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第150話 運命の選択(2)


 唯舞(いぶ)を抱きしめたアヤセは、安否を確かめるように頬を撫でた。



 「怪我はしてないな?」

 「はい、大丈夫です」

 「えぇぇぇ待ってください、情報がまっっったく追い付かない!」



 あまりにも自然にいちゃつき始めた二人に開いた口が塞がらない。

 確かに今までも、何で付きあってないの? と疑問視するくらいには距離が近かったが、今の距離感は明らかに恋人同士だ。



 「ちょっと! ここにきていきなり彼氏面してんじゃないわよ!」

 「恋人だから問題ないだろう」



 後退した勢いでそばに来たカイリが叫べば、何食わぬ顔でアヤセが即答する。

 わなわなと震えるカイリの手元から生み出された炎が上空で100を超える弓矢と変わり、一気にファインツに向かって降り注いだ。



 「馬鹿じゃないの?! 余裕のない男は嫌われるのよ! エドを見なさい! 学ばなかったの?!」

 「カイリさんそこで俺を巻き込まないでくれます?!」

 

 

 ファインツと対峙していたエドヴァルトはカイリからの全体攻撃を避けながらも、別口の被弾を受ける。

 まさか味方から精神攻撃をくらうとは思わなかった。

 それに対しオーウェンは豪快に笑い、理力(リイス)をこぶしに纏わせるとニヤリとする。



 「くははっ、いいじゃねぇか。アヤ坊に春が来たってんなら今日は祝いだ。とっとと帰って飲むぞてめぇら!」



 こぶしを床に叩きつけると盛大に足元がめり込み、それと同時に唯舞のいる前後左右数メートルに緑がかった障壁が現れた。

 オーウェンお得意の|攻撃を遮断し常時回復状態を保つ安全地帯《絶対安地》だ。

 そんな障壁を10層ほど重ねると、唯舞の頭を少し乱雑に撫でてからオーウェンは障壁の外へと足を踏み出した。

 

 

 「まったく。毎度毎度、飲みの口実に俺を使うな。――……唯舞」



 オーウェンに乱された唯舞の髪を整えてやりながら、アヤセがまっすぐに唯舞を見る。

 この障壁があればある程度の攻撃――それこそファインツの攻撃でも一度なら防げるはずだ。


 

 「ここから出るな。守りはリアムとランドルフに任せる」

 「はい」

 「……時間は俺達が作る。――――喚べ」



 誰を、とは聞かなかった。ただ唯舞も目をそらさずに、こくりと頷く。

 疑問符を浮かべるリアムに「唯舞に傷ひとつでも付けたら覚えておけ」と脅迫を残したアヤセは、もう一度唯舞の頬を撫でてから障壁の外へと向かっていった。



 「……愛されてるね、イブ」

 「あれは愛されてるって次元じゃないですよ! イブさん本当に大丈夫です?! 脅されてません?!」

 「えぇっと……大丈夫です。なんか、本当にごめんなさい」


 ――ほらぁ私も言ったじゃん。やっぱり唯舞、人選間違えてるって~。



 リアムに同意するように唯舞の中の深紅が楽しげに笑う。

 それに対し複雑そうに微笑んだ唯舞の姿を、ファインツが遠目から見ていた。

 最期の時に、果たしてあんなふうに笑えた聖女がいただろうか。



 「……お前は、周りに恵まれたようだな」


 

 そう言ってファインツは理力(リイス)司教杖バルクスを作り上げると、エドヴァルトの重撃を受け止めた。

 衝撃で理力(リイス)が散り、ファインツの周囲一帯が沈み込むよう抉られる。



 「ありがたいことにザールムガンドでは、友人にも、部下にも恵まれましたよ……!」


 

 完全に折るつもりで切りつけたがそう上手くいかないらしい。

 エドヴァルトが主力として使うのは軍剣(バスタードソード)だ。雷との相性がよく、エドヴァルトの体重を乗せることによって一撃にとてつもなく重みが出る。

 さらに雷の加速と範囲攻撃を合わせればそうそう防がれることはないのだが、やはりファインツは一筋縄ではいかない。


 間合いを取って離れれば、大剣が鼻先を掠めた。

 ファインツとは違い、リアムとランドルフを除いてもアルプトラオムはあと三人いるのだ。



 「悪いけど、エドはまだお説教段階なの! 周りに頼らず抱え込む性格はリドミンゲル皇族の血なのかしら?!」



 その身に似合わず、カイリの大剣が空を切る。

 激しい衝突音から火柱が生まれ、ファインツを障壁ごと業火の炎が飲み込むが、高出力の雷撃によって爆ぜるよう消し飛んだ。

 すかさずオーウェンの拳がファインツに迫り、叩きつけた一撃の烈風で空気がびりびりと震える。

 僅かに障壁にひずみが生じたのを確認すると、オーウェンがニッと笑い、全体重を乗せて思いきりひずみを蹴り込んだ。

 

 

 「アヤ坊!」

 「――――」



 オーウェンが後方に飛び退いたと同時にアヤセが斬りこむ。

 目的はただ一点――ひずみだ。

 細剣(サイドソード)から繰り出される神速の多段攻撃はアヤセが最も得意とするものであり、氷を蹴るように加速したアヤセはそのまま一直線に初撃を撃ちこむ。

 二撃、三撃、四撃……全く同じ位置に断続的に叩き込めば八撃目で手ごたえが変わった。


 強敵ではあるが、届かないわけではない。

 パキパキパキ、と氷が鳴るようにヒビが入り、一泊の間を置いて障壁が砕け散る。


 着地したアヤセが一息ついて、剣を軽く振った。

 

 ――さぁ、ここからが本当の時間稼ぎだ。


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