31話 激化する鬼ごっこ
『置いて行かないで下さいよ!』
「無理だ!背後を見てみろ!何度吹き飛ばしても戻り追い掛けて来るゴーレムを!」
『確かに無理ですねぇ!』
「よし、私の手を取って!」
エンデが儂と怒神に手を伸ばす。迷っている暇は無い。即座に手を取り怒神も続いてその手を取った。
周囲の景色が一変した。いや、先程見たのと同じ程度の住宅跡地の景色。恐らくエンデは転移の魔法でここまで戻り、あのゴーレムを振り切ろうとしたのだろう。そしてその狙い通り、あのゴーレムが今すぐにこの場に来る気配は無い。
「ふぅー……」
やっと一息つくことができる。
……で、なんだあのゴーレムは。そもそも何故凍えた世界で動ける?怒神という例外はあれど、今まで見て来た残存するゴーレムは悉く停止していたというのに。
「……怒神。あのゴーレムってまさか」
『魔力を検知したなら分かるでしょう。あの上昇幅は異常です」
「待て、いまいち状況が掴めないのだが」
『あっはい、それについては——』
『ドンッ!』
土煙が舞い上がる。もう見なくても分かる。あのゴーレムがまた来た。マーキングでもしているのかこのゴーレムは。エンデや怒神に聞きたいことがある……だが、この今にそんな時間は無い。
「全員散開!分裂するような機能が無ければ、この中の誰か一人を追いかけるはずだ!」
「分かった!」
『了解です』
バラバラに逃げ出してからどれほどの時間が経過したのか。無我夢中過ぎて分からなくなった。少なくとも、儂に狙いを定めた訳では無さそうだ。儂の背後には何も……ん?
「ど、怒神?!どうして儂と合流した……?!」
『エンデさんを追いかけて行くのを観測しましたので。現状確実性のある自衛の術を持たない貧弱ルーダさんの護衛に来ました』
いつもながら、何か言葉でいじらないと機能停止するのか?このゴーレムは。事実だから何も言えないのが尚酷い。
「……怒神、あれは何だ?」
『自己魔力増幅無限機構。もしくはそれに類する物があのゴーレムに搭載されています。空気中に霧散した魔力や術者が放った魔法の少量の魔力を取り込めば、無限に魔力を増やす無限エネルギー機構。大規模戦術ゴーレムを造り上げた国ですら造れなかった、机上の空論の禁忌。それが魔力が増大するゴーレムの正体です』
魔力を生成……?増幅……?怒神の凍えなかった原因を知った時も、魔力を絶やさず生成増幅していたからと聞いていたが、違いは何だ?
「……大規模戦術ゴーレムの方の怒神とは違うのか?」
『ワタシの場合は魔力を生成、増幅するだけに留まり、増幅する量には限界が存在します。しかしあのゴーレムにはその限界点が存在しません。取り込んだ魔力が果て無く力を増し、その魔力が目的を持った存在。と形容すれば分かりやすいでしょうか』
……厄介にもほどがあるな。あれが儂に向かっていたら……いや、目的は何だ?基本的にゴーレムは動く指針が無ければ、命令が無ければ動かない人形だ。儂の中で一つの予想が思い浮かぶ。この予想が正しければ、もう儂と怒神は走る必要が無い。
「……なぁ、一つの可能性が思い浮かんだんだが」
『何でしょう?』
「あのゴーレムは恐らく帝国性の物だ。そして経緯はどうあれ、最終的にこの帝国を滅ぼしたのは魔王。恐らくエンデのことだ」
『……』
「最後に、あのゴーレムはエンデを追い掛けている。以上のことから予想されるのは……」
『元々エンデさんを標的として設定されていたと』
「そうだ。現に一番攻略が容易い儂や戦闘性能としては下位のはずの怒神を無視し、弱体化したとは言え、未だ魔王としての力を保持しているエンデを追った」
『……伝えに行きます』
そう言い残すと、凄まじい速度で儂の視界から怒神が消えて行った。よく見たら走っていると言うより、浮いていたな……いつもあれくらい動いてくれたら助かるのだが。
◆◇◆◇
ルーダを標的にするよりはマシだけど、でも、速い!
『ピー!』
なんだかさっきよりも攻撃が苛烈だし、魔力も刻一刻と指数関数的に増加。何でかなぁ!私が滅ぼした時はこんなヤバいの居なかったよ?!仮にあったとしても片手間の魔法で跡形も無く消滅してたよ?!
『エンデさん!ルーダさんから、エンデさんを追い掛けている可能性についての伝言です』
怒神がいつの間にか私の横を並走していた。最高速じゃ無いとは言え、これでも魔法でかなり加速してるはずなんだけど。
『ルーダさんの仮説だと——』
頭が痛い。精神的に痛い。普通にあり得そうなのが尚痛い。
『では鬼ごっこを頑張って下さい』
消えた。標的じゃないのを良いことに最低限やることやった怒神が逃げた……下手に刺激して魔力を増強させたら不味いよなぁ……どうしよ。まぁ取り敢えず、後で拳骨一発くらいは覚悟して、怒神。"手加減"は、するから。
◆◇◆◇
然程時間は掛からず怒神が戻って来た。さて、最優先事項はあのゴーレムの機能停止。もしくは完全なる破壊。
エンデと怒神が全力で手を合わせて立ち向かえば何とかできそうではあるが、ここは地底。下手をすれば全員生き埋めになる可能性を常時孕んでいる。無論エンデと怒神はそれを承知だから逃げているのだろう。
『唯一当時を知るエンデさんが離脱したのは痛いですね。か細い糸すらありません』
「それをどうにかするしか他に無い。まずは行動しよう。何もしないよりは何か分かるかも知れない」
『そうですね。先程エンデさんに会うまでに、何かありそうな建築物を幾つか見えました。まずはそこにーー
『ドッガッーン!!』
地面から地底の天井まで昇るほどの爆炎と爆音が、この地底内に反響した。この位置からはかなり離れているが、それでもしっかり目と耳に入るほどの大きさ。
『エンデさん……あのゴーレムに魔法ブッパはまずいですよ……!』
これは……急いだ方が良さそうだ。




