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28話 大賢者が残した遺物

 ここまで来たが、一度王都を見納めだけして別の場所に移動する。祖国の中央領地の端であり、誰も寄り付かないような森の中にある儂の拠点。王都を中心とした中央領地の端であるが、実際距離は然程遠くない。ソリを使えば一瞬だ。


『かなりのボロ小屋ですね』

「悪かったなボロ小屋で。中は使える程度には修復してあるからそこは安心しろ」


 扉を開いて、エンデと怒神を小屋の中に促す。エンデと怒神、特にエンデが中に踏み入った瞬間に小屋の中を驚くように立ち止まった。背中を軽く叩き驚きから現実に戻しつつ、奥の方に促す。そうしないと儂が小屋に入れない。


 ここを拠点としてから、もう何十年も経つ。さて、今後についての情報共有だ。


「さて、まずはだが。もうこの遺書は要らないだろう。道中で儂がぽっくり逝った時用に書いていた物だが、今は生きて辿り着けた」

「い、遺書って怖いことを言うな!一瞬心がヒヤリとしたぞ!」


 エンデが近くのテーブルを叩きながら悲鳴に近い声を上げる。叩かれたテーブルは大きく二つに割れて砕かれた。


 見るも無惨な姿になった一つしかないテーブルの応急処置の準備をしつつ、壁の棚に置いてある蝋燭を取り出して火を着け、そして遺書を燃やす。


 色々と悲観した感じで書いてしまった為、遺書を取り出しただけで取り乱したエンデの様子を見ると……もしエンデに読ませようものなら、このテーブルでは済まないことは確かだろう。まぁ確実にこの小屋は吹き飛ぶ。重要な物品ばかりだから、破壊されたらたまったものではない。


「さてまずは、あれを見てくれ」

 小屋にある、少し周囲の物品に埋もれた石碑に指を差す。エンデと怒神はその石碑に近付き、まじまじと見つめた。


「読めるか?」

「読めないことは無いが……かなり読みづらい。意味ある文章にできる自信が無いぞ」

『ワタシには分かりませんね。文字データを下さい。すぐに覚えます』


 怒神には古代文字の読み方、書き方が書かれた考古学者御用達の本を渡し、エンデが読みづらいと言ったその石碑を読み上げる。


「世界を巡りし者よ、これから世界を廻る者よ、探せ。過去の脅威と行くべき先を記したそれを、行き先を示さんとする魔法の扉の先を。種は蒔いた。我は大賢者と呼ばれし者、その名を探せ」


 もう暗記するまでに読み返したその文章を読み上げる。意味深コレクションその0。その1を見つける前から知っているから、コレクション番号に0をつけた。まぁ番号なんてただの儂の自己満足でしか無いが。


「凄いな。これを解読したのか」

「凄いのは先人達だ。世界各地の石板や石碑に残されたこの文章だが、もう完全に解読されている。凍える前はかなり有名だったぞ?」


 有名過ぎて誰も話題にしなくなった噂は良く聞いた。実際に考古学者の友人が真っ先に興味を無くしたのがそれだったからな。あの時の学会では、意味不明という言葉のみで片付けられていた。が、その文章に熱中する者も少なからずいた。大抵は徒労に終わったが。それだけだったなら平和なんだがなぁ……


 とある富豪がその文章にある大賢者の名に報奨金を掛けた時は、かなり酷かった。旅人や荒くれ達が好き勝手に遺跡を踏み荒らし、同業者殺しも頻繁に起こっていた。それほどの金額だった訳だが……最終的に各国が遺跡を踏み荒らす者達に懸賞金を出し捕まえ処刑し、報奨金を掛けた富豪の財産を没収し、やっと沈静化した。


 思い出すと本当に酷かった。


 結果的に誰も大賢者に関連した何かを発見できなかったのも酷さに拍車を掛けている。


「どうだ?エンデ。儂の予想だと、それは魔法関連なのではないかと思うが」


 誰も大賢者に関連した何かを発見できなかった事実が、魔法に関する物であることへの拍車を掛けていると思うが、これは魔法の使えない儂からの視点だ。エンデの視点からだと、さてどうなるか。


「……一応劣化を防ぐ魔法が刻まれているが、時間に負けて機能してないな」


 ほう。やはり魔法に関連はしていたか。よし次だ。その石碑だけでは、情報量がまだ少ない。それの補足……というか、今思うとその石碑の文章が補足だな。


「それで、次にこれだ」

 応急処置で直したテーブルに、荷物の中から取り出した一つの石板を置く。あの文章が補足とすれば、この石板に書かれているのは本編のようなもの。


 この石板は、かつて洞窟に迷った時にたまたま発見した物。すぐに伝えても良かったが、エンデには、既にある意味深コレクションその2を置いてあるこの小屋に到着してから、この石板その4と共に伝えた方が良いと判断した。


 その方が頭に入りやすいだろう。


「確かこの金庫に……あったあった。その石碑に書かれている。大賢者に関連した物だ。読めるか?」

「……待って。これ、魔法具だ」


 ……はぁ?!い、いや、大賢者が残した遺物だし、十二分にあり得ることであるのも確かだし……うーむ。

「それは後にしてくれるか?」

「……りょうかい。その死んだ目はやめてね」


 儂の圧でその件は後回しにさせ、まずは石板に書かれている文字。金庫に長らく保管していた意味深コレクションその2であり、数十年前に偶然見つけた石板その1。これに書かれている内容は、何者かによって世界が凍えてしまったことへの確信を深めた。


「えーっと……鐘への指針その1。かつて世界一貧しいと思われていた国に、何かが棲みついた。過去に繁栄を極めた時に残された大きな鐘に、あの存在が宿った。かつて古来より脅威な存在が。大賢者より……鐘?」

『もう1つのはその4ですね……鐘への指針その4。私はあれの目につかぬ様々な地に、この石板を残す。人よ、願いの甘言に身を任せるな。人よ、心から成し遂げたい願いはただの傷跡、それがあったとてただの幻想だ。人よ、自らの指針に忠実であれ。人よ、世界がかの者の手に堕ち滅んでも、希望を捨てるな。大賢者より……曖昧な示唆ですね』


「そうだ……曖昧過ぎるんだ余りにも!」

 鐘への指針その1。その石板を見つけた時は舞い上がったものだ!完全に出せる手が無くなった訳では無いことを知ったのだから……なのに何だ!かつて世界一貧しい国だと?!そこは何処だ?!それはいつの時代にあった?!かつてエンデと共に訪れた湖上の王都の外れの隠れ庭で見つけた大賢者に関する資料が無ければ、時代すら分からなかったんだぞ?!その4も大概だ!


 その1を見つけてから数十年。ようやく見つけたその4を読んで分かったことは、ここに書かなくても良い内容の訳の分からない石板を何処かに置いたことと、大賢者はポエマーだったことくらいだ。


 改めてなんだあの隠し方は。土の中に埋まった洞窟の先だぞ……もう今になっては奇跡だと思えて来る。ノーヒントだぞ?!せめて位置座標は石碑に刻んでくれ!


 あー、今なら愚痴が無限に出る気がするな。そして探した果てにこの文だ。エンデと怒神に今になって見せた最たる理由だ。この小屋に安置したその1が無いと、何の話なのか完全に訳が分からなくなる。


「まぁとにかく。そこに刻まれている文字は一旦無視しよう。さて魔法具と言ったな?エンデ、説明を頼む」

 儂がそう聞くと、エンデが石板に指を置いた。


「結構簡素な魔法が刻まれてて、こうやって魔力を流すと……」

 エンデが指を置いた石板が勝手に動き、もう一つの石板とくっついた。ただの石のように見えたそれが、磁石のように動くとは……正直意味不明だ。いや待て、まさか……


「石碑に魔力を流した場合はどうなるんだ?」

『それにはワタシから説明しましょう。お二方が石板について話している間に魔力を流して検証を終えております』

 おいおい、なんで1体で勝手にやってるんだ。せめて一言くらいは言ってくれ。


『石碑に魔力を流しますと、流した魔力が幾つかの矢印となって再形成されました。恐らくこれら方向に石板があるかと思われます』

「おお!これは結構な収穫だぞ。ここに来たのは正解だったな、ルーダ」


 そんな尊敬の目で見られたら少し恥ずかしいな。だが今は、意識を別の方に向けなければ。

「判明したことをまとめよう。この二つの石板からは元凶の存在。そしてこの石板に魔力を流すことで、最低でもその2とその3の石板を探す指針になるかも知れない」

「あと、この石板には「鐘」の単語が書かれているけど、あの真っ白予言書にも「鐘」の単語が確かあったはず」


 ん?


「予言書……?あぁ、意味深コレクションその1の予言書か。ちょっと待て、今確認する」


 荷物の中から中身ほぼ真っ白な一冊の本を取り出し、例の一文がかかれているページを出す。


『そして全てが停滞した時、進みし先は全てが動く鐘の音……ルーダさん。これって、魔力を感じないだけでガチの予言書では?』

 覗き込んで来た怒神が読み上げ、そんな感想を呟いた。


 ……マジか。

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