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第5話 知らないセカイ(3)



 「そういえば、イブさんの世界には魔法はないんでしたね。それだとちょっと理解しづらいかもしれませんが、この世界にはこの理力(リイス)と呼ばれる魔法が僕ら軍人には必須なんです」


 

 努めて明るく話すリアムの手の平には、水の球体がふわふわと浮かんでいる。

 種も仕掛けもないとはこのことで、唯舞(いぶ)でさえ少し前のめりにそれを見て目を輝かせた。

 

 

 「理力(リイス)は精霊と契約することによって使うことができます。見ての通り、僕の理力(リイス)は水で、エドヴァルト大佐は雷、アヤセ中佐は氷。それ以外のアルプトラオムのメンバーも風・火・大地の精霊と契約してるんです」


 

 まるで(タケル)から聞いていた魔法に溢れたファンタジーな世界がそこには広がっている。

 

 

 「ただ、理力(リイス)というものはあくまでも星からの借りものなので、その対価を精霊に返すという誓約があるんです」

 「…………星から借りて、精霊に返す?」


 

 その構造がいまいち掴めず、唯舞が小首を傾げれば同意するようリアムも頷いた。

 

 

 「ややこしいですよね~……ざっくりいうと、全ての理力(リイス)は元を辿ればこの(イエットワー)の生命力なんです。精霊はその力を安全に引き出せる媒介役で、僕達は精霊を通して星から理力(リイス)を借りる。その代わり、自分の生命力を星と精霊に差し出すんです」

「…………なる、ほど?」



 たっぷりと悩んで返答したが、正直よく分からない。

 ただ、何となく現世の長期賃貸借契約(リース)システムのようだなと、どこかぼんやりと思った。

 ユーザーが理力(リイス)を使う人間で、リース会社が精霊、製造元(メーカー)にあたるのが恐らくこの星そのもの。

 そう言われてみれば言葉も理力(リイス)長期賃貸借契約(リース)で何となく似ている気がして、ファンタジーな世界なのに現実との共通点を見つけてなんとも不思議な気持ちになる。

 


 「生命力とはいっても基本的には寝て回復するものだから命の心配はないんです。とはいえ、理力(リイス)を使えば使うほど多くの生命力が必要になるので、保有量は一種のバロメーターですね」



 つまりは理力(リイス)というのはゲームでいうところのMPなのだ。

 ただ、その回復手段が自身のHPというだけで――



 (そっか。ここは……魔法の代償に命を捧げる、そういう世界なんだ)



 使えば減り、休めば戻る。

 そんな風に魔法を使うたびに命を差し出す世界なのだと気付いて、ファンタジーに浮かれた気分は一気に現実に引き戻された。

 弟のゲーム情報がこんな形で活きるとは思わなかったが、それと同時に、抑え込むように唯舞はぎゅっと服を握りしめる。



 「そう、いえば……先ほど会った方々はリアムさんよりすごい理力(リイス)を持っているんですよね?」

 「あぁ大佐と中佐ですか? すごいというか、あれはもう化け物の領域ですね。僕も前線兵士の何倍も理力(リイス)を持ってますが、うちの部隊ではひよっこの非戦闘員なんです」


 

 そう言ってリアムはひどく遠い目をして乾いた笑いを浮かべる。彼曰く、一般人ならあってもバケツ程度、前線兵士ならドラム缶くらいの理力(リイス)量が普通らしい。

 そんな中で前線兵士の何倍の理力(リイス)を持つリアムが非戦闘員というのは少々、変な気がした。

 そんな唯舞の考えを読み取ったようにリアムは尋ねる。

 


 「ちなみに、さっき会った大佐や中佐の理力(リイス)ってどのくらいだと思います?」

 「そう、ですね……うーん、ドラム缶より多いなら……プールとか?」


 

 少し大げさだろうかと思ったが、唯舞の脳裏にパッと浮かんだのは学校によくある25mプールだった。

 いくらなんでも飛躍しすぎたかとリアムを見ると、彼はゆるゆると首を横に振る。



 「あの人達、正真正銘の化け物ですからね。悔しいことに理力(リイス)保有量――海くらいあるんですよ」

 「…………へ?」


 

 聞き間違いかとリアムの顔を見れば諦めにも似た笑いに、それが本心だと分かった。

 前線で戦う軍人がドラム缶一個分の理力(リイス)を持つ世界で、海ほどに広大な理力(リイス)を持つとなると、それはリアムの言うとおり、れっきとした化け物だ。

 


 「さっきも外で雷とか氷柱が見えたと思うんですけど、あれが通常運転なんです、うちの戦闘職」

 「あぁ……さっきの」



 リアムが軽く指を振ればパシュンと水の球体は霧散した。

 映画のようだと思ったあの光景を作り出していたのはエドヴァルトとアヤセ(彼ら)だったのかと知り、唯舞はその実力に対し、成程と理解する。

 実力もさながら、あれだけの理力(リイス)を使うとなれば支払う対価も相当大きいことだろう。



 (命が代償……か)



 その不穏な言葉は、どうしても唯舞の頭から離れることはなかった。


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