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50音順小説

思ひ出 50音順小説Part~お~

作者: 黒やま

主人公は一応中年のおっさんです。

大きな腹に脂ぎった顔、それが今の小倉由紀朗(おぐらゆきお) 56歳 立派な中年親父である。





鏡を見るたびに昔はこんなに太ってはいなかったのに、


いつのまにこんなになってしまったのだろうかと思う。


汗水垂らして働いてきた会社に勤めだしてから三十年以上が経ち、あと数年で定年退職だ。


家族を養うためにがむしゃらに働いてきたが、今では息子も娘も独立して自分と妻の二人暮らしだ。


はちきれんばかりの腹を無理やりベルトで絞めてやっとのことでズボンをはいた。


この日は日曜日のため少し遅めの朝食を摂りに1階にいくと


テーブルに朝食の用意はされていたが妻がいなかった。


今日は妻が友人と最近人気の韓国人俳優が主演映画の試写会に当たっただとかで


朝から出かけ家には自分一人きりだった。


自分に対する妻の扱いが年をとるごとにぞんざいになってきていると常々感じる。


ふとテーブルの上を見ると自分宛てに一葉のはがきが届いていた。


高校の同窓会のお知らせでもう何年も行っていなかった。


「あの頃は・・・。」


感慨深げに彼は高校時代へと思いを馳せていった。





「おい。小倉、例のブツ持ってきたか?」


昼休み 体育館の裏で男子生徒が数人集まって何かしていた。


彼に声をかけた学生岸谷(きしたに)は少し興奮気味にそういった。


集団の中心にいる彼は大事そうに抱えてた紙袋を岸谷へ渡す。


「駆けずり回ってやっと手に入れたんだぞ。」


「分かってるって!よくやったぞ小倉~。」


このためにバスで1時間半もかかる市内へ行き


何軒も本屋をはしごしたのだ。


「岸谷、はやく開けろよ。俺も中はまだ見てないんだから。」


震える手を伸ばして紙袋から例のブツを取り出す。


その場にいる全員が固唾を飲み、袋から出てきたブツを凝視する。


ブツには長谷川深雪写真集はせがわみゆきしゃしんしゅう袋とじ付きとかかれていた。


「うぉ~、深雪ちゃん~。」


「やっぱり可愛いなぁ~。」


例のブツとは今売出し中のグラビアアイドル長谷川深雪の初写真集のことである。


ページをめくっていくうちに次第に過激なショットが増えていく。


「ちょっ・・・これはまずいよ深雪ちゃん。」


「エロすぎるっ!!もう最高だぜ!」


みんなのテンションが急激に高まる。熱気がやばい。


やっと一通り見て一息つくころには気力はほとんど残ってなかった。


「俺はこれを見るために生まれてきたんだー。」


「小倉大袈裟すぎだろ。」


あはははと大笑いさて岸谷が今度はじっくり見ようかと中を再び開こうとしたとき女子の声が聞こえた。


「ちょっとそこの男子。こそこそ集まって一体何してるのよ。」


陰険な目つきをした女子学生堀田(ほった)が何人かの女子とともにこちらに向かってきた。


「また小倉君と岸谷君なのね。性懲りもなくまたエロ雑誌持ってきて、何回目だと思ってるの。」


堀田は彼らのクラスメイトであり風紀委員だ。


そんな風紀委員である堀田は特に素行の悪い二人を目の敵にしている。


注意されたのはこれで何度目のことやら。


「まぁまぁ堀田、これくらいいいじゃないか。学校生活に潤いを持たせなくちゃ。」


岸谷が素早く堀田を丸め込もうと動いた。


「そんなこと言ったって無駄よ。これは先生に預かっといてもらいます。」


岸谷の説得も虚しく深雪ちゃんは堀田の魔の手に落ちてしまった。


「あぁ~俺の深雪ちゃん・・・。」


「どうするんだよ、小倉。あいつ絶対生徒指導の菅原(すがわら)に渡すぜ。

そんなことになったらもう取り戻せなくなっちまう。」


一人の男子生徒がそんなことを言う。


生徒指導の菅原先生は鬼の菅原と恐れられ


没収された物品は今まで帰ってきたというのを聞いたことがない。


だがせっかく遠くまで足を運んで買ってきた写真集をやすやすと


菅原に処分されるなんて自分のプライドが許さない。


「小倉、このままじゃ納得いかねぇ。何としても深雪ちゃんを取り戻すぞ!」


「岸谷・・・。俺も全く同じことを考えていた。」


意見が合致した二人は早速作戦を練り始めた。


作戦はこういったものだ。


まず岸谷が菅原の気を引いて生徒指導室の鍵を手に入れ


自分が侵入し写真集を無事奪還するという手順だ。


「いいな、小倉。この作戦は危険だ、もし失敗すれば俺たちは停学にさせられるかも。」


「分かっている。じゃあ健闘を祈る。」


二人は拳を突き合わせお互いの無事を祈った。


ガラララッ


「菅原先生!!大変なんです!校舎裏で喧嘩が起きて俺の友人が巻き込まれてしまったんです。早急になんとかしてください。」


職員室に岸谷が飛び込んでいくと菅原にしがみつくフリをして


生徒指導室の鍵をポケットから取り出す。


菅原は訝しみながらも岸谷に引っ張られ職員室を後にする。


廊下で岸谷とすれ違いざまに鍵を渡してもらい急いで生徒指導室に向かう。


誰も見つからずに部屋に入るまでは楽勝であった。


だがここからが問題だ。


この部屋から目的の品を探しだす時間は多く見積もっても5分あるかないか。


菅原のことだ、自分たちの企みに気付けばすぐさま生徒指導室に来ることだろう。


とりあえず手当たり次第に探してみるが見つからない。


もうすぐ5分経過する。早く探さなければ。


しかしどこにあるか皆目見当もつかない。


どうしたものかと思い下を向いたとき菅原のものだろうか鞄が目に入った。


隅に置いてある鞄の中を覗くとお目当ての物が奥底にしまいこんであった。


どうやら菅原は生徒から没収した品を私利私欲のために使っていたみたいだ。


最後のお楽しみにとっておいた袋とじが開けられていた。


「菅原め・・・。」


菅原への憎悪が倍に膨れつつあるとき、ドタドタとこの部屋に近づいてくる足音が聞こえた。


きっと菅原だ。ここから脱出しなければならないが、ここは角の部屋だから逃げ場がない。


逃げ遅れてしまった・・・


諦めかけた時あるものが目に映った。





校舎裏に行ったがそこには喧嘩している生徒どころか人っ子一人いなかった。


やられた・・・菅原はすぐさま校舎裏から2階の生徒指導室に走って向かった。


ガララ


確かに鍵を閉めたはずなのに開いてる。


こうなったら徹底的に懲らしめてやろうと思い、中を確認すると誰もいない。


「くっそぉ・・・」


まさか生徒にやられるとは思っていなかったのか唇を噛みしめ菅原は悔しそうにその場を後にした。


だがこの時菅原は部屋の窓が開いているのに気付かなかった。





「おーい。岸谷、やったぞ!!」


彼はところどころすりむいた傷が見えたがあの部屋から脱出できた。


なんと彼はとっさに目に映った窓から飛び降りた、二階から。


「でかしたぞ!小倉お前は最高だ。」


こうして宝物、長谷川深雪写真集を無事奪還できた。






そんな馬鹿なことをやっていたなと56歳の小倉由紀朗は懐かしそうに笑う。


朝食を摂り食器を洗い終え、テレビでも観ようかとリビングに行く途中、


電話台にほかの郵便物が置いてあるのが目に入った。


その中には自分宛てに届いたものと全く同じはがきが混じっていた。


ただ一つ違うのが宛名が自分ではなく妻宛てで旧姓の『堀田』で届いてたことだ。


まさかあの頃は堀田と自分が結婚するとは誰も予想だにしなかっただろう。


何せ一番驚いているのはこの自分なのだから。


本当この三十数年で変わった。


これから退職したらまた何か変わるかもな、そんなことを思いつつ


リビングのソファーに横になってテレビをつけた。



主人公の下の名前は由紀朗ですが、ほとんど小倉と呼ばれいるので

私が勝手に決めた50音順小説ルールには乗っ取って書かれています。

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