4.奴隷の生活
4話目です。最近暖かくなってきましたね
汚い、見回ってわかったことだがこの家の主、デウロはかなりいい加減な性格か、片付けが苦手なのだろう。
輝也は少しいらついたように腕を組み、カタカタと足を揺らす
立場上、主人に命令されては断ることはできない、しかし輝也はもう見てしまっていたのだ。
部屋の隅ではクモの巣がはられ、壁は汚れて、ねずみとGが這い回り、家具や本、武器類などが雪崩を起こして挙句の果てにはカビで真っ白になってしまっているパン(だったもの)が転がっている。
別に片付け自体は嫌いではない、というよりむしろ好きという部類に入るのだが虫や汚れなどはあまり得意ではない。
だから自分にとっては物の雪崩は良くても汚れを始めとするねずみや大量のホコリの舞う部屋は拒絶空間なのだ。
額に嫌な汗が流れるのがわかる。
しかしやらなければ奴隷として役たたずの烙印を押されるかもしれない。
それにやりたくないと命令に背くことを考えれば考えるほど自分の首輪からなんとも言えない嫌な感覚がするのだ。
「焦るな逃げるな 僕」
そう言い聞かせ、まず雪崩と化した本の山の片付けに取り掛かった。
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小一時間ほどが経ち、外から差し込んでくる光も静かに弱まっていくのがわかる。
意外と体も頭も働くものだ。
そんな夕暮れに差し掛かった時、玄関から声がかかった。
「飯だ」
デウロだ。
きっと剣を振るう鍛錬が終わったから夕食を作るように言ってきたのだろうが、まだ片付けが中途半端で今、中断するとさらに時間がかかってしまうだろう。
それを考慮してデウロの要求を保留にすることにした。
「すいません、今は少し取り込み中でむ……ぐぅ……! 」
口で明確に断る意思を見せた瞬間、命令されてからずっと感じていたあの嫌な感覚が膨れ上がり輝也を襲った。
「……あっ……かっ……」
息をするどころか体も硬直して座った体勢すらも保てなくなりそうだった。
もがき、おぼれるような感覚と意識がもうろうとするなか、なんとか輝也は口を動かす
「……やり……ます。……わか…り……まし……た」
その嫌な感覚は"わかりました"とこの言葉を発するとすぐに消えた。
輝也は思わず肩で息をしながら膝を床につく。
形容しがたい感覚であった。今まで体験したことも無く、ただ人間がいやがる感覚を直接送り込まれたような不思議な感覚が頭に残る。
少しその状態で固まるも、すぐに命令どおり夕食を作るため台所へ向かう。
相変わらず汚いし臭い、それでも今は片付けより料理だ。
やっぱり逆らうもんじゃない
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テーブルにはサラダ、パン、それに前の世界では見たことのない種類の肉の乗った数枚の皿が並んでいる。
特に料理を苦手としない自分にとっても初めて見る肉には戸惑ったが、手間のかからない料理で済ませることができたし、料理自体はデウロに気に入られたようでもう既に半分以上なくなっている。
一方で輝也自身への料理はパンひとつだけ、しかもデウロへ出したよりも小ぶりでパサパサとした粗悪品だ。
元々食べるよりも作る派で少食気味なのと、今日は思いつめることがとても多く、あまり食欲がわかなかったのが幸いしてそれほど気にはしなかった。
やることもないので、同様にデウロが食事をしているときに一緒に食事を済ませてしまう。あとに鳴って思うと奴隷の立場で一緒に食べるのはおかしいかもしれないが、デウロはそこについて言及等はしなかった。デウロが食事を終え輝也が片付ける。
今使用した物は1度だけ水に浸しておこうと思ったが既に前から放置されている皿や箸などが溢れていたのでそれらをすぐに洗った。
これはなかなかの重労働で匂いはひどく食べカスや汚れがなかなか落ちない。
格闘すること2時間、食器を洗い終え一息ついた時、書斎の崩れて雪崩とかした無残な姿の本を思い出す
「そう言えばまだ終わってなかったな」
渋々一度デウロの元へ行って許可を得て、本の整頓を再開する。
案の定一度保留にしていたり、中途半端に積み上げられていた本たちは崩れていた。
「だから言ったのに」
そう言うと呆れた様子で吐き捨て作業に取り掛かった。
それからまたしばらく経ち、デウロがやってきた。
「少し出かける・・・、ここで待て」
「承知しました」
目を離しても奴隷が逃げないと思っているようだ。たぶん首輪がそれを阻止するのだろう。
あの嫌な感覚を思い出し、ぞっとするように体を震わせる
それよりももし暴れてここから追い出されたらと考えるだけで馬鹿な考えと一蹴する、なによりこの世界について不可解なことが多いし輝也に身をよらせる場所がないのだ。
「デウロ様、どちらへ行かれるのですか?」
「・・・」
デウロは無言で見えている森へと指を指す。
「僕……私はこれから片付けついでに内容ごとに整理もしたいと思うので本の中身も確認させてもらってもいいですか?」
「ああ」
「ありがとうございます」
許可を取ることに成功し、内心歓喜した。
本を片付け中に限るが読むことができるようになったのだ。
知識は無くて困ることはない。学は人間の最大の強みの1つだ
わからないことがたくさんありすぎるこの世界をもっと知るための大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。
そしてデウロが家を出発して、家に一人になり数あるほんの2,3冊を無作為に取り読み始めた。