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第35話 探し物は見つからない


 

 (び、びっくりしたぁ)



 謁見室を後にした唯舞(いぶ)は改めて国のトップと言葉を交わしたことに内心ひどく動揺していた。

 

 一般人でしかない自分はただただ普通に生きていくとばかり思っていたのに、最近の唯舞の人生といったら異世界に召喚されたり、軍に入隊したり、一国の大公と話したりと実に波乱万丈だ。

 


 「さて、ひとまずこれで今回の目的は果たした。せっかくだから近くの学部資料庫に寄るか」

 「は、ぇ……あ、はい!」

 「…………なんだ、(ほう)けて。さっきから変だぞ」



 車に乗り込んだアヤセは次なる目的地をヒューイに告げるなり唯舞に訝し気な視線を向ける。



 「それは、中佐はこういった事に慣れてるかもしれませんが私は普通の一般人なんです。普通の!」



 訴えるように"普通"を強めに言っておいた。

 そうだ、自分は異界人というネームバリューがあるだけの理力(リイス)さえ使えないごく普通の一般人なのだ。

 

 だから、航空機がファーストクラスだったり最高級理力車(ハイヤー)やら最上階ワンフロアの専属バトラー付きのロイヤルスイートとか、もう本当に勘弁して欲しい。

 

 そうアヤセに伝えてみれば指先1つ鳴らして自分と唯舞の髪色を変えた彼は、まぁじきに慣れるだろうと興味薄げにさっさと視線を外に向けてしまった。

 唯舞の中の庶民の血が激しく警鐘を鳴らしている。このままではずるずるとこのセレブリティな世界に巻き込まれてしまう、と。


 思い起こしてみればこのレヂ公国に来て以来、何だかんだでほとんどの費用をアヤセが支払っていて、そんな彼が値段を問うたことは一度だってなかった。

 今唯舞が着ている謁見用の服だって、既製品とはいえ最高級に仕立てられた……多分もの凄くお値段も良いお品のはずなのに気が付いたらいつの間にかアヤセが購入していたのだ。

 

 彼の金銭感覚はどうなっているのと考えた時、この前振り込まれていた自身の給与明細を思い出して軽く身震いする。

 そういえば研修中の、しかも非戦闘員でもある唯舞でさえ現世の三倍以上の給与が振り込まれていたのだ。

 それならば若干27歳でアルプトラオムNo.2の中佐という階級にまでのし上がり、最前線で戦うアヤセの給与など桁違いだろうからそれ以上は恐ろしくて考えられない。


 しかも、考えてみれば今回の公国訪問は一応職務扱いのようで大まかな費用は遠征費から出てるらしいのだが、普通、遠征費でここまでの費用が落ちるのだろうか?

 そう考えてすぐ答えにはたどり着いた。そうか、アルプトラオムは普通ではなかった。

 今まで付き合ってきた彼らに普通という概念は通用しない。


 落ちるのではない……()()()のだ。

 なんだかなぁと思いつつも、そんな彼らに慣れてしまった自分はもう片足を突っ込んでしまっているのかも内心苦笑いしか浮かばない。


 合間合間にヒューイが観光を挟んでくれつつ、二日に渡って唯舞達は公都内の図書館や資料館を巡ったが、地球への帰還や異界人の情報は大して得られない。

 

 数少ない情報としては、最初の異界人がリドミンゲル皇国に現れたのがおおよそ90年前だということ。

 最初の異界人は当時の天帝の弟に嫁ぎ、子をなしたということ。

 今まで異界人聖女は四人しかおらず、唯舞で五人目であること。

 そして、今までの聖女全員がこの大地に還ったということ。



 「…………異界人が帝弟の子をなしていたとは初耳だな」



 禁書コーナーに置かれてあった古めかしい書物にかかれてあった事実は、アヤセさえも知らぬことだったようだ。

 

 基本的にリドミンゲル皇国は異界人の詳細を多くは語らない。

 ただ、国家の危機に異界人が現れ、祖国の聖女となり国が繫栄する、と触れ回っているらしい。

 

 ゆえに皇都には聖女の塚というものもあり、リドミンゲル皇国はイエットワー・精霊・聖女の三位一体の思想を持つ国なのだ。



 「いっそ、リドミンゲルに出向いた方が情報は得られるかもしれないが……」


 

 それ以上の情報はないとばかりにアヤセがぽつりと呟く。

 言われてみれば確かにそうか、と唯舞が思い立ったような顔をすれば冗談だから本気にするなと深く釘を刺された。



 「だが、これ以上の情報が期待できないのは事実だな。…………行くぞ」

 「行くって、次はどこに?」



 本を書棚に戻したアヤセは唯舞に目線を向けてから窓の外をくいっと顔で指した。



 「古本市だ」



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