彼の彼女
真田くんの彼女は隣のクラスの林麗さん。
去年は私も真田くんも、林さんと同じクラスだった。
林さんと付き合っている真田くんが、林さん以外の女の子と仲良くしている昨日の放課後のような光景は、よく見る。
私は真田くんが、彼女がいるのにどうして他の女の子とばかり仲良くしているのか、ある日知ってしまった。
それは移動教室の授業の後のことだ。
たまたま廊下から隣のクラスにいる真田くんを、見つけてしまった。
「レ、イ、ちゃん!」
「なんですか?」
林さんは、真田くんが席まで会いに行っても勉強中なのか顔すらあげないで返事した。
「昨日はごめん、カナちゃんと約束があって先に帰っちゃって」
「いえ別に。楽しかったですか?」
「え。うん、まぁ・・・・」
「それは何よりです」
顔色ひとつ変えずに淡々と答える彼女に、真田くんは面白くなさそうな顔をして言った。
「麗ちゃんさぁ、もうちょっと、なんかないわけぇ?」
「何がです?特にそれ以上のコメントは無いですよ?」
「麗ちゃんってば!強がっちゃって」
「・・・・あの、真田くん。」
ようやく彼女はシャープペンを持つ手を止めて、顔をあげた。
「ん、何なに?」
「騒がしくされると、小テストの勉強に集中できないのでちょっと黙っててもらえますか?」
「麗ちゃんマジひでぇー」
二人の会話を立ち聞きしてしまったとき、ぎゅっと胸が切なくなったのを覚えてる。
真田くんは、本当に林さんが好きで。
嫉妬してもらいたくて、アレを繰り返しているんだって────私は気づいたのに。
どうして林さんは、気付かないの?
真田くんのこと、そんな好きじゃないの?
二人が付き合っているって噂が流れたとき、誰もが悪い冗談だと信じなかった。
真田くんはあのとおり、ムードメーカーで友達も多くてクラスの中心的存在なのに、林さんは────三つ編みのおさげに眼鏡の地味な出で立ちに加え、友達といるところを見たことがないし、コミュ障ともささやかれるほどの孤立した人。
そんな対称的な二人が、付き合うなんてあり得ないって────私も信じられなかった。