日常(アレ)
「ねぇ、那由太ぁ帰りにカラオケ行こうよぉ」
「おぅいいよ」
「え、那由太くんは今日私と帰るって約束してたんだけど?」
「あ。ゴメンゴメン!そうだった!」
「えぇ、那由太!一緒にカラオケ行こうよぉ」
「――――アレ、今年も一年間見ることになるんだねぇ」
親友の笹ヶ瀬 唯が、“アレ”を見ながら私に話しかける。
「・・・だね」
ため息混じりにそう答えると、唯が笑いを堪える。
「憐れな千代ちゃん」
「それ、本気で言ってないでしょ?」
「ふふ、やだな。本気で思ってるよ」
「じゃあなんなの、その綻んだ口元は」
「やだな、唯は常に口角上がってるンダヨ」
「…リア充め」
「僻まない僻まない。ほぉら、千代ちゃん眉間にシワ出来てるよー?」
私が唯の口を両手で引っ張ると、唯は私の眉間にグリグリと人差し指で押してくる。
(・・・・なにやってんだ、私たちは。)
「あ。唯、彼ピ待たせてるんだったー!じゃあね千代ちゃんまた明日!!」
リア充である唯は、彼氏と相変わらずラブラブだ。
それはもう、耳にタコ。ごちそうさま、お腹一杯よレベル。
「はいはいさよなら」
唯にヒラヒラと手を振るとその視線の先にはまだあの光景があった。
「じゃあ那由太、明日は私たちとカラオケね」
「うん、約束する!」
(─────あの笑顔、私だけに向けてほしいのに・・・・。)
ぎゅっと胸が締め付けられて目をそらすと、一刻も早くこの場から逃げ出そうと帰り支度をする。
分かってる・・・・こんな想いは早くケリをつけるべきだと。
早く新しい恋をして、真田くんとは“友達”になればいい。
そうすれば、もっと楽なんだって。
だけど─────私の片想いはまだ、止まらない。