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「アデル、迷宮攻略について教えて」


シロクマちゃん達と一緒に、アデルの執務室を突撃した。


「なんだ、一緒に来る気になったか?」


「一緒に行けるか判断する為に聞くんだよ」


「お前等なら問題ねぇぞ?」


「ほんとに?洞窟で【インフェルノ(地獄の業火)】撃ってもいいの?」


「それはヤメロ」


「俺等が教えよう」


サイラスがすっと割って入って来た。

ふむ、やはり洞窟で上級魔法はヤバかったか…


「アデルは手ぇ動かせ」


レスターも応接セットのテーブルの上を片し、お茶の用意をする。


「………オレも休憩を」


「仕事が終わらなければ、お前は留守番だぞ?」とサイラス。


「うぅぅ、オレばっかり忙しい」


イチゴちゃんが癒しのよしよしを施してあげた。

カリンちゃんはデスクに乗り上げ「がんばれー」と応援しながら見守り、ラムネちゃんはお茶を入れる手伝いをする。


「後ひと月で出発でしょ?」


「そうだ。おかげで準備に追われている」


「何人くらいで行くの?」


「96人だ。お前ら入れたら丁度100人だな」


「凄い人数だね。『エピタフ』って、そんなにメンバーいたんだ?」


「ここには200人くらいだが、世界中に支部があって総勢1000人くらいいるぞ。全員がこの街を出ると冒険者ギルドが立ち行かないから迷宮行きは半分な」


思ったよりいっぱいいてビックリだ。

それにしても、本部の人間が半分も大移動するなんて…


「本気なんだね?」


「ああ、今回の遠征で完全踏破を目指す。まず来週に第1陣が出発する。1週間おきに4回に分けるんだ」


「大人数の移動が大変だから?」


「1人分の食糧と、100人分の食糧を運ぶのはどっちが大変だ?」


「全部アイテムボックスに入れるから同じ」


「ああ、お前らはそれでいいだろうが、普通はアイテムボックスの容量はせいぜいマジックバッグ2、3個分なんだぞ」


そういえば、転生時に特典で貰ったスキルなどは最初からMAXの状態だったらしい。

アイテムボックスに関していえば、容量無限である。


「最初の30人が先に現地入りして『エピタフ』第2の拠点の準備をする」


「第2の拠点?」


「100人がいっぺんに泊まれる宿はそうそうねぇからな。昔から名のあるクランは各迷宮都市に拠点を持っている」


クランはたいてい故郷で設立する。

『エピタフ』の場合は城塞都市ワンダーウォールだ。

そして、世界中にある13の迷宮都市に支部を作る。

迷宮攻略の為だ。

各支部を維持する為に常駐するクランメンバーもいるが、基本好きな迷宮を攻略している。

いつでも拠点を使えるようになっているとはいえ、大人数でいきなり押し掛けるのは、主に食糧事情が関わってくるので下準備がいるそうだ。


「お金かかりそう」


「組織が大きければ資金も集まる。規模が小さければ宿でも事足りる」


そういうもんか?

修学旅行って平気で数百人単位で行動してたよね?

乗り物の問題かしら?

こっちの世界では大人数での移動が常識じゃないから、宿なども対応していない、と…


「そう言えば、探索者の事は知っているか?」


レスターがお茶とお菓子を持ってきてくれた。

テーブルに置いたトレイからラムネちゃんが配ってくれる。

ありがとね。


「んーと、ギルマスが言ってた探索者のプロとか、セディの言ってた迷宮調査団とかのコト?」


「そうだ。冒険者と別の呼び名がされる別物だ」


探索者は冒険者とは違ってギルドの依頼を受けることはない。

純粋に迷宮に潜る者達の事を言う。

優秀な探索者のパーティーにはスポンサーがついたり、企業そのものがパーティーを抱えていたりする。

今回、『エピタフ』が狙う【巨大迷宮】の踏破階数で見るトップランカーは大企業の所属パーティーだ。

やっぱり企業が強く、ランキング上位はほぼ大企業。

歴代トップは第90階層到達。

ただし、フロアボスを倒せなかった。

そして現在活動中のトップランカーは第85階層で止まっている。

第81階層から急に攻略困難になるそうだ。


迷宮の構成は以下の通り。

上層 1~25階層

中層 26~50階層

下層 51~75階層

深層 76~99階層

最深部 100階層


5の付く階層に中ボスが出て、10の倍数階層にボスが出る。

第100階層のラスボスを倒せば踏破となる。



「先発隊が先に迷宮に潜り、俺達は第51階層から始める」


「えっ、途中から始められるの?」


「各フロアに魔法陣があってな、セーブクリスタルという魔道具を持っていると1つに付き12人まで転移魔法陣が使えるんだ」


そこはゲームシステムっぽいんだねぇ。


「それって、買わなきゃダメなの?」


「いや、売ってもいるが、第5階層の中ボスを倒すと出現する宝箱に必ず入っているんだ」


何回倒してもセーブクリスタルしか出ないので、周回して入口側の売店で売っている人がいるという。

つまり、第5階層まではすっ飛ばして第6階層から始められるのだ。

より深い階層のセーブデータが入っているクリスタルは高値で売れる。

でも不思議な事に、クリスタルを2個以上持って転移魔法陣を使うと、持っていただけのクリスタルは全部消えてしまうので、ズルして増やそうとしても駄目らしい。

なので、もうその迷宮の攻略を諦めた探索者達がその地を去る時に売る事が多いという。


「最初っから自分でクリアしていかないと気持ち悪い」


「お前はそういうタイプか。新品でないと駄目な奴と中古でもいいという奴の2種類しかいないよな」


「俺等も最初は新品一択だったが、1年も放置すればセーブが初期化されるからな。また第1階層からというのは正直面倒だ」


「私達は自力で第1階層からちゃんとクリアしていきたい。でも、迷宮都市に自力で行ける気がしない。というワケで、私達を雇わない?」


「雇う?探索者のプロとして契約するという事か?」


「違う違う。迷宮都市までの移動補助だよ」


アデル達は噂でナナが王都までの護衛依頼の時に、荷物は全部アイテムボックスで運び、トイレとお風呂を持ち運び、ログハウスで寝起きしていた事を知っている。


「宿代タダ。馬車の数も節約。ただし、見張りは必要」


お子様に夜更かしは難しい。

休む方も、気が気じゃないと思うし。


「移動なら、私の得意分野ー」


イチゴちゃんがアデルに抱きしめられながら手を挙げた。


「1度行ったトコなら、転移魔法で行けるよー」


初耳ですがな!

シロクマちゃん達以外が驚いていると、フッとイチゴちゃんを抱っこしているアデルごと消えた。


ものの数秒で戻ってきたが、何故か全身ずぶ濡れ。

俯いてぷるぷる震えているアデルに、一緒に濡れネズミになったイチゴちゃんがしょんもりと「ごめんちゃいー」と謝った。


とりあえず、2人に【ドライ(乾燥)】をかけて落ち着かせた。

そして何があったのか訊ねたが、アデルが頑として言わなかったのでその場ではそれ以上聞かなかった。

後でイチゴちゃんに聞いたら、転送できることを証明しようとして魔法を発動したが移動先を女風呂にしてしまい、朝風呂を楽しんでいたおねぇ様方にお湯をかけられたらしい。

痴漢や変態と叫ばれたアデルは完全に濡れ衣だ。





一旦、移動補助として雇うかどうかは改めて返事をすると言われたので自室に戻った。


「さてと、迷宮に潜ると言っても中で寝泊まりする必要はないみたいね?他に何が必要だと思う?」


「「「お菓子ー!」」」


「ウィルにいっぱい買ってもらったし、神様にも貰ったでしょ?」


他に何が必要か、む~ん、と皆で悩む。


「丸焼きー?」

「唐揚げー?」

「カレー?」


「そうだね、いっぱい作り置きしておこうか」


てなワケで、早速イチゴちゃんの転移魔法で最初の森にやって来ました。

移動酔いとかもなくとってもらくちんだった。


早速、イノシシの丸焼きを作るシロクマちゃん達。

焼いている間に、カリンちゃんが巨鳥を獲ってきた。

すぱぱぱーっとブロックに捌いてくれたので、私は唐揚げ用、照り焼き用など色々なサイズに切り分けて保存する。

丸焼きも出来上がり、今度はリンゴや栗、山菜やキノコを集めた。


そういえば、薬草は買取価格がめっちゃ安かったけど、自分でポーション作ればよくない?

作り方わかんないけど、持ってたらいつか使えるかもしれない。

おん?もしかして、私の【鑑定】でポーションを見たら、材料分かったりしない?

アイテムボックスから、以前錬金術師のおにぃさんにもらった魔力ポーションの飲み残しを取り出す。

持っている現物はこれだけ。

これでもし材料が判明するなら……


【鑑定】

マナ・ポーション(上級):飲むと魔力がほぼ回復する。材料は魔法水・薬草・魔力草・月光草・竜血樹の樹液・銀龍草・星乙女・森の雫など。


え、ちょっと待って。最後の『など。』って何!?

全部を教えてくれないの!?

ガッカリだよ…


しょんもりしながら、【鑑定】が教えてくれる周辺の植物をブチブチと摘んでアイテムボックスに収納する。

シロクマちゃん達は【鑑定】はないけど、アイテムボックスに入れたら取り出す時にわかるからと、手当たり次第に収納してる。

丸ハゲにしないようにね。


お腹が空いてきたので拠点に帰ろうとしたけど、イチゴちゃんが転送してくれたのは見たこともない場所だった。


「あるぇー?」

「もしかしてー」

「失敗したー?」


どこかの路地裏。

人気がなくてヤバそうな感じ……


「もう一回飛ぶ?」


訊ねてみても、不安そうにしている。


「あれ?見たことある看板…」


シロクマちゃん達が駆け寄る。

ドアを少し開けてそっと覗き込む。


「あー」

「やっぱりー」

「エルフさんだー」


何!?そんな都合のいいことが起こるなんて…


「いらっしゃい。かわいらしい妖精さん達。ようこそ『幻想亭』へ」


「エルフさん、何かした?」


人を疑うのはよくないけど、ついつい半目になっちゃうよ。


「いい物が入荷できたのでお待ちしていたんですよ」


「いや、さらっと流さないで。転移中に干渉したでしょ?」


「だって、こちらから招かないとこのお店には入れないんですもん」


「『だって』とか『もん』とか言うな、おじぃちゃん」


渾身の嫌味がエルフさんを襲った。

クリティカルヒットしたみたいで溜飲が下がった。


「次からはお手紙下さい。そうしないと絶交です」


「ごめんなさい。お手紙書くから許してください」


「いいよ、おじぃちゃんー」

「年寄りはー」

「忘れっぽいもんねー」


シロクマちゃんにも『おじいちゃん』と呼ばれ、実は怒だと知る。

ほんとにゴメンね、とイチゴちゃんを撫で繰り回すエルフさん。


「で、見て欲しいのはこれなんです」


立ち直りの速いエルフさんに店の奥に案内され、見せられたのは『おままごとキッチン』。

前世で、子供用のおもちゃだけど本格的なの売ってたよね。

ピンキリだとは思うけど、何万円もするのネットで見たことある。

目の前にあるのは、全体的にはホワイト。

扉などの一部がペールグリーン。

シンクとIHコンロ、オーブン、そして冷蔵庫まで付いている。

プラスチックと木で出来てそうに見えるけど、迷宮遺物なら電気も使用可能だろう。


「こんなに小さなキッチン、妖精さんにピッタリだなぁって思ったんです!」


「妖精ちがう。ナナだよ」


「あ、私リンスィールって言います。おじぃちゃんはやめてね」


1万年以上生きているのに、見た目は20代だもんね。

それにしても、エルフの名前って発音しにくい。


「分かったよ、リンス」


「ん?中途半端なところで切るんですね?」


「子供の舌では発音しにくいの」


「単語的にはリンとスィールなんですが…」


「んじゃ、あだ名ってことで」


「リンスー?」

「なんかー」

「かわいいねー」


かわいいならいっか、とチョロエルフ。


「正直、このキッチン欲しい。聞くの怖いけど、これ、いくら?」


「銀貨1枚です!」


「あほかーっ!いい加減まともな商売をしろーっ!」


つい大声を出してしまった。

リンスったらほっぺが膨らんでいる。


「じゃあ、普通はいくらなんですか?」


すねエルフ。


「わかんないよ。キッチン買ったことないもん」


あ、私も『もん』って言っちゃった。


「値段リサーチしてくるから、お取り置きできる?」


「うーん、でも、他に欲しいって人がいたら売ってしまうかもしれません」


「えっ、絶対買うのに……」


「今買わないと、保証は出来ませんねぇ」


にやにやエルフ。


「うぅぅぅ、この商売上手め!」


「こないだは商売下手って言ってませんでした?」


「値段は下手だよ!じゃあ、今買う。いくらにする?」


「銀貨1枚ですよ?」


「当然でしょ?キョトン?って顔しないで」


「1ミリも負けませんよ?」


「安くしてどうする!」


「銀貨1枚です」


「…くぅっ、買った!」


「まいど~」


激安で買った方より、激安で売った方が満面の笑みってどゆコト!?


「まあ、これログハウスに設置したらもっと快適に旅ができるわ」


「また、旅に出るんですか?」


「たぶんね。もしかしたら、もう帰ってこないかも」


「何ですって!?それはどういう事ですか!?」


「迷宮に潜るから。いつ終わるかわかんないのよねぇ」


「迷宮に、潜るんですか?」


「………ハイエルフ的には、ダメかな?」


やっぱり、悪魔の復活を早める行為だと思うかな?


「いいえ、ただ、心配で…」


「大丈夫だよ。レベル上げしながら第1階層からゆっくり潜るから」


「レベル上げ?」


「あー、修行しながらって意味ね」


「迷宮の中は闇が深いです。あなた方を襲うのは魔物だけではありませんよ」


プレイヤーキラーみたいな事かな?


「盗賊とか?」


「ええ、そうです。新人狩りや快楽殺人など様々です。迷宮で死んでしまうと、遺体も装備も時間が経てば迷宮に吸収され跡形もなく消えてしまいます。よって、殺人が露見しにくいんです」


リンスはこれだけ迷宮遺物を持っているのだから、たくさん迷宮に潜ったんだろう。

そこで色々な経験をした。

これは生の忠告だ。


「心配してくれてありがとう。用心する」


「はい、気を付けて行ってきてください。それと、いらない迷宮遺物がありましたら、私に買い取らせてくださいね。高値で買い取らせていただきますよ」


商売熱心なのに、損得勘定捨ててるのよねぇ。

苦笑いのまま、リンスとお別れした。




今度こそ、自室に転移出来た。

食堂に行くと、アデル達がいた。

テーブルに着くと、早速移動補助の話となった。


「1週間後に出発するから、補助よろしくな」


妙に機嫌のいいアデルに告げられた。


「第1陣について行けばいいの?」


「転移魔法が使えるなら、最初のメンバーは少なくていいだろうって事で、オレ等『白刃の残光』の3人とお前らで行くぞ」


ほえ?

思わぬ展開だが、見知った人達との方が、楽で楽しい旅になりそう!


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