好きな人
「チョコー」
一見、いや一耳するとおかしな言葉に聴こえるだろうが、これは私の愛称である。
私の名前は鹿嶋千代子。
名前をもじってこんなあだ名を付けたらしい。
そして私に声をかけてきたこの人、真田くん。
高校生活初日に、このあだ名を付けた張本人。
今日も相変わらず爽やかな笑顔を浮かべている。
「真田くん、おはよ」
「はよ。ほい、先週借りてたDVD、返すわ」
カタンと音を立てて机の上にプラスチックケースに入っていたDVDを置いた。
「あー、どうだった?」
「もー超笑った!」
「でしょー」
「「特に最後の…っ」」
私と真田くんの声が見事にハモる。
「あ、やっぱ?チョコ、分かるやつだな!」
「いやいや、フツーそうでしょー」
共感できるこの瞬間が堪らなく幸せで、会話が弾む。
─────なのに。
「あ、麗に呼ばれてたんだった!じゃな、マジありがとな!」
「あ、…うん」
あっさりと私の席から離れていく、真田くん。
あの、爽やかな笑顔で。
「今度そのお礼になんか奢るな!」
「うん、期待してるー」
ヒラヒラと力なく手を降り、作り笑顔で真田くんを見送った。
(はぁ・・・・)
真田くんがいなくなったところで、私は深い溜め息をつく。
(あああーっ!!くそっ───────好きだなぁ・・・)
そうなんです。
私、鹿嶋千代子は、同じクラスの真田那由太くんに恋しています。
ただ、困ったことに。
彼には、彼女がいます────・・・。