第一章・幕間 「ラーメンと、おかしな同居生活の始まり」
ノイズとの初戦を終えた後、ルナは当然のように言った。
「この世界の観測と守護のため、わたしはあなたの側に常駐します」
「え、帰らないの? いや、帰れよ。宇宙に」
「任務です。サボりません。あと、住む家をください。ベッドと電源も必要です」
「ふざけんな、俺ん家は一人用のボロアパートだぞ! 電気ケトルも壊れてんだぞ!」
「問題ありません。わたしが修理します。あと冷蔵庫の中身、捨てました」
「ちょっと待てそれはマジでやめろッ!! あれ今朝買ったラーメン……!」
──こうして、ルナは焔の部屋に“仮住まい”することになった。
案の定、相性は最悪だった。
「何してんだオイ、俺のアメ玉勝手に整理してんじゃねぇ!」
「色別に分類しました。混ざっているのは精神に悪影響です」
「それがいいんだろうがァァァ!」
「理解不能。IQ87の論理構造は量子並みに不安定」
「またバカって言ったな! 今度は絶対バカって言ったよなァァァァ!」
「はい、言いました。だって事実なので」
「素直すぎて逆に腹立つわこの宇宙人!!」
とはいえ、焔は何だかんだ面倒見がよく、
ルナも見た目によらず生活能力は高い(というかチートAI並み)ので、
奇妙な共同生活は案外スムーズに始まった。
夜。
狭いアパートのベランダで、焔がカップ焼きそばを食いながら空を見上げる。
「なぁ……本当に、世界って終わんのか?」
「……可能性は、約86.3%。この世界の崩壊進行は既に“可逆境界”を越えました」
「ほう……なんかすげぇ言い方だけどつまり、やべーってことだな」
「その通りです。……でも、あなたがいれば、希望はあります」
「……んだよ急に。調子狂うな」
「ただの事実を述べました。あとそのカップ焼きそば、成分がやばいので明日から自粛してください」
「いーじゃん、俺の人生はいつだって不健康なんだよ!」
そしてルナは小さく笑った。
焔は、思ったよりその笑顔が綺麗だったので、目をそらした。
「明日は、もうひとつの“拳”の気配を探しに行きます。……学園という、戦闘訓練施設に」
「いや普通の高校だし。お前、マジでズレてるよな……」
こうして、最強の不良と最硬の少女による、
“世界救済喧嘩バディ”の日常が、ゆるくも騒がしく始まった。
──そして、この夜の空には、また新たな“裂け目”が生まれようとしていた。