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Liberta fantasy  作者: アヨ
序章
1/30

0-1

茹だるような暑さと蝉の鳴き声で目が覚める。


窓の外を眺めると、澄み渡った青空と大きな入道雲。極僅かに吹く風でふんわりと靡いたカーテンを、菅原宗介は渋い表情で見つめた。



「…何時だ?」



ベッドの上のあたりに無造作に置かれたスマートフォンを手に取ると、宗介は深い溜め息をついた。


時刻は午前5時30分。


長年の習慣という物は実に恐ろしいものである。昨夜はアラームをセットしていないというのに、どうやらいつも通りの朝が来てしまったらしい。

取り敢えず汗でびっしょりなシャツを脱ぎつつ、シャワーを浴びに風呂場へと向かった。



宗介の朝は、早い。


家業が刃物専門の業者である事から、幼い頃より工房の手伝いをさせられていた。

鉄屑や木屑がそこら中に舞い散り防護服、防護眼鏡は必須。これだけでももう暑いというのに火を扱う仕事の為室内温度は更に上昇。それに伴い男共の汗の臭いも勿論上昇。


男のロマンを求めて意気込んでやってきた割に、汗と鉄の混ざりに混ざった悪臭に耐え切れず辞めていった人は数知れず、理不尽な仕打ちは当たり前。その上社長こと、宗介の父は昔ながらの職人と言った厳しい性格の為、夏を迎えられない人も多かった。


そんな厳しい環境ではあったが、悪いことだけでは無い。

逃げ出すことの出来ない環境であったことは幸か不幸か、宗介に根性を叩き込んだし、やられたらやり返すという精神も教えてくれた。それに勿論、刀や剣を造るというのは、男のロマンでもある。

身近に腕の良い職人がごろごろいるのは刺激的だったし、御得意先の代々続くような名家との交流により、度胸や良い品の目利き等も少しは身についている。

確かに辛い事も沢山、本当に山のようにあったが、結局のところ宗介は剣を造るのが好きだった。



こうしてあれよあれよと職人の道に踏み出して早12年。既に30手前となった今、漸く自身の最高傑作を造り上げることに成功した。



それが、丁度一週間前の話である。




「あー、サッパリしたわ」


タオルで頭をガシガシと拭きながら、宗介はキッチンへと向かう。

いつもなら朝食を用意している母親の姿が、今日は見えない。


それもそのはず、両親は今日から一週間、東北へ旅行に行っている。


俺の造った最高傑作は漸く親父を納得(とは言っても妥協点ギリギリだったが)させ、俺は一人前だと認められた。

そこで給料を少しずつ貯めた貯金を崩し、両親に旅行をプレゼントした。


刀に一生を捧げた親父に、そしてそんな親父をずっと支えてきた母親に感謝と敬意を込めて。


丁度お盆の時期だったし、他の職人さん達にも休みを、という母の配慮に親父が負けて今年は一週間という初の長期休みが出来たわけだが、いかんせん、する事が無い。


二年前に別れたっきりで彼女がいる訳でもないし、急な休みで友人達にも連絡を入れていない。

しかもゆっくり寝れると思っていたのに全くもってそうならなかった。


まあ早い話、超絶暇なわけである。




朝飯作るの面倒だなあ、なんて考えながら、宗介は冷蔵庫を開けた。

するとそこには沢山の作り置きされたおかずがタッパーに入れられ、綺麗に並べられていた。


30手前になったというのに、母はどうやら残っている俺が心配なようだ。その事実に少々苦笑いをした。


「放っておいてくれても大丈夫なんだけどなあ……」


まあ、確かに料理は壊滅的だけれど。

先日作った味噌汁は、味噌汁と言うのも烏滸がましい程の物であった。

宗介はそう思いつつ、有り難くおかずを取り出した。




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