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無限のグリモワール  作者: 鏡紫朗
第一章 グリモワールの魔術師
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第四話 鮮血の人形遣い

パチン!

黒コートの男が指を鳴らすと共に、今まで青色だった空が一変し紅色へと塗り替えられていく。

この光景には見覚えがあった。

「これは……あの時の!」

この間の商店街で見たあれだ。

「……ん。これがあいつの血の血界」

「血塊……」

よく漫画とかにでてくる他の人間を近づけさせないあれか。

ん?結界じゃなくて血塊?どういう意味だ?

「そう、これこそ私が鮮血の人形使いと呼ばれる由縁の一つ」

「鮮血の人形使い……」

自分に酔っているのか両手を広げて高らかに宣言する黒コートの男。

が、そう言われてもぴんとこないんだが。

「ふ、無知とは罪なものだな」

……今俺馬鹿にされてるよな。そんなん知るかって話なんだがな。

まああれだけ自信満々なんだ、一応魔術師の中では有名なんだろうな。

「いいだろう貴様の死の前にこの名前が聞けたことを誇りに思え。

 我が名は鮮血の人形使いエドアルド・べネデッド!さあ、この劇のフィナーレといこうじゃないか」

誇りに思えとか言われても困るんだがな……。しかしなんだあいつ?いかれてやがるのか?

「エドアルド・ベネデッド……魔術師の中ではかなり有名な人物……あと、大半の魔術師はどこかいかれてる」

超簡単な静の説明が入る。

こういう時に心の声を読んでくれるのはありがたいな。

……ああなるほど、そういうことか。

「……うん。相手のセンスを読むのも魔術師にとって大切なスキルだから……ごめん」

静や愛美姉の勘が鋭い理由、これで納得がいった。

静も俺の心の内が読めてしまうことに罪悪感をもってるみたいだけど、

こういうことならしょうがないよな。

「謝らなくていいさ。それよりも」

今はこの状況を切り抜けるのが先決だ。

「……うん」

「おしゃべりとはずいぶん余裕ですねグリモワール」

蚊帳の外が嫌いなのか、待てない性格なのか、エドアルドの言葉に少しだけ怒気が混ざる。

……ありゃ変人かつ性格も悪いな。できれば関わりたくないタイプだな。

「なら、こちらからいかせてもらいますよ。 現れろ!従順なる人形たち!」

エドアルドが右手を振りかざすと同時に、やつの体は空へと浮かびあがる。

……って!空も飛べるのかよ!

10メートル程浮かんだところでは動きを止め、指をならすと同時に地面の中から大量の人間が姿を現す。

「これって」

そうだ、こいつらも見覚えがある。あの時静が真っ二つに切り裂いた人間だ。

「……ん、この前の人型。血が通ってる……だから鮮血の人形使い」

人型?人形?……なるほど。こいつらは人間でなく、人体の構造を真似て作られた人形ってわけか。

しかし、この登場のしかたは、人形と言うより……ゾンビだよな。ん……血塊……血の通う人形……まさか!

「もしかして、この血塊はあの人形たちを動かすためのものか」

「ほう、なかなか観察眼の鋭い小僧だな。その通りだよ。この血塊は彼らの血そのものさ」

なんか褒められたぞ。というか小僧はやめい。

「この血塊の構造を理解するところや、血塊の一部を破って抜けてくるところを見ると、

 ただの人間にしてはなかなか……いや、きさまただの人間か?」

血塊を破った?……そうか、静を助けに行こうとしてぶち当たった見えない壁、あれはこの血塊だったのか。

まてよ?じゃあなんで俺があの血塊を破れたんだ?

「まあいいでしょう。きさまはここで死ぬんだからな!」

どうやら、考えてる時間はくれないらしいな。

「いけ!我がマリオネットたちよ!」

エドアルドが命ずると、人形たちが一斉に動き出す。姿は人の形をしていても、やはりその動きは人のそれでなく、

まるで獣のように飛び跳ね、走り、静と俺めがけて襲い掛かる。

「……小手調べはうんざり。イフ、ロック」

静が言葉を紡ぐと目の前に赤色の魔方陣が大量に出現した。

あまりの多さに数え切れないが、襲い来る人形の数と同等だけ展開されているのだろうと推測できる。

「シュート!」

左手を前方に突き出しながら叫んだ刹那、魔方陣から球体状の炎の塊が一斉に放たれた。

それはまるで生きているかのように自然に人形たちへと飛んで行き、

接触した炎は爆発、炎上し人形たちを灰へと帰す。

「ほう、こんどは炎ですか。なんでもありですねグリモワール。

 ですが、その後ろの小僧のために自分の不得意な魔法を使うのは感心しないなあ!

 そういうなめられ方が一番気に入らないんですよ」

そうか、炎上させて灰にしてしまえば血は飛び散らない。

静は俺のことを考えてくれてるのか。

だけど不得意な魔法を使ってるってことは、静にとっては不利な状況ってことか?

嬉しいけど、そういう気の回し方はしなくていいんだが。

まあ、それが静なんだけどな。

「静!俺のことは気にしなくていい!遠慮しないでガンガンいけ!」

首を縦に一回振る静。こちらからでは表情が伺えないのが心配だが。

今の俺にできることは状況を見守ることと、信じることだけだ。

「ふふふ、やはり気に入りませんね。私相手に本気を出さない。……ふざけるなあぁ!

 殺してやる!せっせとそこの小僧をぶっ殺して、本気をださせてやっからなあぁ!」

エドアルドが右手を突き出す。展開されたのは白く輝く魔方陣。

この構え、あの魔方陣、さっきのレーザーか!

逃げるべきか?いや、俺の足で逃げられるのか?

迷っている間にレーザーは俺めがけて発射された。

俺は冷静に静の方へと視線を向けた。

静も同じく俺の方に視線を向けていた。

静の視線が、私を信じてと語りかけている。そんな風に俺は感じた。

そんなやり取りをしてる間にもレーザーは俺に接近し、今や当たる直前である。

だが俺は動かない。なぜなら俺は静を信じているから。

「ディー、シェル!」

レーザーが俺を貫く直前。目の前に光の膜のようなものが現れ、レーザーを防ぎ、拡散させた。

拡散した時に起きた発光によるまぶしさに、俺は目をすぼめる。

「く、シールドか!姑息なまねを!」

「……言った。悠を守るって」

こいつは光……いや水の膜か!

光の収束帯であるレーザーを水の膜で減衰させて離散させてるのか。

……なんだこの感覚?わかる……のか。静が、あの男がやっていることが。いつもよりほんの少しだけ。

「……これで悠にその攻撃は通らない。……今度はこっちからいく」

静が走ると風が舞った。そのスピードはエドアルドのレーザーに勝るとも劣らなず、2人の距離を一気に詰める。

「無詠唱アクセルでこの速さだと。ええい!」

エドアルドは後方へと距離をとりながら、静に向けでたらめに

レーザーを連射するのだが、静の足の方が速く

弾幕であるレーザーも軽々かわされほとんど意味を成していない。

結果、2人の距離はどんどん縮まっていく。

「当たらないか……。ならばこれなら!」

弾幕で足を止めるのを諦めたエドアルドは、動きを止めると両腕を広げ目を閉じる。

一瞬の集中の後、目を開くと同時に先程よりも巨大な魔方陣が両手から展開され、

そこから多数のレーザーが放出された。

今度のレーザーは正確に静めがけ飛んできている。

「静!」

心配になった俺は、静の名前を全力で叫んだ。

その次の瞬間、静がにやりと笑った。

「ムー、グランドウォール」

地面に振り下ろした静の右腕から茶色の魔方陣が展開され、地面がもの凄い勢いでせり上がり始める。

せり上がった地面は、長方形をした巨大な壁となりエドアルドのいる高さより少し高い位置で止まる。

防御壁となった地面は、レーザーを総て受け止めると共に役目を終えたかのように崩壊を始める。

そして崩れ落ちる瓦礫から飛び出す影が一つ……静だ。

静はせり上がる壁と同時に、空高くまで移動していたのだ。

壁が崩れ落ちる一瞬の反動を利用し、腕の力だけで飛び出した静は、腕に風を纏いながらエドアルドへと突撃する。

不意をつかたエドアルドは、驚きに目を見開きながらもとっさに防御陣を展開するが、

一瞬で練り上げられた陣に意味など無く、風を纏った静の一撃であっさりと空から叩き落された。

いいぞ静、これなら勝てる!

歓喜に沸く俺とは裏腹に、静は訝しげな表情を浮かべていた。

「……何故本気を出さない?」

え……本気を出してないのか、やつは。

「ふふふ」

薄気味の悪い嘲笑を浮かべながらゆっくりとエドアルドが起き上がる。

「……何がおかしい?」

静の顔が嫌な予感に歪む。

「ふふふ、かかったなあ」

エドアルドの口元が狂喜で歪むと共に指を鳴らした直後、

それは唐突に俺の背中に現れた。

仕掛けてあったのだ。あらかじめ俺の後ろに二体の人形を。

「悠!後ろ!」

静の怒号でとっさに後ろを振り向いた時にはすでに遅く、俺は地面へと押し倒された。

血走った目をした女性型人形は俺の首へと手を掛ける。

まずっ!

そう思った時には、万力のような力が俺の首を絞めていた。

「があっ!」

苦しい、息ができない。

「……くっ、アクセラレート!」

酸素がなくなる前に首の骨が折れるのではなかろうか。

そう思えるほどの力に俺の意識は一気に遠ざかっていく。

これは……死、ぬ。

「爆ぜろ!」

落ちかける直前だった意識が、目の前で起きた強烈な爆風により一気に現実へと引き戻される。

強烈な首への圧迫が無くなった体は、酸素を求め荒い呼吸を繰り返す。

どうやら静が魔法で助けてくれたらしい。

二体目が襲ってこないところをみると、先程の人形と一緒に倒したのだろう。

「すまん助かっ……」

静に感謝を述べながら起き上がり、静のほうへと向き直った瞬間。俺は驚きに目を見開いた。

今使った魔法の疲れなのか、肩を上下させている静の後ろ側に、白い魔方陣が展開されていた。

気づいて……ないのか!

知らせないと!

「静!後ろだ!」

俺の怒声で気がついたのか、驚きに目を見開きながら静は後ろを振り返る。

「……しまっ!」

「遅いんだよ!」

静は反射的にその場から飛びのいたが、発射されたレーザーは無常にも静の右足を貫いた。

「くうぅぅっ!」

悲鳴と共に体制を崩した静は、地面にうつ伏せの形で落下した。

「馬鹿め!まさか私の罠にまんまと引っかかるとはな!」

罠……だと?

「っく!……罠……」

「ふっ。押されているように見せかけ、私がおまえを小僧から引き離したのはすべて作戦だったのさ。

 そう!今の行動、総てが私の計算通り。アクセラレートを使うのも、その後の疲労硬直もな!」

あの喋り方は癇に障るし、言動もふざけてやがる。でも、強いのは確かだ。

次の攻撃にそなえてなんとか立ち上がろうとする静だが、足の腱を持っていかれたらしく、

うまく立ち上がることができないでいる。

「さあ、これで終わりだグリモワール。フィナーレは貴様の悲鳴協奏曲だ!」

エドアルドの前方に大量の魔方陣が展開される。その数は先程静が多重展開した炎の魔方陣の数を遥かに凌いでいる。

なんだよこの数!こんな大量のレーザー防ぎきれるのかよ!?

一斉に放たれたレーザーは、立ち上がろうともがいている静めがけて豪雨のように降り注ぐ。

「く!ディー、シェル」

静も先程のシールドを展開し応戦するが、痛みで集中できないのか、あまりに数が多すぎるのか、

頼りないぐらい薄く、今にも消えてしまいそうだ。

「くうううぅっ、ああああああぁぁぁっぁ!」

静の悲鳴に焦りが積もり、自分の無力さに苛立ちを覚える。

くそ!何か、何かできないのか!

ふと目の前に、静に回避され地面に刺さりっぱなしのレーザーの矢があることに気がついた。

……そうだこれをあいつに当てられれば。

しかし矢がささった地面は、いまだにジュウジュウと音を立て少しずつ蒸発している。

威力は申し分ないだろう。だが明らかに熱いよなこれ。

……こんなもん持てるのか?……ええい!考えててもしかたねえ。惚れた女は死ぬ気で守る。

どうせこのままじゃ俺も殺されるんだ。なら!

意を決して右手でレーザーの矢を掴んだ。

案の定、高温で発光、発熱しているそれは、俺の手のひらを焼き切ろうとしてきた。

「ぐうううう!ああああああああぁぁぁ!」

痛え、手が、いや腕ごと持っていかれそうだ。

あまりの痛さに悲鳴が漏れ出し、脳が危険を察知し離せと警告を告げる。

だが!この程度で、あ・き・ら・め・て・た・ま・る・か・よ!

俺は根性で矢を抜き取る事に成功すると、すぐさま投げ飛ばす体制に入る。

だが10メートル以上高いところにいる相手だ、

どう考えたって普通は当てられる距離じゃない。

だけどやるしかない。当ててやる、絶対に当ててやる!

静を守りたいという願いが奇跡を起こすと信じて!

「あ・た・れえええええぇぇぇぇっ!」

全力で地面を踏みしめ、エドアルドに向け矢を投げ返した。

俺の思いが通じたのか、矢はエドアルドの顔に向かって飛んでいきモノクルのほぼ真横を通過した。

直撃はしなかったものの、その高熱はモノクルと、エドアルドの目の横の皮膚を焦がしていったようだ。

「な・ん・だ・とおおおぉぉぉぉ!」

予想すらしていなかったのだろう。展開していた魔方陣はすべて離散し、皮膚を焼き焦がされた痛みに

エドアルドはのたうちまわっている。

「静!」

その隙に俺は静の元へと駆け寄った。

「大丈夫か?」

倒れこむ背中を支え顔を覗き込む。

静の顔は汗だくで酷く発熱していた。

「……ごめん。少し……不味いかも」

静の無理やり作った笑顔に、俺の胸はぎゅっと締め付けられる。

それはなんだ、心配するなってことか?

「くうっ!」

今だって痛みに苦しんでるっていうのに。

……何もできない自分を悔しがるのは後回しだ。

とりあえず、どうする?

エドアルドの方に視線を向けると。やつはまだのたうちまわっていた。

今ならここを離れられるか?

静の状態を見てもおそらくそうするのが最善か。

「静、一度引くぞ」

俺は静の体をお姫様抱っこの体制で抱え上げる。

「!ゆ、悠!」

この状況でも痛みより恥ずかしさが勝るのか、

静の顔はまるで沸騰しているんじゃないかと思えるぐらい真っ赤になっていた。

まあ、いつもの俺なら可愛いやつめとか思うんだろうが、それを気にしている余裕は今現在無い。

エドアルドがいつ正気に戻るかわからない以上、

時間は無いに等しいといっても過言ではないのだから。

俺は全速力で走り出した。場所はこの近くにある廃ビル。

あの中なら、外側からレーザーの連射でも喰らわない限り、外にいるより少しは安全だろう。

そう俺は考えたのだ。






久々の更新です。

後半部分があまりにも長くなったので、二分割しました。

これが戦闘パート前半になります。

主人公動かないとだらだらと地書きになりますねほんと。

後半は動いてくれますのでご期待ください。

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