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第11話 祭りと月の神(2)


 ふわりと月読命(ツクヨミ)唯舞(いぶ)深紅(みく)に目線を合わせるよう舞い降りる。

 


 ―― やれやれ。本来のわれの加護とはこういったものではないのだがな。



 そういうと唯舞と深紅の手元のバッグにキラキラとした月光の粒子が舞い、スマホを使ってみろという神の言葉に二人が即座に動いた。



 「! はぁぁぁ、データが戻ってる! 懐かしいっ嬉しい!」

 「あ、MeTube……! 深紅ちゃん、MeTubeが見れる!」

 「うっそ、MeTubeはやば――い! しかもうちらのスマホって充電減らないし壊れない……これ、神すぎない……?!」


 ―― まぁ、われは神だしな。


 「やーだーもう、月読命(ツクヨミ)めっちゃ好きっ!」

 「…………は?」

 

 

 深紅の満面の笑顔に、またしてもエドヴァルトに不穏な気配が漂う。

 それを見て月読命(ツクヨミ)は肩をすくめた。



 ―― 諦めたほうが良いぞ、子らにとってこの物言いに特段意味はない。ただの挨拶だ。

 

 「……は? 挨拶?」


 ―― 普段は比較的おとなしいのだがな。気分が高揚してある一点を越えると極端に様子がおかしくなる。だからその時に好きだの愛してるだの見目が良いだの婚姻を結ぶだの死ぬだの……とにかく意味ないことを唐突に言い始めるんだが、そこにお前達の思うような深い意味合いはないよ。


 「全く許容できない言葉なんだが?」


 ―― 仕方あるまい。姉上もだからな。女神譲りの思考だと思って諦めることだ。



 「…………」

 「…………」



 そんなアヤセ達の視線はスマホが使えるようになった唯舞達には届かない。

 二人して頬を高揚させ、わくわくと互いのスマホを操作しながら盛り上がっている。


 

 「うっそショック! 唯舞のほうだとみんな大人になってる――!」

 「あ、そっか。深紅ちゃんの時代からだと13年経っちゃったから。……あ、新曲のMV……!」

 「待って、その左のひと誰っ?! 超イケメンじゃない?!」

 「わかるっカッコいいよね!」

 「めっちゃタイプすぎる! え……待って……なにこの人の体、エロくない……? かっこよ……っ」

 「ちなみに、私が推してるのはこっちのベースのひと」

 「あぁぁぁ正統派王子――! それもまたいい――!」

 「ね、可愛くて格好良いの! しかも関西弁なのがまたよくって」

 「なーにーそーれ! 最高じゃん、あとでオススメ聴かせて!」

 「うん、ちなみに深紅ちゃんが好きって言ったこの人ね、笑ったらその破壊力で死んじゃうから覚悟して」

 「ぐ……っなにそのギャップ。完全に殺しに来るスタイルじゃん……! そういうのめっちゃ弱い~好きー」


 

 「…………これを許容しろと?」

 「無理なんだけど? どうみても俺以上に初対面の男を褒めてんだけど? 何これ、これが女神仕様なの?」


 ―― そうだ。それが子らを受け入れるということと思って諦めろ。……そなたら、一旦落ち着け。引かれておるぞ。


 

 やれ、と見かねた月読命(ツクヨミ)が唯舞達に声をかけた。

 全身から感情が溢れそうなほどに喜ぶ唯舞と深紅にアヤセ達は何とも言えない気持ちになる。

 

 スマホの中にしか存在しない見ず知らずの他人()なんて、はっきり言って二度と最愛の恋人の前に現れないようにしてもらいたいし、なんなら目の前にいたら瞬殺する自信がある。

 彼らの拗らせた物騒オブ物騒は、伊達ではないのだ。

 


 ―― それが繋がるのは月夜のある時のみだ。われの領域外では繋がらぬし、受けるだけでそなたらから繋がることも、己らが過ごした時代より先に繋ぐこともない。そしてわれの加護が残るのはそなたらの生がある間のみ。……よいな?


 「充分すぎる! ありがとう月読命(ツクヨミ)! ホント好きっ」

 「ぐ……」

 「ありがとうございます。本当に嬉しいです……!」

 「……っ」



 これ以上ないという感謝と笑顔を月読命(ツクヨミ)に向ける最愛の恋人に、アヤセもエドヴァルトも思わず呻く。

 そんな彼らに同情でもしたか、ほどほどにな、と月読命(ツクヨミ)はまるで幼子を見守る父のような苦笑を唯舞と深紅に漏らした。

 

 ふ、と唯舞が月読命(ツクヨミ)を見て首を傾げる。


 

 「……あ、もしかしてこれから先に素戔嗚尊(スサノオ)が来るなんてことは……」


 ―― あぁ、弟か。やつが来ることはあるまい。この小さな世界は太陽と月の神がいれば十分だ。まぁ多少、女神らのほうが強そうではあるが兄妹神も珍しいものではないし、なによりこの世界の女神らは仲睦まじそうだったからな。これ以上、我ら古代神が介入することはないだろう。


 「そう、なんですね……それはそれで少し寂しいですけど」



 神とはいえ、もう日本の息吹を感じられないと思うとやはり寂しさを感じて唯舞はスマホを握りしめる。

 離れるまでは分からなかった郷愁の想いがこんなにもあるなんて、唯舞にだって予想外で。



 ―― この地に、残ったことを後悔したのか?



 そう問う月読命(ツクヨミ)に唯舞はふるふると頭を振った。



 「後悔したことは、一度もありません。……ただ、まだ、ほんの少し寂しいだけで」


 ―― ……そうだな。子らがそう思う地にできたことを、姉上もわれも誇りとしよう。そなたらは強き我らが高天原(たかまがはら)の子。それは遠き世界においても変わらぬ。…………新たな世界で、健やかと生きるがいい。



 まるであたたかな月の光のような風が唯舞と深紅の頬を撫で、降り立った時と同じような身軽さで月読命(ツクヨミ)は空に舞い上がる。



 ―― ではな。あぁ……だが、どうしてもそやつらに我慢ならなくなった時は、加護を通してわれを喚ぶといい。その時はこの世界もろとも(めっ)してやろう。


 「あはは、めっちゃ物騒ー」

 「ふふ、だって神様だものね」



 見送る唯舞と深紅は笑った。

 そうか、アヤセやエドヴァルトの物騒なところまで愛しているのは、古代神の物騒さに慣れているからかと思ったらなんだか面白くて。

 

 

 「アヤセさん」

 「エドっ」

 

 

 背中に花火と歓声の音と光が戻ると同時に、二人は自分の恋人に思いきり抱きついた。



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