7話 歴史の首謀者の言葉
「あれは……確か取り敢えず直線に侵攻しながら通った道を焦土にしていた頃。丁度私の侵入を阻むようにそこにあった、果てから果てまで続く石の壁を消し飛ばした。この国の国境だ」
想像以上の暴れぶりだな。良く人類は滅びなかったと過去の人々を賞賛したい気分になる。
「気紛れに土塊を固めてゴーレムを創り、配下の数を拡大させながら侵攻する私の様相に危機感を持ったのか、初代国王とやらの魔法使いが直接出向いて来た」
ゴーレムか……伝説上の架空の存在だと言うのが通説だったが、考古学者の友人は本当に存在していたと主張し一度も主張を取り下げようとはしなかったな。実際存在したようだが、これは報われたと言って良いのだろうか……こんな状態の世界で。
「そいつは数々の魔法を放ったが、数千数万のゴーレムによる物量で難なく退き、初代国王はすぐに転移の魔法によってあの場を脱した」
転移の魔法……!瞬間的に別の場所に移動する、と聞いたことがある。
その昔、とある国の国王がその魔法に憧れ手中にしようと生涯の半分を費やしても得られず、果てに国民を生贄にしようと凶行に走り、そのことを察知した臣下にすぐさま捕えられた。そんな夢物語を追い掛け人生をかなぐり捨てたその話は、今や笑い話に。そして子供に聞かせる戒めの話として有名な史実となっている。
実際は夢物語では無かったようだが。
「ただ、この湖にまで侵攻した時……周辺国の援軍らしき軍隊が私の侵攻方向に集まり、ゴーレム達と衝突した。それだけならまだ良かったのだけれど、数百もの魔法使いが一気に湖の上に集結しゴーレムに対して魔法を放たれた。湖の全ての水を代価とした鋼鉄の如き雨粒を降らせる魔法。雨粒、そして雨の一粒一粒が攻撃となれば、ただの土塊のゴーレムはそれはもう簡単に崩れ、私は配下を全て失った。相手側も死屍累々だったがな」
……想像したく無いな。雨が小さな鉄球として降るとは。雨の量だと鋼鉄の鎧を装着していてもひとたまりも無いに違いあるまい……そんなことを決行するとは、当時の人々はかなり追い詰められていたようだな。
「流石に私以外全滅したら、撤退せざるを得なかった。あのまま1人で侵攻しても良かったんだけど、他にどんな隠し玉を持っているか分からないから。でも、それでその後すぐ不意を打たれて封印された。これが私が知るこの国、この湖の王都で知る全て」
成程……当事者の、それもエンデの言葉ともなると、言葉の中にあった魔法を信じれる。つまりその当時の一部始終を信じ受け止められる。
前の街で魔法を見せられていなかったら、未だにエンデのことを、魔法のことを信じられ無かっただろう。実体験とは大事なものだな。
魔法か……
「……そう言えば、初代国王とやらが転移の魔法を使用した際にその軌跡を一体のゴーレムに追わせたんだ。初代国王が一時逃れた場所なら何かあるかも……確実性は無いけど」
「場所は?」
儂がそう聞くと、エンデは少し待ってと言うような仕草をしながら目を閉じ、そして目を開きある方向に指を差した。
「私が指を差した直線上。ちょっと周辺の地図を出して…………えーっと……ここ」
念の為持ち歩いていた地図を広げると、エンデがゆっくりと探すように指を地図の上で滑らせ、指がある地点で止まった。
「場所的には王都を出て湖を過ぎてその先にある山の麓付近…………のはず。正確な距離とかは流石にちょっと分からない」
「いや、これだけで次に進むべき場所が決まった。しかしその前に王都の探索と調査を終えてからになりそうだな。エンデ、手伝ってくれるか?」
「……そうする」
あれから14日もの時間を掛けて王都を探索し、書物を読み、王都内の博物館に展示された昔の物を見て周り、そして王宮にまで乗り込んだものの、特に何も無かった。
こうなった以上、湖周辺の遺跡を周りつつ、エンデが言っていた初代国王が転移の魔法で逃れた地に向かうとしよう。
食料は充分ある。寝袋もある。地図も持った。
「……」
しかし、最近エンデの口数が明らかに減っている。氷像を初めて見た時から、凍り付いた湖とその上に建つ王都を見て、そして初代国王が存命していた当時のことについて教えて貰ってから……
気持ちの問題と考え、そっとして置くのが適当か。
さて、気を取り直して、王都を出発してから湖の岸を周り始め、ようやく1つ目の遺跡に到着した。
意味不明な芸術品のような空に伸びる石柱。何らかの模様が描かれているものの考古学者達が根を上げ解読不可とまで言われた異様な絵。
当然の如く儂には何も分からず、エンデに見て貰うと魔法とは何の関連も無いただの石柱であり、解読不可な絵はただの子供の落書きと結論された。
……次。
2つ目の遺跡は最近……と言っても50年以上前のことだが、その時に発掘された四足歩行の動物の姿を模した巨大な石像。ヘンテコな姿だがかなり大きく、未だに掘削途中だった。
大きさは二階建ての家屋より少し小さい程度。掘削している穴の底を見ると、足部分がまだ土に埋まっている。取り敢えず掘削作業中だった作業員の氷像に触れないように掘られている一番下まで降り、石像を至近距離から見つめそして触れてみる。
しかしこれだけでは何も分からない。エンデに見て貰うと、この像には魔法との関連性は無く、ただの普通の何の変哲もない石像らしい。
そう言えば、王都内を調査している時にとある屋敷の倉庫の奥底に眠っていた手記に、500年前の当時の彫刻家が当時笑いものにされた我が最高傑作を湖近辺に埋めたと……
……次!
3つ目の遺跡は湖から少し離れるが、広い平原地帯にポツンとある先程の石像よりも更に巨大な遺跡。初代国王時代に建てられたと伝えられるそれは、人々が闘いを観戦し人と人が闘い合うコロシアムと呼ばれた建造物。
長い時の中、何故それが遺跡と呼ばれているのか。それはコロシアムの半分近くが粉々に砕かれ周囲に散らばる残骸と化し、誰も寄り付くことが無くなってしまったからと言われているが、何故コロシアムがそうなったかは未だに不明。
そしてコロシアムの中や残骸には無数の小さな穴が空いており、それが不明を加速させている。このコロシアムの調査に出向き帰って来た考古学者の友人も、それを愚痴っていた。
だが、この無数の小さな穴には、この雨跡には、何処か見覚え……いや聞き覚えがある。
「なぁエンデ。これはもしや……」
「……私が侵攻する時に邪魔だから破壊したコロシアムと、魔法使い達に浴びせられた鋼鉄の如き雨の跡……」
次ッ!!
4つ目の遺跡は……遺跡は…………ただの岩!等間隔に置かれた遺跡と呼べないただの観光名所!
岩の数がもっと多ければ地上絵になるが、10個に満たない数の岩が草原にあるだけ!
エンデに見て貰うと、これはただの自然によってできた偶然の産物だと……!!
……はぁ。
「流石にこれほど空回ると少々心に来るな……」
結局、この湖周辺と王都では進展無し。あそこが、最後の望みになってしまったか。