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06


朝日が昇る。

稜線が金色に染まってゆく。

山々が影となり、空から切り取られてゆく。

前世ではこんな雄大な自然は滅多にお目にかかれなかった。

まあ、日本の3/4は山地なんだけど。

それに比べてこの世界では城壁の中も外も全てがファンタジーの世界そのもの。

しばらくは鏡を見る度に映る自分の顔もファンタジーだったわ…


シロクマちゃん達も見惚れてる。

日本にいた時、1度だけ見たことがある初日の出を思い出した。

あの人と見た時は、海だったけど。

あの人を、置いてきちゃったんだなぁ……



2時間ほどで最初の休憩となった。

お馬さんは2、3時間ごとに1時間のインターバルが必要らしい。

それにこの先は下り坂が続き、馬に負担がかかるからゆっくり進むんだって。

ああ、こういうのって物語を読んでるだけじゃ気付かなかったなぁ。


みんな馬車から降りて体をほぐす。

商隊の人達が火の準備をし出したのでシロクマちゃん達がお手伝いしに行った。

アイテムボックスから枯れ枝を足して、火魔法でポッと火を付ける。

凄いねぇと頭を撫でられて満足そうだ。

えへへ、うちのコ達すごいでしょ~。


「どうだ?初めての護衛依頼は」とウィルフリード。


「平穏無事で何より」


「ははっ、数日前に西の森でゴブリンの集落が落とされたからな。数匹取り逃がしていたとしても、この規模の商隊に手は出せないだろうな」


この辺、ゴブリンが出るんだ…

よく言われる人型の魔物。

大抵雑魚扱いされるけど、この世界ではどうなんだろう?


怖くなって馬に水をあげているシロクマちゃん達の傍に行った。


「ラムネちゃん、ちょっと周辺に敵がいないか見てみて?」


「らじゃー」


結果は恐ろしいものだった。

今度はウィルフリード、ビアンカねぇさんを連れて集団から離れた。


「あのね、盗賊が出たら、その…全員にトドメを刺さないとダメってホント?」


「そりゃあ、この辺の領主は盗賊は打ち首か縛り首にするだけだしな。わざわざ連行する金も時間も労力ももったいねぇ。だが逃がせば別の奴が襲われる。結局、根城まで追いかけて殲滅する義務はねぇから火の粉を払ったら途中のギルドに寄って報告するくらいだな」


うん…よくお話で見る通りですね。

対人戦か……無理ですゴメンなさい。


「あなたはバリアを張れる。充分よ」


できないことがバレたのだろう。

だが咎めるどころが優しく頭を撫でられた。

幼女に殺人までは求めない。

理解ある人達でよかった。


「ありがと…」


「だがまぁ、やられる前にやる癖をつけとけよ」


「あ、あい…」


きびちぃ世界だぜぇ…

それでも腹をくくれずにしょもしょもしているナナを見て、ウィルフリードは言葉を重ねた。


「盗賊になるのは村や町を追い出された罪人や食えなくなった傭兵、冒険者、探索者など堅気じゃねぇ奴等の集まりだ。端から真面目に働く気がねぇし、改心もしねぇのさ」


言外に、だから許すな、と言われた気がした。


「で?急に盗賊の話題なんてどうしたの?」


ビアンカねぇさんは撫でたことによってくしゃくしゃになった髪の毛を手櫛で整えてくれる。


「あ、うん。さっきシロクマちゃんに索敵してもらったら、この先2kmくらいの道が曲りくねっている所で山賊が待ち伏せてるって。49人」


「先に言え!」

「先に言って!」


あい、ゴメンなさい…


「だが、俺達にだけ話したのはでかした」


ほえ?なんで?


「ピークス商会はあの街の最大手よ。日程がバレたら盗賊に待ち伏せされるからね。以前もあった。だから護衛依頼は掲示板に貼ったりしない特別依頼なの」


つまり、内通者がいるってコト?

私がキョロキョロすると、ビアンカねぇさんはまた私の頭をよしよしした。


「聡いコ。犯人は私達があぶり出すから、警戒だけしといて」


「らじゃ」


「それにしても49人か。多いな」


「そうね…今回の積み荷、何か聞いてる?」


「いや、特に注意されてねぇからいつも通りじゃね?」


「なら、目的が見えないわ」


「そうだな…」


ふと、2人の視線がこちらに向いた。

え、なんで凝視されてるん?

首をかしげると、2人とも天を仰いで手の平で顔を覆った。

『あちゃー』という吹き出しが似合うポーズですね。


「毛玉か?お前自身か?」


「いきなりの2択!?」


「【テイマー】自体が珍しいのに、【シロクマちゃん】って謎の生物と【迷宮遺物】の武器と、とんでもない【魔力量】の持ち主っていう4コンボ。よく今まで無事だったわね?」


私達、半月しか経ってないのに、もう有名人みたいです。

またしょもしょもしていると、車輪に亀裂を見つけた。

小さいけど、木製だからこういう個所からメリメリっといくんじゃないかな?


「【リペア(修復)】」


よし、これで大丈夫。


「なあに?どこか壊れてたの?」


「うん。一応全部の車体見て回るから、2人はあっちの問題よろしくね」


そして全部の車体を見たが、壊れている個所はなさそうだった。

でも、見落としがあるかもしれないよねぇ。

なんか、こう、『壊れた個所を見つける魔法』とかあればいいのになぁ。

まだ魔法は改変しかできないのよねぇ。

街に戻ったらもっと勉強しなきゃ。


焚火の周りに戻ると、シロクマちゃん達がコーヒーを持ってきてくれた。


「おつかれー」

「ナナ用にー」

「ぬるめのヤツー」


「さんきゅ」


またーりしてると、商隊長がやって来た。


「馬車の修理をしていただいてありがとうございます」


「あ、勝手してごめんなさい」


「いえいえ、本当に助かりましたよ。坂道で立ち往生するところでした」


「よかった。でも見落としがあるかもしれないから、プロの目で見てね」


「では、私が見ておこう」


声を掛けてきたのは若い男性。

白いコートがどことなく白衣を思わせる。

薬師っぽいと思ったけど、身に着けている小物が多いところを見ると…


「私は錬金術師だ。錬成で直せる」


私は残りのコーヒーをゴッゴッゴッと飲み干し、錬金術師さんの後を追いかけた。

シロクマちゃん達と一緒におにぃさんの後ろをついて行く。


「お前が直したのはここか?」


「うん、よくわかったね?」


「僅かに魔力の残滓が感じ取れる」


「ほへー、そんなコトもできるんだ」


錬金術師のおにぃさんはきゃいきゃいとついてくる幼女+3匹を邪険にするでもなく淡々とチェックしていく。


「…ここも補修しておくか」


おにぃさんが手を当てているのは幌馬車の後部の留め金。

荷を運び込む時に開閉する箇所だ。

ちびっこの私には見づらい上の方にある。

うんと背伸びして見るが、経年劣化以外の傷なんかないようだが…


「金属疲労?」


「よく知ってるな」


「見ただけじゃわかんないけど」


シロクマちゃん達が3段の肩車…肩に立っているから組体操の『肩のせ』?で覗き込む。

バランスいいね。


急に脇の下に手を入れ抱えられた。


「よく見てみろ。物には僅かだが魔素が溜まっている。だが長く使われている内に目減りしていく。均一に減るわけじゃないからその歪が故障の一因となる」


「へー」

「ふむふむー」

「そうだったんだー」


おにぃさんは私を片手抱っこしたまま、腰の革装備から小瓶を取り出した。


「【レフィケレ(修復)】」


呪文と同時に小瓶の液体を1滴垂らす。

すると魔法陣が現れ、液体は生き物のように留め金に染み込んでいった。

確かに魔素が均等に補充されたのがわかる。


「うぉぅ、これが錬金術…初めて見た」


「すごいー」

「えー、わたしもー」

「見たかったー」


肩のせ中の下2匹は残念がり、おにぃさんをよじ登って肩に落ち着いた。

一番上にいたコもちゃっかり肩車ポジにいる。


うわぁ、4人分の全体重がおにぃさんの肩と腕に!

でも、表情が柔らかいから辛そうではない。

てか、この様子は……

おにぃさん、あなたもか!?

モフらーっていっぱいいるんだなぁ。


おにぃさんは別の個所を錬金術で直して見せてくれた。


「それなにー?」

「謎の液体ー?」

「禁断の秘術ー?」


「普通の錬金薬だ。これは全ての金属の源ともいえるべき秘薬。生命の源を調合したのが回復ポーションだ」


ポーションか…そういえば、そっち系の買い物はしたことなかったなぁ。

うーむ、錬金術もいいねぇ。

自作できないかな?


「気になるのか?」


はうぁっ、そんなに見つめてました?


「作ってみたいなぁって思って…」


「錬金術は独自の言語を操らねばならない。自分で開発するには時間がかかり過ぎる為、誰かに弟子入りするしかないが…」


「そっかぁ…じゃあ、スローライフできるようになったら手を出してみようかなぁ」


「そうか…」


急におにぃさんがしょんもりしたけど、馬車の中に案内してくれた。


「きゃーぅっ!ナニコレ研究室!?」


私達が乗っていた家馬車の中は半分が研究室、もう半分は薬局みたいだった。


「立ち寄った村や町で薬を調合するのが私の仕事だ」


馬車でこんなことが出来るのね!?

こういうのがあれば快適に旅ができそうじゃない?

終の棲家を探しに行くのもいいかもね。


「おい、出発だぞ」


ウィルフリードが声掛けに来てくれた。

あんまり探検できなかったけど、旅はまだ始まったばかり。

何もかもが新しくて楽しい。

この依頼、受けてよかった!




再び馬車は走り出す。

あぶり出しは成功しなかった。

なので、襲われることは防げない。

幼女+3匹は固まっているように言われた。


とうとうこの時が来たか…

ラムネちゃんが盗賊が出ると言っていたポイントに差し掛かった。

岩や倒木で馬車の行く手を阻んでいる。

隊列が止まると、茂みから人が飛び出してきた。


戦闘に備え、幼女+3匹は変身した。

緊急事態なので名乗りは省くが、シロクマちゃん達はポーズを決めていた。

緊張してないならいっか…


おっといけない。

手筈通りバリアを張る。

銀狼旅団と天空の箱庭が迎撃に出る。

お馬さん達も、バリアの中は安全だと理解しているのか暴れない。


私達は馬車の上から動かない。

シロクマちゃん達も自分達が狙われているかもしれないと聞かされ警戒を怠らない。


「ナナはー」

「わたし達がー」

「絶対守るからねー」


「ありがとう。全員で生き残ろうね」


「へっへっへっ、別に殺しやしねぇさ」


馬車の屋根に上ってきたのは後ろを走っていた幌馬車の御者の男だった。

お前か、手引きしたのは!


「イチゴちゃん、よろしく!」


「らじゃー!」


イチゴちゃんはハンマーを巨大化した。

同時に振りかぶる。


「へ…?」


男は巨大化しながら迫ってくる物体の正体を理解する間もなく、ただ『赤』を見た。

何の反応もできずに、男は漫画みたいに飛んでいった。


「【キャンセル(解除)】」


すかさず男に付けたバリアのパスキーを取り上げる。

これでもう私達に接触できない。


「わーい!ありがとイチゴちゃん!」


「わーい!ちょろいよこれくらいー」


「ずるいー」

「わたしも戦いたいー」


「あー、敵多いし、バリアから出なければいいかな?」


「やりー!」

「暴れるぜー!」

「やってやるぜー!」




シロクマちゃん達の介入もあり、盗賊は殲滅された。

それなりに強かったらしく、数人が怪我をした。

が、それぞれのパーティーにヒーラーがいるので問題ない。

でも、装備は破けたまま。

痛々しい…


「直したげるね。【リペア(修復)】」


唐突だった為か、みんな声も出ず硬直した。

エンチャントが剥がれる!


「ほい、完了っと。ホントは1個銀貨1枚だけど、お友達価格で初回タダでいいよ」


「エンチャントが、消えてない…」と呆然と呟いたのは錬金術師のおにぃさん。


「そりゃそうだよ。じゃなけりゃ、直す意味がない」


そういう意味じゃない。

付与術師の魔法も、錬金術師の秘匿言語とまでは言わないが、それなりにオリジナルを混ぜているものだ。

優秀な術師ほど癖が強くなる。

それを初見で…


「ははっ、たった銀貨1枚か…商売あがったりだな」


えっ…【リペア(修復)】って生活魔法だし、初級だし…

なのに大金とったらひんしゅく買うと思ってたんだけど…

安過ぎるのも市場荒らしになるよね…

どどど、どうしよ…!?


私の混乱をよそに、私も俺もと修理を依頼された。

全部終わって、修理は護衛依頼中しか受け付けないと言ったら絶望された。

でも既得権益に手を出すとメンドいのよ。


「本当に規格外ね……うちのパーティーに…」


「身代わりの術!」


私はシロクマちゃんをビアンカねぇさんに抱っこさせ、その場を離れた。




さあ、予定が詰まっている。

商隊は出発した。


「どうしたのー?」

「ナナー?」

「だいじょうぶー?」


「えっ、あー……シロクマちゃん達はさ、その、敵が人間でも大丈夫だった?」


「まあねー」

「所詮この世はー」

「弱肉強食ー」


「「「敵は滅するのみ!」」」


「あ、うん。頼りになるわぁ」


まかしとけー、と勇ましいシロクマちゃん達。

わかってる…やらなければやられる。

ここは日本じゃない、甘くない…


やっぱりしょもしょもしちゃうけど、シロクマちゃん達にモフモフ攻撃されて少し浮上した。




それから、他のアクシデントに見舞われることなく無傷で最初の村に着いた。

1時間ほどで出発するからご飯食べておいでとお金を貰った。

店は指定されたが、この村には食堂が1件しかないのでもともと選択肢はない。

日替わり定食を注文。

あ、普通にシロクマちゃん達も店に入れたし、子供椅子に座らせてくれてゆっくり食事できた。

しゃべるシロクマちゃんは獣人扱いらしい。

ふふっ、異世界だなぁ。

食べたらすぐ戻る。

他の冒険者も休憩とらないとね。

商隊の人達も慣れたように交代で休憩をとり、また出発する。

あんまり休めてないようだけど、日が暮れる前に次の村に行かないといけないらしい。

わりと強行軍だが、護衛の為に冒険者パーティーを3組も雇うにはお金がかかる。

スケジュールが押すと、追加料金がかかるらしい。

そういうトコしっかりしているなぁ、ギルドも。


次の町でも似たような感じだった。

そして今、街道沿いの広場で野営の準備をしている。

20人を宿に泊めると1泊大銀貨2枚。

痛い出費だから、道中は野営一択。

でも、王都では2泊もするんだって。

ちなみに王都ではフリーだから開催中のお祭りで遊んでいいって!

なんておいしいお仕事なんだ。


「じゃあ、私達もテント張ろっか」


与えられたスペースを確認。

巻き込む物なーし。


「ほいっと」


アイテムボックスからデーンと出した。

途端に総ツッコミされた。


「「「「それはテントじゃねぇ!」」」」


はい、ログハウスを出しました。

だって、テントを改良してたら段々テンションバグっちゃって…

カリンちゃんのスキル『創造』が凄かったんだもん。

思い通りの物を作っちゃうんだもん。


「なんと、トイレとお風呂もあります」


そう言って、シロクマちゃん達にも分担して収納してもらっていた物を出してもらった。

それぞれ男女別々です。

離れたところに設置しました。

めっちゃ喜ばれました。


で、なぜか幼女+3匹は夜の見張りが免除になった。

なんか貢献度がMAXなので高枕で寝てくれ、と満面の笑みで言われた。


まあ、幼女に不寝番をされても安心できないよねぇ。

私、結構お荷物じゃない?

役立たずでごめんなさい。


他の人達がテントを建てたりしている時、シロクマちゃんが火を起こし始めた。

あるぇ?1匹足りない…


「カリンちゃんは?」


「ひと狩りいくってー」

「森に入ったー」


「………で、あなた達がかまどの準備をしているってことは?」


丁度カリンちゃんが何か引きずって帰ってきた。


「イノシシだよー」

「おかえりー」

「丸焼きー」


すぱぱぱーっと捌かれ、焚火の上で回される猪。

この流れ2度目!



商隊の人達がご飯を配る。

温かい煮込みとパン。

キャンプご飯、おいしい。

シロクマちゃん特製丸焼きも喜ばれた。

というか、宴みたいに盛り上がった。

大人達は1杯だけと言ってお酒飲んでた。

ズルい…


食後、女性陣は少ないのでみんなでお風呂に入った。


「いやー、こんな愉快な道中になるとは思わなかったな」とビアンカねぇさん。


「ほんと、こんな快適な野営は初めてですよ」


商隊の女性陣も頷き合う。


「ラムネちゃんが時々索敵してくれてるからゆっくりして大丈夫だよ」


みんな溶けるかと思うほどお湯に浸かっていた。

そして仕上げにみんなに【ドライ(乾燥)】をかけてあげたらめっちゃ感謝された。


ほっかほかになると、眠気が襲ってきた。

お言葉に甘えてベッドに転がる。

ただ座っていただけでも、体は疲労していたらしい。

スイッチが切れたみたいに眠りに落ちた。





丑三つ時、それはやって来た。


「ナナー」

「起きてー」

「敵だよー」


ウソ…今、眠ったばかりなのに…

中途半端な時間に起こされ、目が開かない。

でも、守らないと…


急いで着替え、焚火に近寄る。


「どうした?トイレはこっちじゃねーぞ?」


「違う、ばかウィル…敵襲…」


「お前ぇ、目ぇ据わってんぞ…」


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