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第126話 ずっと、そばにあったもの


 意識が浮上し、見慣れない真っ白な天井をエドヴァルトはただぼんやりと眺めた。

 目線だけで周囲を見渡せば部屋の隅に見慣れた筋肉がいて、エドヴァルトの視線に気付くといつも通りの笑みを浮かべる。


 

 「よぉ、目が覚めたか」

 「……な……んで……いる、の?」


 

 声が掠れて喉が痛い。

 なんなら、声を出しただけで体中がきしむように痛んでエドヴァルトは眉を寄せる。

 それに気付いたオーウェンが立ち上がり、エドヴァルトのそばまで寄ると額に触れた。


 

 「リアムからの緊急要請を受けた。……覚えてるか? ファインツ・リドミンゲルにやられたってな」

 「…………」

 「とりあえず傷は塞いじゃいるが……しばらくは安静だ。あの野郎、手加減のつもりかギリギリのラインで内臓を潰しやがった」

 


 清涼な理力(リイス)を流されれば体中の痛みも幾分か和らぐ。

 久しぶりに母の夢を見たかと思えばこれだ。夢を見て、ようやく自分の理力(リイス)も作り物だったのだと思い出したというのに。

 

 エドヴァルトの力は、アヤセのような生まれつきではなく、次期皇帝として作り上げられたものだった。

 だからこそファインツも、まだ次期皇帝のエドヴァルトに対して理力(リイス)を損失させるほどの怪我を負わせなかったのだろう。

 

 

 「むり、だよ……唯舞(いぶ)ちゃんがさらわれた……今日でなんにち……?」

 「まだ昨日のことだ。外傷は治したが、損傷具合は昔のミーアより多少マシってレベルだ。ほとんどの臓器が焼かれてんだぞ?」

 「なおして」

 「無理だって言ってんだろーが。寝ろ」

 「それこそむり」

 「むりじゃなぁぁぁぁい!」



 病室のスライドドアが物凄い勢いで開いたかと思ったら、猪突猛進の勢いでミーアがエドヴァルトに迫り、胸元を掴んで無理矢理引き起こした。



 「……っ!」

 「おいミーア!」

 「馬鹿エド! あほ! おたんこなす! なんで何も言わないのよこの馬鹿ぁ!」



 エドヴァルトを顔面まで引き寄せたミーアの目からボロボロと大粒の涙が流れ落ちる。



 「なんであたしにだけ内緒にしてんの?! 巻き込みたくないってなに?! ニケから聞いてこっちがビックリよ馬鹿エド! 何勝手に決めてんのよふざけないでっ!」

 「ミー……ア」



 あまりの気迫に体中の痛みさえ無理矢理抑えつけられるようだ。

 泣き叫ぶミーアに、ついに彼女も自分の正体に辿りついたのだと悟ったエドヴァルトは、痛む腕をそっと伸ばしてミーアを抱きしめる。



 「……ごめん、ミーア。黙ってて、ごめん……」

 「なによ……なによエドのくせに! リドミンゲルの皇族? 次期皇帝?! そんでもってルイス先生も皇族関係者でアンタのお母さんがお姫様の前聖女?! あたしの情報舐めんじゃないわよ! これでもニケに、ザールムガンド皇帝直属に影として勧誘されてたのよ! 調べようと思ったらいくらでも調べられんのに、アンタを気遣って調べなかったあたしだけがなんで何も知らないのよ!」

 「……ごめん」

 「ごめんで済んだら密偵はいらないのよぉぉ!」



 ぎゅっと思いきり抱き返されると骨もろとも体中が砕け散りそうになるが、エドヴァルトはただ何も言わずに耐えた。

 ミーアの怒りはもっともで、それを自分は甘受せねばならない。

 抱きつきながらもミーアは腹の虫が治まらないのか恨み言のように怒り泣く。



 「ねぇ、あたし達ずっと友達なんだから遠慮なんかしないで巻き込めよぉ……っ全部全部、いつだって抱え込んでヘラヘラしてっ! みんないるじゃん! あたしもカイリもオーウェンもニケも……! ずっと、ずっとそばにいたじゃん……っ! ――なら、もっとあたしらに頼れよ! エドヴァルト・リュトスッ!」


 

 嗚咽にまみれたミーアの顔面はそれは酷いことになっている。

 それでも構わなかった。エドヴァルト(この男)にはガツンと言ってやらねば、きっと伝わらない。

 愛されているのだと。こんなにも愛されて必要とされているのだと。

 決して、ひとりなんかじゃないのだといい加減気付けばいい。

 ――ここは、喪うだけの悪夢の世界ではないのだ。


 靄が晴れるような感覚に、エドヴァルトはようやく心からの苦笑いを浮かべる。

 

 

 「うん、本当にごめん。今更だけどミーア。助けて欲しい」

 「当たり前じゃない! ほんと馬鹿すぎて死ねばいいのに!」

 「おう、現に今ミーアに抱き殺されかかってんなぁ」

 「エドなら本望でしょうがぁぁぁ!」


 泣き叫ぶミーアをカイリが引き取ったところで、エドヴァルトは改めてオーウェンを見た。

 何かを察したのか物凄く嫌な顔をされる。


 

 「…………無理だぞ」

 「頼むって」



 エドヴァルトの言葉に何度も無理と言ったが譲るつもりがないのを悟ったオーウェンは大きく息を吐いた。



 「一応、聞いてやる。……用件はなんだ?」


 

 認識阻害のサングラスは手元にない。

 理力(リイス)は込めているが、エドヴァルトが望めばすぐにその瞳は色を変えるだろう。本来の色味に。

 全てを決めたエドヴァルトは、ただ真っすぐオーウェンを見つめた。

 

 

 「――――ニケのところに行く」

 

 

 

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