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「ちょちょちょっと!!!開けてよーー!!」
バンバンと扉を叩きながら叫ぶ幼馴染みこと明山圭一の声に、これはかなり近所迷惑だなあと冷静に考える自身がいた。
いきなり押しかけて来て一週間いる?馬鹿じゃねえの。本当に馬鹿じゃねえの。
俺の休みをどうするつもりだ糞野郎。
これが女の子だったりしたらアリなのかもしれない…なんて思ったが、どっちにしろ迷惑だわふざけんな。
「…はあ。」
とは言いつつこのままではまずいよなあ、主に近所が。
仕方なく扉を開けてやる自分に嫌気がさしつつ、圭一を中に入れてやると、またもやにこやかに微笑んでいる。
殴りたい。
心の底から殴りたい衝動に駆られたが、取り敢えず話を聞くことにした。
「…なあお前、何しに来たの??何の用??」
「え?何でって?どうせ宗介暇でしょ??」
「うるせえよ。」
「あだっ!」
我慢した甲斐も無く結局殴る事になってしまった。無念なり。
「てのはまあ、冗談だけどさ〜。宗介、まだ持って無かったよな?」
「何をだよ?」
「リベルタファンタジー!」
ジャジャーン!!なんて言いつつ圭一はソフトを取り出した。
「…て、確かVRのMMORPGだっけ?」
はいこれ、なんて手渡されたパッケージには、デカデカとVR専用!と書かれていた。
ここ数年でほぼ全ての世帯にVR用の機械等が普及するようになったが、俺の家では全くもって縁の無い物である。
確かに興味はあるが、いかんせん、時間もない。ゲームの生産に興味を持ちVRでは無いMMORPG「スターライトオンライン」を僅かな時間でプレイしていた事もあったが、悲しい事にサービス終了となってしまった。
「そそ!お前が休みって聞いて急いでもう一本用意したんだぜ?まじで感謝しろよな!!」
圭一はそう言いながら俺の肩をポンポンとたたき、家の中へと入って行く。
幼い頃から何度も来ている圭一は、自身の家に帰ってきたように自然と俺の部屋へと向かっていった。
「リベルタファンタジー…ねえ?」
そういえば今物凄く話題になっている最新型のVRゲームだとTVで見たことがある。
確かもう既に完売で、入手は相当困難になっていると言っていたが…。
(あいつどっから持って来やがったんだ?)
若干出処が気にはなったが、多分、気にしたら負けである。突っ込むものか、絶対にだ。
宗介はそう固く決意すると、ドアを閉めてからキッチンへと戻る。食べ損ねたおかずを手で一つまみした後冷蔵庫に仕舞い、圭一の後を追った。
部屋に入ると既にゴチャゴチャとコードが繋がった機械が置かれており、機械があまり得意では無い宗介は少しばかりたじろいだ。
「おい圭一、俺ゲームはよくわかんねえし、こういう機械って苦手なんだけど…。」
取り敢えず邪魔にならないよう、ベッドの上に避難しつつ宗介が言うと、圭一は怪訝な表情で此方を見た。
「機械苦手なのはわかるけど、ゲームは苦手じゃないっしょ。なんだったっけ、確か黒炎のー」
「おいやめろ恥ずかしい!」
ニヤニヤしながら言った圭一を睨みつけつつ足で蹴る。
圭一もスターライトオンラインがサービス終了になるまでなんだかんだと言いながらプレイしていたわけだが、いつの間にかつけられていた何だか恥ずかしい二つ名を今ここであげられるとは思わなかった。
ていうか、圭一にもあったし。
阿呆みたいな厨二臭い名前が。
それにあれはただ、ひたすら生産をしていただけで戦い面に関しては全く手付かずな訳だから、まじでゲームが得意って訳じゃ無いんだけれども。
しかしながら、ゲームでの生産はリアルとの違いがあって面白い反面つまらなかったよな、と宗介は思った。
現実には無い鉱石等を加工出来る代わりに、加工や造り方はなんかこう、色々と雑だ。
ポンってやったら出来ている、みたいな。
まあ、それでも未知の素材を使うのが楽しくて、ひたすらやっていたらいつの間にか変な名前を付けられてたってところだ。
ただ、それだけ。
「…で?リベルタファンタジーってのはどんなんなんだよ。」
ガチャガチャと線を繋いでいく圭一を見ながら、リベルタファンタジーのパッケージをベッドの上に置く。
少なからず、ゲームは嫌いなわけではない。
折角だから話だけでも聞いてみるか。
宗介はそう思ったのだった。