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海賊伝記  作者: 閑話Q題
1/3

アーティー・オーデンという男

駄文晒しすいません^q^

初心者で使い方がよくわかりませんが、よろしくお願いします


「“五つの紋章、手に入れし者に真実を”」


二十歳を超えたかどうかの若い男がぼろい紙切れを空に翳す。紙はただ風に揺られるだけだ。男はつまらなさそうに紙を乱暴にポケットへしまう。


「アーティー! またサボってる!」


アーティーと呼ばれた男は渋面する。悪戯が見つかった幼い子供のように。アーティーは自分を呼んだ男を観察するようにじっと見る。男はアーティーより背が高いので、自然と見上げる形になってしまう。男は息を切らしている。焦った様子。しかし、別段急を要することでもなさそうだ。


「島でも見えたか? ロニー」


その雰囲気を感取したアーティーは消去法でそう言った。正解を確信してか、にんまりと笑っている。


「ああ! 位置的にオールディス島だ!」

「ふぅん…やっと到着か」


その事実に、アーティーはほくそ笑む。ロニーの横をすり抜ける。その顔の笑みは消えない。


「船を港にとめろ。今日、一日は好きにしてしろ! クソ野郎共!!」


甲板で高らかに声を上げる。船員たちからは歓喜の声が上がる。アーティーのカナリア色の髪が潮風で揺れる。彼はゆっくりとロニーに近付く。


「ロニー、お前は島に降りたらオレと来い。いいな」


有無を言わせない口振りに、ロニーは溜息を吐く。ロニーは短い髪を掻き上げる。


「仰せの通りに…キャプテン」


アーティーはただ意地の悪そうな笑みを浮かべるばかりだった。



港に船をとめると船員たちはぞろぞろと降りていく。アーティーは今まさに船から降りようとしている一人の船員の肩を掴む。掴まれた男は、嫌な予感がしながら振り向く。


「な、なんや? お頭…」

「アマド、お前は留守番だ」


今までで一番いい笑顔で言う。逆らうことはできないとわかったアマドは頭を垂れるばかりだった。


「あーあ…かわいそうに、アマド。島に降りたがってたぞ、絶対」


哀れむような素振りをみせるロニーは、船から降りようとしているアーティーを見遣る。アーティーは無表情で、船から垂らした縄を滑るように降下する。すぐに、続くようにロニーが降りてくる。そのまま、何も言わず街へと歩を進める。ロニーが小走りで追いつくと、少しばかり視線を寄越す。


「かわいそうだと思うなら代わってやったら? お坊ちゃん」


皮肉を込めた軽口をたたくと、言われた側は特に気にした様子はない。アーティーは訝しげにロニーを目視する。ロニーは爽やかな笑顔を浮かべる。


「いやだね。そこまでドMじゃない」

「お前、オレに着いてきたのも自分の欲求を満たすためか?」

「そこまでじゃねぇって!!」


慌てて否定する彼を横目に、さっさと進んでしまう。この状況を楽しんでいるように見える二人の顔はニヤついている。


「この島でなにをするんだ?」

「四つ目の紋章の手掛かりを探しに」


そうアーティーが告げると、ロニーの顔は驚きに支配されている。ニヤリ、とアーティーが口元をゆるめる。アーティーはロニーの一歩前へと出る。演説をするかのように、大袈裟な身振りをしてみせる。両手を大きく横に広げる。


「“五つ目の紋章、手に入れし者に真実を”…これはオレが知る最古の言い伝え。五つの紋章とは神々から授かった五つの神器。それぞれに神が印したとされる紋様がある。一つ目は炎、二つ目は葉、三つ目は雲、四つ目は…これはまだ見つかってねぇから分からねぇ。四つ目と五つ目は未だ、発見されていない。まぁ、オレが見つけだすけどな。さて、神に授けられる真実とはいったい……それは光か闇か…楽しみだなぁ」


演説を終えると、耐えきれず笑みを洩らすアーティー。聴者はただ一人。その聴者も演説者のことを理解してはいない。いつも、ただ持論を聞いているだけだ。


「真実ってなんだよ…」


呆れている声音は隠せていない。視線は目の前にいる演説者に。彼は凄惨に笑ってみせた。


「知らねぇな。オレが欲しいのはその神とやらの宝だ」


それ以外は興味がねぇ、と言って背を向けてしまう。振り返らずに、前だけを見て、彼の求めるものはいつだって一つだった。


「相変わらず、スリル中毒ですね。オーデン船長?」


音もなく、いつの間にか二人の背後に現れた人間がいた。その人はフードを深く被っていて、傍から見ても顔は見えない。ロニーはすぐに振り返ったが、アーティーは顔を向けるだけだった。まるで、この人物が出現するのを予測していたような動きだった。


「よぉ、イノセント。相変わらず存在感ねぇな。そのうち、空気にでもなっちまうんじゃねぇの?」

「戯言も大概にしてくださいよ。あなたがそんな風だから、宝玉探しに五年以上かかっているのですよ」


皮肉と皮肉の掛け合い。二人とも笑顔で対峙している。醸し出されるオーラは怒りと苛立ちが滲みでている。


「それで? えーと、イノセント……」


ロニーがイノセントに声を掛けようとしたが、どうやら彼はイノセントのファミリーネームを忘れてしまい、中途半端に台詞は途切れた。


「イノセント・チェナーミ。旅人ですよ、アンダーウッド船員」


一つに束ねた長い黒髪がフードから現れる。全身を覆い隠すようなマントに包まれている成人は、人当たりの良さそうな微笑を浮かべた。


「おや、オーデン船長は随分と地味な格好でいらっしゃるようで。いつもの派手な赤いコートと趣味の悪いマークが付いた三角帽子はどこへ?」


先程の雰囲気とは打って変わって、延々と嫌味を披露してくる。イノセントが言ったようにアーティーの格好は質素だ。ぼろくて、薄汚れた白いワイシャツと緩くなっているブーツカットのズボンを履いている。いつもはスカーフを纏めているブローチは、紐を通され首から下げられている。


「そんなド派手な格好で動き回れるわけねーだろ。ちょっとはない頭使え」


イノセントを卑下したような乾いた笑みをもらす。今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だ。ロニーは大袈裟に咳払いをする。


「あー…なにか用があったのでは? イノセント・チェナーミ」


ロニーが二人の間に割るように入る。イノセントはそれによって二、三歩下がった。思い出したように、背負っている大荷物の中から一つの紙切れを差し出す。アーティーはそれを素直に受け取った。紙には海図が書かれていた。ある島の上に雫のマークが書かれている。


「これは?」


海図から視線を上げ、イノセントを直視する。


「四つ目の紋章の在処です。どうぞお好きになさってください」


彼はそう告げると、一歩下がる。


「でも確か、その島は盗賊の根城になってるので気をつけて」


アーティーとロニーが再び海図に視線を戻す。そして、イノセントを見ると彼はもうそこにはいなかった。文字通り消失した。


「は?」


間抜けな声をあげたのはロニーだった。呆然と立ち尽くす彼を尻目に、アーティーは街へと足を進める。


「ちょっ…アーティー!」


暫くして気を取り戻したロニーは、アーティーとの距離を縮めるために小走りで近付く。アーティーは先々と進む。待つ、あわせるなどという思考は持ち合わせていないようだ。


「今っ!イノセントが消えたぞ!!」

「そうだな。それで? 何を焦ってる?」


妙に落ち着いているアーティーに、ロニーは錯覚しそうになる。焦りと困惑している自分がおかしいのではないかと。

ロニーがアーティーに追い付いたところで、アーティーは歩く速度を落とす。


「だって…一瞬で消えるとかおかしいだろ?」

「あいつが消えること自体はよくあることだ。気にすんな。それより、今は情報収集が先決だ」


なんでもない風に流されるイノセントのことを不思議に思うロニーだが、それを尋ねることを許さないようないのはアーティー。質問すれば、切り刻まれそうな雰囲気がでている。


「どこに向かってるんだ?」

「酒場だ。こんな時間だ、賑わってるはずだぜ」


彼が言う通りに、辺りはもう暗かった。オールディス島に到着するのも遅かったせいだろう。

暫く歩くと、酒場の看板が目に入った。看板はお粗末なもので、木もだいぶ傷んでいた。アーティーはそのまま酒場のドアノブへ手をかける。一度、後ろにいるロニーに振り返る。


「酔い潰れんじゃねーぞ、ロニー」

「キミこそな、アーティー」


二人は顔を見合わせ、酒場の中に姿を消した。

室内は既にしっちゃか、めっちゃかだった。酒瓶は飛んでくるし、そこら中で喧嘩が起こっている。しかし、人々は酒瓶を避け、喧嘩は完全に無視を決め込み、酒と女を楽しんでいる。既に、ロニーにも娼婦がついている。ロニーは対応に困り果てている。アーティーはそんな女共には、一切反応しない。

ただ一心にカウンターを目指している。


「ねぇ? 旦那ァ? あたいのこと買ってくれないのぉ?」

胸を強調させたドレスを着た女が擦り寄る。甘えた声と柔らかい体で、アーティーを誘惑する。アーティーは思いっきり、顔を顰める。それも清々しい程に。


「ねぇ、旦那ァ」


女はアーティーのその顔には気付かず、更に体を密着させる。眉間の皺が濃くなるアーティー。


「くせぇ」

「え?」


不快そうな声がして、女は弾かれたように顔を上げる。そこには、端整な顔立ちの男が、不快感を隠そうともせずに、表情を歪めている。


「香水くせぇ。化粧が濃い。あとうるせぇ。猫かぶるな、クソ女。胸なんか押し付けてくんな。発情してるなら他の男にいけよ。オレはお前みたいな下品な女には勃たねぇよ」


女を突き放すようにアーティーはカウンターに向かう。女は呆気にとられ、数分動けなかった。


「おい、あんたが店主か?」


やっとの思いで、カウンターに辿りつけたアーティーは、カウンター席に座る。


「そうだが」


彼は飛んでくる酒瓶を避けながら返事をする。アーティーを数秒見つめると口を開いた。


「あんた、海賊だな」

「……目でも肥えてんのか、おっさん」


一瞬で正体を見破られたアーティーは動揺するでもなく、静かに驚嘆した。店主はアーティーの前に酒を出す。


「この店いたらこうもなるってもんだ。雰囲気からして海賊っぽいしな、にいちゃん。それも上品で、冷酷な…そんな海賊だ。どんなにみすぼらしい格好していてもな。あんたみたいなもんには上等な酒が必要だろ?」


アーティーはだされた酒に口をつける。飲んだ直後に、アーティーの口角は無意識にあがる。


「へぇ…いい酒だな」


口の中で酒を十分に楽しんだ後に、コップを置く。アーティーは先程イノセントから貰った海図を出す。店主の前に差し出し、雫のマークがある島を指差す。


「おい、おっさん。この島知ってるか?」

その海図を見た途端、店主は目を見開く。二、三歩と後退り、何かに怯えているようだった。アーティーはその様子をただ見つめる。


「…その島は“レディー・エデン”だ」

「女の楽園?」


少し落ち着いた店主が、呟くように告げる。カウンターに肘をつけながら、アーティーは首を傾げる。そんな名前の島があったなど聞いたことないからだ。


「レディー・エデンはここ数年でできた島だ。元々は王政だったんだが、一人の女盗賊が王を殺し、乗っ取ったんだ。それからあの島は男を全員を殺し、今じゃ女盗賊の島になっちまってる…」

「へぇ…」


興味なさげに呟くアーティーに店主は詰め寄る。


「あんた、あの島に行くのか?」

「何のためにお前にこの島のこと聞いたと思ってんだ」


少し長い爪を弄りながらアーティーは答える。アーティーは少しだけ残っていた酒を飲み干す。店主はアーティーから距離を取る。


「…死に行くようなもんだぞ、あんた」

「海賊やってる時点で死に急いでんだろうが」


これ以上は意味がないと判断し、席から立ち上がる。五枚ほどコインをカウンターに置き、立ち去ろうとする。店主はもう何も言わない。


「ああ、そうだ。ここからその島に行くには何日かかる?」

「…五日くらいだ」

「そうか、ありがとう。酒うまかったぜ」


ズボンの両方のポケットに手を突っ込ながら、男は去っていく。店主はその背中を見つめる。その背中はまさに海賊の背中だった。

酒場から出ると、真っ先に目に入った物がある。物というか人であるが。アーティーは嫌そうな顔をしながら、長い脚でそれを一蹴りし、仰向けにする。


「なにしてんだよ…ロニー」


酒に呑まれて、倒れているロニーの姿がそこにあった。アーティーがしゃがみこみ、ロニーのポケットに手を突っ込むがなにもなかった。コインが一枚も残っていない。


「…なんで盗む側の海賊が盗まれてんだよ」


はぁ、と溜息を吐くと、アーティーは軽々しくロニーを背負う。アーティーよりも背丈があるロニーを背負うのはなかなか辛いものがあったが、彼は平然とした顔で船へと戻る。

そういえば、とアーティーは思い出す。昔はこの男に背負われていたが、今は自分が背負っていると気付く。


「オレもでっかくなったな…」


そう回想し、彼は何も言わなくなった。思考を思い出から、明日の航海へと移す。海賊はいつだって死と隣り合わせだ。



「うぅ…気持ち悪い」

ロニーは二日酔いの気持ち悪さから、甲板の端で蹲っている。顔色はすこぶる悪い。アーティーはというと、上で舵をとっている。真剣な顔でコンパスを見ている。

この日は何もなく航行した。

その日の晩、アーティーは甲板に出て、一人で酒を楽しんでいた。暫くそうしていると、横に誰かが来た。


「よぉ、ロニー。顔色悪いぞ」


アーティーはロニーの顔を見ずに言った。


「そういうのは人の顔を見ながら言えよ…」

「顔なんか見ねぇでもわかる」


彼はそう言って、ロニーの前に酒瓶を出す。ロニーはそれを受け取り、コップにも注がず、直に飲む。アーティーはニンマリと笑う。


「また二日酔いになるぞ」

「もうなってるから安心しろ」


そう言うと、また酒を大量に飲む。その様子を楽しげにアーティーは見つめる。


「酒が弱い海賊ってのも珍しいよな」

「オレのこと言ってるのか?」


クスクス、と珍しく笑い声を洩らすアーティー。反対に、ロニーは複雑そうな顔をする。その顔を見て、更にアーティーは笑みを深くする。


「あと二、三日で目的地に着く。覚悟しておけよ?」


あと、二日酔いも治しとけ、と彼は冗談めかしに告げる。ロニーはそれにのる。


「二日酔いはそこまで長引かねーよ!」


二人の間に笑い声が沸き上がる。目的地到着まで後二日。



不安気な顔つきで、船員達はアーティーを見ている。アーティーの格好は、以前オールディス島で着用していたみすぼらしい服だ。


「お頭ァ…ほんとに行くんですか?」


ハゲ頭の図体がでかい男が不安気に見つめる。他の船員も同じような感じだ。アーティーはハゲ頭の頭を軽く叩く。


「いいか、バルトロ。オレたちは海賊だ、命を懸けないといけない時は懸けるんだよ」


船員達の不安は消えない。寧ろ、増しているようにも思える。


「三日だ。三日帰ってこなかったら迎えに来い。いいな」


アーティーはそう言うと、海に飛び込む。そして、そのままレディー・エデン島へと泳いでいく。島の近くに船を置けば、すぐに気付かれてしまう。そのため、近くに行くことは叶わず、人が泳いでいける距離に停めることにした。そういうわけで、アーティーは島まで泳ぐ羽目にあっている。


「はっ…結構、距離あっ、たな…」


なんとか海岸まで辿り着いたアーティーは息を整える。濡れてしまったせいで砂まみれになる。


「夜の海は冷えるからな…さみぃ」


体温が奪われているのを感じる。あまりここにいては目立つと思い移動する。海岸の近くにあった家の裏に隠れる。体温は下がる一方だった。


「海賊さん、風邪引くよ」


乱暴に被せられたのは毛布だった。アーティーは反射的に声の主を見る。そこには高い位置で髪を一つにくくった女がいた。


「お前…」

「あっ、安心して! 私、危害加えないから」


女はアーティーの腕を引き、歩き始める。まるで誘導するかのように。


「どこに行く…?」

「捕まりたいなら置いていくけど? 私の家だよ」


死にたいの?と言う彼女に男は反論を持ち合わせていない。どうせアーティーは、この島民に見つかった時点で終わりだ。どうともなれ、という気持ちで女の後を着いて行く。



温かな毛布で包まれながら、アーティーは女を盗み見る。女はまだ幼さを残す面影の持ち主だ。おそらく、まだ十代だろう。女は髪を揺らしながら忙しなく動いている。


「はい、これ。スープだよ」


陶器のコップに注がれたコーンスープをアーティーは取り敢えず受け取っておく。口はつけず、持ったままだ。


「お前、名前は?」

「アリーナ・ドルジエフ」


嬉々とした様子でアリーナは答える。彼女の真意がわからず、アーティーの頭はついていけない。鼻唄でも歌い出しそうなアリーナに、更に疑問は募る。


「私、久しぶりに名前聞かれた」

「…? どういうことだ?」


明るい彼女の振る舞いに闇のようなものを感じる。しかし、彼女自身はそれに気付いていないようだ。


「家族がいなくなってからずっと独りだったの。誰も私の面倒なんてみたがらないしね。厄介ものなんだ、私」


アーティーは密かに冷淡な目で見る。彼女はそれに気付かず、話を続ける。まるで自慢話のように。


「だけどがんばったんだ! 私は独りで生きてきた!! 海賊さんならわかってくれるよね!?」


アリーナはアーティーの方へ振り向く。アリーナの表情が強張る。冷汗が頬に流れる。


「……それが自慢になると思うのか?」


冷血な目でアーティーはアリーナに侮蔑の視線を送る。アリーナは思わず肩をすくめる。金縛りにあったように動けなくなる。いや、動けば殺されてしまう。なぜなら、彼女の首筋にはアーティーのサーベルが突き付けられているからだ。殺気が溢れる視線が突き刺さる。


「な、にを…」


焦りと恐怖が滲みでた声音が反響する。アーティーは無表情だ。無表情で剣を突き付けたまま、アリーナに近付く。至近距離まで歩み寄る。耳元まで接近し、囁く。


「いいか…お前はさも自分が一番可哀想な奴だと言っている。でもな、お前よりも悲惨な奴は大勢いる。お前はただ自分を正当化したいだけだ」


アリーナは目を見開く。その様子をアーティーは無表情で視認する。そして、アリーナを再び追い詰める。


「この家、一人暮らしにしちゃあ、物多くねーか?」


とうとうアリーナはアーティーを突き飛ばした。アーティーは突かれてもよろけるだけだった。アリーナの目付きは獣のように鋭く、まるで威嚇しているようだった。よろけた拍子にサーベルを床に落としてしまった。


「お前は責任逃れがしたいただのガキだ」


そう言いながら、落としたサーベルを拾い上げようとした。しかし、その時に隙ができてしまった。頭を下げた瞬間の衝撃。一瞬、広がった白の世界。なす術もなく倒れる身体。アーティーは地面に伏した。消える前の視界は、アリーナが鉄の棒を抱えている姿だった。アーティーの視界は真っ暗になった。


「起きろ! クソガキ!!」


女がアーティーの髪を引っ張る。そのまま床へ頭を叩きつける。アーティーの目が僅かに開かれる。痛みによって、その顔は歪む。後ろ手に縄で両手を一纏めに縛られている。アーティーの視界は目の前にいる女を映す。


「ようこそ、アーティー・オーデン」


女は妖艶に笑う。しかし、目は笑っておらず、アーティーのことを汚物でも見るような目で見下している。ここでようやくアーティーは自分の置かれている状況を理解する。自分は両手を縛られ、床に倒れている。周りには三十人はいるであろう目の前にいる女の部下たち(全て女性)。そして、女は優雅に玉座に座っている。どうやら、アーティーはこの島の中心部である城に連れてこられたらしい。


「私はベラ・ロスという者です。以後、お見知りおきを」


ベラは玉座から立ち上がり、ヒールの音を鳴らしながら迫ってくる。にこやかな笑みを浮かべながら、アーティーの前に立つ。アーティーは何も言わず、ただベラを見上げる。


「ふーん…なかなかいい男じゃない」


靴の先端でアーティーの顔を上げさせる。にこにことした表情を浮かべ、アーティーの前に膝をつく。今度は靴ではなく、自らの指で顎を掴み、無理矢理に視線を向けさせられる。


「ああ…でも傷物だね。左目を包帯で覆ってるし…高くは売れないか」


さっきと打って変わって、ベラの機嫌は急降下した。周りの部下が焦り始める。それでも、アーティーは何も言わない。なるべく、ベラを視界に入れないように遠くを見つめている。


「さっきから何も言わないですけど、私の美しさに声が出ませんか?」


にこりと胡散臭い笑顔を浮かべるベラに、アーティーは溜息を吐いた。それも無意識に。


「うるせぇ、年増。」

「なっ!?」


ベラは絶句する。アーティーは呆れて、また溜息を吐く。今度は意識して。


「いい年してるオバサンがヘソ出し服なんか着てんじゃねーよ。吐き気がする。皺を隠したいのか知らねぇが、厚塗りしすぎだ。その黒い髪も長すぎて却って太って見える。あと、容姿は何も問題ねぇけど、顔に性格でてるし。性格ブスだな、お前」


全て言い終えるとアーティーはスッキリした顔をした。逆に、ベラは怒気で顔が真っ赤になる。アーティーは知らん振りをしている。


「っ!」


拳と肉がぶつかる音が鈍く響く。アーティーの右頬が殴打される。口内が切れたのか、アーティーは血を含んだ唾を吐き出す。それを見たベラが更に激怒する。二、三発と続けて殴られる。それでも、アーティーの挑発的な目付きは変化しない。ベラの息が切れ始めた頃に殴る、蹴るという行為は終わりを告げた。アーティーはベラの様子を見て冷笑する。優位なのはベラのはずなのに、こちらが劣位になったような錯覚を感じる笑い方だった。


「こいつを牢に連れていけ!!」

「はっ、はい!!」


命じられた部下たちは、ボロボロのアーティーを無理矢理に立たせ連行していく。ベラの血で染まった拳は震えている。


「べ、ベラ様!」


物陰から先程まで、ずっと様子を窺っていた人物がベラに声をかける。恐怖に耐えながらベラの前に立つ。


「これで約束のことは全て終えました…だから!」


懇願するような視線でベラを見上げるのはアリーナだ。恐怖を感じながらも、嬉しさが滲みでている様子。ベラはその表情を見て、不気味な笑みを浮かべた。彼女はたいへん機嫌が悪い、その発散をアリーナで解決しようとしている。


「ええ、これで“約束”は終わりよ。ごくろうさま」

「じゃ、じゃあ! 弟は返してもらえるんですね!!」


嬉々とした表情を浮かべるアリーナ。ベラはニッコリと笑ってみせる。アリーナの背丈にあわせるように、少しかがむ。


「でも、残念。」

「え?」


アリーナの顔が引き攣る。ベラは笑みを深める。正真正銘の悪党の顔だ。彼女はアリーナの頭を優しく撫でる。


「先日、旅の商人とかいう物好きが高値で買っていったわ。残念ね、もう少し早ければ間に合っていたのにね」


力が抜けて、アリーナの腕は垂れ下がる。目を絶望に支配されている。アリーナの頭を撫でるのをやめ、ベラは部下に指示を出す。アリーナをアーティーがいる牢に連れて行け、と。アリーナはたいした抵抗もせず、されるがまま連行される。彼女にはほとんど生気がない。



「よぉ、クソガキ」


アーティーは腕を組み、牢屋の壁に背を預けていた。アリーナのいる牢はアーティーの隣の牢だ。二人の間は鉄の柵で仕切られている。アーティーは怪我の治療もろくにされず、未だに血が流れている。彼は横目でアリーナを見るが、彼女は牢の中央で体育座りをして、塞ぎ込んでいる。顔は一向に上がる気配が見受けられない。


「どうせ弟いなかったんだろ?」


アリーナの肩が密かに反応する。アーティーは横目に彼女を見る。顔はまだ上がらない。


「お前の家に飾ってあった写真に三人写ってた。お前と母親と弟だ。物の配置変えることだな」

「なにがわかるのよ!!??」


 勢いよく顔を上げ、彼女は叫ぶ。錯乱したように立ち上がり、アーティーの方へ詰め寄る。すぐに鉄の柵に阻まれる。しかし、柵を掴み、荒々しく両手で揺らす。

「私は! 私は母が殺されて、弟が囚われてから!! あの子を取り戻すために私はなんでもやった!! 盗みだって、殺しだって!!! だけど! だけど…!! あの子はもういない…私はなんのために…」


 脱力したように彼女は蹲る。アーティーは無表情で見つめる。面倒くさそうにアーティーは溜息を吐く。


「そいつ殺されたのか?」

「はぁ?」


失望してしまったアリーナに、アーティーはぶっきらぼうに言う。アリーナは訝しげに見つめる。


「誰かに買われたって…」

「じゃあ、死んではいねぇ。探せばいいだろ」


アリーナは瞳孔を見開き、もう一度檻を掴む。怒りが頂点に達したようだ。


「だから! あんたになにがわかるって言うのよ!?」

「わかんねーよ。わかんねぇから言ってんだろうが」


意表を突かれたアリーナは何も言えず、言葉が出ない。そんなアリーナを無視して、アーティーは自分の意見を述べる。


「いいか、お前は弟のために必死に頑張った。しかし、あのクソ女に騙されて、弟は売られた。殺されたわけじゃねーから、生きている。だったら、まだ会える。会うことができる。でも、お前は今までがんばった分は無駄だったと言って諦めようとしている。お前は弟のために自分を正当化しようとしていたが、それは弟を取り戻すまでは完成しない。今、オレが言えることは、このまま用済みになったお前はあのクソ女に殺される。弟と会うことも叶わずに」


アーティーの話を聞いて、アリーナは少し平静を取り戻す。アーティーの意見に納得している自分がいることに驚いている。


「私は…どうすれば…」


自問自答するように呟かれる言葉。少しずつだが、彼女の瞳に希望が見え始める。アーティーはその様子に満足そうに口角を上げる。


「オレたちと来ればいい」


自信満々にアーティーは口に出す。その口振りにはなんの迷いも伺えない。アリーナは吃驚する。それと同時にアーティーの頭が正常なのか心配する。


「私…アナタを襲ってるんだけど」

「女はそれぐらいの方が好みだ」


深刻そうに言うアリーナに対して、アーティーは冗談めかしに言う。アリーナも少し笑う。不意に、アーティーは真顔になる。アリーナも雰囲気に釣られて、真剣な顔つきになる。


「アリーナ、お前はこのままでは殺される。弟に会えないまま、な」

「……」


アリーナは何も言わず、アーティーの顔を凝視する。アーティーは足を組み直す。少し、アーティーの雰囲気が柔らかくなった気がする。


「死にたくなかったら、自分で道を切り開くことだな」


アリーナは思わず、尻餅をつく。アーティーは動じず、壁に背を向けたままだ。砲声が打ち響き、壁が轟音を鳴らして崩壊した。ちょうどアーティーの隣に穴が開く。ついでに二人の間にあった鉄の柵も消え失せている。どうやら、大砲が打ち込まれたらしい。


「な…な、ななにっ!?」


アリーナは驚倒し、うまく喋れないでいる。アーティーは静かに腰を上げる。その顔はどこか楽しげで獣染みたものを感じる。


「選択の時だ、アリーナ。選べ、自分の好きな方を」


座り込んでいるアリーナを見下ろす形で正視するアーティー。アリーナは何も言わない。しかし、その瞳は強い力をおびている。アーティーの手首を掴み、彼女はアーティーを見据える。


「私は…――」



「ロニー…これでほんとによかったんですかねぇ」


バルトロが不安げにロニーを見つめる。ロニーは帰ってこないアーティーが心配になり、独断で船と船員を動かしている。半分はロニーと共に陸へ、もう半分は会場からの攻撃を繰り返している。この襲撃で、ロニーたちは優位に立っている。島民も女ばかりで、簡単にことが進んでいる。


「…キミはアーティーが心配じゃないのか?」


億劫そうな視線がバルトロを見据える。バルトロは、その視線を受け、焦り出す。


「いや! そんなことはないけど…」

「だったら、やるべきことは一つだろ」


バルトロから視線を外し、上司がいるであろう城へと視線を移す。昔から、ロニーのすることは何も変わっていない。



物語も終盤へと差し掛かっていた。あの後、ロニーたちがより一層暴れたおかげで島は壊滅状態になり、船からの攻撃で城や民家は撃滅されていく。なにより、上が死んでしまえば国は終焉を迎える。今まさに、その瞬間を迎えようとしていた。玉座に座らされているベラとベラの顔にピストルを突きつけているアーティーがいるからだ。ベラの口元が不自然に歪む。本能的に死を感じているようだ。


「終わりだな、年増女」

「なんで…あなたそんなに強いの? だったら最初から…」

「それじゃ意味ねーだろ」


アーティーはそう断言する。血で固まってしまった髪を払いのけながら、ベラに侮蔑の視線を送る。ベラは無理矢理に笑みを作るが、不完全なものだった。


「オレの目的は宝玉を奪うことだ。宝玉には不思議な力が働く。お前がもし宝玉を手に入れて、力をつけたんなら辻褄は合う。宝玉の力を使って王族を一族諸共殺したんだろ? 別に非難はしねぇよ。ただ宝玉の力に頼りすぎたな。ついでに言うと、宝玉について何も調べなかったし、知ろうともしなかっただろ? それがお前の敗因だ」


冷めた目でアーティーはベラを見下ろす。アーティーの言った内容はほとんど正解だが、ベラには一つだけ納得できないことがある。先程からそれをしているのだが、全く反応しない。軽く混乱している状態にあるベラ。


「反応しねーだろ、宝玉」


意地悪そうにアーティーは笑う。ベラは驚愕に目を見張る。アーティーはますます笑みを深める。


「さっき言っただろ? 宝玉について調べなかったのが敗因だってな」


アーティーは食指を顔の横で立てながら、楽しげに口を開く。それは、まるで手品師が種明かしをするような光景。


「知らねーだろうから説明してやるよ。宝玉は神器なんだよ。神様は意地悪なことに人を選ぶらしい。宝玉と相性がいいかで使用できるかできないかが確定する。じゃあ、同じ適性がある人間がいたらどうなると思う? …より適性が高い方に宝玉は従うらしい。ここまで言えばわかるよな?」


アーティーは先程まで指を立てていた方の手を上げて、掌を広げる。玉座の飾りとなっていた宝玉がアーティーの掌に吸い込まれるように収まる。


「お前も分かり易いなぁ」


アーティーはそう言うと、ベラに背を向ける。ベラは状況に着いていけず、一瞬呆気に取られる。だが、すぐに胸の中に隠していたナイフを取り出し、アーティーへと投じる。ベラは勝利を確信した笑みを浮かべた。


「海賊さん!」


アーティーにサーベルを取り戻して来い、と命じられ、城の中を走り回っていたアリーナがタイミングよく戻ってきた。彼女は片手でサーベルを抱え、ベラよりも早くナイフを取り出し、ベラへと投げつける。ベラの命令によって鍛え上げられた腕は、彼女を皮肉なことにその道の達人へと導いていた。アリーナの投げたナイフは深々とベラの額に突き刺さった。ベラの体は玉座へと沈む。アーティーがアリーナを見返ると、彼女は動揺しており、肩で息をしている。涙ぐみながらアリーナは、投げ損ねたいくつのナイフを取り落とす。


「か、いぞくさ…ん」


不安定なアリーナにアーティーは静かに歩み寄る。一目ではわからないが、確実に彼女は取り乱している。彼女はいつもこうなのか、とアーティーは思い巡らす。ベラに汚い仕事を命じられた時、人を殺した時、アリーナは泣くこともなく、喚くこともなく、ただ静かに狼狽するだけなのか。密かに、彼女の体は震えている。そんな彼女にアーティーは手を伸ばし、肩を抱き寄せる。


「っ!」


アリーナの体が強ばる。彼女が抱えていたサーベルが腕から摺り抜ける。音を鳴らして落下した。アリーナはどうしていいかわからず呆然と大人しくアーティーの腕の中に収まっている。抱きしめられることによって、アリーナはアーティーの体温を間近で体感する。その温もりに安堵し、彼女の体の硬直が緩まる。それを感取すると、アーティーはアリーナを離し、距離を取る。そして、左手を彼女の頭にのせ、髪を乱すように撫でる。すぐにその手は離れてしまった。アーティーはアリーナが落としたサーベルを拾い上げる。アリーナに背を向け、消え入りそうな声で口にした。


「…助かった、ありがと、な」


本当に蚊の鳴くような声だった。しかし、アリーナからは耳が真っ赤になっているアーティーが見事に見えてしまっているので、どうにも間抜けである。アリーナは柔らかい笑みを浮かべ、アーティーの後に続く。



驚愕した表情を浮かべる船員たちと心弛びしたロニー。アーティーは無表情でアリーナを連れて帰ってきた。アリーナはアーティーの後ろに隠れるように船員たちを覗き見ている。その様子でおおよその事情を察したロニーはアリーナに握手を求める手を差し出す。


「はじめまして。オレはロニー・アンダーウッド。よろしくね、お嬢さん」


アリーナの仲間入りを心から祝福している笑顔を浮かべるロニー。それに緩和されたようにアリーナも照れた笑みを浮かべる。後に続くように、他の船員たちもアリーナに挨拶や自己紹介をし始める。ロニーは一旦、アリーナから離れ、アーティーの傍へ行く。


「手当は?」

「後でいい」


そう短く答えるアーティーにロニーは苦笑を漏らす。そして、アーティーから預かっていた赤いコートを手渡す。アーティーは受け取り、肩にかける。そのまま、靴底を鳴らしながら、甲板の中央へ立つ。


「自己アピールは終わりだ、クソ野郎共。自分の持ち場へ戻れ!」


そう命令をくだしながら、アーティーは左目を覆っている包帯を外す。現れたのは左目を隠す眼帯。


「速度を上げろ! 獲物を見つけたら根刮ぎ奪え!! それが海賊だ!!!」


アーティーが高らかに命令すると、あちらこちらで野太い声があがる。アーティーは満足そうに笑みを浮かべる。

四つ目の宝玉を取得し、残りはあと一つ。アーティーの航海も直に終わりを迎える。

                                          End.


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