21
宿に戻り、翌日の深夜、お城から使者が来た。
どうやらグレアムの支援をする事にしたらしく、セディが王の名代として迷宮都市『デルタ8』まで赴くらしい。
ただし同盟を気取られるワケにはいかない為、セディ率いる『ノア王国王室迷宮調査団リンジー隊』がエピタフ支部に滞在するという形をとる。
メンバーには国お抱えの冒険者を含む。
年末年始は行事のオンパレードなので、年が明けしばらくしたら決行だ。
スケジュールは決まったので幼女+3匹はエピタフ支部へ戻ったのだが、街の中心部がイルミネーションで装飾されキラキラしていた。
明日の30日にはニューイヤーカウントダウンが開催されるらしい。
ちなみに、この世界の暦は1年は12ヶ月で、1ヶ月は30日、1週間は7日である。
多分、ずっと前に転生者が整えたんじゃないかな?
食べ物とか、長さや重さの単位とか日本と一緒だしねぇ。
グレアムも転生者だし、この時代に他にもいるかもしれないねぇ。
「シロクマちゃん達、人混みは大丈夫?」
「う~ん」
「踏まれそうでー」
「怖いかもー」
「だよねぇ…」
私もこの身長だとヤバそうだ。
「残念だけど、お祭りは諦めようか」
アデル達は城塞都市ワンダーウォールのクロフォード城のパーティーやら儀式やらでいないのだ。
もちろんイチゴちゃんが転送した。
この世界での初めての年越しは寂しいものになるかと思ったが、街に出ないクランメンバー30人程でパーティーをした。
建物は一等地にあるので、カウントダウン会場の熱気をガラス越しに感じながら。
料理人達が腕を振るい、お酒も入り騒がしい。
0時のカウントダウンはかろうじて参加できたが、幼女の体はお眠に逆らえなかったのでシロクマちゃんに支えられながら部屋に戻った。
翌日、朝食を求めて食堂に行くと、駄目な大人達の屍がゴロゴロしていた。
料理人達は早起きして皆の食事を用意してくれていた。
いや、たぶん徹夜だな。
年末年始も休みがない職業の方々、お疲れ様です。
新しい朝が来た。
夜も来た。
そして何度か朝が来た。
新年の始まりは寝正月。
せめて三が日は働きたくないのですよ!
食堂に行けば誰かしら酒盛りしてて、親戚の集まりみたいだった。
そこに、ふよふよと蝶が飛んできた。
真っ白で美しい。
うっすらと銀色に光っている。
「あら、ブンチョウね。誰宛てかしら?」
同じテーブルに座っている女性が一番に気づいた。
蝶はひらひらと私の方に飛んできた。
指を出すとふわりと止まり、紙へと変わる。
ぶん、ちょう……ああ!鳥の文鳥じゃなくて『文』の『蝶』ね!
ダジャレかっ!?
手紙を開くとシロクマちゃん達も覗き込んでくる。
内容は……
『寂しいです。リンスィールより』
ああ、リンスってばこっちに残ってたのね。
最後に会ったのは10日以上前か…
しょーがない、カップ麺の食べ方でも教えてあげようかな。
「これ、どうやってお返事するの?」
「これにー」
「お手紙ー」
「書いてー」
シロクマちゃんに貰ったのは普通の便箋。
『明日の正午に迷宮の0階で会おう』と返事を書いた。
シロクマちゃん達に渡すと、四つ折りにして【エスト・パーピリオ(蝶になれ)】と唱える。
すると便箋は蝶の姿となる。
ラムネちゃんが作った蝶は水色のオーラを纏っている。
それは少し羽ばたくとすうっと消えた。
ほえ~、あれが文蝶かぁ。
居場所のわからない人の追跡に使えると思ったが、あの調子なら、瞬間移動して受取人の前に現れるんだろうなぁ。
翌日のお昼、迷宮に行くとリンスはもう来ていた。
満面の笑みでシロクマちゃんに抱き着いた。
「そんなに寂しかったのなら実家に帰ればよかったのに」
「実家、遠いんですよねぇ」
転送魔法使えるクセに。
多分だけど。
以前、イチゴちゃんの転送魔法に干渉してきたもんね。
自身が使えなければそんなコト無理だろう。
「来てくれてありがとうございます」
「いえいえ。今年もよろしくお願いします」
ハイエルフと幼女+3匹はぺこりとお辞儀を交わした。
第6階層の売店に直行する。
年末年始は探索する人が少なかったからか、敵が多かった。
まあ、シロクマちゃん達がいるから平気だったけど。
隠し部屋である売店の操作パネルはちびっこには高い位置にあるのでリンスが開けてくれた。
手慣れている。
「そう言えば、リンスは冒険者なの?」
「いいえ、特にどこかに所属してはいないですねぇ」
「純粋に商人なんだ?」
「今は、そうですね」
長い時を生きていると、人生経験もとんでもないんだろうなぁ。
飽きたりしないのかな?
いや、リンスに関してはリアクションいいから退屈はしてなさそう。
「そういえば、お店ほったらかしてていいの?」
「ええ。気まぐれ開店なので大丈夫です」
「開店休業…」
「違います」
「でも、お店で他のお客さんに会った事ないよねぇ?」
「バッティングしないようにしていますから」
完全予約制みたいな?
セレブ御用達かっ!
「今日はカップ麺を食べよう。シロクマちゃん達は何がいい?」
「しょうゆー」
「シーフードー」
「カレー」
「にゃはは、それ味じゃなくて色で選んでない?」
「いいのー」
「ほんとにー」
「好きだからー」
「はいはい。じゃ、リンスは何にする?」
「これは何料理ですか?」
「ラーメンだよ」
そう、この世界にも普通にラーメンがある。
絶対、過去の転生者の努力の結晶だ!
「ほうほう、それは迷いますねぇ。ですが、カレーと言われると口がカレーになるのはどうしてでしょうね?」
「あるあるだね」
でも、私はシーフードにした。
カップ麺1個はメダル2枚。
前世より安いので、ちょっとお得な気分。
自販機に取り付けてある給湯器の扉を開けてセットしボタンを押す。
すると、ノズルがカップ麺にぶっ刺さり、お湯が注がれるのだ。
リンスは自動で行われる事に瞳をキラキラさせている。
「そして3分待つ。硬めがいいなら少し早めに混ぜて食べるといいよ?」
丸いテーブルに皆で座り、いただきます。
……………ああ、懐かしい。
たまに食べると美味しいんだよねぇ。
お腹もくちたが、口の中が辛いので今度は甘いものが欲しい。
アイスの自販機があった。
ペリペリと剥く順番を教える。
うん、チョコミントおいちぃ。
「もうすぐ【庭園迷宮】に行くことになったの。だから、他の自販機も全部教えとくね」
「もう、他所に行くのですか?」
「まあね。【巨大迷宮】はこのまま潜ると敵がどんどん強くなっていくでしょ?今の私達には荷が重いから、新たに【庭園迷宮】に挑戦するのは悪くないんじゃないかと思うの」
「そうですか……」
というわけで、缶ジュースのプルタブの開け方とか、パックジュースはストローを伸ばして刺すとか、温かい食事系自販機は出てくるのに時間がかかるから壊れているワケじゃないとか、自販機型コンビニは番号を入力しないといけないとか、おにぎりのフィルムの開け方とか、カップ麵の容器は直火厳禁だとか、全く知らない人に教えるのは骨が折れた。
そうそう、袋に一緒に入っている乾燥剤や脱酸素剤などは絶対食べちゃダメっていうのも忘れてはいけない。
1個ずつ購入してはやって見せて、アイテムボックスに放り込んでいった。
結構な量になったな。
改めて、普段何気にやってた事を再認識させられたわ。
それにしても、こんなにいっぺんに言われて大丈夫なのだろうか?
「わからない事があったら、また文蝶でお聞きしても?」
「うん。でも、戦闘中とかだったらお返事できないかも」
「ええ、文蝶は受取人に触れない限り消えませんので手が空いた時にでも確認をお願いしますね?」
空気を呼んで待ってくれる文蝶……魔法は偉大だ!
いつの間にか夕方になっていたので、今日はもう探索は終了だ。
リンスは残るというので別れた。
ボスをサクッと倒して帰る。
「そういえば、ここの冒険者ギルドってまだ行ったコトなかったね。素材を買い取ってもらいに行ってみよう」
「依頼もー」
「受けてー」
「ぼろもうけー」
シロクマちゃん達、『ぼろもうけ』好きだなぁ。
ギルドは低めのビルだった。
が、多分、隣のだだっ広い倉庫もギルド所有だろう。
まずは依頼版を見てみる。
う~ん、やっぱり浅い階層の素材を欲しがる人はいないか…
あ、第4階層のカニ風エイリアンは固定依頼だ。
大金貨3枚(=300万円)……たっか!
専門で回収作業すれば儲かるのでは???
買取カウンターのおにぃさんは優しげな雰囲気の若い男性だった。
「魔物の買取をお願いします」
Eランクの冒険者カードを見せる。
「承知しました。そちらの3匹ですね?」
カウンターのおにぃさんがシロクマちゃん達を見て笑みを浮かべた。
「……こっ、このコ達じゃありませんっ!」
ぴゅーっとナナの後ろに隠れてぴるぴる震える3匹。
「あはは、冗談ですよ」
ブラックジョークが過ぎるよっ!
おにぃさんに案内されたのは、やっぱり隣の倉庫だった。
「では、こちらに出してください」
アイテムボックス持ちだとわかってると言わんばかりの対応。
まあ、楽でいっか。
エイリアンの素材は持っていても仕方ない。
全部出した。
23階層分のボスと雑魚エイリアンなので山になった。
「これは…なんで第4階層のボスだけないんですかぁ」
目ざといな。
「食べた」
めっちゃガッカリされた。
「よかったら、今度持ってこようか?」
「是非お願いします!」
見た目に似合わず食いしん坊おにぃさん。
納品しても、おにぃさんが食べられるワケじゃないだろうに。
「最初はあんな値段ではなかったのですよ。ある日、とある貴族があのカニを大変気に入りギルドに固定で捕獲依頼を出したのです。すると皆がこぞって捕獲しようとしたのでボス部屋に長時間籠り作業する輩が大量発生して苦情が殺到したのです。なので迷宮内では回転率を故意に落とす行為は禁止されました。もし規則を破って解体しようとしても、カニが出る第4階層では5や10の階層でもないのに討伐に時間がかかるのはおかしいので、すぐに通報されます。発覚したらペナルティとして迷宮の立ち入りを1年間停止する事にしたら、素材を持ち帰れる人が激減してしまったのですよ」
えっ!?そのルールは知らんかった……気をつけよう。
いやでも、そんな理由で高級食材になったのか。
確かに美味しいんだけど、罪作りだなぁ。
おにぃさんは1匹ずつ自分のアイテムボックスに入れては、再び横に出していく。
「それ何ー?」
「何やってるのー?」
「なぁにー?」
「鑑定です。私のアイテムボックスは鑑定付きなんですよ」
「ほえ~、そんなモノもあるのねぇ」
鑑定は1匹につき3秒くらいなので、結構早く終わった。
「おにぃさんのアイテムボックスも結構大きいよね?」
普通は馬車の荷台くらいって聞いてたのに、6メートルの獣型エイリアンも収納してたし。
「まあ、この能力で今の職を得たようなものですからね。それに鑑定の為には中身は空っぽにしていないといけないので、使い勝手はよくないですねぇ」
私が現金で欲しいと言ったら、別部屋に案内された。
鑑定額は解体料金を引かれて、白金貨1枚と大金貨2枚(=1200万円)だった。
予想外!!多過ぎでしょ!?
よく即金で出せたね!?
「普通は、迷宮に潜ってもこんなに持って帰れませんからねぇ」
「アイテムボックスがなくても、リヤカーとかで運べばいいんじゃ?」
「まあ、サイズによっては解体しないと転移陣に入らないですし、何往復もしないといけませんからね。だからといって、迷宮内の魔物は1時間もすれば魔石を残して塵となって消えてしまいます。ボス部屋なら次の間の扉が閉まったら一瞬で消えますしねぇ」
「え?そうなんだ…」
「ですので、即解体して必要な部分だけ隔離しなければなりません。ほんのちょっとでも迷宮の壁や床に触れていると塵と化す部分が広がって全部消滅してしまいますからね」
「シビアだねぇ」
「なので、迷宮品は割高で取引されるんです」
シロクマちゃんを抱っこしたいおにぃさんは手を伸ばしたが、カリンちゃんはズサっと後ずさりした。
解体されて売り払われると警戒しているのだ。
「ほんとにジョークだったのに…」
ベソっとしてもシロクマちゃん達は近づかれた分だけ後ずさる。
あ、これ遊んでるな。
しばらくは逃げ続けるシロクマちゃん達に本気で落ち込んだおにぃさんだった。




