第八話 もう一人の魔法使い
「終わった~~」
帰りのホームルームが終わり、愛美姉が教室を出て行ったのを確かめてから
俺は勢いよく声を張り上げた。
「悠樹さ、もうちょっと授業楽しもうよ。これじゃあ何のために学校きてるのかわからないよ」
気分のいい今の俺は、藤村のその問いに正直に答えてやることにした。
「静に会いに来てるに決まってるだろうが!」
それ以外になかろう。
腕を組みながら誇らしげな顔をしてみた。
「!……ゆ、悠。嬉しいけど、恥ずかしい……」
「……だめだこの男。やっぱり真正のあほだわ。救いようが無い」
照れて顔を真っ赤にしながら俯いてしまった静と、
呆れてそっぽを向いてしまった藤村。
反応は両極端だった。まあ当然のことだが。
さて、そんなことよりもだ。
「帰ろうぜ静。今日はもうとりあえず帰りたい」
筋肉痛から始まり今日はいろいろと疲れてしまった。
真っ直ぐ帰って寝てしまいたい。そんな気分なのである。
「……悠、口調がちょっと変」
どうやら浮かれすぎて口調まで変わってしまったようだ。
「気にしない、気にしない。ほら行くぞ」
静の手を握ったところで、どこからか携帯電話の着信音が流れ始めた。
確かこの曲は最近話題になってるアニメの主題歌だったな。確か魔法少女物だったと思ったが……。
ということはこれは藤村の携帯か?
「む、私以外でこの曲を選択する猛者がこのクラスにいたとは」
藤村じゃない?……ならいったい誰のだ?
「……姉さんからだ」
「まさかの静っち」
鳴っていたのは静の携帯電話だった。
……そうか、静もアニメとか好きだったのか。新事実である。
「静っちもアニメ通だったのか。まさかの新事実」
……わざとか藤村?思考を被らせるんじゃない!
この間はそのせいで静の視線が……視線がなあ!
しかし、今日の静は気にしていないようだ。よかった。
それにしても、一昨日までは標準のコール音だった気がするのだが……。
あれか?今までは隠してきたけど、本当の意味で恋人同士になったし、
私の秘密を少し暴露しちゃお、私のこともっと知ってほしいな、的なあれなのか。
静がこういう喋りかたしたらなんか嫌だな……。
「……姉さん、こういうものは自分で買いに行ってっていつも言ってるのに」
小さくため息をつく静。
「どうした?何を買いに行くんだ?」
横から携帯の画面を除き見ようとすると、静はものすごい勢いで携帯を隠し、
頬を少し赤らめた。
「???」
何だ?どういうことだ?
静の動きの意図がさっぱりつかめない。見られたらまずいものなのか?
……まさか!超強力な魔道具とか、やばい系の薬品とか、俺の新たなトレーニング
というなの拷問器具なのか!
「……悠は……男の子は見ちゃ駄目」
まったく違うようだ。しかし男の子は見ちゃ駄目って、どういうことだ?
「悠樹、あんたにはデリカシーってもんが無いのか!」
藤村に後頭部を全力で平手打ちされた。
い……痛い。
「女の子にはいろいろあるの。それに、いくら自分の彼女だからって勝手に携帯覗くのは
最低だよ!」
言われてみれば確かにそうだ。俺はなんて最低な行為を働いていたんだ!
「静、すまない許してくれ!!」
俺は全力で土下座した。頭が擦れて禿げ上がるのではと思うぐらい全力で土下座した。
「……大丈夫だけど。悠、土下座は頭を擦り付けるものじゃない」
そうなのか?とアイコンタクトで藤村へと問いかける。
返答はイエスだった。
なるほど覚えておこう……。
「……それで、悠」
こんどは心配そうな顔で俺のことを見つめてくる静。
「……私買い物していかないといけないから……一人で大丈夫?」
何故に大丈夫と訊くのか……そうか昨日のあれか。
一人だと俺の能力が発動できないから心配してるんだな。
静は心配性だなまったく。
「大丈夫だよ。それに別に買い物ぐらいなら付き」
そこまで言葉を発した俺はある重大なことを思い出した。
男の子は見ちゃ駄目。それすなわち、付いていって見るのもまずいってことだよな。
案の定、静は頬を赤らめながら困惑した顔、藤村は頭上に怒りマークを浮かべ、手をボキボキ鳴らしながら
軽くフットワークを踏んでいる。
これは、このまま続きを発したらまずい!
藤村の必殺拳エスカリオールグで撲殺される!
「……合えるわけ無いよな。いやあ悪い悪い。そういうことなら俺は先に帰るからさ、
ゆっくり見てこいよ」
これで危機は脱せたろうか?
笑顔を作ろうとするんだがどうしても顔が引きつってしまう。
しかも額から汗がダラダラと垂れてきやがる。
頼む、早く俺を安心させてくれ。
「……うん。でもその、一人だとあれだから誰かと帰った方がいい」
ふう、どうやら危機は脱したようだ。藤村もため息をつきながらも落ち着いてくれたようだし、
よかったよかった。
おっと、静の話の方をしっかり聞いてやらないとな。
あれっていうと……俺の力のことか。
だけどこんなもの一般人の前で使っていいのか?
まあ使わなきゃいけない状況ってことは、そんなこと言ってられない状況だけどな。
静も心配してることだし、とりあえず誰かと帰るか。
「そうだな、誰と一緒に帰るか……」
「あの、よろしければ私と一緒に帰りませんか?」
私、私、と勢いよく手を上げる藤村の後ろから、思いがけない人物の立候補があがった。
あまりの意外性に俺たちは目を丸くして、その人物を見つめる。
「倉島……」
それは学級委員長、倉島雪からの申し出だった。
「……気をつけて」
それが別れ際に、静が発した言葉だった。
確かにこのタイミングでの俺との2人きり、怪しいと言えば怪しい。
だけど俺には、倉島が悪い奴だとはどうしても思えなかった。
だからと言うわけではないが、俺たち2人は商店街のちょっと小じゃれたカフェで
お茶をしていた。
この状況、話してる俺にも訳がわからないぜ。
校門を出たとたん倉島は俺の腕を掴みいきなり走り出し、俺の静止の言葉も聴かずに
走り続け、気がついたらこのカフェの中にたどり着いていた。
力で止めることもできたが、紳士として女性を傷つける行為はしないように心がけて
いるからそんなことはしない。
さて、それよりもだ。目の前にいる倉島は終始ニコニコ笑顔なのだが……何故だ?
「悠樹さんの趣味はなんですか?私は星を見るのが好きなんです。だからよく
天体観測してるんですよ」
何だこの状況……真っ直ぐ帰るつもりでしかなかった俺から言わせてもらうと、まったくついていけん。
俺が難しい顔で現状確認をしていると、笑顔だった倉島の顔が突然曇った。
む、どうしたんだ?
「あの……やっぱりつまらないですよね、私なんかと2人だと」
どうやら倉島は、俺の表情を見てつまらない話を聞かされて困っている、そのように
とらえたようだ。
これはまずい!紳士たるもの、女性の笑顔を守らなくては!
「違う違う。どうしてこんな状況になっているのかを考えていたんだ」
「あ……す、すいません。迷惑でしたよね」
逆効果だった……。
「今日始めて話した女の子に、いきなりこんなところまでつれてこられたら誰だって迷惑ですよね」
迷惑というわけではないんだが、いろいろと疑問は残るわけで……訊いてみるか?
「迷惑と言うか……何故に俺?」
正直な感想がそれだった。
倉島は藤村と一番仲がいいのかもしれない。
そうと仮定してもだ、藤村と仲がいい人間繋がりだけで俺に興味を持つ理由がよくわからん。
……まさか!一目惚れか、一目惚れなのか!しかし、俺には静と言う彼女が。
……妄想スイッチオフ。
「……話さないと駄目ですか?」
そんな困った表情で聞かれたら、駄目とは言えないだろうが。
まったくもって女性には弱い俺である。
だから静に心配されるんだけどな……。
「いや、いい。女の子から無理やり聞き出す趣味はないよ。
……わかった、今日は暇だしとことん付き合うよ倉島に」
一日ぐらいはいいだろ。静も許して……許してくれるよな?
不安だ。今からでも断ったほうがいいのでは?
「ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべる倉島。これはもう断れなかった。
しょうがない言ってしまった以上、腹をくくるか。
「それじゃあさっさとコーヒー飲んでどこか行くか。倉島はどこにいきたい?」
「雪でいいですよ」
倉島の不意打ちに、不覚にも俺はどきりとしてしまった。
まさか、始めて話してから一日もたたないうちに名前で呼んでくれと言われるとは。こんなのは初めてだった。
静なんか付き合うまで許してくれなかったし、藤村も、未だに恥ずかしいからといって名前で呼ばせてくれない。
……まあ倉島の場合は親しみを込めてという意味だろう。
名前で呼び合ったほうが、すぐにフレンドリーになれそうだしな。
「なら俺も悠樹でいいよ。で、雪はどこにいきたい?」
「そうです……ね……」
突然雪の動きが止まり、虚ろな瞳で空を見上げている。
……何だ?いったい何が。
「おい、倉島?」
不安になり、手を差し出そうとした刹那、倉島がいきなり立ち上がり俺の方へと走り出した。
「悠樹さん危ない!!」
反射的に、俺は先程まで倉島が見つめていた空を見上げた。
すると空は、目の前にある丸テーブルを一回り大きくしたようなコンクリートに覆われ、
太陽の光を完全にシャットアウトしていた。
何でこんなものが?という疑問よりも先に状況を確認する。
このタイミングだと俺よりも、倉島が、雪が危なかった。
たぶん、雪は俺を突き飛ばすためにこちらに走ってきている。
すなわち、俺が突き飛ばされたら、潰されるのは雪だ。
守らないと!
俺はとっさに立ち上がると同時に、左手に力を集中させる。
守ると言う思いを心の中に描きながら、走ってきた倉島を右手で抱き寄せ、
左手を力いっぱい上へと伸ばす。
伸ばした手のひらから光が湧き出し、光は俺たち2人を包み込むように防御壁を展開する。
落ちてきたコンクリートは光と接触すると同時に、吸い込まれるように消滅し離散した。
「大丈夫か倉島」
右手で抱きしめている倉島の顔を覗き込むと、彼女は驚きの表情で俺を見上げていた。
この状況を見れば誰だって驚く……ん?誰だって?
嫌な予感に促され正面を見ると、そこには呆然とした顔で俺たちをみつめる若いカップルの姿があった。
周囲を見回すと、近くにいた人間全員が俺のことを見ていた。
こ・れ・は・ま・ず・い。
「とりあえず逃げるぞ倉島」
「あ、はい」
腕の中から倉島を解放し手をつなぐと、一目散にカフェから逃げ出した。
もちろんしっかりお代も置いていった。
しかし、この状況でおつりがもらえるわけがなく……。
走りつつ心の中で頭を垂れる俺なのであった。
「ここまでくれば大丈夫か」
俺たちは、商店街外れの小さな路地裏まできて走るのをやめた。
軽く息を整えながら後ろを振り返ると、倉島は大きく肩で息をしていた。
「だ、大丈夫か」
「はい……だい……じょうぶ……です」
とりあえず大丈夫ではなさそうなので、息が整うのを待つことにした。
「やっぱり、悠樹さんも、同じだったんですね」
息が整いはじめた倉島が、突然嬉しそうに微笑みながらそんなことを口にした。
「同じって……さっきの力のことか」
「はい」
俺が倉島から感じた魔力、あれは間違いではなかった。
やはり倉島は魔法使い。
「なんで隠してた」
自然と倉島のことを睨みつる。
倉島が俺たちの敵で、危害を加える存在であるとは思いたくない。
思いたくはないが、それでも魔法使いというだけで警戒してしまう。
「その……もし勘違いだったらまた嫌われると思って……。隠してたことは謝りますごめんなさい。
それと警戒しなくても大丈夫です。私の能力は他人を傷つけることはできませんから」
今の倉島から魔力は感じないか……。
倉島に敵意は無いと感じた俺は、力を抜き臨戦態勢を解いた。
「こちらこそ倉島が敵じゃないかと疑ったりして悪い」
「大丈夫です。普通はみんな警戒しますからしょうがないですよ」
そうだよな、静のあの姿を見て俺も一度は逃げ出したんだし、倉島がそんなめに
何度もあっているとしたら、警戒するのも当然だよな。
「悪い……」
「ほ、本当に大丈夫ですから。そんな顔しないでください」
こんな時でも落ち込んだ俺を励ましてくれる倉島はほんとに優しいやつなんだな。
「悠樹さんの能力はシールド……ですか?」
「ああそうだな、ちょっと特殊なシールドってところだな」
たとえ知り合いでも俺の力がグリモワールであることは伏せておけと愛美姉から言われていたので、
そこは教えないことにした。
「倉島の能力はなんだ?」
先程の状況を考えると……未来予知か?流石にそれは無いか。
「えっと……未来予知です」
「ちょ!マジか!!」
「ゆ、悠樹さん……顔、近いです」
「あ、ご、ごめん」
まさかの未来予知的中に興奮して、つい倉島に迫ってしまった。
「未来予知と言っても、ほんの数秒先が見えるだけなんですけどね」
頬を少し染めながら苦笑いを浮かべる倉島。
そんな謙遜しなくてもいいのに。
「十分凄いって。その力があれば愛美姉に捕まる回数もグッと減るに違いない」
特に最近のあの人は俺を見つけるたびにこき使うからな。
俺は静の彼氏であって確かに義弟予定ではあるが、あんたの道具じゃ無いんだよ!
「静さんだけじゃなくて、愛美先生とも仲がいいんですね。私はそっちの方がうらやましいです」
倉島いわく、絡みが多いことと仲がいいことは同じことらしい。
こっちの苦労も知らずに……まあ知ってるわけがないんだが。
さて、そろそろ戻っても大丈夫だろうか?
まさか一大事になってないだろうな……。
その辺の確認も込めて一度戻ってみるか。
「倉島そろそろ戻ってみないか?どうなってるかも気になるし」
戻ってみて、あ、あの人たちです!とか言われて警察に追い回されるのだけは
勘弁したいところだが……。
「あ、今日はこのあたりで帰らないと。ごめんなさい」
倉島は申し訳なさそうに深々とお辞儀をする。
そんなに申し訳なさそうにしなくても大丈夫なんだが……。
それに用事があるんじゃしょうがないしな。
……あれ?何故か残念がる俺が心の中にいるんだが。
まずい、また静に怒られる!とりあえず脳内で邪念撲殺。
「気にしなくていいよ。俺だったらいつでも……いや、静が了承を出してくれたら
いつでも付き合うからさ」
「静さんには頭が上がらないんですね」
笑顔で一番気にしていることを言われてしまった。正確には女性に頭が上がらないなんだが。
「それじゃあ帰ろうか、さっきのこともあるし家まで……いや家の近くまで送るよ」
「ふふふ、はいありがとうございます」
俺は笑顔の倉島と共に帰路へとつくのだった。
「そういえば悠樹さん」
「ん、どうした?」
「呼び方倉島に戻ってますよ」
あ……。
「すまん」
「いえいいです。もし雪って呼びたくなったらいつでも呼んで下さいね。
私待ってますから」
「ああ」
たぶん当分先だろうな……。
そう思いながら頭をかくのだった。
ちょっと間が空いてしまいましたが、更新完了です。最近何を血迷ったかイラスト描いたりしてるので忙しい……。絵を描いてるからって挿絵……は未定です。余裕があればそんなこともあるかもね。それでは次回をお楽しみに。




