リアルMMOをソロプレイ
文才なくても小説を書くスレで、お題を貰って書きました。 お題:一人の兵士
レベルアップの音が聞こえる。
彼は満足げにステータスを確認した。
「もう少しMPに気を遣った方がいいな」
そういいつつも、彼はその長剣に魔力を帯びさせる。
「とはいえゲームじゃないんだ……。使い惜しみして死ぬわけにもいかない!」
その裂帛の気合と共に振向くと、背後からにじり寄って来ていたフェンコヨーテを横薙ぎでぶった切った。
「フェンリルの眷属でコヨーテねえ……。どっちもイヌ科だけど」
手から火を放つと犬の死骸に燃え移り、毛の焼ける臭いが辺りに漂った。
そして完全に焼ける前に尻尾と耳を切り落とす。部位を塩漬けにする準備だ。
「部位証明した後は三日漬け込んでから食うも良しって言われてもなあ……」
ドロップアイテムの形にならない事に不満をこぼしつつ、彼は使い回しの塩籠にそれを突っ込む。
一日経てば色が変色してくる。酢をかければすぐさま色が変わるが、中まで塩が入り込んでいないので味わいには注意が必要な食材である。
尤も、酢も高いので、部位証明に使ったという証の為に一部分にハケで印をつけるくらいなので、間違えて食べてしまう人はそうはいない。
「実際、犬から肉が手に入ったって食べる気しないよな。まあでも……」
証明を済ませたならどこぞで農民にでも売ればいいと、犬の口をこじ開けて舌を切り取る。
他の部位は肉厚すぎて塩漬けしても腐敗防止とまではなかなかいかない。とはいえ、しっかり血抜きをし、スライスして一応でも燻製でも施せば同様に保存食とする事も可能ではあるが。
「はぁ。食費が嵩むなあ……」
彼はそれに手を出さない。
タンパク質の足りない貧しい農民に売っても二束三文というものがある。
そして料理の味を知る人には到底売れない。
やっている通りに塩の味だ。殆どの人が獣臭いが食べられないこともないと感想を述べる。そういう保存食に彼は食指を動かさない。
日々の消耗品は彼の財政を圧迫するが、現代の味覚に慣れた彼にはなかなか妥協しがたい所であった。
「ま、それでも少しずつは貯まってるし」
ポーチの中の硬貨を確認しながら彼はそう自分で自分を励ますと、通学鞄くらいのサイズの塩籠を片方の肩から提げて歩き出した。
「次の町に行けば、もっと冒険者らしい仕事もあるだろ」
彼の目には村から町に続く大きな一本道。その先には、己が才覚で道を切り拓く戦士の後ろ姿が幻視されていた。
けれど、獣狩りの人員を確保する為、そして詐欺を防止する為に科学者や料理人を動員してそのような証明方法を普及させたのは誰だったのか。
冒険者が集う町々に積極的に香辛料を使った料理レシピを公開したのは誰だったのか。
味覚に余裕ができた冒険者が肉を売る。農民がそれを買える程度に景気を維持しているのは誰なのか。
それを考えないままに彼は冒険する。
多くのクエスト――命令をそのままに遂行する一人の”兵士”として。
ゲームでは良くある、そういう風にデザインされた世界。
実際の世界も人の手でデザインされているものという感じで……どうでしょう。
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205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/02(金) 17:31:44.59 ID:UCZfDqvl0
お題なにか下さい
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/02(金) 18:22:24.74 ID:IdDTmV1Oo
>>205
一人の兵士
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/03(土) 08:27:38.99 ID:t52uBnFn0
>>206
把握