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第28話 魔法学術都市レヂ


 ――レヂ公国。

 そこはこのイエットワーにおける世界最大級の学術都市である。

 

 世界最高峰の研究機関が集結しており、先端技術開発や古代技術の解読、文明保護活動など、それに関わる研究者や学徒の為の支援やインフラも整えられている国際性豊かな国だ。

 

 この世界の文明縮図ともいえるこの国になら、あるいは地球への帰還の手がかりがあるかもしれない。

 帰る手段は分からないと言われても、何もせずに納得することも諦めることも出来なかった唯舞(いぶ)は、そんな思いを胸に空港に降り立って思わず感嘆の声を漏らした。

 


 「す……ごいですね……」


 

 目の前に広がるのはザールムガンド帝国では見たこともないほどの広大な緑葉地帯だ。

 都市の中に自然があった近未来的なザールムガンド帝国とは違い、レヂ公国は自然の中に都市があるようなそんな国で、心なしか肺を潤す空気まで冷たく澄んでいる。

 


 「この辺りは理力(リイス)が豊富だからな。自然と緑豊かな国になる」

 「……こんなにも分かりやすく違いって出るんですね」

 

 

 大開口から景色を堪能し、スーツケースを受け取った唯舞はそのままアヤセの後ろをついてエレベーターに向かった。

 二人が降り立ったのは北東にあるレヂ公国唯一の空港だ。

 

 出発するまでは深く考えず、ごく普通の空の旅になると思っていた唯舞だが、ザールムガンドの空港で待っていたのはVIP専用ターミナルとファーストクラスというセレブリティ待遇。

 いつもの事なのかアヤセは当然のように振る舞うが、新卒OL、一般庶民の唯舞だけは最高に胃が痛む空旅だった。

 


 「えぇ、と……この後向かうのは、公都ヴァシリアス……でしたか?」

 

 

 傾げるように問う唯舞の深紫(こきむらさき)の髪が揺れる。見上げたアヤセの髪も、いつもとは違う淡い空色だ。


 エドヴァルトが言うにはアヤセの容姿が目立ちすぎるゆえの変装らしく、理力(リイス)解除するまでは色落ちもしないため、お遊び感覚で唯舞まで髪色を変えられてしまった。

 黒に近い深紫になった唯舞を見て、色変えをしたエドヴァルト本人が何故か息を飲む。

 きょとんと唯舞が小首を傾げたが、似合ってるよ、と、いつもの笑顔で優しく頭を撫でられ誤魔化されてしまった。


 ――アヤちゃんが一緒だと何かと人目を引いて大変だと思うけどよろしくね。


 そんな一言を残して、見送りに来てくれたエドヴァルトと別れたのが数時間前だ。

 


 (……綺麗なのも大変なんだなぁ)


 

 瞳が薄氷色(アイスブルー)のアヤセは、髪色が淡青色になったことで、クールな印象こそ変わらないが、若干の近寄り難さというものは減った気がする。

 それでも唯舞が見てきた中で一番綺麗な顔立ちをしている彼は、一般人の自分とは住む世界が違う、まるでテレビの中の有名人、といった感じだ。



 「……何だ?」

 「あ、いいえ。その髪色の中佐が珍しいなぁっと思って」

 「……そうか」

 「公都で大公閣下にお会いするのは明日なんですよね?」

 「あぁ、昼過ぎに向かう。お前は俺の後ろに控えていてくれればいい」



 ここから公都ヴァシリアスまで下道を走るタクシーならばおよそ四時間の長旅だ。

 

 だが、今回唯舞達が利用する空道――専用のスカイポートからの航空タクシーならば一時間程度で着くとのこと。

 空を駆けるなんて現世の技術力ではまだまだ夢のような話ではあるが、理力(リイス)のあるこの世界では一般的らしい。

 下道より少々値は張るが、時間短縮が出来るとあって利用する人も少なくないようだ。


 慣れたように自分と唯舞のスーツケースを手にしたアヤセがゲート前で立ち止まる唯舞に声を掛ける。


 

 「何をそこで突っ立ってる?」

 「あ、いえ……」


 

 アヤセの声に、唯舞は意を決して足を踏み出した。

 今、二人がいるのは航空港の屋上にあるスカイポート発着場だ。

 

 上空100メートル。前を見れば見渡す限りの雄大な大自然。タイヤの代わりに理力(リイス)を利用した流線形の車体をみれば操縦する者はいない無人の空飛ぶ(タクシー)

 


 (だいじょうぶ……多分落ちる前に何とかしてくれる……!)



 謎の信用を胸に、唯舞は怪訝そうなアヤセに促されるまま決死の思いで無人タクシーに向かった。

 現代地球人には馴染みのない、未知のアトラクションの体験である。

 

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