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第100話 唯舞の考察(2)


 カイリの言葉に場の空気が少し張りつめたところで、パンッとエドヴァルトが両手を合わせて皆の視線を集める。

 

 

 「現時点ではまだ仮説だけど、いったん話まとめるよ? まず第一に、唯舞(いぶ)ちゃんのいた世界と俺らのこの世界は元々一つだった可能性がある。だけどある時、"(ひかり)の世界"と"(やみ)の世界"に切り離され、陰の世界(イエットワー)に取り残された古代唯舞ちゃん世界の人間は元の世界に帰ろうとしたけど失敗。この世界を出るどころか逆に喚び込む術式を生み出してしまったってことだよね」

 

 「そうね。もしかしたら星の生命力(リイス)こそがこの世界に取り残された太陽神の加護なのかもしれないわ……太陽神が生命の象徴だというならば、その代わりを担っていたという化身が消えた今、恐らくはもう新たな理力(リイス)は生まれない。失われたらただただ減るだけなのよ」

 

 「そこで新たな化身が必要だったってか。太陽神、もしくは化身になりうるほどに強く濃い加護を持つミクや嬢ちゃんみたいな異界人が」

 

 「だからこそ召喚座標を書き変えられたのかもしれないな。本当に繋がりたかったのは他世界ではなく太陽神のいた元の世界のはずだ。恐らく長い年月召喚を繰り返し、ある日ようやく繋がった(ひかり)の世界の座標を記したのがリドミンゲルに渡った古文書というわけか」



 エドヴァルト、カイリ、オーウェン、アヤセ。

 ひとりではどうにも出来なかった唯舞の思考が少しずつ繋がっていくのが目に見えて分かった。

 ふと何を思ったのかオーウェンが怪訝な顔をする。

 


 「だけどよ、あくまで聖女は人だよな? それが神やその化身になれるものなのか?」

 「えぇと、実は日本(うちの国)……というか私の世界では人が神になるのって結構あるあるなことで……」

 「何そのお気軽な神様仕様」

 「特にうちの国は祟りとか呪いも多かったので、そういうのもとりあえず祀って神様にしたりとか……」

 「物騒なうえに脳筋だった」

 

 

 エドヴァルトの明確なツッコミに唯舞は思わず苦笑する。今まであまり考えたことがなかったけれど、実は日本人、意外とそうなのかもしれない。

 

 

 「生きているうちにすごい功績とかを残すと()()に神になったりするみたいです。……あぁ、でも、だからこそ聖女なのかもしれませんね。自分の命を削りながらも滅びに瀕した世界を救うなんて、それこそ神格が上がりそうです。きっと、民衆にお披露目することで信仰を集めて、個人の名前を呼ばないのも人間としての存在から解き放つためだったのかもしれません」


 

 まるで他人事のような淡々とした唯舞の口調に若干アヤセが苛立つ。

 

 

 「……じゃあ何故初代聖女から数えて八人も喚ぶ必要があった。化身になるのなら一人で良かったんじゃないか」

 「えぇ、と。……もしかしたら一人では力が足りないのかもしれません。あくまでも私達は太陽神の加護を受けた人間だから神格をあげて化身になったとしても個々の力は弱いんだと思います。だから複数人合わせてひとつの太陽の化身、もしくは新たな神に昇格するんじゃないかな、と」

 「そうね。太陽神でもない加護を受けただけの一聖女が与えられる恩恵の範囲はきっとそう広くはないのだわ。リドミンゲルの聖女がほぼ全員皇都にいたことを考えれば強く加護が作用するのはその程度で、あとは溢れた余過剰分なのよ。あの国の国力や加護力を考えれば、聖女が一ヵ所に留まれば留まるほど力が浸透して加護が強まるのかもしれないわ」


 

 そんなアヤセにカイリが落ち着くよう視線で諭す。

 確かに唯舞の命が関わる話ではあるが、だからこそ今は感情を抑えねばならない。

 

 

 「確か伯父上が最後深紅(みく)に使った術は、多分……理力(リイス)譲渡の応用……そうか、星に対して深紅の最後の生命力を譲渡したのか」

 「なるほどな。滅びに向かう国を救い、瀕死の星も救い。それこそ最後の一滴まで世界を救った聖女は、光となり太陽の化身へと神格化する。あと何人聖女が必要かは知らねぇが今まで世界の為にと太陽の化身を量産してきたリドミンゲルにとっては今回聖女(嬢ちゃん)が来なかったのは痛ぇ話だよな」


 

 オーウェンの言葉に唯舞は少しだけ表情を曇らせた。

 きっとリドミンゲル皇国がしようとしていることは、かつてファインツが言ったように万を救い一を捨てるという選択は、世界にとっての希望だ。

 たった数人の命で世界全てが救われる。

 しかも失われる命の大半はイエットワーの民からしたら見ず知らずの異界人という存在でしかない。

 


 「もしも、もしもこの考えが全て正しいのだとしたら……私が聖女の役目を放棄している今のこの状況は……この世界にとって……」


 

 そろりそろりと唯舞が言葉を口にすれば、ふいに遮るようにくしゃりと髪を撫でられる。

 下げた視線を上げれば、薄氷色(アイスブルー)の瞳と目が合った。

 

 

 「お前が犠牲になる必要なんてない。そんな世界、とっとと滅べばいい」

 「…………私の世界に負けないくらい物騒ですね、中佐」


 

 真っすぐ見つめてくるアヤセに、唯舞は少し泣きそうな顔で微笑んだ。


 

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