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第一章「喧嘩とラーメンと異世界少女」

【1】

「だから言ったろォが……“喧嘩売るなら、全力で来い”ってなァ!」


ガッシャアァァァァァン!!!


倒壊した自販機の残骸と共に、血まみれの男が吹っ飛んだ。

金色のリーゼントをなびかせて、赤い学ランの男が立っている。

その拳からはまだ湯気が立ち、足元には五人の男が沈んでいた。


昼下がりの商店街。

誰も止められない、誰も止める気もない。

通りすがりのOLがそっとスマホを取り出し、「またやってるわよ…」と呟く。


「つまんねぇな、10秒しかもたねえとはなァ」


九条焔、猛牙学園2年、喧嘩番長。

彼に喧嘩を売った者の末路は、いつだって同じだった。


焔はボキボキと指を鳴らし、アメ玉を口に放り込む。


「……さて。腹減ったな」


 


向かったのは、駅前の古びたラーメン屋『一楽』。

油の匂いと昭和の演歌が混じった、焔のお気に入りの店だ。


暖簾をくぐった瞬間、店主が手を止めた。


「おう、また暴れたな焔。血ぃ付いてるぞ、袖」


「スープの色と合ってるだろ。気にすんな」


「お前が言うと冗談に聞こえねぇよ……ったく」


焔はカウンターにドカッと座り、いつものを頼んだ。


「チャーシューメン、ニンニクマシ、唐辛子2倍。あと味玉3つ」


「……どこの兵器だよお前の胃袋は」


店主が苦笑しながら鍋を振っていると――


ドォン!!!


突如、外から轟音が鳴った。

地面が揺れ、空気がピリッと張り詰める。


「……ん?」


焔が振り返ると、外に――光の裂け目が現れていた。

雷のような光が地面を走り、異様な気配があふれ出す。


そしてその中心から、何かが――落ちてきた。


バシャァン!


水たまりに叩きつけられるように現れたのは、一人の少女だった。


銀髪。白いワンピース。目は閉じている。

だが、その肌には光る紋様が浮かび、背中には“何かの羽”の跡があった。


「……お、おい。ラーメン食う前に、なんだよこれ……」


呆然と見つめる焔の前で、少女がゆっくりと目を開けた。


「……神の選定者、確認。認識コード、九条 焔……この世界を救う拳――ここに、顕現」


 


「……はァ?」


ラーメンより先に、世界の運命が目の前に落ちてきた――。

【2】

「神の選定者、確認完了。……初期リンク開始」


そう言った瞬間、少女の瞳が淡い金色に輝いた。

まるでAIでも乗ってるかのような喋り方に、焔はポカンと口を開けたまま立ち尽くす。


「おいおい、なんだよこれ……ロボットか? ゲームのNPCか?」


少女はぬるりと立ち上がり、焔にまっすぐ指を向けた。


「おまえの拳は、世界を再構築する唯一の鍵。抗う力、確認済み」


「ちょっと待て、意味が分かんねぇぞ。誰だお前? 異世界人? 地球侵略に来たのか?」


「……ワタシの名は、宇佐美ルナ。第七異界管理機構、監視者ナンバーX-01」


「やっぱロボじゃねーか!」


焔が叫んだ瞬間、ラーメン屋の店主がそっと暖簾を閉じた。

「そういうのは外でやってくれ」と言わんばかりの無言の圧だ。


ルナはそんなことはお構いなしに、淡々と続ける。


「この世界の“裂け目”は加速している。神なる存在の干渉により、現実が崩壊を始めた」


「選ばれし五つの拳が揃わなければ、世界は終わる。……そのひとつが、あなた」


「いやいやいや! 俺ただの高校生だし、喧嘩しかしてねえし、ラーメン好きなだけだし!」


「確認済み。IQ:87。学力最下位。だが喧界力指数は特異。理性より本能が上回っている……実に“拳向き”」


「今バカって言ったよな? 確実に今バカって言ったな!?」


「その通りです、バカです。だが、それが希望です」


焔は一瞬だけ目を閉じ、大きく息を吐いた。


「……つまり、話をまとめると」


「まとめなくてもいいですけど」


「世界がヤベェ。で、俺が助ける。理由は知らん。だけど、殴ればなんとかなる――で合ってるか?」


ルナは目を細め、ゆっくりうなずいた。


「その理解で、ほぼ正解です」


「よし、なら話は早ェ!」


焔は学ランの袖をまくり、拳を鳴らした。


「世界が終わるってんなら……先に終わらせてやるよ。その“終わり”の方をなァ!」


 


 


そのとき、空が再び震えた。

頭上の空間が裂け、漆黒の影がゆらりと降りてくる。


人の形をしているが、腕が四本。顔がない。

喧界力を極限まで歪めた、“異界存在”――人ならざるモノ。


「ターゲット:選定者。排除ヲ開始スル」


ルナが即座に焔の背後に跳び下がる。


「初戦です。気をつけてください。あれは“次元外存在”――通称『ノイズ』!」


焔はにやりと笑った。


「へぇ、ノイズねぇ……なら、こうしてやるよ」


拳をゆっくりと構える。

空気が震える。

喧界力が立ち上がる。


「“喧爆裂拳けんばくれっけん”――この世界でいちばんうるせぇのは、俺の拳だって教えてやるぜ!」


次の瞬間、閃光が街を包んだ――!


 


 


――第一章、続く。

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