家具や広い敷地、広い庭にはカヨリが手入れをしている季節の花々が月明かりに照らされ儚げに輝いている。


自宅に帰り、表向きでは妻のカヨリと子供二人を合わせた4人で夕飯を食べた。

大蛇の分として渡されたシチューは隠しており、明日への楽しみとして確保済みだ。


「リオリね、あんたの後を付けて森に居たってショーヒから聞いた。

でも、リオリは森での事はやたらリアルな夢と勘違いしてるみたいなのよね」


カヨリの首元に輝くネックレスの宝石。

サンミャ以外の女性に目向きもしない大蛇は気にも留めていない。


ショーヒにより見つかり、カヨリの元へ帰ってきた時にはリオリは既に眠りこけていた。

今朝、起きてきたリオリの様子を一日中探っていたカヨリもリオリのいつも通りな姿に不思議に思っていのだ。


「昨日の事を何か覚えてない?って聞いても、怖かったけど面白い夢を見たって言うんだよね」


小さな子供には受け入れられない現実は、夢として片付けられていた。

無理も無いかと苦笑いを浮かべるカヨリに大蛇はまだ、不安を取り除けないでいる。


「そのまま夢と勘違いしてて欲しいな…」



大蛇の呟く言葉には願いも込められていた。











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