第1話 事故死、後に転生
静かで寒い、冬の夜。雪が降り積もる街には、人の姿はなかった。
私、時雨真央は24歳の会社員。高校生の頃に親を亡くし、それからはずっと一人暮らし。奨学金で大学に通い、卒業はできたものの、返済という一番の課題がいつまで経っても終わらない。
しかも最近、会社で私が貧乏だっていう噂が広がっているらしい。そのせいで同僚には陰口を言われるし、上司にはパシられるし。仕方ないじゃん、貧乏なんだからさ。
もう、なんなの?私が遅くまで残業してる時、他の社員がわざと私に聞こえるように「〇〇く〜ん、今から高級ディナー食べに行かな〜い?」「いいね、△△さん。ついでに、高級ホテルもどう?明日休みだし」って。
ちっ。そんな大きな声で言わなくても聞こえてるって。わざわざリア充見せつけないでよ。こちとら明日も休日出勤なんですけど。
そうやって頭の中で愚痴を言っていたせいだろう。私は、曲がり角の右からトラックが来ていることに気づかなかった。
「えっ?」
トラックは急ブレーキをかけたが、もう遅かった。私はトラックに勢いよくぶつかり、横断歩道の向こう側まで吹っ飛んだ。
身体中にものすごい衝撃を感じ、私はその場にぐったりと倒れ込んでしまった。痛い。というかぴりぴりする。身体が動かない。頭がくらくらしてきた。ボーッとする。
運転手が降りてきて、私になにか言っている。だけど、もう私にはなにも聞こえなかった。私、死ぬのかな?
でも、待てよ。死ぬってことは、今の嫌な生活から抜け出せる…?会社で、辛い思いをしなくて済む?そっか。そういうことか。それならーー
死んでも、いいかな。
ふと目を開けた。事故にあったはずなのに、全然痛くない。それどころか、さっきより身体が軽い。
周りを見渡しても、なにもない。ただどこまでも続いていそうな白い空間が広がっているだけだった。ここ、どこ?
「あら、目が覚めたのね」
「…?」
金色の冠をかぶった綺麗な女性が話しかけてきた。
「私はユミ。あなたから見ると神ってとこね」
「神様…?」
「あなたに用事があってね。単刀直入に言うわ。時雨真央、あなたは先程の事故で死にました」
「…はい」
「でも、あまりにも可哀想な終わり方だったから特別。神である私があなたを転生させてあげましょう。ちょうどあっちにも魂の空きがあるしね」
「…あなた、本当に神様?」
「そうよ。なにか文句ある?」
口元にお菓子のかすがついている、というのは黙っておこう。
「いえ、なにも。それで、転生って…魂の空きってどういうことですか?」
「違う姿となって異世界に生まれ変わること。そして、転生するときには異世界の魂の空きを使うの。魂の空きっていうのは、まぁ…簡単に言えば、その肉体の所持者が死んで、魂が抜けて身体だけが残された状態かしら。例えるなら、葬式に出す前の人間の死体ね」
「死体…中身が違う人に入れ替わるんですね」
「そうね。転生後のあなたの設定、うんといいものにしておいたから。異世界で目が覚めた時、大量の情報が頭に送られるからパンクするんじゃないわよ」
「うんと、いい設定…それって、大金持ちの貴族とか…」
「さぁ?どうでしょうね。それは転生してからのお楽しみ」
ユミさんがなにかを呟くと、足元に青い渦が出現した。ここに飛び込めってこと?
「ま、頑張りなさいよ。行ってらっしゃい」
今まで、貧乏で独りぼっちで辛い生活を送ってきた。だから、異世界では優しい家族がいる、お金持ちの貴族の娘になりたいな。魔法とか、使ってみたいな。
「行ってきます、ユミさん」
私は青い渦に足を踏み入れる。その後、小さく手を振るユミさんを背に私の意識は途切れた。だけど、意識が途切れる直前、私は聞いてしまったんだ。ユミさんの独り言を。
「転生するのが必ずしも人間というわけではないからね?」
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