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第1話 約束の地へ(1)

悪イブ本編を読んでいただきありがとうございます!

こちら、本編エンディング後の番外編となります。

唯舞とアヤセ、深紅とエドヴァルトのアインセル旅行。

エンディング後のラブラブなWカップルを楽しんでいただけたら嬉しいです。


 

 「ねぇねぇ、お姉さん達ってもしかして姉妹? すごく可愛いね」


 

 照り付ける太陽とキラキラと乱反射する海面。

 アインセル連邦の海は、パンフレットでよく見かけるような南国リゾートそのものだった。

 

 そのビーチの端にある完全予約制の有料エリアは、等間隔に張られた薄いカーテンのシェードが日差しと視線をやんわり遮り、静かで少しラグジュアリーな空間になっている。

 そんな一画のペアシートに並んで寛いでいた唯舞(いぶ)深紅(みく)は、不意にかけられた声に思わず顔を上げてしまった。



 「えーっと……」

 「あー……ごめん。うちら、連れがいるから」



 ナンパだと気付いて唯舞が言葉を濁し、深紅もやや面倒そうに視線を逸らす。

 大学生くらいの年齢だろうか。好青年の三人組には違いなかったが、いかんせん声をかけた相手がまずかった。



 「あれ? もしかして姉妹じゃない、とか?」



 一人の男の視線があきらかに深紅の胸に落とされ、その視線に目ざとく気付いた深紅がギッ! と、食いつこうとした時――



 「――――……ねぇ、俺の彼女に何か用?」

 「やっぱり置いていくべきじゃなかったな。すぐに目障りな虫が湧く」



 真夏の熱気が一瞬で絶対零度に包まれた。

 

 あまりにも冷え冷えとした声に三人組が恐る恐る振り返れば、あきらかに()()じゃない雰囲気を全面に醸し出した二人の男が、彼らを見下ろすように眺めている。

 

 シャツを羽織っていても分かるほどに鍛え抜かれた肉体。

 ガラが悪ければ目つきも悪いサングラスの男と、射殺さんばかりに冷ややかな薄氷色のまなざしが自分達に向けられていることに気付いた青年らは脱兎の如く逃げだしていった。

 


 「ったく……ここなら変な奴に声かけられないと思ったのに」

 「ねーエド! あいつ、私の胸見てバカにした――! サイテー!」

 「……は?」



 深紅の言葉に、びき、っとエドヴァルトのこめかみに血管が浮かび、手にしたドリンクが僅かに歪む。

 ――深紅の愛らしい胸を許可なく見ておいて……馬鹿にした……?



 「…………アヤちゃん。俺ちょっとさっきのクソガキ共に教育的指導してくるわ」

 「やめておけ。面倒だからこれ以上関わるな」



 唯舞が同じ目に遭ったら容赦なく()()()()()に赴くだろうアヤセは、買ってきたドリンクを唯舞に渡しながらエドヴァルトを止める。

 大丈夫かと唯舞に触れるアヤセの手は、普段の彼の冷徹さを知る軍部の人間なら卒倒してしまいそうなほどに甘やかだ。

 

 

 「私も深紅ちゃんも大丈夫です。……大佐? ほら深紅ちゃんが拗ねちゃう」



 深紅の隣をエドヴァルトに譲った唯舞は、そのままもう一つのペアシートに向かいアヤセの横に座る。

 アヤセから手渡されたドリンクは、爽やかな淡い水色のソーダに白い綿あめが雲のようにのっていて、まるで青空のようだ。添えられたチェリーは、もしかしたら太陽をイメージしているのかもしれない。



 「ふふ、色味がアヤセさんみたいで綺麗」

 「……そうか?」


 

 淡い水色はアヤセの瞳の色だし、白は白銀の髪。

 唯舞の恋人はどこまでも綺麗な男なのだ。



 「ほんとだー、これもエドっぽい!」



 機嫌が直ったのか、深紅が楽しげな声を上げる。

 深紅がエドヴァルトから手渡されたのは、パイナップルと白ぶどうで明るい黄色に彩られ、下にいくほど深海のように濃いブルーキュラソーに沈むグラデーションが綺麗なドリンクだ。

 飾られたブラックチェリーは、エドヴァルトや深紅の黒髪にも見える。


 はしゃぐ深紅の髪をエドヴァルトがさらりと撫でた。

 今の深紅の髪は、唯舞と同じく肩口につかないほどに短い。


 深紅をこの世界に"人"として繋ぎ止める為、唯舞は自身の長く美しい髪を深紅の依り代としたのだが、それに対してどこか思うところがあったのか、しばらくして深紅も髪を切ると言い出したのだ。

 せっかく綺麗な髪なのに、と唯舞やカイリは止めたが、深紅は譲らずにばっさりと髪を切ってしまった。

 

 長い髪型もよく似ていた二人だったが、短くなった髪型もとてもよく似ていて、声を掛けてきた男達が一番最初に姉妹と間違ったのも致し方なかったのかもしれない。……胸はともかく。


 

 「さて、この後どうする? 花火大会は夜でしょ?」

 「まだ遊ぶ! 唯舞、浴衣の着付けって何時から?」

 「17時からだよ。まだ15時前だから……あと1時間は遊べるかな」

 「よーし、余裕だね!」


 

 水分補給を終えた深紅が弾けるような笑顔で立ち上がり、エドヴァルトに向かって手を伸ばす。



 「エド! 唯舞! ついでにアヤセさんもいこっ」

 「俺はついでか」

 「だって、唯舞が行くなら呼ばなくても勝手に付いてくるじゃん」

 


 にひひと笑ってエドヴァルトの手を引く深紅にアヤセが小さくため息を零せば、唯舞が宥めるようにアヤセの手に指を絡ませた。

 


 「私達も行きましょう? アヤセさん」

 「……あぁ」



 軽く唯舞の髪に口づけたアヤセは、そのまま手を引き休憩スペースを後にする。

 

 かつて最終決戦前夜に約束していた、唯舞と深紅の異界の故郷・日本を思い起こさせるアインセル連邦への旅行。

 その時の約束を叶えるために、彼らは束の間の時間、この地へとやってきたのだ。


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