第十二話 妹大パニック
「朝霧奈穂と申します」
「ほ~、朝霧に妹がいたとわな」
「悠……」
今俺は生命の危機に瀕していた。
理由は当然先ほどの奈穂の一件だ。
静の目が久々にマジなのだ、据わっているのだ。
言うならば
「さっきまであんな事言ってたのに、彼女の前でそういうことするんだ?
ふ~ん、へ~え、ほ~」
という感じだ。
この感じだと奈穂が妹だということも疑っている可能性が高い。
確かに奈穂は本当の妹ではない。
俺を引き取ってくれた親戚の家の娘、要するに義妹というやつだ。
アニメなんかでは義妹というと恋愛対象だったりするが、静が思っているであろう感情は俺には無いわけで……。
因みにこんなことを考えてる間も静の視線は俺の心を射抜いている。
だめだ、この空気に耐えられない……。
「あの、兄さん。こちらのお二方はどちら様ですか?」
そ、そうか、そういえば奈穂は二人のことを知らなかったんだった。
「しょ、紹介するな。メガネをかけたお姉さんが俺の学校の担任の如月愛美先生」
「如月愛美だ。よろしくな朝霧妹」
どこぞのパクリか愛美姉……。
「まあ、兄さんの担任の先生でしたか。いつも兄がお世話になっております。
ダメな兄ですが、今後共よろしくお願いします」
どうやら妹にすら俺はダメ人間扱いらしい。ちょっと悲しい。
「……悠」
静の口から地獄の使者のような声が絞り出された。
どうやら後回しにされたことを怒っていらっしゃるようでして。
早く紹介しないとやばそうだこれは。
「えと、こっちの小さくて可愛らしい娘が如月先生の妹で、名前は」
「……如月静……悠の恋人」
俺の説明に割り込んできた静は視線を奈穂の方へと向けている。
そして奈穂も静の発した恋人、という単語に反応し眉をしかめた。
やばい、嫌な予感がする。
鈍感な俺だが2度の死線をかいくぐったおかげか、死や恐怖といったものに関しては
やけに敏感になったらしい。
脳が警笛を鳴らす、に・げ・ろと!
「静さん、でしたか。今なんとおっしゃいました?」
あの、奈穂さん?目が笑ってらっしゃいませんよ?
「悠のこ・い・び・と、って言った」
空気が凍る、特に俺の周りの空気が凍った。
もう本格的にダメだ、ここにいたら俺の身がどうなるかわからん。
逃げ出すために立ち上がろうとしたその時、奈穂がテーブルに勢い良く両手を叩きつけた。
「兄さんこれはどういうことですか?」
般若だ、般若が降臨しておる!
「こんなダメ人間の兄さんに彼女がいるとかありえない、ありえない」
「悠はダメ人間だけど優しいから」
「……その線を考えるのを忘れてました」
これは褒められているのだろうか、それともけなされているのだろうか……。
後者ですよね、絶対後者ですよね!
悲しい。
「兄さん一つ聞いていいですか?」
「……何でしょうか?」
「静さんとはやったんですか!」
突然の不意打ちに、俺と愛美姉は吹き出し、静は顔から火が出るほどに赤面する。
奈穂よ、そういうことを女の子が言うもんじゃありません!
「ちょ、おまえ一体何を言い出すんだよ!」
「その反応まだのようですね」
いや、まだだけどさ、確かにまだだけどさ!
「静さん!!」
「……何」
「既成事実がない以上、兄さんはまだあなたのものになったわけではありません!」
何を言い出すんですかこの娘は!もう俺の頭じゃついていけませんよ!
「おま、何をいいだ」
「に・い・さ・んは黙っててください!」
は、はい、黙ります……。
「ここに宣戦布告します。兄さんはあなたには渡しません!」
「……わかった。悠は……渡さない」
「いや、えっと、お二人さん?」
俺の意見は全て2人の眼力によって殺されましたとさ。
ここに静対奈穂、俺を巡った戦いの火蓋が切って落とされたのだった…。
ど・う・し・て・こ・う・な・っ・た!!
俺の意志とは関係なく話は進み、どうやらまずは料理対決をしましょ!
ということになったらしい。
というわけで……というかどういうわけでかはしらんが、自分の部屋に閉じ込められる、
という現状になっているわけだが。
もうぶっちゃけため息をつくしかなかった。
「災難だな悠樹。と言ってやりたいとこだが、お前が招いた結果だからな」
招いた結果って……。俺何もしてないんですけどね……。
「いつも言ってるだろ、お前は女の子に優しくしすぎだって」
……まあいつも言われてる通り、女の子に優しくしすぎだっていうのはわかるんですけど、
今回の相手は妹ですよ?
妹大切にしないとか……俺にはできんなあ。
「そうは言われても、奈穂の態度には俺もびっくりしてるんですよ」
「何だ?妹には好かれてなかったのか」
「いえ、確かにいつもお兄ちゃんお兄ちゃん、って俺については来てましたけど。
まさか、え~と、なんつうかそういう方向性で俺のことを見てるとは思ってなかったんで」
「……悠樹、それは十分お兄ちゃんだ~いすき、の類だと思うぞ」
愛美姉がお兄ちゃんだ~いすき……き……やめよう殺される。
「そんなもんですかね。俺はずっとそれが普通の兄妹の姿だと思ってましたから」
「そのセリフ全国の兄妹に聞いてみろ、7割はね~よ、って答えが帰ってくるからな」
そ、そういうもんなのか……。
冷静に考えてみれば奈穂の俺に対する行動は、少し行き過ぎてるところもあったのかもしれない。
そういえば、私ね大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになるの、とか言われたこともあったな。
ぶっちゃけ子供の言う定番セリフだと思っていたが、まさかあれ本心か?
「これで静が積極的になってくれれば、私としては嬉しいんだがな」
「俺は今のままの静で十分なんですけどね」
「お前にとってはそうかもしれんな。だが姉の私としては、もう少し自分から動いたり
発言したりと積極的になってくれたらと思っているよ。世の中を渡っていくためにもな。
まあ、悠希がしっかりと稼いで静の面倒を見てくれるというなら話は別だがな」
不景気なこの世の中でこのバカな私にそういうことを言ってきますかあんたは!
……いや、本来しっかりと考えなければいけない問題なのかもしれんが……。
「ぜ、善処します」
やれやれと溜息をつかれてしまった。
「……しかしアレだな」
「どうしました?」
「いや、お前の妹ロングヘアだろ」
「え、ええ」
確かに今の奈穂はロングヘアだ。子供の頃はツインテールにしてたりもしていたが。
しかしそこに何の問題が?
「私と被るんだが」
そこっすか!というか、
「そもそも愛美姉、今はポニーテールじゃないっすか」
「ふむ、まあこいつは魔力の放出を抑えるためにしているのであって、
私の基本はロングなのだがな。……なあ悠希?」
「なんです?」
「お前はロングとポニテとどっちが好きだ?」
突然何を、というか何故俺に聞く……。
「いいから答えろ」
「……俺はポニテの方が好きですよ」
「ほお」
愛美姉の視線……どうやら理由が聞きたいらしい。
「ロングも嫌いじゃないですけど、なんていうか、普段は髪を束ねてる女性が
一時的に伸ばしたりするのはグッと来るもんがあります。まあ、あくまでも
俺の趣味ですけどね」
って、何フェチな会話を細かくしてるんだ俺は。
「そうか……まあ悠樹がいいというならこれでもいいか」
……はい?今なんと?
「まあ、気にするな」
視線による圧力が再び来たので二度は聞き返さないことにした。
「兄さんお待たせしました」
そこにルンルン笑顔の奈穂が扉を開けて現れた。
そしてさあ早く早く、と俺の手を引っ張りながら階段をかけ降りるのだ。
この笑顔と行動から察するによほど上手く出来たのだろう。
奈穂に促されるままにリビングのドアを開けると、
そこにはまるでフルコース料理さながらの洋食の群れと、
質素ながら家庭感あふれる和食がテーブルの上に、
そして、ジト目で俺を見つめる静が待ち構えていた。
静よ、あれか?それは俺が信頼出来ないという意志の表れか?
確かに静が不安になるのはよくわかる。
ぶっちゃけ俺も今とてもびっくりしているのだ。
奈穂は子供の頃から料理が上手かった。それは覚えている。
しかしだ、まさかこんなもんを出してくるとは、ヨソウガイデス。
とりあえず奈穂に促されるまま椅子へと座りナイフとフォークを持たされる。
さあ兄さん私の料理から食べてください。という意志の表れだろう。
静から発せられる様々な重圧に耐えながら、なんだかよくわからない肉料理から手を付ける。
フルコース料理など食べたこともないし、見たこともないので、よくわからないという
表現の方法しかないのだよ、すまんな。
一口食べると確かに美味しかった。肉は柔らかいし弾力もある。一体何処から仕入れて
どのぐらいの値段がしたのか怖くなるレベルだ。
しかし、しかしだ、この時点ですでに俺の答えは決まっているのだ。
「兄さんお味の方はどうですか?」
「ああ美味しいよ、凄く料理が上手くなったな奈穂」
俺の言葉に満面の笑みで喜んでいる奈穂の表情に罪悪感を覚え、
更には横で静が泣きそうな顔をしているのにも罪悪感を覚えるわけで、
ものすごい二重苦なのだよ……。
ともかくこの状況を早く抜け出したいと味わいながらも素早く箸を進める。
奈穂の料理を食べ終え、ササッと静の料理へと腕を伸ばす。
いつもの癖でまずは味噌汁を手に取り一口すする。
そこで俺はいつもと微妙な味の違いに気がついた。
「静……これは?」
「……砂糖入れてみた。コクと甘みが出るって……」
隠し味に気づいてくれたことが嬉しかったのだろう、
静の頬がほんのりと赤く染まる。
しかし今度は奈穂から若干殺気が混ざった視線を送られるわけでして。
もう勘弁してくれ。
いつもより一手間かけた静の料理を平らげ終え至福の瞬間を感じる……暇はなかった。
「それで兄さん、どちらが美味しかったですか」
今度は奈穂がごきげんななめ状態であり、さあ兄さんわかってますよね?
っと怒気を含んだ視線で睨みつけてくるのだ。
もうほんと怖いんですよ、勘弁して下さいよ。
ヘルプミーと愛美姉に視線を送るが、当然知らぬ存ぜぬと目線をそらされてしまった。
それだけならともかく、目が笑ってる。
くっ、楽しんでやがる。
正面に向き直るとそこには真剣な表情で俺を見つめる静と奈穂の姿。
答えるしかねえよなあ当然……。
食べる前から答えは決まっていたし、食べた後もその心境に変化はない。
だからこそ余計に答えにくいのだが……仕方ない、腹をくくるか。
「……静の料理の方が美味い」
静は普段浮かべないような満面の笑みを浮かべ、
奈穂はその場に崩れ落ちた。
「兄さん、理由を教えてくれませんか、なんで静さんの方を選んだんです?」
「確かに奈穂の料理は美味いよ、それは認める。しかしだな、俺は静の料理が大好きなんだよ。
どんな料理を積まれようが静の料理には勝てないんだ!!」
「……それは静さんを愛しているからですか?」
「まあ、有り体にいえばそういうことになるな」
「……確かに私も兄さんの料理なら例えどれほど不味くても美味しいといえる自身があります」
……確かに奈穂の言うことは正論だ。それはわかっちゃいるが、昔に比べて毒舌キャラになってませんかね奈穂さん?
「わかりました。静さん私の負けです」
静に右手を差し出す奈穂。
少し戸惑いながらも握手を交わす静。
よし、これで丸く収まって俺の平穏は守られ
「しかし、あくまでも今回はです!」
……はい!?
「必ず、兄さんをあなたがかけた愛の呪縛から解き放ってみせます!」
「……呪縛とか、そんなのかけてない……」
ま、まだ続くんかい!というか愛の呪縛とか、言ってて恥ずかしくないのかしら……。
とにもかくにもこの状況はまだ当分続くということらしい。
俺の地獄の夏休みは、まだ始まったばかりだ!
「……悠、それ打ち切りみたい」
違います!
終わりません!!と、最後のネタを引っ張ってみる。妹ちゃん登場です。因みに作者は妹キャラが大好きです。そろそろメインキャラが揃ってきた感じがありますので、グダグダにならないように頑張りたいな。特に伏線回収……。




