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桜の季節に二つの花びら

作者: 華歌 李夢

「明日、桜狩りに行こう!」

 姉さんは居間に戻ってくると突然そう言った、と思うのだけれど私には、なんとなくしか意味がわからなかった。

「桜狩りって?」

 私はそう聞き返してみる。

 すると胸をはって、もうこの上ないほどのドヤ顔で姉さんはこう続けた。

「桜狩りっていうのは、花見のことなんだよ! すごく粋で雅な言い方なんだよ?」

「へ、へぇ……花見の事なのね、知らなかったわ……まぁ、つまり花見に行こうってこのなのね?」

「うん、桜狩り!」

 楓姉さんはたまに子供なのか大人なのかよくわからなくなる。

 そういえば弟の葵はさっきから姉さんをやっていたゲームの手が止まり不安そうな顔で凝視している。

「どうしたの? 葵」

 私は気になったので問いかけた。

「うーん……あんまり外出たくないんだけどー」

「まぁそんな事でしょうと思ったけど」

「でも……それだけじゃないんだよねー」

「え? じゃあどうしたの?」

 一瞬迷ったように間が空いた。

「まさかだけど……あの二人は来たりしないよね?」

「あの二人……来るんじゃない? ねぇ、姉さん?」

「うん! 来るよ?」

 姉さんに振ってみたが当たり前だと言わんばかりの返答だった。

「えぇ……」

 葵は眉を寄せ顔をしかめた。

「そんな、どこが嫌なの? ちょっと方言が入っててわかりづらい時はあるけど、二人とも活発で可愛い女の子じゃん」

 本当に不思議そうに姉さんは言う。

「だって……なんか……めんどくさいし……」

 葵には合わないタイプだろうけどそんなに悪い人ではない。

「とりあえずいいじゃない大事な従姉妹なんだから」

「う、うーん……」

 葵は何となく納得の行ってないようだがとりあえず話を進めよう。

「姉さん、ところでどうやってどこに行くとかっていうのは決めてあるの?」

 姉さんの事だから完璧な計画を立ててあるんだろうとは思いながらも一応確認をとる。

「うん! バスと電車で行くんだよ」

「バス……電車……ねぇ……私も片手に数える程しか使ったことないのだけれど大丈夫かしら……」

 正直不安だ。なれないものを使って姉さんに危険があっては不味い。

「だいじょーぶ! そのためにもあの二人に来てもらうんだよ」

「あーなるほど、それなら確かに安心ね」

 今は春休みで田舎の従姉妹の家にお世話になっている。この辺に詳しい従姉妹がいてくれれば心強いだろう。得策と言える。

「じゃー椿姫も葵も準備しといてねー」




 私は家族の中でいつも最も早く起きる。そして、ささやかながら静かなティータイムを楽しむ。

 私にとってはほんのり射し込む朝の陽と鼻をくすぐる紅茶の香りが日常的なことだけど、なければ生活が狂ってしまう。

 時計の歯車だろうと正確に動いていても少しずつズレが生じる。あらかたそのズレを直す時間というのが私に置き換えると今、この時間なのだろう。

 だからこの時間が邪魔されるなんてことあっていいはずがないのだ、けれど、どうやら今日はそうのんきに紅茶を嗜むことはできないらしい。

 足音がする。そこそこの速さで少しサビが回った鉄製の螺旋階段を駆け下りて来る音が。それも二人分。

 朝から元気すぎるステレオボイスを聞くとなると自然とため息も漏れる。

「おはよう!」

 綺麗そろった挨拶が目の前で繰り出された。

「おはよう、瑠奈、それに瑠花」

 私も当たり障りのないように返す。

 瑠奈と瑠花はもうすぐ高校二年生、葵の六個上、私の二個上で姉さんの一個下、つまり私の先輩である。

「ねーねー、何飲んでるのー? 瑠奈に見せてー?」

「瑠花にもー!」

 しかし、どうも年上という実感はない。

「これね、紅茶よ、紅茶」

 面倒だから適当にあしらおう。

「へー、なんてやつー?」

 この子達は大抵、交互に話しかけてくる。髪を右側で結っているのが瑠花、左側で結っているのが瑠奈、立ち位置も大体固定で、右側が瑠花で左側が瑠奈。ちょっと左右をそれぞれ見るのが面倒なので、いっそ同時に話しかけて欲しいものだ。

「まぁ、そんなことはどうだっていいのよ、あなた達こそどうしてこんなに早起きなの?」

「あーうん、それはね花見に行くのが楽しみすぎて早く起きちゃったんだよ!」

 瑠奈が言った。

「瑠花たちが案内するってなってたから余計に張り切っちゃってさ!」

 瑠花が言った。うん、ほんとめまぐるしい。

「まだ時間もあるし、布団で休んでたらいいじゃない」

 私はそれとなく追い払おうとする。

「えーでもそれじゃあ退屈じゃん、葵君はー?」

 そういえば、葵はこの子達にすごく気に入られているんだった。

「まだ寝てると思うけど……」

「よし、待ち伏せだー!」

 瑠花の言葉に瑠奈も頷く。

 この子らの意見が食い違う所を見たことがない。その上それぞれの押しが、主張がやたら激しい。だから、私は追い払うことをとりあえず断念せざるおえなかった。

「じゃあ二人ともここで静かに待ちましょう」

「うん!」

 さて、ある程度静かになった事だし私は落ち着いて紅茶を楽しもう。

「…………」

 なんだかとても飲みづらい。二人の視線が痛すぎる。

「瑠花と瑠奈にも淹れて上げましょうか?」

「やったー!」

 やっぱり二人とも飲みたかったのか、言ってくれればいいのに。

 私は黙々と二人分の紅茶を用意する。二人ともそわそわはしているが静かに待っている。メリハリがあるあたり一応歳上なのか。

「はい、二人ともどうぞ」

「ありがとー」

 こうして大人しくしていれば二人とも可愛らしいものだ。

「そういえば、なんで二人とも葵のことを気に入ってるの?」

 私は前も聞いては見たが、はぐらかされたので今一度聞いてみる。

「んー? それはねー、瑠奈たちの事をわかってくれてるからなんだよ」

 いまいち意味がつかめない。

「それってどういう事? 葵は人のこととか考えるの苦手じゃなかったかしら」

「別に考えてくれなくってもいいの、だけんど葵君は瑠花たちの事をみてくればかり考えてる大人達よりも、もしかしたら家族よりもわかってくれてるんだよ」

 葵が何をしたんだろう。葵はずっと、いつだってこの二人に大したことをしたことなんて一度もなかったはずなのに。

「葵になにを期待してるのか分からないけど、きっと考えすぎだと思うわ、二人とも葵の事をどんな存在だと思っているの?」

 少し刺のある言い方になってしまっただろうか。

「大したことじゃないよ?」

 軽く首をかしげて瑠奈は言う。それに続けて瑠花も話を繋ぐ。

「ただ瑠花たちはね……」

「瑠奈もだけど……」

 緊迫した空気が流れる。私はこの続きを予想した。もし、仮に予想通りなら聞きたくはない内容だろう。聞いてどうにかなるものでもない。

「ごめんなさいね、余計な事を言いすぎたかしら」

 私は耐えきれなくなって口を挟む。しかし、二人にはいまいち届いていないようだった。

「実はずっと前から葵君の事が……」

 不意にこの雰囲気を切り裂くような、扉の勢いよく開く音がした。

「おはよー! 椿姫、それと瑠花、瑠奈!」

 私をいつも助けてくれる姉さんの登場だ。そして後ろには葵も。

「おはよう姉さん、葵もね」

 私は姉さんを見た瞬間、安心感に包まれた気がした。

「おはようございまーす! 楓さん!」

 私の目の前からさっきまでの話からは考えられないほど元気な、いつものステレオボイスが放たれる。

 姉さんのことは尊敬しているからさん付けらしい。

「おはよー……みんな……」

 葵もささやかだけれど挨拶をした。

 それで二人も遅れて葵の事にも気づいたようだ。

「あっ! おはよう! 葵くーん!」

「ずるい! 瑠奈も!」

 そう言って二人は左右から葵を挟み込む。

「ねぇねぇ瑠花と一緒にゲームしようよー」

「あーうん、別にいいけどー」

「じゃあ瑠奈たちの部屋おいでよ!」

「えーでもー……」

 ああいうのを両手に花というのだろうか。まあ、一種の洗脳術にも見えなく無いが。ともかく、当の本人はとても迷惑そうにしている。

 そこに私たちの愛すべき姉さんは大いなる慈悲の心で助け舟を出す。

「まぁまぁ、葵も困ってるし、それに皆起きたんだし朝ごはんにしようよ、多分その後は花見に出発する時間にもなるし」

「確かにその通りね、さあ朝ごはんにしましょう」

 私も当たり前だけど姉さんに賛成する。



 美味しそうな、いや、もはや美味しいことが約束された朝食がものの十五分程度で用意された。

「やっぱり姉さんの作るご飯は美味しいわ、一生姉さんの手料理を食べて暮らしたいぐらい」

「いやーあんまり時間もないし手の込んだ物ではないんだけどねー」

 炊きたてのお米に魚の煮付け、ほうれん草の胡麻和え、さらには味噌汁付きときた。ただの朝ごはんに小さな圧力鍋を使いこなす女子高生なんて姉さん以外にいないだろう。

 早起きが大の苦手な葵が朝ごはんを欠かさず食べるのにも納得がいく。

「んー! 美味しー! ね、瑠奈」

「うん! 美味しい! 椿姫も葵君も毎日こんなに美味しい料理を食べれるけー? 凄い幸せじゃん」

 二人も姉さんの料理に感動しているようだ。

 葵もいつも通り幸せそうに黙々と食べている。

 もう箸が止まらない美味しさとはこのことを言うのだろう。毎日だけど。

 私たちはそこそこの量があった朝ごはんをさらっと平らげた。

 数分の休憩を挟んで姉さんが口を開く。

「よし、じゃあ行こうか!」

「うん!」

「そうね」

「りょーかーい」

 双子、私、葵がそれぞれ返事をする。

「瑠花、瑠奈、まずはバスで駅まで行くんだけっけ?」

「うん、そうだよ、これ逃したら二時間はバスが来ないから注意しないとね」

「そうそう、乗り逃がしたら絶対後悔するねー」

 私は少々驚いた。私たちの住んでる場所もそこそこの田舎だからバスは一時間に一本しかこないらしい。でもここはそれ以上に来ないだなんて。

 まぁ、正確無比な姉さんが乗り逃がすなんてことはありえない。

 思った通り順調に駅に着いた。

「ここからは電車でいくんだよね」

「うん、楓さんの言う通り」

「瑠奈もたまに乗り換えのために降りる駅間違えちゃうんだよねー気をつけないとね」

 葵が疲れて来たみたいだ。

「あーつかれたーー誰か助けてーー」

 バスなんて普段乗らないから確かに心なしか少し疲れた。にしても弱音をはくのが早すぎる。

「葵、これぐらいは耐えられるようにならないと――」

 言いながら後ろを振り返った。そこには瑠花におんぶされている葵がいた。

 まったく……葵ももうちょっと自立して欲しいし、瑠花も瑠奈も葵を甘やかしずぎないで欲しいものだ。

 駅から三両編成のなんとも小さくて可愛らしい電車で、乗り継ぎ合わせて一時間半。

 そこから徒歩五分。やっと目的地に到着した。

「桜……祭り?」

 私はなかなか大掛かりなそれに思わず心躍った。

「おぉー! 早く行こっか!」

 姉さんの目が輝いている。大々的に広告されている二千本の桜が目の前に広がっていた。

 たくさんの人にたくさんの屋台、いろいろなところから聞こえる笑い声、それになにより圧巻の一面桜色。

 まるで普段私たちが生活している場所とは違う世界が広がっていた。

「お、おぉー……!」

 そう簡単に驚かない葵もあっけにとられているようだった。

「いつ来てもここは凄いべー?」

「瑠奈たちは毎年来てるんだよー!」

 片道、約二時間かけてくるのも納得がいく絶景だ。

「よし! じゃあ皆でいろんなところ行こー!」

「私も姉さんにどこまでもついていくわ!」

 とても活き活きした顔で姉さんは楽しんでいた

「ここ見て! 凄い綺麗だよ! 椿姫!」

「ほんとね! 姉さんの次ぐらいに綺麗だわ」

 私も柄にもなく興奮している。

「葵君! 三色団子持ってきたよー、食べる?」

「ありがとう……瑠花ねえ!」

「葵くーん! 見てあそこ、濃いピンク色の桜あるよ!」

「ほんとだ……! 綺麗だね、瑠奈ねえ!」

 そこそこ嫌がってた割に葵も凄く楽しんでいるようだ。

 私は少しばかりいいことを思いついた。

「そうねー、半分に別れて行動してみない? 私と姉さん、瑠花と瑠奈に葵で」

 瑠花と瑠奈はそれにとっさに反応した。

「賛成ー!」

 何やらとっても嬉しそうなのは気のせいだろう。

「姉さんも、どう?」

「いいんじゃない? ね、葵?」

「うん、いいよ」

 これは何かのチャンスだと思った。よし、いいことした私。

「じゃあ、三時間後にあの広間に集合でどうかしら?」

 私は瑠花と瑠奈にそう言った。

「うん! ありがとうねー!」

 お礼を言われウインクまでされてしまった。私はあの子らに手を貸すなんてことは決して考えてない。ただ私が姉さんとできる限り二人っきりでいたいだけ。

 そう、それだけなのよ。

「じゃあ行きましょ、姉さん」

 そう言って私は自然と腕を組んだ。

「行こっか椿姫!」




 椿姫のおかげで瑠花たち双子は葵君と三人でいられる時間ができた。

 椿姫にはいつか私たちからお礼の品でも送っておこう。

 だけどたったの三時間しか時間がない。この時間を有効活用しないと。

 まず、試したいことがあった。それは瑠奈も同じだろう。

 私たち双子は身長も体重もスリーサイズだってほぼ同じ。喋り方も仕草もほとんどが同一。好みも一緒。

 あえて違うところをあげるとすれば髪を結っている方向くらい。だからこそだ。

「ねぇ、瑠奈……あれやってみよう?」

「……うん」

 小声でコンタクトをとった。そして私たちはヘアゴム、シュシュを外した。私たちはもはや同一人物といってもまかり通るだろう。

「どうしたの? 瑠花ねえ、瑠奈ねえ?」

「ちょっと、髪を結ってるとつかれちゃってさー」

 もうちょっとマシな言い訳は考えとくべきだった。

「ふーん……瑠奈ねえも?」

「う、うん……!」

 私たち双子は驚いて目を見合わせた。そして私が頷く、それに瑠奈も頷く。考えがおそらく一致したようだ。

「瑠花たち、ちょっとトイレいってくるねー!」

「うん、じゃあここで待ってるね」

 葵は辺り一面咲く桜を見回していた。

「ねえ、瑠奈」

 私が先に話しかける。

「今、葵君、わかってたよね?」

「うん、瑠花がつかれちゃったって言い訳したあと瑠奈にも、もう一度聞いてたから、多分……」

 私たち双子はとても似ている。それこそ見分けがつかないくらいに。

「もう一度だけ試してみようよ、いつも右側が瑠花じゃん? このトイレから出たら左側に立ってみてよ」

「うん、それなら流石に間違えるずら」

 話がついた。私たちはいつもと立ち位置を替えて葵君の前に行ってみた。

「おかえりー瑠花ねえ、瑠奈ねえ……あれ?」

 葵は何やら疑問を抱いたようだ。

「どうかしたの?」

 瑠奈が右側から詰め寄る。

「んー……あれー?」

「なんでも言ってくれていいよ?」

 私が左側から詰め寄る。

「なんかさー……」

「う、うん」

 なぜか緊張してきた。わかってくれるのを期待して、無意識にそわそわしてしまう。手のひらをギュッと握りしめる。

「瑠花ねえと瑠奈ねえ、逆……じゃない?」

 分かってくれた、その喜びと興奮がじわじわと奥の方からこみ上げてきた。しかし、それをグッとこらえ、こう続けた。

「そう……かな? じゃあ私は瑠花? それとも瑠奈?」

 葵君は少しよわったように俯いて自信なさげに呟いた。

「瑠奈……ねえ……?」

「じゃあ私は?」

「瑠花ねえ……?」

 私は葵君を抱きしめた。それ瑠奈も同時だった。

 私たち双子はいつもセットで見られてきた。きっと誰もどっちかがいなくなったって瑠花がいなくなったのか瑠奈がいなくなったのかわからない。ずっと、ずうっとそう思って生きてきた。

 でも、ついに会えた。私たち個々に存在意義をくれる人に。

「ねぇ、葵君、どうしてわかったの?」

「それは……何となく、だって瑠奈ねえは瑠奈ねえでしょ? 瑠花ねえは瑠花ねえだし……いくら似てても同一人物ではないから、当たり前だよ」

 私の目からは感動が流れ出した。今までこんなことを言われたことは一度たりともなかった。

 そして、同時に私の中でもう一つの感情がよりいっそう強くなる。

「ねえ……葵君」

「どうしたの?」

「葵君は今、クラスに好きな人とかいないの?」

「うーん、いないよ……?」

 何故か喜んでしまっている自分がいた。

 そこには六歳の年の差をまったく無視した淡い期待があった。

「…………」

 ただいい言葉が思いつかない。二人分の頭脳を駆使してもどちらも答えを導き出せない。あと一歩なのに、一言言うだけなのに。

 そうだ、きっと思いつかないのではない。勇気がないのだ。私たち双子には従姉妹と言う壁を超える勇気が。

「あのさ……葵君」

「うん?」

「……来年も来てね」

「うん、もちろん!」

 私はここまでしか言えなかった。

「約束だよ……大好きだよ葵君……」

「うん、約束、僕も大好きだよ瑠奈ねえ、瑠花ねえ」

 ニュアンスはどうあれ言えた瑠奈はもしかしたら私より勇気があるのかもしれない。初めてだ、ずっと同じ道を歩いてきた瑠奈に少しだけ先に行かれた気がした。負けたくない。諦めたくない。

 私たちの戦いが今、本格的に幕を開ける。




 私と姉さんは思う存分桜を楽しんだあと集合場所の広間で待っていた。

「それにしても遅いわね……」

「うん、確かに遅いね……」

 集合時間を二十分も過ぎていた。まったくあの二人はなにをしてるのかしら。姉さんを待たせるなんて。

「おーい!」

 遠くから呼ぶ声が聞こえた。髪をほどいていて遠くからじゃよくわからないけど多分瑠花だ。

「ちょっと遅れすぎじゃない?」

 私が軽く喝を入れる。

「ごめんねー、むりと!」

 むりとっていうのは確か、わざとっていう意味の方言だ。全く、なめてくれるわね。

 その後には瑠奈とその背中で寝ている葵がいた。

「まぁ……ごめんなさいね、うちの葵が迷惑を……」

「いいのいいの、むしろお礼くらい言いたい所なんだから」

 照れくさそうに言う。なんかあったのだろう。

「そう……じゃあそれは……うん、良かったわね」

「よし、みんな揃ったことだしそろそろ帰ろっか、ね、椿姫」

「そうね、私たちも今日中に家に帰らなきゃ行けないしね」

 今日は楽しかった。そしてはしゃぐ姉さんが可愛かったし大満足の一日だった。

 私たち一行は駅にいってそこから電車に乗った、例の三両編成の小さなローカル線だ。私たちは電車に揺られていた。




 家についた時刻はすっかり夕方だ。別に気になったわけじゃないけど葵に今日のことを聞いてみた。

「あの後、あの双子となんかあったの?」

 葵はソファーに寝っ転がってゲーム、すっかりいつものぐーたらモードだ。

「あー……うーん……別にー」

 わざわざ気にかけた私が馬鹿みたいじゃないか。あの双子だ、ここ一番って時に押しが足りない。そんな二人に限ってなんか起こすなんて無理といえば無理だろう。

 けれどなんとなく葵が元気な気がする。

「ねえ、来年も行きたい? 葵、」

 葵はゲームの手を止めなかった。だけど確かにこういったのだ。

「うん……絶対行く……!」

 これは確実に何かあったと私は確信した。

 けれど別に気になってるわけじゃない。私には関係ないからまったくもって気にならない。

「葵? 絶対なにかあったでしょ? あの二人と何があったの?」

「別に……何にもないってばー」

投稿がすごく遅れましたが……生きてます、はい

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