30話 滅びし地下大帝国
『ピ、ピピ』
「「……」」
エンデと目が合った。今の音で、儂と同じ想定をしたのだろう。取り敢えず痛みに震える体に鞭を打ち、この場から離れ——
『ピー!』
「翡翠玉石!頼むエンデ!」
「了解、吹っ飛べ暴走ゴーレム!」
翡翠玉石によって増幅された魔法の風が、ゴーレムが放つ光線ごと呑み込み、この地下空間の何処かに吹き飛んで行った。これで倒せなくとも、時間は稼げるはずだ。
『連携極まってますね。ワタシが干渉もといサボっても大丈夫で安心しました』
「「手伝え!!」」
落下地点及び現在地。帝都内の住宅跡地。
「……」
エンデが気不味い雰囲気を漂わせながら、儂と怒神の後ろを歩く。これは確実にあれだろう。儂個人による歴史上の国家滅亡原因ランキング上位、魔王エンデールによる破壊破滅。
この国の歴史書に書かれている、帝国が滅んだ原因たる魔王という名の厄災。確実にエンデのことだ。
正直あまり儂としては実感が無いし、そんな過去のことを出されても特に何とも思わない。そもそもエンデがそうなったのは、欲深な人間の業と悪魔の気紛れ。責任を感じる必要は無い。
『……エンデさんエンデさん。この前知りましたが、夜にルーダさんに抱きついていますよね?」
「え、あ、う、うるさい!そ、そんなことしてない!」
エンデがおちょくられて強制的に元気になった。ちなみに儂もエンデがそれをしているのは知っている。毎晩儂が寝た頃に抱きついてくれば流石に気付く。
中々寝付けなかった時に抱きつかれた時は驚いた。エンデは儂が寝たと思っていたのだろうが、あの時は生憎起きていた。エンデが儂に抱きつくと言っても、詳細を言えば耳を儂の胸に当てて儂の心音を確認しているような感じだ。
儂が死ぬことを凄まじく忌避していたし、まだ生きているかの確認をしているのだろう。儂に一言くらい言ってくれればいつでも確認してくれても良いのだが。
それにしてもゴーレムには空気を読む能力でもあるのだろうか。いつも変な怒神だが、エンデの精神安定という面では助かった。
……赤面しているエンデは珍しいな。
現在地。帝都内の大聖堂跡地。
先程までいた住宅跡地は大部分が崩壊しているものの、住宅地と呼べる程度には原型を何とか留めていた。しかし、この聖堂と思われるこの建築はあまりにも損壊が激しい。
いや、こんな損壊具合……激しいなんて生ぬるい。エンデが聖堂があったと言うから聖堂がかつてここにあったのだろうが、儂から見ればただの砂の山にしか見えない。何度見ても砂にしか見えない。
「何したんだ……本当に何をしたんだエンデ」
「……黄金と宝石でギラッギラしてて目障りだったから、局所的にやり過ぎた」
「あー……」
権力者によくある権力の象徴みたいなあれか。ああいうのは確かに目障りだし、視界から外したくなる。
今までの旅で見かけた物は、生ぬるくて首都の噴水に自己の石像。特に酷かったのは巨大黄金像。今思い出してもあまりに目障りだった。しかも何体もあったし。そう言えば、黄金像があった国には武装したみすぼらしい人や兵士が地下で集会をしていたな。あの国は独裁国家で圧政が敷かれていたらしいし、世界が元に戻れば革命が始まるだろう。
……ここに来て多少時間が経ったが、普通の街にしか見えないな。帝国が存在した年代を考えると、魔法関連の物が存在しないのはおかしいし、大穴の底で儂等を襲ったあのゴーレムの出どころが分からない。
「なぁ、本当にこの国をエンデが滅ぼしたんだな?」
「そうだけど……そうなんだけど……元々この国って滅びかけだったし。私がしたのはちょっと小突いただけで……」
「いや待て!滅びかけていたのか?!エンデの干渉無く?!儂が知っている歴史と違って来るぞ……!」
まさかこの帝国で革命?!ありえる話ではあるし新たな可能性が浮上したが、そんな興味よりも驚きが勝る。
世界が凍えてから儂が新発見した大体は考古学者の友人が驚くような事実ばかりだが、こればかりは卒倒しそうだ。
多くの歴史を抱えるこの国で、その始まりである帝国滅亡の真実。どれほどの考古学者が帝国について追い求めていることか。帝国では石のアクセサリーが流行っていたとか、帝国のとある権力者がどれほど散財したかとかで、大体的に発表されるほどに。畑違いな儂にはその熱量が少々怖い。それに惹かれるのも分からなくは無いが。
「……落ち着けルーダ」
おっと、エンデに呆れ顔をされてしまった。頭を冷やさないとまた言われるだろう。冷やさないと駄目なのだろうが、エンデには済まないが興奮てすぐに頭が温まる。
「エンデ、怒神。この砂を取り除けるか?こう言った施設は、地下に地下室が隠されていたりするからな。エンデが砂にしてもそれが上層限定の可能性がある」
「確かにあり得る。あの時は目障りものを見たくなかった一心だったし」
『地下室って、ここはもう地下なの忘れましたか?』
怒神のツッコミはひとまずスルーし、エンデの魔法で砂がこの場から取り除かれる。案の定、ボロッボロなレンガで四角く囲まれた、落とし穴にしか見えない穴があった。
よくよく観察してみたが、これはただの穴では無かった。考えるみると当然のことだ。元々ここには木製の梯子が立て掛けられていた。だが数千年の時間経過は、無慈悲に梯子を塵に変えていた。今まで石などの劣化し難い素材の階段ばかりで忘れていた。
木製の物は風、日光、水で劣化し、昔の文字や地図が書かれたそれは貴重ではあるが現在まで残存し辛い。石板を使い千年以上、そして今現在まで情報の残した大賢者には感謝しか無い。
……あの隠れ庭にあった家具や本、それに竜を研究していたあの地下研究所の物品……ちゃんと使えたよな。エンデは魔法で劣化し難くなっていると言っていた。千年ほどの違いはあれど、あの遺跡よりもこの帝都も、灯りが届く範囲で見えるこの穴も、下手に衝撃を加えれば粉々に崩れてしまいそうだ。魔法が施されていないのか、或いはただ単純に弱い魔法しか無かったのか。
「怒神。この縄付きの杭を地面に打ってくれ」
『了解しました』
『ダンッ!!』
さ、流石ゴーレム。軽く振り下ろした拳の威力がハンマー以上……地面刺さると言うより埋まった杭と、それに巻き込まれた縄の結び目。
まぁ簡単には杭は取れないだろう。これで縄を穴に投げ入れ、そしてこの縄をつたい下に降りる。浮遊の魔法で降りた方が早いが、先の攻撃して来たゴーレムの件がある。抵抗可能なエンデと怒神の魔力はできうる限り温存したい。
縄をつたって降りると、先には崩れた横穴があった。何かあるとすればこの先だろう……なぁっ?!
「ルーダ!」
「た、助かった。まさか手を置いただけで崩れるとは……劣化があまりにも酷い。調査とか探検とかやってる場合では無いな」
エンデが穴に入って儂を抱えて穴を出ていなければ、この下で埋まってしまっていただろう。エンデの咄嗟の判断には感謝だ。
『ドンッ!』
盛大な着地音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。思ったよりも来るのが遅かった。まぁどちらにせよやることは変わらない。
「よし翡翠玉石!」
「もう一回吹っ飛べ!」
魔法の風に呑まれ、再びゴーレムが彼方に飛んで行く。これでまた時間を稼げた。探索と調査を再開——
『ドンッ!』
盛大な着地音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。嫌な予感……予感という過程を越えて、最悪な状況が目の前に既にいる。先程吹っ飛ばした時はかなりの時間を稼げたはずなのに。何がどうなって……
『魔力測定スコープ起動……っ!逃げましょう。ワタシは対人会話や日常補助等の雑事に優れていますが、戦闘性能は目の前のゴーレムが上です。この上昇幅、エンデさんでも勝てるかどうか……大規模戦術ゴーレムならアリになるのですが』
エンデと目が合う。考えていることは同じのようだ。
「さて」
「うん」
「「撤っ退!!」」
『息ピッタリですねぇ?!お2人方!』




