15
いやー、急にホームシックに陥ってしょもしょもしちゃったけど、シロクマちゃん達にモフモフ攻撃されたら浮上するしかないでしょ。
幼女+3匹に割り当てられた部屋は上から2番目の24階。
サイラスとレスターと同じフロアだ。
1フロアに6住戸。
A級パーティーの皆は全員が角部屋がいいというので、23階を貸切っているという。
なので、24階はまだ余っていたのだった。
幸運先生がお仕事してる。
25階のペントハウスはアベルの部屋で従僕がいる。
先に来て部屋を整えていたらしい。
アデルって、本当に貴族だったんだ…
「家賃はお前が成人するまで取らないからな」
「え…そんなに何年も甘えていいの?」
「オレがパトロンなんだからいいんだぞ」
「パトロン…淫靡な響き…」
「何だって?」
「何でもないない」
いやぁ、パトロンって現代日本人にはそっち方面の意味にとってしまうよねぇ。
でも、ずっと宿に泊るのもなんか疲れるし、かといって賃貸なんて幼女に貸してくれないだろうし、助かるわぁ。
街は快適だった。
備え付けの家具家電は現代日本の品質でデザインは近未来風。
蛇口を捻るだけで水もお湯も使い放題。
自動ドア、エレベーター、エスカレーター、オートウォーク完備。
ニューヨークのセントラルパークみたいな憩いの場。
夜でもしっかりと明るい街灯。
眠らない歓楽街。
ただ、交通だけは路面電車しかない。
独立して自由に動く物は制限されている感じだ。
総評、『そりゃ、戦争してまでも欲しいだろうさ』である。
翌日、『エピタフ』のメンバーを転送する作業が始まった。
イチゴちゃんだけ送り出すのは心配だったので、私も必ずついて行った。
2パーティーずつ12回に分けたので3日で終わってしまった。
だが、急に予定が繰り上がったので、既に発注していた本部で消費するハズだった食料は随時こっちに転送する事になっている。
そして早速アデル達は迷宮に潜るらしい。
ラウンジで相談している所に行き当たった。
「お前達も一緒に来るか?」
「え?でも、アデル達って下層から始めるんでしょ?命の危険を感じるから、地道に最初からチャレンジするよ」
「そうか…資料室に地図があるから写して行けよ」
「ん~、全部自分達で作りたい」
「…お前、すでに沼ってたんだなぁ」
別にオタクじゃないやい……いや、オタクかも…
前世では収集癖があってガチャガチャで動物を集めてたなぁ。
何一つ、手元に残らなかったけど。
「1階だからって油断するなよ。迷子になっても誰も助けてくれねぇんだからな」
「緊急脱出するアイテムとかは?」
「そんな便利なもんあったら、誰も死なねぇ」
お、おぉぅ…やっぱり悪魔のお城なんだなぁ。
侵入者はそう簡単に帰しませんってか。
この世界には蘇生魔法はないからねぇ…
「知らない人間について行くなよ」
「え、うん」
「トラップに十分気を付けるんだぞ」
「あいよ」
「無理だと思ったらすぐに引き返すんだぞ」
「にゃはは、またオカン発動してる」
迷宮までは一緒に行くことになった。
A級パーティー『アルゴス』のヒューバート達に抱っこされながら。
シロクマちゃん達は肩車されてキャッキャと楽しそう。
実はちびっこにとって人混みの中を歩くのは中々に恐怖だ。
1度シロクマちゃんと同じ姿になったからわかる。
大人は巨人に見えるし、常に蹴られそう、踏まれそうに感じるのだ。
迷宮の真下は公園で、中心に建物があった。
中は結構広く、エレベーターのブースみたいなのがいくつもある。
お店もいっぱいある。
「ここは0階と見做されている。迷宮じゃないってコトだな。じゃあ、オレ達は51階だから先に行く。お前達はまずは売店を見て回れ。色々勉強になる筈だ」
「がってんー」
「しょうちー」
「かんしゃー」
「ありがとね」
アデル達はエレベーターみたいな装置に入ってふっと消えた。
扉は透明なので全部見えた。
あれが転送装置か…
とりあえず、忠告通り売店を見て回る。
売っているのは回復薬や携帯食だけではなかった。
武器・防具まである。
冒険者ギルドの売店のよりもかっこいい。
そしてセーブクリスタルと地図を売っている。
あと細々した情報も。
クリスタルは5階のデータで銀貨5枚。
結構リーズナブルなのね。
と思ったけど、20階のは大金貨1枚=100万円だ。
高っ!
まあ、パーティーで割り勘したら不可能ではない?
とはいえ、お金がかかる事に変わりはない。
大企業チームが強い訳だ。
そして地図……チラリと見たら、同じ階層でも数種類あった。
ランダムダンジョンではなくて、書き込み具合で値段が違うようだ。
地図もクリスタルと似たような値段だったから、各階数分全部買おうとしたら天文学的な数字になりそうなんだけど…
だから、クランで地図を共有してたんだね。
買ったのか自力で描き込んだのかは知らないけど、最早、財産だろう。
それを簡単に見せようとしてくれたアデル。
感謝より心配が勝る…
売店を見て回ってわかったコト。
ランダムダンジョンではない。
謎解き要素あり。
情報は高い。
売っていた武器・防具は迷宮内で亡くなった人の遺品である。
探索者とは別に、回収屋がいる。
追い剥ぎに化けない事を祈る。
「じゃあ、私達も行こっか」
「うえ~い」
「いよいよー」
「冒険だー」
転移装置の扉は中から『閉じる』ボタンを押すと外からは開かない。
人がいないブースは扉は開いたまま。
セーブクリスタルを差せば何階層行きのボタンが使えるが、クリスタルを持っていない人は上向きの矢印ボタンしか使えない。
ボタンを押すと足元に魔法陣が現れる。
そうか、転送事故が起きないように中からしか扉が開かないようになっているのか。
はい、やって来ました第1階層です。
そこは本当に巨大スペースシップのロビーようだった。
いや待って、いきなり廃墟なんですけど!?
薄暗いんですけど!?
SFホラーなんですけど!?
エイリアンいるよね!?
私にとってエイリアン代表ってエイリアンなのよ!
何言ってるかわかんないだろうけど!
「皆、ヘルメットかぶろうか」
「「「おけー」」」
【ライト(光)】は明るすぎて、敵から先に発見されやすいと思う。
ヘルメットの頼りない光なら、目立ち過ぎずにお互いを見失わない。
「ナナー」
「マッピングはー」
「よろしくねー」
「お、おぅ……」
マッピングに関しては大丈夫。
エピタフ本部の図書室で『地図を自動で生成する魔法』を覚えたから。
古代語で書かれていたから誰も読まないのか埃をかぶっていたけど。
「【マッピング(図化)】」
買っていた羊皮紙に自分を中心に半径8メートルが記録される。
部屋に入ればその部屋全体が描き出される優れモノだ。
魔法を発動させるには羊皮紙限定ってのが古代魔法らしい。
「みんな、敵が現れたらまず隠れよう」
「なぜー?」
「なにー?」
「どしてー?」
「だってさ、SFホラーって言ったら、逃げゲーじゃない」
言ったら、シロクマちゃん達の目がキラリンっとした。
「逃げゲー」
「ステルスー」
「ロッカーハイドー」
ロビーからまず右側のドアに進む。
中央の扉は大きくて、メインルートっぽいから後で。
ラムネちゃんが【千里眼】でソナーの役目を果たし、他の2匹はアイテムや謎解きのヒントを探しまくる。
さすがに目に見えるところにアイテムは残っていない。
宝箱は一定時間で再生するらしいけど、他のアイテムは誰か持ち去ったままだろう。
謎解きのヒントだったらどうしようもないのだけど。
敵に遭遇する事もなく、全ての扉を開いて中を確認していく。
ここは最初のフロアだから誰かが倒してしまったのかもしれない。
でも、そうじゃなかったら扉は自動ドアなので、魔物も侵入してくる。
油断せず行こう。
たまに人とすれ違うけど、逆にこういう人達の方が怖い。
いつPvPに発展するかわからないからだ。
だが…
「あら、子供だけ?」
「仲間と逸れちゃったの?」
「出口はあっちよ」
「私達がついて行こうか?」
そんなことばかり言われる。
優しい世界だ。
でも、迷宮での施しは自身の死に繋がるって何かで読んだよ?
次の階に直行せずにこんな所にいるってことは初心者でしょ?
他人の心配してる場合じゃないよ。
まだ1階だからって油断しちゃダメだよ。
だいぶ地図も埋まってきた頃に気づいた。
あの壁の扉って、開くんじゃない?
ゲームだと、回復アイテムとか入ってそうな小さな扉。
アイテムボックスから踏み台を出して、よっこらしょっと位置を微調整する。
ケースハンドルっていうの?円の中の棒を回して開けるタイプの取っ手を回す。
中には何もなかった。
やはり、気が遠くなるほど昔からあるものだから、宝箱以外は期待できないか。
「何かがこっちに来てる!」
ラムネちゃんの報告で皆で同じロッカーに隠れる。
電子ロックっぽい扉だから、全部閉めたら開かなくなったら困るから薄く開けたままにする。
ガタン、ガタガタガタガタ…
ちょっと!ダクトの中を何かが走ってるよ!
絶対アレだよ!
ガシャン!とダクトカバーが開いて何かが落ちてきた。
シューっという息遣いが聞こえる。
部屋の中の気配を窺っているようにゆっくりと歩き回る。
それが足を止めた。
ロッカーの前だ。
ドキドキする。
まだ動かない。
疑っているのだろうか?
すっと腕が伸ばされ、扉の隙間から指が侵入してきた。
キィィィィ…
ほんの数秒だったはずだ。
それはじっとロッカーの中を見て背を向けた。
再びダクトに飛び移り、どこかへと去って行った。
「ひえぇぇぇぇぇ、焦った…」
ゲームでよくある隣の扉が開かれた訳ではない。
ちゃんとナナ達がいるロッカーを開けた。
が、皆ちっこいのできゅっとしゃがんで段ボールをかぶったのだ。
ステルスといえばコレだよね。
段ボールは万能なのだ!
魔物はやはりSFホラーに出てくる敵みたいに異形タイプだった。
「あの魔物の素材って売れるのかな?」
「倒してみるー?」
「魔石は欲しいねー」
「今度はやっつけよー」
が、探すといなくなるのは何でかな?
とうとうボス部屋前までやって来た。
いくつかのパーティーが順番待ちをしている。
中の人間がフロアボスを倒し、奥の部屋に行かない限りボス部屋の扉が開かないのだ。
待っている間にまだ完全に出来上がっていない地図を埋めに行くか迷ったが、戻って来た時に列がはけているとは限らない。
まずは5階の中ボスを倒してセーブクリスタルを手に入れないと、また明日も1階から始めないといけなくなる。
迷宮に入って、既に1時間以上経っている。
なので大人しく並ぶことにした。
が、さすがに第1階層なので回転が速い。
手間取ったと思われたくないのか、次々と進んでいく。
そして私達の前に並んでいたパーティーがボス部屋に入って行った。
「ねぇ、あなた達、さっきの人達と同じパーティーじゃなかったの?」
後に並んでいたおねぇさん達が声を掛けてきた。
「違うよ。私達は4人組だもの」
「えっ、じゃあ、私達と一緒に行く?」
「大丈夫だよ。シロクマちゃん達強いから」
ボスを倒したら宝箱が出てくるのだ。
そういうので揉めたくない。
ドアが開いた。
おねぇさん達は心配そうな瞳で見送った。
「うわぁ、そうきたか…」
立ちはだかったのはエイリアンはエイリアンでも『グレイ』だった。
ひょろりとした体躯に大きな頭、大きな黒い瞳のステレオタイプだ。
カリンちゃんが【スロー(減速)】と唱えながら銃を撃ったと同時にラムネちゃんが居合切りした。
宙に舞う頭。
一瞬だった。
「さすがだねぇ。でも、あれアイテムボックスに入れたくないなぁ」
泣き言を言ったらイチゴちゃんがあっさり魔石を回収して収納してくれた。
ありがとう。
宝箱が出現した。
「開けてみて」
「何言ってんのー」
「『LUK』カンストのー」
「ナナが開けなきゃー」
いいの?と確認して開けてみる。
中に入っていたのは指輪だった。
鑑定してみると
【神速の指輪】:素早さ大幅アップ。身体的負担の軽減効果あり。
「やったじゃんー」
「これはナナにー」
「必要なものだねー」
確かに、これがあればシロクマちゃん達の動きについていけるかも。
「私が付けていいの?」
「「「あったりまえー」」」
「ありがとう!」
3匹をぎゅっとする。
「ほらほらー」
「早く行かないとー」
「次の人が待ってるよー」
指にはめるときゅっと縮んで指にフィットした。
体が軽くなった気がする。
次の宝箱は、シロクマちゃん達に役立つものだといいなぁ。
幼女+3匹が奥の部屋に入ると、第1階層のホールの扉が開いた。
ハラハラして待っていたおねぇさん達は血の跡などがない事にホッとした。
その瞬間、自分達がボスの前に立っているのに緊張していない事に気づいた。
おねぇさん達もアッサリと次の階層に行く事が出来て、幼女+3匹に感謝した。
第2階層も引き続きSFホラーだった。
これは5階毎の中ボスまで続きそうだ。
途中、さっきのおねぇさん達と出会ったが、何故か感謝された。
シロクマちゃん達もなでくりなでくりされていたが、あれはパワースポット扱いだったように思う。
ふむ、モフモフは色んな意味で正義なのだ。
探索は順調に進み、第3階層までやって来た。
が、さすがにお腹が空いた。
食べる物ならたくさんあるが、どこで休憩すればいいのか?
魔物は自動ドアを通過するし、ダクトを通る事もできる。
最悪、バリア張って休むか。
地図をしっかり見る。
どこかに休めそうな場所はないかな?
ん?この部屋の向こうに部屋がある事になってるけど、入口が見えない…
隠し扉か?
シロクマちゃん達にも手伝ってもらって、何かギミックがないか探す。
「あったー」
「ここー」
「パネルがあるー」
倒れたロッカーの後ろに操作パネルがあった。
パスワードがないと開かないと思ったが、これはパズルタイプだった。
赤いブロックを出口に持っていくスライドパズル。
わぁ、懐かしぃ。
得意なのでちゃきちゃき動かしてアッサリ解いた。
すると隠し扉が開いた。
中に入る。
どこも壊れてない。
明るくてキレイだった。
もしかして…
鑑定してみたら、やっぱりゲームでよくある『セーフゾーン』だった。
武器や回復薬が置いてあり、敵が入って来ないスペース。
実際、棚には色々物が並べられていた。
でもとりあえず…
「やっとご飯食べられるね」
幼女+3匹は床にレジャーシートを敷いてお弁当を並べた。




