「最強の拳は、まだ眠ってる──」
――空が割れたのは、梅雨明け前の、くそ暑い午後のことだった。
黒煙が街を覆い、空からは火の粉が降ってきた。
雷鳴のような咆哮が天地を揺らし、人々は恐怖に叫び、逃げ惑う。
ビルの上に立っていたのは、全身が黒い鎧に包まれた巨人。
その右手には、赤黒く輝く“異界核”が握られていた。
「神の選別は終わった。残された人間どもは、沈黙と共に滅びよ」
巨大な力の奔流が、大地を裂く。
警察も、自衛隊も、そして神を信じる者たちでさえ、何もできなかった。
人類は、終わる。誰もが、そう確信していた。
――そのとき。
「おいおい、そいつはちと派手すぎるだろ、バケモンが」
街の片隅。壊れたコンビニの屋根の上に、ひとりの少年が座っていた。
金色のリーゼント。真っ赤な学ラン。くわえたアメ玉をカリッと噛む音。
彼の名は――九条 焔。
喧嘩300戦無敗。全国最凶の不良高校「猛牙学園」の頂点。
そしてこの物語の、世界最強のバカで、世界最強のヒーローである。
「テメェが世界終わらすとか言うならよ……」
「その前にオレが、終わらせてやる」
──バカが世界を救うなんて、誰が信じる?
拳ひとつで神に喧嘩を売るヤンキーがいたって、いいじゃねぇか。
その日から、世界の終わりと、ひとりのバカの反撃が始まった。