二人きり
結局、林さんに授業が始まってしまうからと追い出されるようにして、真田くんは保健室から出ていった。
「───あの、林さん」
自分から林さんに話し掛けるのは、去年同じクラスだったのに初めてだったかもしれない。
自分がいま、何を言おうとしているのか、分かっているからなのか鼓動が不穏なくらいドクンドクンと音を立てる。
「はい?」
「なんで・・・・真田くんと付き合ってるの?」
ずっと疑問だった。
だって似合わない。
性格が合ってるとも思えない。
真田くんのこと、本気とも思えない。
───そんな不満が、口から出ていってしまいそうになる。
「なんでって」
ふふっと肩を震わせて笑うと、林さんは言った。
「チョコさんって面白いこと聞きますね」
それが、余計にイラッとしてしまう。
これが嫉妬だと、分かっていたけど───おさまらない。
睨むようにして林さんを見つめていると、少し考えてから彼女は口を開いた。
「付き合ってと言われて、断る理由が特に無かったので」
(な、なにそれっ!?何様のつもりっ?!)
とは言えず、ただ唖然としている私に林さんが言った。
「彼はただ、私に友達がいないので構ってくれてるだけだと思いますよ」
「そんなことないでしょ」
貴女は真田くんのこと、何も見てない。
何も分かろうとしてない。
真田くんがかわいそう。
私なら────。
(私、なら───────)
下唇を噛み締めて俯いた私に、首をかしげるようにして林さんが顔をうかがい見てきた。
「“チョコ”さん?」
「その呼び方、止めて」
ピシャリと言い放ってしまったけど、仕方ない。
だってそれは真田くんが私にくれたものなの。
勝手に共有しないで。
それまで────奪わないでよ。
「あ、すみません。正直、名前が分からなくて」
「鹿嶋千代子」
「カシマ・・・ああ鹿嶋さん!」
今更思い出したかのような林さんの顔に、私はイライラが止まらなくなった。だから皮肉たっぷり込めて、言ってやった。
「去年同じクラスだったのに、酷いよね林さん」
「すみません、わたし人の名前覚えるのがすごく苦手で」
ペコッと頭を下げたあと、彼女が私をじっと見返してきた。
「でもこれで覚えました、“鹿嶋さん”」
「・・・な、なによ」
「次は私が聞いてもいいですか?」
「なに?」
「鹿嶋さんは、真田くんが好きなんですね?」