第九話 大精霊と動き出す状況
「ただいま~」
倉島を家の近くまで送り帰ってきた俺は、いつも通り誰もいないリビングへと挨拶をした。
「遅いぞ朝霧!どこをふらふらとしていた」
はずだったのだが……。おかしいな、いないはずの愛美姉の声が聞こえたぞ。
そうか幻聴か。まったく俺も相当疲れているみたいだな。
しかも愛美姉にスパルタ修行されたことがトラウマになっているみたいだ。
しょうがない、今日はせっせと寝るか。
「……悠、遅かったけど何かあったの?」
心配そうな静の声まで聞こえてきやがった。こりゃあ重症だな。
どうやら俺の心は静を求めているらしい。寝る前に電話してみるかな。
「ほう、私らを無視するとはいい度胸だな朝霧」
なんか目の前から魔力が膨張していくのを感じるのだが……。
「やっぱり本物……というか何故俺の家に勝手に上がりこんでるんじゃ!」
もしかして今日もこれからスパルタか?という心配よりも、問題はそこであった。
静にはまだ俺の家の合鍵など渡していないというのに何故入れる!
「魔法でちょちょいとな」
……ようするに風の魔法かなんかで窓の鍵を開けたと。
ついに俺のプライバシーは家の中までなくなったわけか。
「というか、犯罪だろそれ!教師がやっていいのかよ!」
「どうやら本当に一撃くらいたいようだな朝霧」
フフフ、ついに正体を現し始めたなこの暴力教師。
いいだろう、こうなったら俺と貴様の魔力どちらが上か……って守る対象がいねえ!
こ、これはまずい!せ、生命の危機じゃ!
「……姉さん怒るなら後にして。悠に訊くほうが先」
「む、そうだな。つい熱くなってしまった」
どうやら静の仲裁により俺の命は救われたようだ。
「……それで悠。なにかあったの?」
なにかって……ああ、とりあえずあの一件は報告しておいた方がいいよな。
「カフェでお茶してる時に頭上からコンクリートの塊が落ちてきたな」
「「カフェでお茶!!」」
って、2人とも驚くところそっちかい!
「……そこの原究は置いておく」
ああ、やっぱり静に頭を抱えられてしまった。こりゃあ後で色々言われるな。
「……それよりもコンクリート」
静の目つきが変わる。どうやら真面目モードということでいいらしい。
「ああ、たぶん」
「もう次を送り込んできたのか。まったくやつらも暇だな」
と知らないうちにタバコを吹かしている愛美姉。
人の家でかってにタバコを吸うのはやめてくれ。臭いがつく。
「……次って、姉さん心当たりでもあるの?」
「大雑把な組織の検討はついているが、多すぎて今の段階では絞りきれんよ。
それと、魔術師の攻撃でよかったな朝霧。物体としてのコンクリートだったら
おまえ今頃ぺしゃんこになって死んでいたぞ」
ぺしゃんこになってって……!
「そうか、俺の力は魔法にしか対応できない」
倉島を守ろうと思うのが先ですっかり忘れていた。
あの状況、純粋なコンクリートだったら2人とも死んでいたのか。
「そういうことだ。もう少し状況をよく見ろ、勇気と無謀は別物だからな」
「すいません」
昨日の今日だけどいろんなことを叩き込まれたし、修羅場も一度切り抜けて一人前になったつもりだった。
けどそれは思い上がりだったってことか。
「もっとがんばらないと」
拳を握り気持ちを新たにする。
「いい心がけだな。なんだかんだでおまえはやればできる奴だと私は思っている。
だからがんばれよ」
微笑みながら俺の肩を優しく叩く愛美姉の言葉に俺は感動していた。
そうか、本当はそんな風に俺を見ていてくれたのか。ただの暴力教師とか思ってごめんよ。
これから俺静の為、愛美姉の期待に答えられるようにがんばるよ!
「まあ、勉強は駄目だがな」
……せっかくの感動が台無しだった。
「とりあえず修行は後回しだ。私は少しばかり情報収集をしてみる。
静は朝霧と一緒にいろ。話したいこともあるだろうしな」
ニヤニヤという擬音が聞こえてきそうなほどの嫌らしい笑みを浮かべ、二階へと勝手に上がっていく愛美姉。
さっきの感動全部取り消し。やっぱりあんた鬼だよ。
「はあ、とりあえずリビングでもいくか」
「……ん」
俺たちはリビングへと移動した。
「……それで悠、カフェってどういうこと?」
そういえば手洗ってないな、などと思いながら安物のソファーに腰掛けた瞬間、
静からそんな疑問をぶつけられた。
いや疑問と言うのは間違いだな。これは明らかに尋問だ。
何故なら静の魔力が徐々に上がっているのである。
無回答、返答しだいではお仕置きを下そうということらしい。
こういうところは本当に姉妹なんだなと思わされる。
正直そこはあまり似てほしくなかった……。
「無理やり連れて行かれただけだよ。デートとかそういうのじゃないって」
「……ほんとう?」
その返答は完全に疑ってましたね……。
「本当だって。そりゃあ俺が女の子の頼み事に弱いのは事実だし、
それで静を心配させてるのも解ってる。でももう少し俺のこと信じてほしい。
俺が好きなのは静だけだ。それだけはどんなことがあっても変わらない」
「……ん、わかった」
渋々ながらも了承する静。どうやら疑念は完全に晴れてはいないらしい。
やきもちを妬いてくれるのは本当に嬉しいのだが……仕方ないあれを出してみるか。
「これお土産」
俺は帰り際に買った小さな猫のキーホルダーをポケットから取り出し、静に差し出した。
物で釣っているようで嫌なのだが、お詫びの気持ちは物で表したほうが
伝わるのではないか?と俺の無い頭で考えた苦肉の策である。
「……私に?」
「ああ、他に誰がいるんだよ」
「……ありがとう。大事にする」
俺の手からキーホルダーを受け取り、頬を少し赤く染て静は微笑んだ。
喜んでもらえたようでよかった。これで少しは信用も回復できたかな?
しかしよくよく考えてみると、静って子供っぽいところ多いんだよな。
すぐにやきもち妬いたり、物で機嫌が直ったり……そこがかわいいんだし、悪い意味で言ってるわけじゃないんだが、
精神年齢が子供っぽいということは、昔なにかトラウマのようなものを抱えていたのかな?とか心配に
なったりもするわけで……。まあ、俺が一人で考えてもしょうがないか。
それにこんなこと考えること自体がらじゃないしな。
やめやめ、今の静が笑顔ならそれでいい。
さて、静は未だに俺があげたキーホルダーを嬉しそうに眺めているし、愛美姉はまだ戻ってきそうにない。
もう少し静と話しでもするか。聞いてみたいこともあったし。
「静?」
「……何?」
首を傾げる仕草がまた可愛い。じゃなくて。
「静もアニメとか好きだったんだな」
「あ……うん。もう少し私の趣味とか知ってほしくて……変えてみた。悠は嫌い?」
「そんなことは無いよ。たまに見るぐらいだし、詳しくは無いけどな」
「……そっか」
静はとても嬉しそうだった。まあ、この手の趣味は嫌われるってよく聞くし少し不安だったんだろうな。
ということはやはりあれもそうなのか……。
「それともう一つ。静が強力な魔法を使う時に最後に言うあれはまさか……」
「……うんもちろんあれ」
珍しく小さなガッツポーズを決める静。
やはりあれなのか。波動武道伝説Bレンゲルの主人公が必殺技の最後に言うブラストエンド。
あれが元ネタだった。
まさかの新事実その2、静の内面は熱血系だった。
物静かな熱血漢ってやつか……まあ漢ではないが。
ここまで話しても愛美姉が降りてくる気配はまだない……。ならついでにもう一個聞いてみるか。
「静、もう一個質問いいか?」
「……うん、どんどん聞いて」
俺のあげた猫のキーホルダーと、ネタが通じ合ってるせいか静の機嫌はとことんいいようだ。
「静が魔法を使う時に最初に言う言葉、え~と……」
「……ディーとかイフ?」
「そうそうそれそれ。それって何なんだ?」
「……それはこの子達のこと」
この子達?
「……如月静が命ずる。その姿を現世にさらせ」
静が左手をめいっぱい上げ振り下ろすと、周囲の空間が歪み4体の何かが姿を現した。
炎を纏った筋肉質の男、水を纏い槍を携えた美しい女性、それにモグラと、風を纏った小さな女の子である。
「久しぶりだなお嬢、元気にしてたか」
これは筋肉質の男。
「お久しぶりです静。またあの方のお手当てですか?」
これは美しい女性。
「お久しぶりなのだ。寂しかったのだ~」
これは喋るモグラ。
「まったく何の用?これでも私忙しいんだから……少し嬉しいけど」
これは小さな女の子。
……でこいつら誰?
「……みんな久しぶり。この子達は4大精霊。いつも私に力を貸してくれてる」
4大精霊って……!
「あの、漫画とかゲームによく出てくる4大精霊か!!」
「……うん。完全に同じってわけじゃないけど」
ま、また凄いのが出てきたな。
「ん?おお、この小僧がこないだお嬢を助けた男か
ほう、なかなかいい気を出すじゃねえか」
「イフリートいきなり失礼ですよ。それにお礼を言ってません。
この間はマスターを助けて頂きありがとうございます悠樹さん」
「ありがとうなのら~」
「べ、別にあんたに感謝なんかしてないんだからね。……でもありがとう」
「おう、サンキューな!」
しかしなんだ……個性が強すぎてのりについていけねえ。
「……悠があっけにとられてるから一度整列」
静が号令をかけると、それに従い静の後ろに一列に並ぶ4大精霊たち。
「静……おまえ本当に凄い奴なんだな」
改めて感心してしまった。
従えているのはグリモワールの力なのかもしれないが、それを扱いこなしているのは
静自信の技量であり実力である。
まったくもって開いてる口が塞がらない。
「……そうかな」
そんな静が俺に対してはこうやって恥じらいを見せる、いや俺にだけ恥じらいを見せる!
そう俺は静の彼氏!4大精霊を操る超魔術師如月静の彼氏なのだ!!
凄い女の彼氏だったんだな俺……。
「静、悠樹さんがあらぬ方へとトリップしていますよ」
「……悠、嬉しいけど、とても恥ずかしい」
「お嬢も駄々漏れの思考を読み取ってトリップしてるぞ」
「まったくしょうがないわね2人とも……うらやましい」
「仲がいいのはいいことなのら~」
「でだ、こんなところで4大を呼び出しておまえら何をしてる」
降りてきた愛美姉の一言で我に帰る俺たち2人。
やばい凄く恥ずかしいぞ今の。
静も同じなのか顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。
「いやあその、俺がディーとかイフとかどういう意味なんだって聞いたんですよ」
「なるほど、それでこの状況か」
ため息を一つついてから静の頭部をちょこんと叩く愛美姉。
「にゅ」
その悲鳴可愛い。
「今回は許すがむやみに4大を出すなと言っているだろ。
ただでさえ私たちは目をつけられてるんだ、魔力探知力の高い魔術師が近くにいたら
出した瞬間に居場所が割れるぞ」
「……ごめんなさい」
「まあいいじゃねえか姉さん、どんな奴らがきても俺たちが倒して見せますよ」
「ほう、イフいい度胸じゃないか。今から全力の私と戦うか?」
「……遠慮するぜ」
愛美姉に睨まれただけで二歩後退するイフことイフリート。
4大精霊が威圧されてる……愛美姉って何者!
「とりあえずおまえら一度帰れ」
「愛美さんには敵いませんわね」
「お嬢すまねえな」
「しょうがない帰ってあげるわよ……やっぱり怖いわこの女」
「静ちゃんまたなのら~」
「……ありがとうみんな。またね」
静が微笑み手を振ると再び空間が歪み、それぞれの捨て台詞?を残し4大精霊たちは消えていった。
「言いたいことはあるがまあいい。とりあえず魔術ネットワークを駆使して
少し調べてみたが細かいところはさっぱりだ」
魔術ネットワーク……そんなもんあるのか。
「どうやらかなり強力な組織がこの街一帯に蔓延ってるらしい」
「街一帯って!」
さらりと言われた新たな事実だった。
ということは俺たちの周りだけじゃなくて、この街の人々にも少しづつ被害……!!
「そうか、藤村が言ってた事件ってまさか」
「そうだ、この街一帯で噂になってる怪事件、すべて魔術師の仕業だよ」
「……やっぱり」
「!もしかしたら学校も巻き込まれる」
「学校自体かはともかく、生徒の何人かはすでに巻き込まれているだろうな。
実際怪しいと睨んでいるケースもある」
生徒の何人かがもう巻き込まれてる……このままだといつか藤村や倉島達にも被害が……。
そんなことはさせない!
「愛美姉なんとかできないのか俺たちの力で」
「落ち着け朝霧。おまえの気持ちはわかるが、勇気と無謀は違うと言っただろう。
この状況だあてにはできんが魔術協会にも協力要請を出した。今は状況が動くのを待つしかない」
「く……!」
力があるのに何もできない。その悔しさに俺は奥歯を強く噛みしめた。
結局何もできないのか俺は……。
「……大丈夫」
そんな俺の手を優しく握りながら静は微笑んだ。
「……気持ちは私も同じ。今は耐えよう」
そうか、静も同じ気持ちなのか……そうだな今は耐えよう。そして……。
「そして悪い奴を見つけたら」
「ああ、全力でぶん殴る!」
主に静が!
「……うん」
こうして俺たちは新たな決意と共に、戦いの時を待つのだった……。
「さて、それではその時のために特訓するぞ」
……へ?
「何だその驚いた顔は?あたりまえだろう、準備のためにこれだけの時間をかけたのだからな」
愛美姉が降りてこなかった……いや、あえて2階に上がったのはそういうことだったか。
「それでは外に来い。まずは回避の訓練からだ」
「……がんばろう悠」
熱血スイッチの入った静に連れられ、俺は今日の地獄へと旅立っていく。
その後、案の定俺の悲鳴がこだましまっくたのは言うまでもない……。
そういえば、イフリート以外の4大精霊の名前聞き忘れたな……。
聞くまで生きなければ……ガク。
どうも昨日ぶりの更新です。今回はいつもよりスラスラと文章が出てきた気がします。このぐらいのペースで文章書けるといいんですけどね。そろそろ二巻こと二部のクライマックスに入っていきますよ~。ではでは次回の更新をお待ちくだされ。




