3話 無音に近い静かな街
「これが、靴に……服……魔法面は退化したが、機能面は中々……」
エンデが謎の関心を……儂は魔法についてほぼ何も分からんからエンデが何のこと言っているのかは分からない。だが、気に入っていることは分かる。
さて、いつも通りのことを再開しよう。街に来たからには調査だ。何も分からぬとも、何も進まずとも、この凍えた世界は何故凍えたのかを知る為に。50数年間の旅路と調査に意義があると信じて。
街の調査開始から3日目。収穫及びほぼ進展無し。
街にある書物ほぼ全てに目を通したが、これと言って凍えた原因に繋がるものは見当たらない。まぁいつも通り。
儂としては現代的な書物よりも、この地に伝わる伝承や童話に原因に繋がる手掛かりがあると睨んでいる。よく考えなくとも、世界を凍えさせるなんて事象は伝承に伝わるような連中しかできないだろう。実際エンデが氷結した門の氷を、形容し難いあの色の火を生み出し氷を全て溶かし消したことで確信が深まった。
エンデと出会う前でも、その可能性が1番高いと睨んでいたが……
「おいお前。これは何だ?」
お前は無いだろう……流石に……訂正しても変わらなさそうだな。今はお前で良いか。
それにしても3日間静かに街の様子を眺めていたが、流石に飽きたか?その間、儂は街からかき集めた書物に目を通して首が痛い。首を手で押さえつつ、部屋の反対側にいるエンデに視線を移す。一体エンデは何を……
「そして全てが停滞した時、進みし先は全てが動く鐘の音….?何だこれは?こんな分厚い本に文字が一行だけか?意味あるのかこれ……」
随分懐かしい物を取り出してきたな。
「勝手に儂の荷物を漁るな。かなり貴重な品とかも入っているんだぞ。中には様々な街や遺跡を巡って手に入れた貴重な品々で……エンデが持っている本も貴重な品の一つ。儂の意味深コレクションその1、予言書だ」
「よ、予言書?白本の間違いじゃ無いのか?」
流石に驚くか。儂も一目見た時その本を破り捨てたくなった。
「それはとある城の宝物庫にあった代物。あの頃は噂になってたものだな……あの城の何処かに、予言書があると。この噂を頼りに入手したのだが、見ての通りそのたった一文しか書いとらん。その一文を読んでも大して分からず、捨てるのも勿体無い気がしてずっと持っている」
「…………」
予言書を何度も何度も繰り返し見ていたが、あの一文以外に何も見つからなかったのか、もしくは飽きたのか、予言書をその場に置き扉を開けて宿から外に出て行った。
気分転換に儂も外に出るか。
……何処まで行く気だろうか。宿を出てから無造作なように歩いているが、止まる気配が無い。
エンデが凍り切った露店の果実を手に取り、手から火を一瞬だけ生み出し後ろに投げた。取り敢えず投げられた果実を受け取る。
芳ばしい匂いが放たれている。火加減は適切。綺麗に焼けとる。熱さも丁度良い。下手すればこれで生活できるぞ……って儂は何を考えているんだ。
「……」
何も言わないなぁ……
よく見ると、エンデはいつの間にか持っていたもう一つの果実を軽く焼き焦がし、歩きながら周囲の街並みを見ながら齧っていた。
……冷めぬ内にこの手にある芳ばしい焼き果実を齧ってみる。美味い。
「なあ……世界がこうなってから、幾年経った?」
「そうだな。儂が20ほどの時だから、今日で50……4、5年と言ったところか。すまんが正確な年月は分からなくてな。こんな天気が延々と続けば昼と夜の感覚がおかしくなる」
……広場か。街の中央付近じゃな。そしてエンデが、広場の中心にある凍り付いた噴水の上に飛び乗り、空を眺めた。
「お前は何故それほどの時間を究明の為に費やした?気がおかしくなるような年月を、何故そこまでして追い掛ける……?」
「ふむ。応え辛い質問だな。強いて言うなら、暇潰し。考えても見てくれ、こんな何も動かない停滞した世界で、どうやったら暇にならず済むと思う?何もせず時間を無駄にするのは性に合わん」
流石に呆気に取られているな。まぁそうだろう。儂としても笑われるのを前提に言ったこと。そうだと、誤魔化したい……
……少し笑ったな。
「…………私も……私もその旅路に同行させて欲しい。私も、私の存在意義を失くして暇だったところだ!」
急に、悲観した顔でも呆然とした顔でも無い、意思を固めた顔になったな。若い頃を、思い出す。存在意義と言うのは、世界を滅ぼすことだろう。今は何だって良い。別の目的を追い掛ければ、世界を滅ぼすことすら忘れるほどに熱中するだろう。
「良いだろう!ならば、この街の近くにある古代遺跡に行こう。街にあった書物の中にそんな遺跡があると記されてあった。直接関係あるかはまだ分からないが、行ってみなければ何も分からぬからな!」