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第148話 黒猫が導く未来へ


 最後の晩餐のつもりか、その日の夕食は日本食だった。

 アインセル連邦で日本食の食材手配の目途がついたというのに、星と繋がった唯舞(いぶ)を案じたアヤセや保護者組の意向で、この4ヶ月間、唯舞が交易地に赴くことは許されなかったのだ。

 

 しょうがなく最低限の買い出しだけお願いしていたのだが、まさか遠きリドミンゲル皇国でも日本食が食べられるとは思っていなかった。

 さすがは日本人聖女召喚のお膝元、といったところかもしれない。



「全部、終わったら……深紅(みく)ちゃんもアインセルに連れて行ってあげたいです」

「深紅が来たらエドヴァルトも来るだろうが」



 嫌そうに顔を顰めたアヤセに唯舞は小さく笑う。



 「ダブルデート……旅行? って思えば」

 「その前にあいつら、まだ付き合ってないだろう」

 「……あれ? そうでしたっけ?」



 てっきり付き合っている気でいたが、そう言われてみれば、エドヴァルトはリドミンゲル皇国から脱出したあとに告白するつもりだったと言っていた気がする。



 「まぁ、杞憂だろうけどな」

 「そうですね。大佐が深紅ちゃんを手放すとは思えませんし」



 次に会ったら監禁しかねない勢いだ。

 ――残念ながらあの深紅が監禁生活を受け入れるとはとても思えないけど。



 「でも、一緒に行きたいです。……駄目ですか?」



 唯舞が上目遣いで首を傾げれば、アヤセがぐっと止まる。唯舞のささやかなおねだりに、アヤセがNOと言えるわけがないのだ。



 「……好きに、しろ」

 「ありがとうございますっ!」



 嬉しそうに笑う唯舞に、目線をそらしたアヤセのため息が漏れる。

 二人きりの静かな旅行が、騒がしいものになりそうだ。

 ――だが、それでも。

 唯舞が未来を語る姿はアヤセにとっては救いだった。



 (……守る)



 唯舞も、深紅も。

 ひとり幸せになることを許せない唯舞にとっては、深紅の生存も必要不可欠だ。

 それはつまり、結果的にエドヴァルトも救える。


 全てが未確定の明日がどうなるかなんて、まさに神のみぞ知る、だ。



 

 *




 ――そして翌日。


 

 「さーて、リドミンゲルに来るのは何年振りだっけ?」



 朝一番の爽やかな春の風がエドヴァルトの黒髪を揺らす。

 ザールムガンド軍を率いて、リドミンゲル皇国内に攻め入ったエドヴァルトらアルプトラオムは機動力重視で皇都まで到着した。

 戦闘は国境地帯を除けば行われていない。

 元々戦争が許されていたのはあの一帯だからというのもあるし、無駄に血を流して今以上に禍根を残したくないという意図もあった。


 おかげで国境地帯での戦闘はカイリとランドルフのテナン一族に任され、オーウェンとリアムは交代で最前線に立とうとするエドヴァルトを抑え込みながらの治療を24時間体制で行い、そのお陰でエドヴァルトは懐かしきこの地に立つことが出来ている。



 「13年ぶりかしら。でも、前に来た時と何も変わってないわね」

 「後で俺らが働いてた酒場にでも顔出すか?」

 「イーリとしての夢が崩されたら可哀そうでしょ」

 「失礼ね。私は今のほうが綺麗よ」



 軽口を叩きながらも皇都入り口から瞬時移動してきた彼らはリドミンゲル皇城に踏み入れていた。

 エドヴァルト、カイリ、オーウェン、そしてリアムとランドルフ。アルプトラオム勢ぞろいだ。

 シン、とした城はまるで眠っているかのように静かで物音ひとつしない。

 


 「さて、とりあえず聖女の塔か?」

 「もしくは大聖堂ね。エド、どっちにする?」

 「そうだね……」



 あまり無駄足は踏みたくない。

 聖女の塔と大聖堂では途中で道が別れるのだ。

 アヤセが一緒のことを考えれば大聖堂のほうが可能性が高い気がして、そう口にしようとしたところでエドヴァルトの顔面に真っ黒な毛玉が飛び込んできた。



 『大佐――――!』

 「んぐふぅぅぅぅ!?」

 「ブラン?!」



 リアムが慌ててエドヴァルトの顔面から毛玉を引き剥がす。

 見間違うわけがない。アヤセが唯舞に与えた使い魔の一匹だ。



 『リアムっ久しぶり』

 「うん、中佐とイブさんは?」

 『こっち! 僕が案内してって言われたの!』



 そう言ってブランはひょいとリアムの腕から飛び降りると、子猫とは思えぬ速さで走り出し、エドヴァルト達もその後を追う。



 「アヤちゃんと唯舞ちゃんは無事?」

 『うん! 今日もね、いっぱいちゅーしてたよ!』

 「待って?! 俺達が知らない間に何があったの?!」



 ブランの衝撃発言に一同がざわつく。

 あんなにも長い間友達以上恋人未満を押し通していた二人が、たった3日でいつの間にか付き合ってキスをする関係になっているなんて信じられない。


 ブランから詳細を聞いたエドヴァルト達は思わず極悪な笑みを浮かべた。


 

 「そんな面白れぇことになってんなら、とっとと片付けてアヤ坊を囲まないとなぁ?」


 

 オーウェンに同意するようにエドヴァルトとカイリもにやりと笑い、走る足取りが一気に軽くなる。


 

 「あーあ、中佐がオモチャにされるね。ご愁傷様」



 無慈悲なランドルフの追悼に、リアムだけがこっそり苦笑した。

 

 

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