第二章・終盤 「選ばれし拳、その名は“異端”」
──放課後の学園。
廃体育館の戦いから数日が経った。
蓮は休養のため学校を休んでいたが、焔は落ち着かない様子で屋上にいた。
「ったく……こっちは命かけて拳ぶつけたっつーのに、
“右腕に変なタトゥー出てきた~”で入院って、どんだけ繊細だアイツ」
「その紋章は“異界との同調”を意味します。蓮は既に選定者となりつつある」
となりで答えるルナの声は、いつもより硬い。
「……どうしたよ。いつにも増して真面目モードだな」
「九条 焔。あなたの拳は、あまりにも急速に進化しすぎています」
ルナの視線は真っ直ぐに焔を射抜いていた。
「あなたは、“暴走の兆候”を見せている。次に使えば、戻れなくなるかもしれない」
焔はそれを聞いても、ニヤリと笑うだけだった。
「上等だ。俺の拳が“壊れる”ってんなら、その先にあるもんを壊せばいいだけだ」
だがその瞬間、学園に警報のような音が響き渡った。
「……っ、来たか!」
ルナが振り返ると、空間が裂けている。
その中心に立っていたのは――黒いコートの少年だった。
「選定対象:九条 焔。あなたの存在は、観測座標に過剰な干渉を与えすぎている」
「よって、排除対象に指定。執行します」
少年の名は――アルク。
異界の執行官、“秩序の拳”。
焔が拳を握りしめる。
「よォ……来たか、コスプレ野郎」
アルクの周囲に、重力のような力が発生する。
次元がゆがむ。重さが空間を砕いていく。
「“次元崩拳・断層”」
一瞬で、焔の視界がゆがむ。
「なっ……!」
ルナが警告する。
「あの拳は、空間そのものを破壊する技……! 当たれば、消えるわ」
「上等だッ!!」
焔は一歩も退かない。
「喧爆烈神拳・“零式”ッ!!」
拳と拳が、空間ごと激突する。
辺り一帯が光に包まれ、屋上がごと吹き飛ぶ。
その中で、焔は限界を超えようとしていた。
身体の中で、何かが燃えている。
(クソッ……まだ、届かねぇ……)
「お前の拳は“破壊”しか生まない。ならば消す、それだけだ」
アルクの手に、次元を切り裂く“剣のような拳”が集約される。
だがそのとき。
――轟音とともに、間に割って入る影。
「焔……まだ、立てるか?」
蓮だった。
右腕に異界の紋章を宿し、彼は立っていた。
「てめぇの拳、ひとりで終わらせんじゃねぇよ」
焔が笑う。
「おっせぇよ、白王子」
蓮も笑う。
「こっちは病院抜け出して来たんだよ。特別だ、感謝しろ」
二人の拳が、共鳴する。
「合喧界式――“双星爆陣拳”ッ!!」
アルクの技を、ぶち抜いた。
空間が割れ、アルクが吹き飛ぶ。
「……観測不能……全記録……初期化対象に……」
彼の姿は、ゆらめきながら、異界へと消えていった。
──戦いが終わったあと、廃れた屋上で三人が横に並ぶ。
焔が空を見てつぶやく。
「なぁ、ルナ……この先、まだ強いやつ出てくるか?」
「ええ。次は“滅界の五拳”……最も危険な存在たちです」
「上等だ。全部ブン殴るだけだろ?」
蓮も立ち上がり、言う。
「なら俺も行く。まだ借りは返しきれてねぇしな」
そしてルナは、少しだけ微笑んだ。
「……馬鹿ですが、嫌いじゃありません」
物語は、次のステージへ。
“最強”の拳を持ったヤンキー高校生たちが、
世界を救うために、異界の扉へと歩き出す――
第二章・完