19
「捕まりそうになったら、私達を連れて一旦あのお姫様部屋に瞬間移動してくれる!?」
エレベーターの中でイチゴちゃんに縋りつく。
「もちー」
「ナナはー」
「わたし達が守るよー」
「ありがとぉぉぉぉぉぉぉ」
子供だからとか、他国の平民だからとかで随分と人権無視されてちょっとムカついちゃった!(テヘペロ☆)
物語では主人公はよく理不尽な目に遭うけど、自分がそんな事になったら『仕方ないよね』なんて簡単に受け入れられるワケないよね!?
第2皇子もグレアムもダンジョン・コアが欲しいからって他人に命を懸けさせることに何の躊躇いもないよね!?
日本に住んでたら、道具として利用されるなんて我慢ならないよね!?
部屋に着くと、急いで荷物をまとめた。
まあ、アイテムボックスに適当に突っ込んだだけだけど。
そして幼女+3匹は布団をかぶってブルブルと震え…てはいなかった。
次はどこに行こうか、などと逃避行計画で盛り上がっていた。
そこに、部屋のチャイムが鳴った。
来たか…
「………オレだ、ちょっといいか?」
意外な事に、来たのはアデル1人だった。
部屋に招き入れ、ソファに促す。
お茶は断られた。
まあね、さっきまで飲んでたからお腹タプタプになっちゃうもんね。
「先に言っとくが、お前には何の咎めもない」
「ホント!?」
「ああ、お前が席を立った後の事を話そう……」
とても硬い表情のアデル。
どんな事態に陥ったというのか…っ!?
グレアムの顔は見るからに青かった。
「申し訳ない。今日はこれにて失礼する…」
呆気に取られていたが、正気を取り戻した従者達が「あの者に処罰を!」と喚き立てる。
「煩い、黙れ…っ」
普段声を荒げる事のない領主の静かだが煮え滾るような剣幕に従者達は気圧されもごもごと声が小さくなっていった。
「いいのか?」
アデルが真偽を確かめようと集中し、睨むような表情となっている。
ビビる従者達。
「二言はない…が、改めて使者を送る」
「その時はオレもついて行くぞ」
「構わない」
「………というワケだ」
「短っ!深刻な顔して言うから極刑かと思ったわっ!」
「あははっ、従者共は去り際にまた喚いていたがな。………お前、過去に貴族に酷い事されたのか?」
「ふえ?ないよ?」
「だが、貴族が嫌いなんだろう?」
「いや、好きも嫌いも…貴族と会った事なんて、アデルが最初だったんだけど?」
「っ!?……じゃあ、オレの事、嫌いなのか…?」
「ほえ?別に、嫌いじゃないけど?」
さっきから話が見えない。
「…嫌いじゃ、ない?」
「そだよ?急にどうしたの?」
「いや…災害が通り過ぎるのを待っていたと言っていたから、お前も我慢してるんじゃねぇかって…」
ああ、グレアムに言った事を自分も貴族だからと気にしていたのか。
「あれは別に特定の誰かの事を言ったワケじゃないよ?なんていうか、一般論?当てずっぽう?」
「適当かよ」
「そそ、何かムカついたからガオっとしたくなっちゃっただけ」
しおしおしているアデルにシロクマちゃん達がモフモフ攻撃を仕掛ける。
アデルはイチゴちゃんを抱えてモフリ出した。
「オレも、周りに災害だと思われていたのかな…?」
「それはないんじゃない?アデルはちゃーんと好かれてるよ」
『エピタフ』の雰囲気はよかった。
アデルに対しても微笑ましい眼差しが多かった。
「そう、だろうか…?」
「もちー」
「だいじょぶー」
「好きだよー」
私も頷く。
「そっか……よかった…」
もふぅとイチゴちゃんのお腹に顔を埋めるアデル。
シロクマのお腹は犬と違って毛が生えている。
そう、柔らかい上にモフモフなのだ。
私も…
アデルの横に移動して、ラムネちゃんのお腹に抱き着いた。
ぐりぐりと顔を押し付けると、くすぐったいと身をよじる。
緊張は解け、笑いが零れる。
やっぱりモフモフは偉大だ。
闇討ちを警戒し、外出は控えて3日経った。
プール三昧だった。
シロクマちゃん達はシマウマ水着なのに、私に用意してくれたのはスクール水着だった。
別にいいんだけども…
また、私の頭の中覗いたんだろうなぁ……
「ナナ、迎えが来たぞ」
アデルが厳しい顔をしている。
私も気を抜かないようにした方がよさそう。
でも時間的に、馬車の中でお昼ご飯を食べた方がいいのかな?
11:30って、中途半端だよねぇ。
馬車が止まったのは宮殿前。
この街で一番高い建物だ。
用心の為、という事で、幼女+3匹はアデル達に抱っこされている。
玄関ホールは豪華だった。
SFで帝国軍だったらこうだよな、という期待を裏切らないデザイン。
なんで近未来なのにレトロな家具を置きたがるんだろうね?
アデル達もいつもとは違う正装をしているので場違いなんてことはない。
白ベースに金の縁取りに赤マント。
まるでこの宮殿の主みたいな雰囲気を醸し出している。
さすが貴族と元騎士。
ちなみに私もドレスを着ている。
ふふふ、カリンちゃんにお願いして作ってもらったのだ。
ドレスといっても、舞踏会みたいにひらひらロングではなく、フォーマルワンピースだけどね。
つまり、七五三である。
色味はアデルに会わせて白っぽくしている。
シロクマちゃん達は「ナナを護るのだー」っとレスター達と同じ騎士服を着ている。
ただし、上着とマントだけ。
何故か下ははきたがらない。
でも、めっちゃかわいいから写真撮りまくった。
グレアムが正面の階段から現れると私は降ろされアデル達は片膝をつく。
正式な訪問なので、王族相手の礼儀をとる。
そう言えば、礼儀は知らないや。
とりあえずラノベ知識のカーテシーをしたっきりアデル達の後ろで突っ立っている。
シロクマちゃん達は常に棒立ち。
キョロキョロしているけど、ウロチョロはしないでね。
アデルとグレアムがなんか話していたけど、先日の事には一切触れずに上辺だけのご機嫌伺いをしている。
で、別室での会食となった。
あるぇ?こないだの事で呼ばれたんじゃないの?何で食事??
晩餐会が行われる程広くはない、デカいテーブルが1つある食事室。
サイラスとレスターは席にはつかず、窓辺で待機している。
今日は冒険者としてではなく、アデルの護衛として来たのか。
幼女+3匹はアデルの向かいに席が用意された。
あるぇ?めっちゃ上座じゃない?
長方形のテーブル、短い方の辺、入口から一番遠い席にグレアムが座ってるんだけど、長い辺に座るアデルがグレアムに近いのはわかるけど、私、アデルの真ん前だよ?
平民なのにグレアムに近くない?
シロクマちゃん達は私の横にいる。
椅子にはクッションが重ねてあって、高さ調整されている。
最初っから用意されてるという事は、幼女+3匹も持て成すつもりだったってコトだ。
なんのドッキリかしら???
食事に毒が入ってたりしないよね!?
一応鑑定してみたけど、高級食材って事しか書いてなかった。
食べていいのか…
意を決して真鯛のカルパッチョを口に入れる。
美味しい。
内陸なのに、新鮮な生魚。
なんだか、日本人が好みそうな味付け…?
フルコースはちゃんと子供用の量で出された。
おかげで無理せず残さず食べられそうだ。
ふと気づくと、サイラスとレスターが驚いてこっちを見ていた。
何だろう?何か粗相をしてしまったのだろうか?
後で聞いたら、テーブルマナーがちゃんとしていて貴族といわれてもおかしくなかったんだと。
大袈裟だなぁ、日本人だってナイフとフォークは使えるよ。
デザートはパフェだった。
飾りのチョコにキャラクターが描かれていて、目が釘付けになった。
これ、ドラ…耳をネズミに齧られた猫型ロボットじゃ!?
そろ~っと隣のイチゴちゃんのパフェを見ると、黄色の電気ネズミだった…
チラっとグレアムを見ると目が合った。
にっこりと意味深な笑顔を向けられる。
なるほど把握。
なんとなく全部を悟ったよ。
まずは猫型ロボットチョコを口に入れて時間をかけて味わう。
そして、グレアムを見て一言。
『…日本語でおk?』
『ええ、もちろん。この後、別室でお話など如何ですか?』
日本語で語りかけると、流暢な日本語が返ってきた。
「なんだ?今の言葉…」とアデル。
そうだよね、この世界の言葉って少数民族が独自の言語を持っているけど、全ての国が共通語を第一言語にしてるからその他の言語を耳にする事は滅多にないもんね。
「これは私の母の出身国の少数民族の言語ですよ」
「それを何故ナナがしゃべれる?」
「はいはーい」
「わたし達もー」
「しゃべれるよー?」
グレアムがいけしゃあしゃあとウソをつき、シロクマちゃん達が無意識にかき回す。
私はこれ以上ややこしくなんないようにだんまりする事にした。
食事を終えるとナナだけ別室でお話を、となったのだが、アデル達が反対した。
抜刀しそうな勢いのアデルをサイラスとレスターが抑えるが、2人もまたナナが1人になる事を反対してきた。
このままではやらかしそうなので隣室での待機なら許す、という事になり、皆で移動する。
アデル達がめっちゃ警戒してるけど、大丈夫だよ。
だってオタク用語が通じるのなら、異世界モノにおいてとある共通認識があるから。
それは、悪役ムーブをかますと『ざまぁ』される、だ。
シロクマちゃん達はリラックスしている。
もうグレアムの事は敵認定が外れたのだった。
なので服は脱いでいるし、生まれる前からの友人だったかのように馴れ馴れしい態度をとっている。
まあ、グレアムは懐かれてデレデレしてるから注意しなくていいかなぁ…
案内された先はグレアムの執務室だった。
従者も全て追い出され不服そうだったが、幼女を攻撃する者はいなかった。
グレアムの主としての力量は本物らしい。
「やっぱりあなたも転生者だったんですね?」とグレアムが切り出した。
「うん、元日本人だよ」
万が一盗聴されてもいいように、すべて日本語で話す。
「この世界の人間だったら、王族に普通に意見するなんて有り得ないし、あの考え方自体もあり得ないと思ったんですよ」
「まあ、そうだよね。そして普通ならその場で私は斬り捨てられてもおかしくなかったよね」
あの時はテンパってて、グレアムが転生者の可能性に気づかなかったわ。
「俺が転生者でなかったら、そうなっていただろうな。さて、どこから話そうか……そうだな、俺は前世で生臭坊主だったんだわ」
「自分で言う?」
室内を散策していたシロクマちゃん達が一斉にグレアムの頭を見た。
やめて、吹くわ。
「修行に馴染めず寺を飛び出し上京して遊び惚けてなぁ」
「まあ、世間を知らない坊主に説法されても説得力ないと思うし、いいんじゃない?」
「お前、いいこと言うなぁ」
「いや、めっさ薄っぺらいと思うよ」
「いや俺は気に入ったね、あんたの事。っと、どこまで話したっけ?ああ、そうそう、で、ヤンキーの喧嘩を止めに入ったら刺されて死んだんだわ」
「めっちゃ飛ばしたね。いいけど」
「そしたら、次に目が覚めたら白い空間に立っててな、目の前に宙に浮いたウィンドウがあったんだわ」
「へー」
「ん?お前は違うのか?」
「私は森でシロクマちゃん達がいた」
「ほー、人によって違うんだな。死んだらご先祖様が迎えに来て、極楽浄土に行くのかと思ってたんだがな…まあ、お迎えがいないのなら、目の前のウィンドウに従うしかねぇなって事で質問に答えていって、気が付いたら7歳児だったワケだ」
「ほうほう」
「魔法って言われたからファンタジーの世界だと思い攻撃系の極振りにしたってぇのに、蓋を開けてみれば皇子とかなぁ」
「いいじゃない。【Q5】で権力を願ったんじゃないの?」
「お、その通りだ。『今世は人の為に何かを成し遂げたい』と入力した」
「【Q5】が生まれを決める要素なんだってよ」
「お前はよく知ってるな。俺はココが何の物語の世界か知らなくてな、まあ、何かあったらシナリオの強制力が働くだろうと適当にロールプレイしてたんだ」
「シロクマちゃん達はココは物語の世界じゃないからシナリオ改変とか考えなくていいって言ってたよ?」
「そうなんだよなぁ、先日のお前の言葉でココが現実だと俺も気付いた。だったら、自分の立場にも言動にも責任を持つべきだと反省したんだ」
「あ、あの時はゴメンね?なんか人権無視された感じがしてイラっとしちゃって、つい…」
「いや、こっちこそすまん。反省してる。人としてアレはなかった」
兄弟が子供を道具のように扱おうとしていたのに、助けるでもなく更に利用しようとしたんだからな。
ガバリと頭を下げるグレアム。
いや、そこまで真剣に謝られるほど怒ってないわ。
「はい、ちゃんと謝罪は受け取った。もうこの話はおしまい。ね?」
和解でき、2人の空気が変わった。
同郷という絆が芽生えたのだった。
「お前、前世は何やってたんだ?スペック高そうだよな」
「普通の書店員だよ?」
「へぇ、物知りそうだもんな。納得」
「店長候補に指名されそうだったんだけどね、丁度結婚する事になって若い有能な男性を推薦して辞めたけど」
「既婚者か」
「そ、新婚だったんだよ、死んだ時……旦那とドライブしてたら交通事故で…」
山道で、対向車を避けたがガードレールを突き破って真っ逆さま。
あれでは旦那も生きてはいないだろう。
一緒に転生出来たらよかったのに、2人して宝くじに当選するのは不可能だろうなぁ。
「まだ、未練がありそうだな?」
「うん、まだ、愛してる……記憶があるのも、こういう時は辛いよね…」
沈黙が落ちた。
察したシロクマちゃん達がモフモフ攻撃してくる。
「大丈夫。泣いてないよ」
3匹を抱きしめると、本当に心が温かくなるのだ。
「んじゃ、とりまよろしく頼むわ、ナナ」
「こちらこそよろしくね、グレアム」
立ち上がって握手をする。
わだかまりはもうない。
「で、だ。お前、強いよな?」
転生者なんだから当然チートだよな?と副音声が聞こえたが…
「いや、実はよわよわで…」
選んだステータスは『LUK』と『INT』でギフトは『収納』『言語習得』『鑑定』と言うと、グレアムは真面目な表情でゲンドウポーズをきめた。
「ラノベはあんまり読んでなかったか?」
「いや、有名どころは読んだよ?」
「で、そのチョイスか?」
「だって、スローライフがしたかったんだもん。戦闘能力なんていらないハズだったんだもん」
「魔法のある世界でそれはない。ないわー」
「ぐっ、じゃあ、グレアムは何を選んだの?」
「俺は主人公を意識した戦闘特化だ」
「ふうん…未だに中二病か」
「違うわっ!」
図星をつかれ、カッと顔が熱くなったグレアム。
誤魔化すように吠えた。
「じゃあ、スライム倒せる?」
「は?当然だろ」
マジで何言ってんのこいつ?って顔をしたグレアム。
ああ、やっぱ私だけがノーコンか……
「スライムにファイアーボール当てるの難しいよね…」
ゲンドウポーズ返しをするナナに半目になるグレアム。
あ、馬鹿にされたとナナは思ったが、グレアムは思い当っていた。
実は素早いスライム。
小さな獲物に小さなモノをぶつけるのは実際難しいと思う。
機会はないだろうが、もしスライムを相手にする事があったら飛び道具はやめておこうと胸に刻んだグレアムだった。
「俺が皇帝になる為にはお前らの協力が不可欠なんだが、大丈夫か?」
「えー、幼女の力がないとなれないの?」
「噂だと規格外だって言われてたからなぁ。それに、お前自身じゃなくてノア王国の援助を期待してたんだが」
「どうせよわよわの幼女でーすよー」
「そうだ、お前、俺の母の故郷のやんごとなき人物かもしれねぇって事にしていいか?」
「私、親無しの捨て子って事になってるからいいのかな?」
「お前がある程度の身分じゃねぇと連絡とるのすら面倒だからな」
「ふうん、んじゃ、そういうコトで」
今後の相談をすべく、グレアムはデスクの上のボタンを押してアデル達を呼んだ。
「というワケで、まずは謝罪と、お近づきの印に土地と迷宮の返還ですよね?」
明日晴れだったよね?的なノリでサラリと言ってのけたグレアムに、思いっきり顔をしかめたアデル。
声を発していなくても、『上等だゴルァ!』と表情が言ってる。
「何が『というワケ』だ。ちゃんと説明しろ」
アデルはもう態度を改める気はないようだ。
「アデル、大丈夫だから。和解したし、もうお友達だから」
「はい。ナナとは今後とも仲良くさせていただきます」
「気安く呼び捨てにすんな、ガキが」
「保護者ですか、あなたは。それに立場的には妥当かと?」
「グレアムも煽らない」
何故か15歳のアデルと12歳のグレアムがバチバチしてる。
めんどいなぁ。
「では、改めて私と手を組みませんか?クロフォード男爵の三男、アデライト・クロフォードさん?」
ん?アデルの本名、今知ったわ…




