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それから何時間か経った頃、漸く作業を終えた圭一は言った。
「…おっけ、これでいい。準備完了。」
邪魔をしてはいけないから、と雑誌を読みつつゴロゴロしている内に、少しばかりウトウトしていたらしい。
何時間経ったのかは分からないが、青空が見えるためまだそんなに経ってはいないだろうと思う。
お茶でも淹れてくるか、なんて立ち上がろうとしたら、少し焦った顔の圭一と目があった。
(…?)
どうした、と声を掛けるより前に、圭一は言った。
「…実はさ、言い忘れてたけど、これ、今日の12時からテストプレイなんだよね。」
「12時?」
今が何時だか分からなかった宗介は、スマートフォンを探しながら聞き返した。
それを見た圭一は、付けていた腕時計を見つつ言う。
「うん、今11時30分。早速で悪いんだけど、キャラクター、作ってくれる?俺はもう作ってあるから。あ、それからVRの決まりはわかってるよね?取り敢えずさっさと作っちゃって!」
時間が無いから!なんてまくし立てるように言った圭一は、慣れた手つきでVRの装置を俺に付けていく。
結局朝飯もお茶も逃してしまったわけだが仕方が無い。
情けとばかりにその辺に置いてあったチョコレートを口の中へと放り込み、宗介は寝転がった。
因みにVRの決まり事というのは、最低でも1日6時間は必ずログアウトをするだけという簡単な物である。
それが守られなかった場合に対し、すべてのVR装置に装備されている緊急装置が作動し、自動で身体の中に栄養を補給する仕組みになっている。しかもその装置が作動した場合、とある機関に連絡がいき、3回目になるとVR装置の保持を禁止されるという。
まあ簡単な話、栄養補給は大事だということだ。
「…チョコは自由に食っていい。」
そっぽを向きながら圭一に言うと、ぷ、と含んだような笑い声が聞こえた。
「そりゃどーも。」
「で、キャラクターって、適当でいいんだよな?」
「うん、そのままでもいいから、取り敢えず間に合うようにな?じゃあ、起動するぜ?多分メイキングに30分弱掛かると思うから、そのままINしちゃってよ。因みに俺のキャラクター名は、「ケイ」だから。最初の街で一回待ち合わせな?」
「おう、了解。」
宗介は一言そう言うと、眠るように目を閉じた。
それを見た圭一は、宗介の使うVR装置の電源を入れる。無事に起動したそれを見ながら、チョコレートを一粒。
「うわ、甘ぇ。」
顔に似合わず甘党の大親友が、心から楽しめますように。少しでも借りを返せるように。
そう願いを込めながら、圭一は宗介の姿を見つめた。
「よし、じゃあ、俺も行くかー!」
愛用のVR装置を素早く付けた圭一は、にっと笑って言ったのだった。