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無限のグリモワール  作者: 鏡紫朗
第二章 青い瞳の雷帝
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第七話 倉島雪

「し、死ぬ~」

そう言って俺は自分の机に倒れ伏した。

前方では静が心配そうな顔、隣では藤村が呆れ顔で俺を見つめていた。

「いや、いや。筋肉痛じゃ死なないから」

そう、俺は全身筋肉痛で今とても苦しんでいた。

そりゃあ実際筋肉痛で死ぬなんてことは無いだろうが、そのぐらい痛いってことだよ。

とりあえず何故俺がこんな状況なのか説明しよう。

昨日の特訓!以上!

愛美姉のあの容赦ない訓練という名のスパルタ地獄は、俺を死の淵まで追い詰めやがった。

いや、ほんとにね2回ぐらい死にかけましたよ。

八方から絶え間なく火炎弾打ち込んできたりとか、ランダムで落ちてくる雷を避ける訓練とか。

静が施してくれた水のシールドが無ければ筋肉痛ぐらいじゃすまなかっただろうな。

しかしあれで手を抜いてるって言うんだから、本気をだしたらどんだけ凄いんだか。

流石静の姉さん。と言えばそれまでだが、それにしても人に物を教えるには向かない戦闘能力である。

傷の方は静に回復してもらったんだが、筋肉痛までは思いつかなかったのだろう。

むろん俺自身も考えていなかったのだから仕方がないんだろうけど……。

「……悠、大丈夫?」

「……だめだ」

静が心配してくれるのは素直にとても嬉しかった。

心の方はこれで十分回復できているのだが、体の方は強がりを言ってられないほどの痛みで満ち溢れている。

無理して学校まで来たのも痛みが増してる原因の一つなんだが、

学校にこないで愛美姉に後でなにか言われる方が怖い。

たるんでるぞ!とか言われてさらに訓練をきつくされでもしたら本当に死んでしまう。

そんなことを考えてため息をついていると、静がこちらに近づいてきて、

「……後で直してあげるから我慢して。ここだと無理だから」

と、耳元で囁いてきた。

「……ありがとな」

耳元で囁かれゾクゾクしているのを隠しながら感謝の言葉を述べる俺。

すみません。静の吐息が凄く心地よかったんですよ。

「む~~~~~~~」

何やら藤村から機嫌の悪そうな気配を感じるが、ここは無視しよう。

無視……したいのだが、一向にその気配が消える雰囲気が無い……。

藤村の気配に気おされ始めたころ、教室の扉が開き、愛美姉が中に入ってきた。

藤村は俺を睨みつけ、不機嫌な顔のまま渋々自分の椅子へと戻っていく。

助かった。……しかしここ最近どうも静とイチャイチャしてると藤村が不機嫌な気がするんだが……何故だ?

う~ん、何か忘れてるような気がするんだが……。思い出せないからとりあえずスルーで。

……しかしだめだ、顔を上げるのもしんどい。

さて、ここでどうしようかと考える……答えは一つだった。

ここはやはり寝てしまうのに限るな。

「朝霧~、だいたい察しはつくが寝るなよ~」

と、目を閉じようとしたタイミングで声をかけてくる愛美姉。

最近は心を読んでるのか、タイミングがいいのかわからなくなってきたぞ……。

痛くて起きれないんだよ主にあんたのせいで。と伝わるように心の中で考える。

そこでふと、使い方によっては便利なのかこれ?とそんなことを思った。

「朝霧……。起きないならわかっているな?」

次の瞬間、俺の体を強烈なプレッシャーが襲う。

どうやら、愛美姉が魔力を上げたようだ。

確かに脅しとしては最高のやり方だ。なにせ周りの人間にはわからないんだからいくらでもできるってもんだ。

前の席からは静の呆れたため息が聞こえてきた。

妹に呆れられるようなことを平然とするなよ……しかも教師が。

という心の声が聞こえたのか、魔力による圧力がさらに増していく。

これはやばいと本能まで囁き始めやがった。

「すみません」

しかたなく痛みに耐えつつ俺は体を起こした。

痛みで顔が引きつり、俺の方を向いていた何人かには、いい度胸だなおい?

ぐらいの感じで怒っている様に見えているのか、合唱してる奴がちらほら見かけられた。

まあ、あながち怒ってるのも合唱も、全否定はできないんだが。

しまいには怒っていたはずの藤村まで心配そうな視線を向け始めていた。

この状況どうしてくれるんだ、という視線を向けると、愛美姉の顔は

よく知っている俺たちぐらいにしか解らない程度で笑っていた。

俺のこの状況を楽しんでやがる。

この教師最低だ。

「まあ、いいだろ。因みに1時限目は私の授業だからな。忘れるなよ」

俺の体に衝撃走る。

この時、朝霧悠樹は死を覚悟した。

まさか筋肉痛で殺されるとは彼も思っていなかっただろう。

心の中で涙した。死ぬならせめて大切な女を守って死にたかったと。

……そんな心境だった。

「さて、そこの地獄を目の前にしたような表情で固まってる奴は無視してホームルーム始めるぞ」

鬼……というかその対応、あきらかに虐めですよね?

「それと、最低なのはおまえの方だ朝霧」

隣から向けられる勝ち誇ったような視線と愛美姉の一言に、俺はただ困惑するしかなかった。


「カトラッシュ、僕はもう疲れたよ」

1時限目が終わり、体の痛みは最高潮に達していた。

無理やり起こしていた体は限界を超え、さっぱり動かない。

動かそうとすると強烈な痛みが全身を走るのだ。

もうオランダースの猫の主人公の気分である。

「悠樹さ、ちょっと派手に痛がりすぎなんじゃないかな」

藤村の腕が俺の腕へと伸びる。

「馬鹿!やめ!」

腕を持ち上げられた瞬間俺の体を針で串刺しにされたような痛みが走り、

口からは表現のしようのない、奇怪な悲鳴をあげていた。

それにびっくりしたのか、藤村は俺の手を放した。

「だからやめろって。痛いんだよマジで」

「あ……ご、ごめん」

俺に怒られたことがショックだったのか、藤村はしゅんとしてしまった。

そういう顔されるとまるで俺が悪いみたいじゃないか。

「……大丈夫?」

藤村の態度がまるで静のようになっている。

やっぱりいつも元気な藤村にこういう表情をされると心が痛んだ。

「おまえに心配されるとやっぱり気持ち悪いな」

だから俺は、わざとおどけてみることにした。

「な……人が心配してるのに。この馬鹿悠樹が!もう知らない!」

いつもの藤村に戻ってくれたのはいいのだが、俺の腕にエルボーという、

最後に強烈な置き土産を残していき、再び俺は奇怪な悲鳴をあげた。

二度目の悲鳴を聞いて、クラスメートから同情の視線が一斉に注がれる。

そんな目で俺を見ないでくれ。

もう死にたいです。

「雪ちゃん!」

落ち込んだ俺がいじいじしていると、突然藤村の大きな声が耳に入ってきた。

「どうしたの、二日も連絡無いし学校にもこないから心配したんだよ」

「あ、藤村さんごめんなさい。風をひいてしまいまして」

「そっかそっか、うんうんよかったよ。何か変なことに巻き込まれたのかと思っちゃったよ」

相変わらず藤村は人の話を聞かないというか、話をどんどん進めたがるというか。

話しかけられている……え~と雪ちゃん?も困った表情を浮かべている。

「宿題とか連絡事項とか次の時間に教えてもらえるかしら?」

「うんうん。じゃあ次の休み時間ね。体調悪くなったら言ってね」

「はい」

話を終えた藤村がルンルンスキップしながらこちらに向かってくる。

どんだけ嬉しいんだよ……っていうかあれ誰だ?

「……悠、それは酷いと思う」

静に怒られてしまった。まあ物覚えが悪い俺が悪いんだが……。

どうも話をしない人間の名前は覚えられないし、すぐに忘れてしまう。

しかしあんなに仲のいい友達、藤村にいたか?

「なあ、あの子だれだ?」

真正面からきいてしまったのがまずかった。

藤村は俺に対して呆れた顔をすると、無言で再び腕を殴りつけてきたのだ。

俺は三度目の絶叫を向かえ、本当に意識が飛ぶ寸前まできてしまっていた。

「あんたは真正しんせいのあほか?委員長だようちのクラスの」

「つ~~~~~。委員長?」

「そう。ということは名前も覚えてないでしょ?」

「名前……そのぐらいは……」

先程も言ったが覚えてなかった。

「はあ。あの子は倉島雪くらしまゆき。成績が学内トップクラスって結構有名なんだよ」

成績とか興味無いしな……。

「なるほど。で、藤村は何でそんなに倉島と仲いいんだ?」

そう訊ねると、藤村は額に手をやりやれやれと左右に首を振り、再び腕を振り上げた。

……ってまずい!流石にもう一発くらったら、俺の意識が飛ぶ!

しかし無常にも体はさっぱり動きそうになかった。

激痛を覚悟して瞳をぎゅっと閉じる。……が、痛みはやってこなかった。

恐る恐る顔を上げてみると、藤村は手を上げた体制のまま苦笑いを浮かべて止まっていた。

視線の先を追ってみると、静が無言で藤村を睨み付けていた。

静に無表情でじっと見つめられるのはかなりのプレッシャーなのだ。

それは俺も重々承知している。

それに負けた藤村は、腕をゆっくりと下ろしため息を一つついた。

「あのねえ悠樹。私副委員長。しかも推薦したのあんた」

……はい?

「おまえが副委員長?まさか~」

「……静っちごめん。本気でボコしていい?」

おどける俺とは正反対に藤村の目はマジだった。しかも訊ねているのが何故に静!

俺の意見は!

ちらっと横目で静の顔を見ると、こんどは俺のことを無言で見つめている。

どうやらこの話は本当らしい。

と、とりあえず謝ろう。ボコられないうちに。

「すまん俺が悪かった!俺が推薦したばかりに藤村には嫌な思いを……」

「いや、別に嫌な思いしてないし。むしろ結構楽しんでるからそこは怒ってないんだけど」

む、そうなのか。

「悠樹怒るのはまあいいや」

まあいいやって、それはなんだ?俺はいつもこんなだから怒っても無駄だと言うのか?

そりゃねえ自分にダメダメなところが多いのはわかってますよ。

でもね、そういう対応をとられると結構傷つくのよほんとに。

「委員の仕事でよく会うから雪ちゃんとは結構仲いいの。よく電話とかメールしたりもしてるし。

 でも二日前から全然連絡取れなくて学校も来ないし、それで心配してたの」

……まあ俺のことは置いておこう。確かに二日も友達が連絡も無しに休んだら心配するよな。

俺だって静と二日も連絡取れなかったら、心配で発狂しそうだ。

「そりゃあ心配だわな」

そう言いながら黒板近くの自分の席に座っている倉島のことを見た瞬間、左腕に微弱な反応を感じた。

「何だこれ……魔力?」

その反応は少なくとも俺が今までに出会った三人の魔術師とは違う異質な魔力だった。

むしろ魔力として認識していいのかも定かでは無い。

静は……どうやら何も感じていないらしい。

嫌な予感がした。

「静」

と呼びかけようとした瞬間、教室の前扉が開き次の授業の先生が入ってきてしまった。

今話してしまおうか迷ったが、また先生に怒られるのも嫌だったので次の機会を待つことにした。

この先生も結構口うるさいのだ。もしこの体のまま廊下に立たされでもしたらたまったものではない。

そして俺は再び痛みとの戦いへと戻っていっくのだった。


「……どう?これで痛みはだいぶ無くなったと思うけど」

4時間の拷問という名の授業に耐え、俺は今静の治癒魔法でついに筋肉痛の呪縛から解き放たれた。

「……そういう風に言うと無駄にカッコよく聞こえる」

無駄って言うなし。

そう思いながら体の各関節を動かしてみる。先程までの強烈な痛みは嘘のようにどこかにいってしまった。

流石は静の治癒魔法である。

付きまとわれるのではないかと懸念していた藤村は、

倉島とお昼を食べるらしく問題なく屋上へと来れたのは幸いだった。

雪ちゃんには感謝しておかないとな。

とか思ってると実際に会話した時に雪ちゃんって言ってしまいそうだ……気をつけねば。

「……悠、急いで食べないと次の授業間に合わない」

そんなことを言いながら手馴れた手つきでお弁当を広げる静。

そうなのだ。流石の静とはいえ全身の筋肉痛を治すにはかなりの時間を要した。

時間は長針が9を過ぎたところ。あと15分も無い。

また静の弁当をゆっくり食べれないのかと思うと残念極まりないが、まあしかたがない。

「いただきます」

と2人で箸を持った時のことだった。

「あの……少しよろしいでしょうか」

声のした方へと振り向くと、そこには少し紫がかったロングヘアーをなびかせながら倉島雪が立っていた。

「お2人は魔法というものを信じますか?」

その質問に俺と静の表情が硬くなる。

ほとんど面識の無い倉島が、普段人の来ない屋上にたまたま来て、俺たちにたまたま魔法の存在について

訊ねてくることなどまずありえない。

それならこの状況において考えられることは一つしかない。倉島雪は魔法があることを知っている。

そして俺たちが魔術師であるという確証、もしくは疑念を持っているということだ。

「倉島……その質問はどういう意味だ」

唾を飲み干し渇いた喉を潤すと、俺は警戒を更に強める。

もしかしたら彼女が俺たちを狙う刺客という可能性もある。

静もかなり警戒しているのか、魔力を徐々に高めているのが感じられる。

俺は左手をいつでも突き出せる体制で倉島の次の言葉を待った。

「あ、あのお、そんなに警戒しないでください。私は唯お2人が真央さんのお友達だと聞いたもので、

 あのその……よければお話してみたいなと思ったんです。もし、何かお気に触ったのでしたらごめんなさい」

まさかの返答だった。じゃあなんで、

「……どうして魔法なの?」

それは確信を付いた一言だった。流石は静、そして倉島の返答しだいでは再び警戒を強めなければならない。

先程の返答はダミーということも考えられるからな。

「えと……笑わないでくださいね。昔から私御伽噺おとぎばなしが大好きなんです。

 特に剣と魔法のファンタジーとかが大好きでもし本当に魔法があったらいいなって。

 そうですよね、こんなこといきなり聞いてきたらおかしな子だなって思っちゃいますよね」

少し恥ずかしがりながらはなされた内容に俺たちは唖然としてしまった。

まさかの完璧な勘違いである。

そりゃあそうだよな。よく考えればそんなドストレートな方法で声をかけてくる刺客がどこにいるんだよ。

それにさっき感じた異質な魔力も今は感じられないし……完全に見当違いか。

俺が警戒を解くと、静も俺に釣られるように警戒を解いた。

「悪い。俺たちも突然そんな問いかけをされたから、どんな変な子が現れたのかと警戒しちまった」

「……悠、それフォローになってない」

まさしくその通りだった。

今の内容だと倉島のことを完全に電波ちゃんだと思っているようにしか聞こえなかっただろうな。

女の子を傷つけるのは俺の美学に反する……とりあえず藤村は除くと言っておこう。

ということでまずは謝らないとな。

「その、すまない倉島」

「いえいえ大丈夫ですよ。突然そんな切り出し方をした私も悪いんですから」

どうやら怒っても落ち込んでもいないらしい。しかも俺のフォローまでさりげなくしてくれていた。

いい子なんだな倉島は。これならクラス委員長をまかされるのもうなずける。

「……悠、浮気はだめ」

静から強烈な視線が突き刺さる。

……今の思考を読み取って何故そこまで話が飛躍する。しかも睨まれてるし。

「静、何故そうなる?」

「……悠の視線がいやらしかった」

視線って……まあ確かにこの角度からだと倉島の大きな胸がガン見できるわけだが、

そんなことしてないし。

「フフフ、お2人とも仲がいいんですね。うらやましいな」

どうやら痴話げんかか何かと受け取られたらしい。

まあ、あながち間違ってはいないが。

「あ、ごめんなさい。お昼まだでしたよね。私のことは気にしないで食べてしまってください」

そう言われて思い出したように見た時計の長針は、すでに11に近づきつつあった。

「……なあ静、これはかなりやば……」

隣を見ると、そこには黙々とお弁当を食べ始めている静の姿があった。

「……悠、早く食べる」

こういう時の静はとても白状だったのを忘れていた。

「あ~わかったよ。こうなったらやけくそだ!」

そうして俺は、微笑んだ倉島に見つめられながら、

悔しさと悲しみと寂しさの混ざったよくわからない感情を今日のお弁当へとぶつけたのだった。



一話があまりに長いと更新ペースが遅れるので、少し小出しにしようと思い始めてちょっと小出しにした鏡紫朗です。毎回後書き書くこと無いな……。うん、次回に続く!(無理やり終わらせるな!)

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