まさかの
「チョコー、日直間に合ったのかー?」
そうやって何気なく声をかけてくるのが、“真田くん”なんだよな。
構ってくれてうれしい。
声をかけてくれて嬉しい。
私だけにその笑顔を向けてくれてるこの瞬間が一生続けばいいのに。
私が今そんな想いで満たされていることなど、この男には絶対理解できないと思う。
「うんもちろん!私を誰だと思ってるの?」
「はは、スゲー真面目!さすがだな」
そう言って頭を撫でるこの腕を、独り占め出来たらと何度願ったか。
だけどそれは────
「ねぇあれ、林さんじゃない?」
クラスの女子がそう声を潜めて言ったその瞬間、真田くんは私の目の前から消えた。
────儚い夢の、また夢・・・。
「えっ、麗どうしたの!?こっち来るなんて珍しいね」
真田くんが嬉しそうに声を弾ませる。
その声は────私の前とはまた、違う声色。
好きだって気持ちが、こちらにも伝わるからキツい。
(ああ、嫌だ───・・・)
醜い気持ちに支配されるのが嫌だから二人を直視できないくせに、耳はそちらに全神経を向けている。
聞きたくないなら、その場から逃げたらいいのに。
でも気になってしまう。
彼氏と彼女の、会話───。
「用事があったので」
「そっか!いいよ!廊下で話す?」
ご機嫌にそう返した真田くんの後に、冷静な一言が聞こえてきた。
「私、真田くんに用事はないです。」
「え?」
唖然とする真田くんと、クラスの女子がざわつく声。
私も、意外な一言に思わず彼女の方を見てしまった。
(え、なんか目が合って・・・る?)
驚いて固まる私の方に視線を向けたまま、淡々とした口調で彼女が言った。
「私は鹿嶋さんと話がしたいんです。取り次いで貰えますか?」




