林さんとコイバナ
好きな人には彼女がいて。
その彼女にズバリ────“私の彼氏のこと好きなんだ?”と言い当てられた時・・・・なんて答えるのが正解なんだろう。
何も答えられず目を泳がせた私に、林さんが愉しそうに笑った。
「分かりやすい人ですね、鹿嶋さんて」
「・・・・・」
牽制される?と身構えていたのに、林さんはまるで他人事のようだ。
「────なんで、平気なの?」
「え?」
「自分の彼氏のことを好きだって言ってるのに、なんで平気なの?それとも、絶対取られないって自信があるから?」
悔しいけど、彼が選んだのはこの子で。
私は彼にとって、“その他の女友達”のひとり。
悔しいけど、それが現実で。
どうしようもない、事実。
(でもだからって、八つ当たりだ・・・・)
林さんにこんなこと言ったって、仕方ない。
私の醜い心が────顕になって、こんな自分が嫌。
苛立ちをぶつけて自己嫌悪に陥る私に、林さんが真顔で言った。
「・・・すみません、平気かと聞かれてもいまいち分かりません・・・」
「分からないって、」
「でも私は真田くんを引き留めることは出来ませんから。だから彼が誰と遊ぼうと、今後他に好きな人が出来たとしても、それが彼の決めたことならばそれに従います。」
(なに、それ────・・・・)
「それは、真田くんのことはその程度の気持ちってこと?」
「気持ちに程度など、関係ありますか?」
淡々と答える林さんの、気持ちが理解できなくて不快感が募る。
真田くんへの想いなんて、欠片も感じられない。
本当に、なんで真田くんはこんな人を────“彼女”にしたの?
「例えば明日真田くんに、鹿嶋さんと付き合うことにしたと言われたら────私は“分かりました、別れましょう”と応えます。なぜってそれが彼の望みなのに、此方がそれ以外彼に何を言うのですか?」
「だから、そうやって割り切れる程の───」
「割り切れなくては、付き合えませんよ────彼とは」
私の言葉を遮るようにして、林さんが言った。
それは、ほんの少し感情的な声色で────気のせいなのかもしれないけど────今までずっとそれを押し殺してたみたいに聞こえた。
女子に囲まれる真田くんを自分が切なく見つめているときの気持ちを、林さんも抱いていたんだと思ったら・・・・それ以上なにも言えなくなってしまった。
少しの沈黙のあと、突然林さんがクスッと笑いを漏らした。
「・・・・まさか、女子生徒とコイバナと言うものが出来るなんて思ってませんでした」
(なんでちょっと、嬉しそうなの?)
「鹿嶋さん、ありがとう」
「は?ありがとうって私は・・・っ」
“全然そんなつもりじゃなかった”と言おうと私が口を開いたとき、保健室の先生が戻ってきた。
「林さんごめんねぇ、遅くなって。保護者の方、もうすぐ到着するわ」
「はい、ありがとうございます。」
林さんと話をし終わった先生が、私に気付いた。
「あら、また二年生?熱あるの?測った?」
「いえ、私はその・・・・は、林さんの具合を見に来てただけで」
仮病がバレたくなくて、私は咄嗟に嘘をついた。
「なんだ、友達ね。授業もう終わったの?」
「あ、はい・・・早く終わって」
しどろもどろにそう答えて、私は保健室から逃げることにした。
「じゃあ、お大事にね林さん」
そう、────“友達”のフリをして。