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無限のグリモワール  作者: 鏡紫朗
第二章 青い瞳の雷帝
13/20

第十話 大地の霊術師

「や、やつれたね悠樹。何かやってるの?」

教室に入ってきた俺を見て藤村が開口一番、口にしたセリフがそれだった。

「薬物じゃないぞ」

「いやいや、そういう意味のやってるじゃないから」

昨日のスパルタ訓練は一昨日よりも酷いものだった。

俺の実力を一日で見極めたのか、難易度自体はかなり落とした設定にしていたようなのだが……。

しかし!しかしだ!休みが無いのだ!!

各訓練、徐々に難しくしているようで動いてる俺も成長を感じられるところもあった。

だがいくら時間が無いとはいえ1時間に5分の休憩時間は無いのではなかろうか。

しかも途中から、明らかに愛美姉の私情の怒りをぶつけた激しい攻撃の時間が存在していた。

本当勘弁してくれ。

自分の椅子に倒れこむようにして座り、ぐったりと背もたれに体を預ける。

もう動きたくない……。

「あらら、こりゃあ本当に重症だわ」

「……うん、昨日は少しきつくしすぎた」

「お、静っちがきつくあたるってことは、浮気でもしたかこの男?」

「……そういうわけじゃ」

藤村、静が困ってるだろうが。そういう質問はやめろ~。

「私とのデート、如月さんにばれてしまいましたか?」

「「な!」」

疲れきっているところにまさかの爆弾が投入された。

それは嫌がらせですか倉島さん?

「倉島、何を言ってる。違うだろうが」

「あら?私はそのつもりでしたけど」

まさかの小悪魔三号が現れた。

「悠樹さんは違ったのですか?」

「「ゆ、悠樹!!」」

そして小悪魔さんは、最後に直下型ボムを落としていきました。

「ちょ、ちょちょちょ、どどどどどういうことなの悠樹!」

「……悠……ちょっと話が」

額からやばい汗がダラダラと流れ始める。

何故なら、静から本気の殺気があふれ出しているのだ。

エドアルドの殺気とかもう目じゃないぜ。

まずい、これはなんとかしないと本当に殺される。

「な~んて冗談ですよ」

「「!!」」

完全に倉島の手玉に取られた二人は、目をきょとんとさせて固まってしまった。

「悠樹さんには、お茶しながら相談に乗ってもらっただけです」

「そ、そうだよね。まさか雪ちゃんが一日で悠樹とデートなんてないない」

「……でも、悠樹って……」

どうやら静は、出会ったばかりの女が自分の彼氏を名前で呼ぶのが気に入らないご様子です。

「それはすぐに仲良くなれるようにという倉島の配慮だ。現に俺は倉島としか呼べん」

頼むからこれで通ってくれよ。

「……100歩譲って認める」

渋々ではあるが了承をいただけたようだ。

まったく、後で倉島にはきつく言っておかないとな。

とりあえず今は寝た……。

「くっ!」

その時、俺の頭の中を鋭い痛みが駆け抜けた。

何だ今の?……魔力を脳に直接ぶち込まれた?

よくはわからないがそんな感じだった。

「悠!」

「どうしたの悠樹!」

「悠樹さん!」

「あ、ああ、大丈夫だ。ちょっと頭痛がしただけだから」

この頭痛、まさか倉島?

とも思ったが、倉島の俺に対する心配のしかたや、魔力の動きを見る限りそれはなさそうだった。

じゃあ誰が?

嫌な予感がする……。

だが今の俺にそれを確認する術はない。

静も魔力を感じ取っている気配は無いようだし、様子を見るしかないか……。

「そっか。体調悪いようだったら言ってね私が」

「私が学級委員長として、責任を持って保健室に連れて行きますから」

しかし何故だかわからないが、倉島は俺に対して本当に積極的である。

出し抜かれた藤村がブーイングを垂れるぐらいに。

まさか本当に惚れられた?……まさかな。

「わかったよ。その時は頼むな」

「はい」

とりあえず今は寝ておこう。実戦で動けないんじゃ話しにならないしな。

倉島の笑顔と、怒りに満ちた2人の視線を受けながら、俺は眠りの中へと落ちていった。

愛美姉に後で怒られる覚悟をしながら……。



俺の懸念とは裏腹に、無事放課後の時間がやってきた。

あれは俺の偏頭痛が何かだったのだろうか?と思うほど何もおきなかった。

まあ、起きないことに越したことはないんだが。

「……悠、頭大丈夫?」

その言い方は何か違う意味を感じるぞ静よ……。

「ああ、大丈夫だ」

「……ん、ならいい」

やっぱり怒ってるんかね?微妙に棘を感じる……。

心配してもしょうがないか。とりあえず帰るか。

「静、帰るか」

「うん」

歩き出そうとしたところでいくつかの違和感を感じた。

ただ、それが何の違和感なのかがわからない。それに数が多すぎる。

嫌な予感の正体はこれなのか?

静は……何か感じてるかきいてみるか。

「静、何か感じないか?」

「?……私は何も。……何かいるの?」

静は何も感じていないようだ。やっぱり俺の気のせいなのかもしれない。

「わからない。……まあたぶん気のせいだろ」

そう思うことにして一歩を踏み出したところで愛美姉に声をかけられた。

「朝霧ちょっといいか」

愛美姉の表情はいつもに比べやけに真剣だった。

どうやら重要な話らしい。

「静ちょっといってくるな」

「……うん」

静に断りを入れて、愛美姉のもとへと向かう。

「話って……!」

次の瞬間、俺の鼓動は高鳴り、高速でビートを刻み始める。

何故なら愛美姉の唇が俺の耳に触れているのである。

「興奮するな馬鹿者」

さらにささやきかける愛美姉の息が耳にあたる。

無茶言うなって。静にだってこんなことやられたことないんだぞ。

それにその……容姿は凄くいいんだから。

「容姿は、と言うのが気になるが今はいいだろ」

「そ、それで、な、なんです?」

早くこの状況を終わらせないとやばい。いろんな意味でやばい。

俺自信もそうだが、後ろから肥大化する魔力が……。

「敵はもう学園内に潜んでいる」

「な!敵!?」

やっぱり俺の予感は間違っていなかったのか。

しかし静が感じ取れないとなると敵はかなりの魔術師なのか?

「そうだ。あまりにも静か過ぎると思わないか?」

言われてみて気がついた。

本来なら部活にいそしむ生徒や、教室でだべっている生徒がいるはずなのだが、

まったくいないといっても過言ではないぐらいに少ない。

「確かに。どうなってるんです?」

「人避けの魔法だよ。残っているのは少しでも魔力を保有している人間だけだ」

確かにこの教室に残っているのは俺と静、愛美姉に倉島雪、……そして何故か藤村だ。

まさかあいつも魔術師?……まさかな。

「そして朝霧実はだな……」

もの凄く神妙な顔でタメを作る愛美姉。

何だ、何かまずいことがあるのか……。まさか!愛美姉にも倒せないぐらい強い奴なのか!

「実は……」

「実は……」

つばを飲み込み次の言葉を待つ……そして。

「これから職員会議でな。そこにいる2人を頼みたい」

「な、なに!!職員会議だと!!……って職員会議!?」

まさかタメを作っておいてそれかい!!

「どうしても外せなくてな。すっぽかすと本当にクビになりかねん」

相当信用されてないんすね……。

「私が自由になれるまで倉島と藤村を守って欲しい」

「守るって、逃がした方がよくないですか」

「まだ実戦では気づかないか。張られているんだよ結界が」

息が詰まる感じ……こういう質の結界もあるのか。

「なるほど。わかりました」

倉島は俺の能力のことを知っているし、守る、時間を稼ぐなら俺の能力の方が向いてるって訳か。

「静には元凶を探させる。先に接触できればおまえたちの安全も確保できるしな。

 と言うわけで頼むぞ悠樹」

俺の肩を優しく叩くと、愛美姉は倉島達の方へと足を運ぶ。

俺の耳には聞こえてこないが、たぶん現状を説明しているのであろう。

静の方へと視線を向けると、赤い瞳で俺を見つめている。

その瞳は、まかせて。そう言ってるように感じられた。

「悠樹~行くよ~」

愛美姉との話が終わった藤村が俺を呼ぶ……?行く?

「どこに?」

「視聴覚室です。終業式に必要な機材を少し体育館に運んでほしいそうです」

終業式……ああ、そういえば明後日で学校終わりだったか。

忙しすぎて今年は夏休みだ~とか思ってる余裕もなかったな。

なるほど校舎から俺たちを離し、ついでに実用も兼ねようというわけか。抜かりないな。

「了解」

静とすれ違いざまにアイコンタクトを交わし、俺達3人は教室を後にした。



前方を歩く2人のガールズトークを聞き流しながら、俺は意識を集中させる。

今のところ異常は無い。だがいつ襲ってくるかわからない以上油断はできない。

「悠樹さん、何かあるんですか?」

倉島の突然の一言に俺はドキッとした。よくよく考えてみれば俺たちの魔力も感じ取れていたみたいだし、

これだけ大掛かりな魔術が展開されているんだ、気づいていないと思う方がおかしいか。

「ん?悠樹何か探し物?」

倉島と2人なら話してしまってもいいのかもしれない。だがここには藤村がいる。

こいつだけは巻き込みたくなかった。

藤村までこちらの世界に来てしまったら、俺たちの日常は崩壊してしまう。そんな気がしたのだ。

「なんでもない。おまえらの話についていけなくて暇なだけだよ」

「ふふん、焼きもちかな」

「何故俺が焼きもちをやかないといけな……!」

悪寒が背筋を駆け抜けた。

膨大な魔力の塊が後ろから近づいてくる。

しかもこれ……速い!

「2人とも屈め!!」

近くにいた藤村の頭を押さえ込み怒声を飛ばしながら後ろを振り向く。

同時に左手を突き出し念じる。

殺させない、守る、俺が2人を守る!

魔力が展開した次の瞬間、もの凄いスピードで駆け抜けてきた魔力の塊が接触し、

あまりの重さに足が動き押し戻される。

不意打ちとはいえこの威力、アリアと同等ぐらいあるんじゃないか。

だが負けるわけにはいかない!後ろには2人がいるんだから。

「このやろおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」

左手に意識を集中させ、目の前の魔力を分解し離散させる!

左腕を振りぬくと同時に、魔力の塊をなんとか消滅させた。

しのげた。だがこの状況、正直な所やばい。

一発でこれだけの疲労度、どれだけ防げるか……自信がない。

「ふむ、それがグリモワールの力か。これならエドアルドが敗れたのもうなづけるな」

魔力の塊が通り過ぎた後に沸き立つ煙の中から、長身の男が姿を現した。

そいつの風貌は、エドアルドとまったく同じ黒いマントで覆われていた。

そういえば、愛美姉が組織がどうのって言ってたな。

さっきの発言からしても、こいつエドアルドの仲間みたいだな。

「時に少年、その左腕を渡すつもりはないか?」

おあつらえ向きのテンプレートな質問が飛んできた。

「無い」

そんなことするわけ無いだろうが。

「そうすれば命だけは助けられるのだが。そこの2人も含めてな」

さらに続くお決まりのセリフ。そもそも組織絡みの人間のその手のセリフは信用できない。

「何度も言わせるな。そのつもりは無い!!」

「そうか、ならば仕方が……ん?」

男がやってきた方向から、別の巨大な魔力が近づいてくる。

この魔力は……静!!

「はああああぁ!!」

マントの男に高速で接近した静は、右手に纏わせた魔力の風を男に向けて叩きつけた。

「ふん!」

男は振り向きざまに左手でブロックし、腕の力で静を弾き飛ばす。

「……悠には手を出させない」

「きたか如月静。無限のグリモワール、精霊の軍勢エレメンタルレギオンよ」

精霊の軍勢……確かに静の能力を表した名前だ。

なるほど、グリモワールにも固有の名前があるのか。って、感心してる場合じゃない。

「……どこでその名前を、とか言わない」

「ふ、なかなかのユーモラスだな」

「……いく」

「せっかちなお嬢さんだ」

飛び掛る静に対して、何故か男は身構えない。何だ?何かあるのか?

男がニヤリと笑うと静の右手の教室の扉が動く。

「静、右だ!!」

俺が叫ぶも遅く、教室から飛び出してきた影は、静の体を捕まえその勢いのまま

窓ガラスを割り外へ飛び出した。

ここは学校の三階だが静のことだから大丈夫、だとは思うが嫌な予感がした。

俺は窓ガラスを開け下を覗き込む。

そこには大量の人型に囲まれた静の姿があった。

「静!!」

俺の声に気づきこちらを見上げる静。その表情には焦りの色が浮かんでいた。

どうやらすぐには戻って来れそうにない。

く、俺一人でなんとかできるか。

「悠樹さん逃げましょう」

「そ、そうだよ、逃げよう悠樹」

後ろから心配そうな2人の声が聞こえる。

そうだ、後ろには2人が……。

「2人とも逃げろ」

「馬鹿!悠樹だけ残して逃げられるわけないだろ」

「そうです、悠樹さんだけ残していけません」

どうやら2人とも逃げるつもりは無いらしい。

それに冷静に考えると逃がすことが必ず安全とも限らない。

今の静のようになりかねないからだ。

俺ががんばるしかないのか。

左手を握り気合を入れなおす。

「ああそうだ、悪いな」

そう言って男が指を鳴らすと、倉島と藤村の後ろに5体の人型が現れた。

「そこのお嬢さん方を逃がすつもりは無い」

これで本当に腹をくくるしかないか。

しかしこの能力まるでエドアルドと同じだ。

「少年、今エドアルドと同じと思ったか?」

「!!まさか思考を!」

「いや、顔にそう書いてあっただけだ」

敵にまで静と同じこと言われるって……どんだけわかりやすいんだよ俺。

「そうだな、私とエドアルドの師は同じ魔術師だ。故に能力も似ている。

 が、奴のは血を使って人形を操るが私は違う。私はあらゆる物を操り、

 使役することができる」

男が左腕を前にかざすと、宙を飛んでいた塵が収束し、人の形をなした。

どうやら奴は霊気を自在に操ることができるようだ。

「でたらめな能力だな」

「ふ、それを言うなら貴様の能力もそうだろ。総ての魔法を崩壊させる能力などその方が馬鹿げている」

えたらめ度で言ったら確かに5分と5分だ。だが、魔力の総量があまりに違いすぎる。

しかもこっちには2人の人質がいる。

不利なのは明らかに俺の方だが、やるしかない。

「そろそろ来たらどうだ?あまり時間をかけると静が戻ってくるぜ」

「そうだな、ならいかせてもらおう」

静でも愛美姉でもいい、頼むぜ。

俺は2人が来てくれることを信じ左手を前方に構えた。

「大地の霊術師、ソウル・ウェーバー。参る!!」

ヴェーバーが両腕を広げると地面がえぐれ、魔力の塊として再構成される。

魔力の塊は俺めがけて高速で発射された。

左腕に魔力を集中させシールドを展開し飛来する魔力の塊をなんとか防ぐ。

が、あまりにも量が多すぎる。

徐々にだが押され、左腕がしびれはじめる。

このままじゃまずい。

そう思いながらもだいぶ時間は稼げている。

もう少し、もう少しで静が来てくれると自分を鼓舞し、足と左腕に力を入れなおす。

「想像以上にもたせるな。ならしかたがない」

突然ウェーバーの攻撃の手がやんだ。

なんだ、どういうことだ?

不自然な行動に肩で息をしながらも神経を集中させる。

しかしウェーバーが動く気配がまったくない。どういう……。

「悠樹後ろ!!」

藤村の切羽詰った怒声に俺が後ろを振り向こうとしたその時、胸元を強烈な熱さが襲った。

な……んだ……これ?

どうやら後ろから刺されたらしい。しかもそれは……。

「くら……しま……なんで」

胸を貫いた何かが抜かれると、力の抜けた俺の体は片膝をついて倒れこむ。

あまりに不可解な出来事に頭がついてこない。

「雪ちゃんやめて!なんでそんなことするの」

じたばたと手足を動かす音が聞こえる。どうやら藤村は後ろにいた人型に押さえ込まれているらしい。

まずは状況を整理しろ。今どうなってる。俺は倉島に刺されて。

「ぐふっ!」

再度脳が認識した瞬間、痛みと共に血液が逆流し口から吐き出される。

だめだ理解できない。何故刺された?何故倉島が俺を刺した?

「ごくろうだったな」

ごくろう?

「どういう……ことだ。ゲフゲフ」

まさか、こいつの仕業……なのか?

「そこの女、倉島雪は私の手駒だ」

「な・ん……だと?」

倉島が敵?じゃあ倉島は最初から俺を殺すために近づいたのか?

信じたくなかった。いや、信じられなかった。

倉島が、こんなに優しい倉島が、こいつらの仲間のわけが無い!

「違うよな倉島?」

腹部の痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる。

「なあ、くらし!」

倉島の方へと向き直った瞬間、再び腹部の少し上を強烈な痛みが駆け抜け、

倉島の顔目掛けて吐血する。

痛みに耐えられず、俺の体は倉島にもたれかかるように倒れこむ。

その拍子に倉島との視線が絡み合う。

目の前の倉島の瞳は、まるで精気が抜け落ちたように濁っていた。

なんだこれ?

明らかにその瞳は普通ではなかった。まるで何かの術にでもかかっているような……。

そういえば愛美姉が人を操る術があるとか言ってたな。

それじゃあ倉島は操られてるだけ?

ならなんとかして正気に戻せれば。

「くら……しま……目を……覚ませ……!!」

必死に呼びかける俺の体に再び激痛が走る。今度は足を刺された。

「くら……しま……頼むから元に……元に戻ってくれ……があ!」

次は左腕に激痛。やばい、そろそろ限界が。

意識が朦朧とし、左手の力が抜ける。

まぶたが落ちそうになるのをすんでのところで耐え凌ぐが、呼吸は荒く、感覚はだいぶ薄れている。

「やめて!やめてよ!!悠樹が死んじゃう!!悠樹が死んじゃうよ!!」

「……ゆう……き」

俺の名前を呼んだ?

藤村の悲痛な叫び、いやその中に含まれた俺の名前に反応したのか?

そこで俺は一つの考えに思い至った。

自惚れなのかもしれない。それでも倉島にその感情があるのなら……。

最後の力を振り絞り右腕に力を入れて体を起こす。

「目を覚ませよ倉島、目を覚ませよ雪!!」

「雪……悠樹……悠樹さんが……雪、あう!!」

「倉島!!がんばれ、がんばれ雪!!」

「あう……あああ……悠樹さん?あれ、私」

「元に戻った。よかっ……」

あ、もう駄目だ。

倉島が元に戻り、張り詰めていた気が緩んだ俺は倉島目掛けて倒れこんだ。

「え!ゆ、悠樹さん!……え、何これ?」

どうやら倉島が俺の状態に気がついたらしい。

「血!それに悠樹さんなんでこんなにボロボロに……もしかしてまた私」

倉島の体が震えているのがわかる。

「大丈夫、倉島が、雪が悪いわけじゃない。俺は、大丈夫だから」

「悠樹さん……こんな時に優しくしないでください。私本当に……じゃないですか」

そろそろやせ我慢も限界かな……本当に立ってられない。

「やはり使い物にならぬか」

「あなたは!……そうですかあなたが……」

倉島の手で俺は廊下の壁に背中を預けた。

「悠樹さんは休んでいてください」

「雪、何を」

「そ、そうだよ。雪ちゃん何しようって言うの」

「……切り裂け」

雪が呟くと、藤村を拘束している人型を含めた5体が一瞬にして切り刻まれ、魔力の塵へと化した。

「自分の失敗ぐらいは自分で取り替えさせてください」

俺たちに笑顔を見せると雪はウェーバーの方へと向き直る。

「強化術師のおまえが私に挑むか」

「そうですね、勝てないかもしれません。それでも真央さんと悠樹さんを傷つけるよう仕向けたあなたを、

 私は許せません」

雪の怒りに比例して、魔力が上がっていくのがわかる。

凄いなこれが雪の魔力……。

静程ではないがそれでもかなりの魔力だ。

「ほう、いい魔力だ。いいだろう来い」

ウェーバーの魔力も上がり始める。それは雪の魔力の比ではなかった。

「……いきます」

助けたい。そう思うものの今の俺は痛みを耐えながら雪の戦いを見守ることしかできない。

肝心な時にまた何もできない。その悔しさに唇を噛みしめる。

早く来てくれ愛美姉。

雪が駆け出す。2人の戦いの火蓋は切って落とされた。


一ヶ月ぶりの更新です。他の作業が忙しくてこちらにさく時間がとれませんでした面目ない。意外と長くなりますね戦闘パート。今回が前編です。後編は早めに書けるといいです。では。

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