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一度きりのクリスマス

作者: なぎゃなぎ

十二月二十四日。

恋人ならば誰もがワクワクし、ドキドキする日。

この日を知らない人を私は知らない。




私は名を真城綾菜と言う。

大好きな彼氏を持つ、クリスマスイヴに淡い期待をする可愛い彼女の一人である。


そんな私は今、会社の事務所でムスッとしていた。

相変わらずの馬鹿で愛しい彼氏のせいだ。



私は今、東京は両国にある手作りパンの製造工場の総務部長をしている。

本当は部長なんて肩書きは私には合わない。

年齢的にもまだ二十歳にもなっていない私には荷が重いし、社会人経験も人の上に立てる程していない。

ただ・・・彼氏の優人がここの副工場長と言う仕事を本社の社長に任され、私は巻き込まれたのである。


「優人はいつか社長になりそうだから、綾菜ちゃんは会社の事務全てを把握してた方が良いよ。」

私は社長の奥さんに言われるまま、特に細かい事を考えずにこの仕事を引き受けてしまったのだ。


まぁ・・・、仕事中の優人は二人きりの時の不器用な優人とは違ってシュッとしててカッコいいので、側で見ていたいとか乙女チックな事も実は少し考えていたのは認める。




さて、話を戻すと私はクリスマスイヴの今日、とても機嫌が悪い・・・ふりをしている。


この理由を語るにはもう一つ説明が必要だ。


実は私の彼氏、優人は洒落にならない程、間が悪い。

今日、クリスマスイヴだと言うのに優人の馬鹿は昨日、車を修理に出した。

つまり、クリスマスイヴの今日、仕事終わりに車でデートに行けない事が確定したのである。


しかも、今日に限って配送ドライバーが一人欠勤・・・。

そのドライバーの代わりを何故か副工場長であるはずのやつが引き受けたのである!

代走出来る部下が三人もいるのに何故かあいつが動いた。



三人の代走を断る理由も腹が立つ。

一人は「俺は、トラックで首都高なんて走った事ないし・・・。」


走れ!!



一人は「ちょっと営業成績上がってないんで・・・。」


自行自得だろ!!!



最後の一人は本当に最悪だ。

「今日、彼女とデートなんで、遅刻はちょっと・・・。」


私の彼氏が代走したら私が遅刻されるだろ!!!!

しかも、それを私の前で言うか、普通?



・・・という経過があっての事だ。

普通の女の子なら百パーセント喧嘩は間逃れまい。

運が悪ければ別れ話に発展する。


しかし、私は実はそれほど怒っていない。

それは、優人の人間性を知った上で彼女をやっているからである。

もっとも、この使えない部下たちには腹を立てているが・・・。




優人と言う男はとにかく見た目や肩書きと言った目に入る情報と本質が真逆なのだ。


例えば、優人の写真を見せると私の女友達の反応は二つに分かれる。

一つは「可愛い!」

もう一つは「カッコいい!!」

である。


優人はカッコ可愛い系のイケメンなのだ。

人当たりも良く、仕事も出来るのでどう考えてもモテる男。言い方を変えるとチャラい男に見える。

そんな優人が産まれて初めて告白してきた相手が私であった。


見た目チャラい癖に告白するのに七時間もモジモジしていたのは私の中ではギネス記録だ。


今回の件も、優人ならスマートに全て計算立ててやる事は出来ると誰もが思うが、それは甘い!

やつは仕事は出来るのは認めるが『他人に甘く、自分に厳しい』と言う変なモットーが基礎にあるのだ!!


頼れる上司で気の利く部下?

そんな評価で済ませられる程度の苦労じゃないですよ?

もっとしっかり優人の努力を見てあげなさいよ!!

私はいつもそう思いながら優人の評価を愛想笑いをしながら聞き流す。


まぁ・・・、そんなこんなで私は馬鹿で不器用だけど、それを悔やむ事無くやり続けるお人好しな優人に心底惹かれて彼女をしている。

こんな程度の事は『何をいまさら?』位のレベルだ。

怒る程の事じゃない。


しかし、それでも優人の犠牲はそんなに軽い気持ちでは無い。

優人自身は恐らく、余裕があればレンタカーでも借りてきて私と夢の国を名乗るレジャーランドに連れていく位の事をしたくて仕方ないのを泣く泣く我慢しての代走なのだ。


私がふて腐れた態度を敢えて取っているのは、それを会社の人達に分からせるのが目的である。



キンコーンカンコーン・・・


定時をお知らせするチャイムが鳴り響く。


「あ・・・綾菜さん、お先に失礼します。」


「はぁ~い。お疲れ様。私の分も彼女を大事にね。」

私はデートを理由に代走を断った部下に皮肉混じりの返事をする。

その部下もばつが悪そうに会釈をして事務所を出て行った。



「あ・・・俺もそろそろ・・・。」


「お疲れ様。男なら首都高位走れないとカッコ悪いよ。」


「はい。」

そう返事をし、首都高男も事務所を出て行った。



「そろそろ俺も帰りますね?」


「あなたは成績追い付いてないのに?八時まで営業出来るんでしょ?」


「いやぁ~・・・営業は集中力が大事なので・・・。」

言うと、営業男も逃げるように会社を出て行った。



「はぁ・・・。」

私は深くため息を付く。

これはわざとではなく、ちょっと寂しくて出たため息。


「すまんな・・・綾菜ちゃん。そろそろあいつも帰ってくると思うんだけど・・・。」

ずっと機嫌を悪そうにしている私を工場長が気にかけてくれた。


「いいえ。仕事ですから。でも・・・来年のうちで作るクリスマスケーキに青酸カリを入れてしまったらすいませんね。」


「恐い事言わないで貰える?」




ボーンボーン・・・


時計は七時をお知らせしてきた。

優人を待つ私に工場長が付き合ってくれている。


テゥルルルル・・・


不意に工場長直通の電話がなり、私達はビクッとした。


ガチャ


工場長は私に「ちょっとごめんね。」と言うと、電話に出る。


「もしもし?今どこ?」


「えっ?事故渋滞?で何時位になる?」


「馬鹿言うなよ。そんな事言ったら俺が殺されるだろ!」


「うん・・・。じゃあ、気を付けてな。」


ガチャ



工場長は電話を切った。



「なぁ君ですか?なんて?」

私は電話を切った工場長に話し掛ける。


「うん。優人だ。配送は終わったんだが、帰りの湾岸で事故渋滞にハマったらしい・・・。」

工場長が無意味に深刻そうに私に説明をする。


「何時位に戻るんですか?」


「後、一時間は掛かるな・・・。」

工場長は私に言うと、黙り混む。


「工場長は家にお子さんが待っているんでしょ?私は一人で待ってるんで帰ってあげて下さい。」

私は、私に気を使う工場長が少し気の毒になり、そう言ってあげた。


「そ・・・そうか?じゃあお言葉に甘えて・・・。優人の配送日報はほぼ記入しといたから、後は走行距離の記入だけしてくれれば良いって伝えてあげて。」


「はい。ありがとうございます。」

私が答えると、工場長も席を立ち、事務所を後にした。



工場長がいなくなり、一人になると、私は机になだれ込む。


「はぁ・・・。私・・・何してるんだろ・・・。今日はイヴなのに・・・。」

クリスマスイヴの夜に一人で事務所に残る自分が少し惨めに感じ始めた。


「なぁの馬鹿!工場長の馬鹿!社員どもの役立たず!!」

私は寂しくて、気を紛らす為にひたすら文句を言い始める。



ガチャ


突然、事務所の扉が開いた。

私はドキッとして机から起き上がると、そこにはさっき帰ったはずの工場長が戻ってきていた。


「どうか、しましたか?」

私は工場長に聞く。


「いや・・・、クリスマスで鶏肉の唐揚げを売ってたから買ってきたんだ。優人が戻ったら、冷蔵庫のケーキと一緒に食べなさい。」


「あ・・・ありがとうございます。」

私は工場長の優しさに少しだけ癒された。


工場長は私に唐揚げを渡すと、また事務所を出ていく。



ボーンボーン・・・


事務所の時計が八時をお知らせしてきた・・・。


終わった・・・。

私のクリスマスイヴはもうどこにも行けない・・・。

せっかく、明日は土曜日なのに・・・。

車が無いんじゃどうにもならない・・・。



ボーンボーン・・・


九時・・・だと!?

もうサンタさんがトナカイに乗ってこども達にプレゼント配り始める時間じゃないか!!


私のサンタクロースはいつになったら帰ってくるんだ!!


私が机をドンドン叩いていると、ガチャと言う音とともに、見知ったイケメンが現れた。



「悪い、綾菜!!すぐに日報書いて帰ろう。」

待ちに待った優人の姿に私は一瞬ホロッと涙が出そうになった。


「ううん。あっ、工場長が唐揚げ買ってきてくれたの。食べてから帰ろう?ケーキもあるから、お茶用意するね。なぁ君の日報は後、走行距離書いて終わりだって。用意してる間に済ませちゃってよ。」


「分かった。後、営業日報も書かないと駄目なんだよ。配送中に一ヶ所気になる所があったから、営業かけて、契約してきたんだ。」



『こいつ・・・。何やって来てんだ?』

私は心の中で優人にツッコミを入れるが、口に出さず、食事の用意をした。


『つまりは、あの、営業成績が足りてないやつの穴埋めをしたのか・・・。』



私が唐揚げとケーキとお茶を用意して、優人の机まで持っていくと、優人は営業日報の記入に取りかかっていた。


「山下公園前店・・・。あんな所にお店あったんだ?」

私は日報を見ながら優人に話し掛ける。


「ああ。深夜納品できるから時間の制限も無いし、ここは多分売れるよ。」

優人は視線は日報から離れる事無く、作業をしながら私に答える。


「チキン食べる?」


「うん!」


「はい。あ~ん。」

私は優人の作業の手を止めないように気を使いながら優人の口にチキンを差し出す。

優人は日報を見たまま、口を空けてチキンを頬張る。


「旨いな。このチキン。」


「うん。美味しいね。」

私も優人にチキンを食べさせながら、自分も食べて優人に答える。



「さてっ!終わり!!綾菜、待たせてごめんね。明日、デートしよっか?」


この男・・・。

こういう男なのだ・・・。

今日はイヴ。確かにクリスマスは明日である。

記念日と言うなら明日でもかまわない。

しかし、クリスマスは家族で祝う。

イヴは恋人と祝うのが習わしじゃんか!


聖母マリアはクリスマスイヴでは母親ではなく一人の女性でクリスマスに母親になっているじゃないか!!


今日デートがしたい!

今日どっか連れて行け!!


私は心の中で女心を全く解さない馬鹿男に文句を言う。

そんな私の表情を見てか、両国駅に着くと優人はいきなり立ち止まった。


「うん?」

私は優人の行動に反応してみせる。


「綾菜、一駅、歩いて帰ろう!」


・・・馬鹿なのかな?

馬鹿なんだろうな・・・。


せめて早く家に帰って、暖かいお風呂に入ってさっぱりしたいのに・・・。

私のイヴは音も立てずに静かに息を引き取りました・・・。



しかし、この嬉しそうな笑顔に私は負けてしまい、二人で一駅分歩くことになった。


両国から一駅歩くと言う事は錦糸町駅までの距離を歩く。

道は単純で国道十四号に出れば道なりだ。


「わぁ・・・。」

私はつい感嘆の声をあげた。

十四号沿いにある店がクリスマスデコレーションをしていて、綺麗に飾っているのだ。

すれ違う車のヘッドライトが高速で動く流れ星流星群のように見え・・・なくも・・・ない?



そして、少し駅から離れると優人がまた立ち止まる。


『今度はなんだ!?そろそろぶっとばすぞ!!』


「綾菜、手を繋ごう!」


「はぁ?良いよ。それはさすがに・・・。」


「何言ってんだよ、冷え性の癖に手袋はお洒落じゃないとか言って着けて無いくせに・・・。冷えてるんだろ?」


『そう思うならはなからこんな時間に散歩すんなし!!』

そう思いながらも私は優人の手を繋ぐ。

優人は基礎体温が高く、手も少し冷えていたが私よりも暖かい。

私はふと優人の耳たぶを見る。

赤くなってて痛そうだった。


「違う!恋人繋ぎすんの!!」

普通に手を繋いだ私は何故かダメ出しを食らう。

『もう・・・。好きにして・・・。』


私は抵抗するのを止めて優人の言いなりに恋人繋ぎをして歩く。


優人は良く手を繋ぎたがるが、なんだかこうやって歩くのは少し緊張する。

優人は私が記念日にこだわるのを良く知っている。

多分、この散歩は足も時間も、お金持もない今の優人なりの精一杯のクリスマスイヴなのだと言うのは伝わる。


私は大事にされてる。


その優人の気持ちが伝わる瞬間が凄く嬉しくなる。

私は道を歩きながら優人と色んな話をした。


まぁ・・・、それでも仕事人間の優人とするのは仕事の話や将来社長になるって話が多く、色気が足りないのが珠に傷だが・・・。

それでも、ゆっくり話が出来るのが私は嬉しい。


今だかつて、私がここまで一人の彼氏の事を理解した事はあっただろうか?

私の事を理解してくれている彼氏がいただろうか?


優人との毎日は苛立つ事も悲しくなる事も多いが、楽しくて充実している。

優人は彼氏としては欠陥が多いが、悪気が一切無いので、私が『ここが嫌だ。』と言う話をすると優人はそこを治すためにどうするかを真剣に考えてくれる。

その度に良い彼氏になっていくのが優人の魅力でもあると私は思っている。


私は優人に部下や上司は優人を利用して楽しようとしてるだけだから、お人好しも大概にしてくれと優人に強く言う。

優人は利用されても、仕事があるのは良い事だと答える。

優人のこの考え方がこの後の優人の人生観をひっくり返す大惨事を引き起こす事を知らずに・・・。




そんなこんなで何となく楽しかった散歩も、錦糸町駅に到着する事で終わりを告げる。

私達は錦糸町駅の目の前にある大型ディスカウントショップへと足を運んだ。


優人は屋体の焼鳥屋のおじさんに話し掛け、焼鳥を注文し始めた。

私は寒かったので店内に入る。

ゴチャゴチャ店内は歩きづらいが、なんか冒険をしてるみたいで楽しい。

クリスマスイヴと言う事で沢山のカップルが腕を組んだりしながら楽しそうに買い物をしていた。



私はさっきの優人の耳を思い出し、耳を暖める物が無いかを探し回る事にした。


イヤーウォーマーはスキー場以外で着けると変な人に見えるし・・・。

そう思いながら店内を歩いていると、ニット帽が私の目を惹いた。


私はニット帽を眺めながら考える・・・。


なぁ君は無地の暗い系の色が好きだ。

しかし、今日は散々待たされたし、振り回されたりもしたしなぁ~・・・。

耳は寒さで赤くなって痛そうだったから可哀想なので、狙い所は『なぁ君が嫌がるけど、許容範囲の物』を買ってあげようと思う。


そして一つのニット帽を手に取る。

大きなワンポイントのキャラクターが縫い付けられている紺色のニット帽だ。

優人の嫌うキャラクター物だが、派手さは無く、ちょっとお洒落だから最悪、私も被れる。


私はニット帽を買うと、焼鳥屋の屋体にいる優人の元へ戻る。


「でしょ?おかしいですよね!?クリスマスはキリストの誕生日なんだから、その前日の今日はマリア様はヒッヒッフーやってる最中なんですよ!」

優人が変な事を屋体のおじさん相手に語っていた。


「確かになぁ~・・・。出産で亡くなる女性もいるんだから、イヴはみんなで無事な出産を祈る日だよなぁ~・・・。」

おじさんも熱く馬鹿な事を語る優人に同調して答える。



『恥ずかしい!』


「なぁ君!」

私は小走りして優人に近寄り話を中断させる。


「あ・・・。綾菜。お帰り。ホット缶のミルクティー買っといたよ。」

優人は私の大好きな缶のミルクティーとタレ焼のねぎまやレバーも頼んでおいてくれた。


「ありがとう。私からも。」

私はお礼を言いキャラクターのついたニット帽を渡す。


「おおっ。ありがとう!ってキャラクターがプリントされてるし!!」


「あれ?プレゼントにケチ付けるような無礼な子だったっけ?」

私は文句を言う優人に言い返すと優人は困った顔をする。


「耳が真っ赤なんだから、被って。」

私が言うと、優人は少しためらいながらもニット帽を被った。


うん!予想通り似合わない!


私はお腹を抱えて大笑いをする。

優人は少し照れながらまんざらでも無い顔をする。



「あ・・・。綾菜、ちょっと食べながら待ってて。トイレ行ってくる!ニット帽暖かいよ!ありがとう!」

優人は言うと、ディスカウントショップの店内へと入って行く。



「良い彼氏だな。ずっと君の自慢話をしてたよ。」


「えっ?」

優人が店内に入るのを確認していた私におじさんが話し掛けてきた。


「昨今は物が溢れていて本質が見えない。今日の君のクリスマスイヴは他の誰よりも幸せだね。」


「そうですか?地味なもんでしたよ。九時過ぎまで会社にいて、貰いもんのケーキとチキンを食べて二人で散歩して・・・。」


「仕事以外ずっと彼氏と一緒にいれて、二人で食事して、お互いを思い合ったプレゼントを交換した。最高のイヴじゃないか?」


「あ・・・。」

私はおじさんの言葉で気が付いた。

しかも、散歩の間はずっと色んな話をしてたし、時々見掛けるライトアップされた民家を見て、感動なんかもしてたりした。



私は両国駅から錦糸町駅に来るまでの短時間でクリスマスデートの定番を全て満喫していたのである。



楽しく弾む会話は運転が苦手な優人が運転してないからいつもより弾んでいた。


貰い物のクリスマスケーキはうちで今日作ったばかりの出来立てでお店で買うより味が良い。チキンは社長が並んでまで買ってきた名店の物。


エレクトリカルパレードの代わりの民家のライトやクリスマスムードで飾られた街並みは・・・置いといて・・・。


クリスマスプレゼントは私からはニット帽で優人からは焼鳥とミルクティーで味気ないし、お金は掛かってないが、お互い今貰えて一番嬉しい物を偶然買っていた。


『うん?私は別に焼鳥とミルクティーが一番って訳じゃないぞ!』


私は危うく焼鳥とミルクティーで浮かれる所だった自分をたしなめる。



「はい。幸せ者です。私は。」

心の底からそれは思った。


クリスマスだから高級料亭で綺麗な夜景に囲まれて、良いものを食べる。

憧れだけど、テーブルマナーやらドレスやら面倒臭いのは去年思い知らされていた。

夢の国のエレクトリカルパレードは人混みが邪魔をしてゆっくり感動なんて出来ないし、優人の手の温もりを感じる事も出来なかった。


もろもろ考えると今日の散歩は私のクリスマスイヴの中でもトップクラスに素敵な思い出だ。



「悪い、綾菜。トイレが混んでてさ・・・。」

私のサンタクロースがまた小走りして来た。


「ううん。お帰り。」

私は優しく優人に答える。


「じゃあ、電車乗るか!」


「ううん。亀戸まで歩こう!」


「はぁっ!?道知らないぞ???」


「大丈夫、大丈夫!何とかなるよ!」

私は優人の手を引いて歩き出す。

もっと歩いて、もっと幸せを噛み締めたかった。

変な雑念を持たず、せっかくの彼氏との時間を大切にしたくて私は歩き出した。




家に着いたのは零時を過ぎていた。

優人も私もクタクタで、お風呂に一緒に入り、二人でテレビを見る事にした。


私は炬燵に足を入れ、炬燵の中心に置いてある百均で買った小さなクリスマスツリーに目が行く。

さすが百均、質素で飾りが一つで、チェーンのような物が巻かれているだけだった。


「メリークリスマス・・・。」

私は小さな声でクリスマスツリーに話し掛けた。

優人は台所で暖かいお茶を入れて持ってきてくれ、「後、ミカンだな。」と呟き、また台所へ歩き出す。


「んんっ!?」

優人がお茶を炬燵に置いた瞬間、私の目にしっかりと映り込んだ物に私は驚きの声をあげた。


いつもアクセサリーを着けない優人の首元にネックレスが着いていたのだ。

そして、そのアクセサリーのチャームは見覚えがある。


私は炬燵に置いてあるクリスマスツリーを両手で持ち、確認する。


「・・・優人のネックレスと同じやつ・・・。」

私はクリスマスツリーの飾りを外し、じっくりと観察をする。


これは・・・まさしく、某有明ブランドのネックレス・・・。



「おっ?気付いたか?」

クリスマスツリーから外したネックレスをマジマジと見つめる私に気付き、優人が照れ笑いをしながら台所からミカンを持ってきて、私の横に座る。


「綾菜。メリークリスマス。ほ・・・ほらっ、お前、寂しがり屋じゃん?でも、俺は仕事忙しくて、留守番ばっかさせてるから、せめてさ・・・ペアネックレスでも着けてれば、離れてても思い出せるかな・・・なんて・・・。」

優人は照れながら説明をする。


本当に馬鹿な人だ・・・。

例え一千万のネックレスでも、優人が一人横にいるのには敵う訳が無い。

それくらいあなたは尊い存在なのに・・・。



私はポロポロと涙が溢れ出すのに気付き、優人の胸に顔を埋め、泣き顔を隠す。

「ありがとう。」と言う言葉すら震えて止まらない。


本当に幸せなクリスマスイヴだ。


優人の胸の中で涙を拭く私の耳に優人の心臓の音が入り込む。


トクン・・・


トクン・・・


優人の心臓の音は心地よく、私はいつの間にか優人に抱かれながら眠りに落ちた。




メリークリスマス。

あなたの心にも幸せが舞い降りますように。

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― 新着の感想 ―
温かく、優しい気持ちに包まれる素敵な物語でした。不器用ながらも愛情深い優人と、そんな彼を理解し、共に過ごす綾菜の姿が微笑ましいです。クリスマスイヴという特別な日でありながら、予期せぬ出来事に見舞われる…
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