熱
「チョコー、今日の宿題やってきた?」
休み時間、真田くんの声がしてドキンと心臓が跳ねた。
「うん、数学の問題集でしょ?」
「頼む!見せてくんない?」
目の前で拝むようにして、私に頼み込んでくる真田くんは策士なんじゃないかと思う。
だけど、「えぇ?仕方ないなぁ」とか言いながらも内心ドキドキで、口元もつい緩んでしまう私はなんてチョロいんだろう。
机の中にしまってあったはずのノートを出そうと屈もうとしたとき、不意に真田くんが私の額に手を伸ばす。
「な、なにすんのっ?」
「チョコ、なんか顔赤いけど熱でもあんのか?」
「それはあ────・・・」
あんたのせいだよ!と言い放ってしまうのをなんとか思いとどまる。こういう時の対処法が分からなくて、視線が泳いでしまう。
(鎮まって心臓ー!!)
「熱なんか、ないよ・・・・」
「や、マジで熱いし。保健室行けば?」
「え、いいよ気のせいだってば」
「行こ」
いつも笑顔でのほほんとしてる真田くんが、真顔になって。
その普段とのギャップにドキンと跳ねた心臓が、キュウゥと締め付けられる。
「連れてってやるから、ほら」
顔はもう真っ赤になってるであろう私の手を掴むと、真田くんは教室を出る。
なんで躊躇いもなく手を繋げちゃうの?
なんで私の心配なんか、するの?
(私のことなんて、眼中にないくせに──────)
こんなふうに─────期待したくないのに。
真田くんは本当に天然たらしだと、思う。
(ばか・・・・・)
真田くんの背中に向かって、私は心の中でそう呟いた。




