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25話 その名は魔王エンデール

◆◇◆◇


「やったぞ!完成だ!悪魔よ、その依代を持って我輩に世界を献上せよ。よくやくだ、ふはははっ!!これで我輩は世界の覇者とな——」


 目の前のそれを殺せ。それが、頭の中で響いた声だった。


「……」

 血、罵声、悲鳴、血、暴力、惨殺、血、絶望、激痛、血、血、血、血、血、血、赤い赤い赤い赤い赤い……


 頭の声は次に、渡した力で世界を滅ぼしてみろと言った。私は迷いなくその声に従って、暴れた。悪名を轟かせ、血の雨が降り注ぎ、屍が私を追う道となった。


 暴れて、そして封印されて、封印が解けたらまた暴れてを繰り返した。迷うこと無く。


 でも封印される度に、時が流れる度に、声は小さくなって行った。なんで不思議に思わなかったのだろうか。私はルーダに出会うまで、ただただ暴れる魔王だった。




 ここは……私の精神世界?


{やぁやぁエンデール。我が可愛い人形よ。久方ぶりの命令だ。その心を捨て暴れよ。さすれば世界はエンデールの物だ。もう何も無いようだがな}


 私に、何百年も、何千年も、何万年も巣食っていた悪魔。やっと知れた、見つけた。


 思い出した。本来私は意志なんてない、ただ悪魔がこの世で活動する為の依代。ただの肉の人形。悪魔を召喚した者は、私にその扱われ方を望んだ。そのはずだった。


 でも悪魔は従わず、私に悪魔の力を注ぎ込んで、私という自我を生み出した。


 それもただの気紛れなんだ。きっと。私はルーダに出会って、人を知った。心を知った。私を知った。だからこそ、もう魔王なんかにならない。


「……いや」

{ほう?成程な。悠久の時の果てに我が祝福が劣化したか。我の魔力の枯渇も原因だな。ならば、もう一度我が祝福を授けてやろう}


 悪魔が手をかざした。精神世界に逃げ場なんてあるか分からないけど、取り敢えず避けてみる。悪魔の手から放たれた紅い閃光が私の眼前を過ぎ去り、そのまま遠くまで行って、消えた。直撃しなければ大丈夫そう。


 多分あれが祝福?悪魔は祝福とか言ってるけど、分からない物に自ら当たりに行く必要は無い。

{……さぁ、エンデ―ルよ。この児戯をいつまで続けられようか。今も尚、我に魔力が満たされるのを感じるぞ}


 今やっと分かったけど、悪魔は私の中にずっといたんだ。頭の中の声も、その悪魔の小言に近いかな。


 それにしても、今も尚かぁ……私の体であの魔法陣を起動したよね、あの悪魔。あの時悪魔は召喚されたけど、完全顕現した訳じゃ無い。召喚され切る前に、悪魔が命令して召喚者を殺しちゃった。今ある力も、私に半分以上注ぎ込んだ。私や人間達のように、悪魔も寝て食べて魔力が回復するらしいけど、私の頭の中にいたせいで、寝ることも食べることもしなかった。


 だから私の中の声も、力が無くなって弱くなった。


 アホかと言いたくなるけど、それも悪魔の気紛れでしか無いんだ。多分。アホ、って声に出して言いたいけど。


 でも今は、もう一度自分自身を召喚して完全顕現しようとしてる。そうなったら、弱体化した悪魔の半分の力しか無い私には勝てる見込みは無い。


 時間制限ありの勝負。なんとか、するしか無い。けどどうすれば良い?私から魔法をぶつければ相応のダメージが入るのかな。


 初めてのことだから分からないことが多過ぎる。一つ一つ可能性を潰していくしか無いよね。


 まず一つ、魔法が効くか。


 これはすぐに分かった。悪魔からの攻撃を避ける度に、反撃として放っていた高圧縮した水の魔法が悪魔に直撃しその体を揺らした。


 火とか水とか土とかの物理顕現する魔法は、精神世界でちゃんと生み出せるか怪しかったけど、ちゃんと生み出せたし、ちゃんと有効打になるみたい。


 次に一つ、あの紅い閃光を私の魔法で打ち消せるか。


 三秒に一回の頻度で放たれて、毎回私の眼前を過ぎ去る閃光。あれには追尾が備わっているはず。でなければ、魔法の重ね掛けによる超速の私を捉えられるはずが無い。


 あり得ない角度で曲がってくるし……


 水の魔法は悪魔への反撃。風の魔法は超速移動。炎の魔法は風に重ね掛けの推進力。


 魔法は本来同時に別属性での複数の魔法は使えないらしいけど、私には関係無い。でも同系統の魔法の複数同時使用は流石に無理。それに関しては私も凡人と同じになる。


 つまり、今この状況に適した魔法。使用可能な魔法だと……土の魔法が良さそう。主にゴーレムの作成とかに使われる魔法だけど、土を生み出したり固めたり大質量の岩を放ったりもできる。今まで私が使った場面だと、落石に見せかけた暗殺、貿易路の道封じ、城壁破壊に使える結構便利な魔法……でも碌な使い道して無いな私。


 大き過ぎても私の視界が塞がれるだけ。でも小さ過ぎれば効果は薄い。サイズは拳大が丁度良いかな。少し大きな石が紅い閃光に直撃。すると見事に対消滅した。よし、これが分かれば対処は容易。


 最後に一つ、そもそも私は悪魔に勝てるのか。これが一番怪しい。


 今もどんどん、時間が過ぎるほどに悪魔の魔力が増えて行くのが分かる。紅い閃光が放たれる頻度も、気持ち速くなってきてる。情に訴えられるならこんなに頑張る必要は無いんだけど……


 私に自我を与えて、エンデールの名前を授け、進む先を示した。目の前の悪魔は要は私の父親。反抗期かな、今の私は。父殺しをしようとしてるのに、あまり気持ちが揺らがない。魔王だったからかな。まぁいいや。今考えることじゃ無い。あの様子から情に訴えても効果薄そうだし。


 ……悪魔に性別があるか分からないから、便宜上だけど父にしてる。けど、なんか複雑な気分。


 それにしても、私が魔法で反撃した回数は約六十回。反撃が悪魔に直撃した回数は約六十回。避ける仕草すら無い。


 可能性は二つ。一つは、そもそも私の魔法が効いていない。精神世界だから、悪魔だから、無いとは言い切れない。もう一つは攻撃は避けない縛りプレイの馬鹿か。無いと断言したいけど、この悪魔ならあり得るのが酷い。もしかしてだけど、あんな面倒な性格が私に遺伝とかして無いよね?大丈夫だよね?……不安になる。後でルーダに聞こう。


 ……ん?急に悪魔が紅い閃光を放つ前段階で動きを止めた。何故?誘い罠?


{まさか、我を召喚した魔法陣が壊れたと言うのか?!あり得ない、肉体の主導権は我だぞ?!なぜだ?!}


 ……棒読み。わざとらしさ全開で近付く気すら起きない。でもあの紅い閃光が消えて、三秒経ったのに放つ気配が無い。


 悪魔の魔力を感じてみる。さっきまで滝のような魔力の増幅が感じ取れない。もしかして、動揺を隠す為に棒読みに?あり得るのが酷い。


 私の精神はここにある。私自身が体を動かしている感覚は無い。つまり、今私の体を動かしているのは、十中八九、悪魔。


 やってくれたんだ。悪魔が動かす私を乗り越えて、魔法陣を壊してくれた。魔法陣からの魔力供給は途切れたはず。すぐに私を縛る鎖も崩れる。


 悪魔の周囲にある魔力は悪魔本体だけ。それ以外の地点には魔力を全く感じない。つまり罠を準備している訳では無い。


 なら、風と水と炎の魔法を推進力に。土の魔法で空中に足場を生成。今まで使わなかった闇の魔法で反重力を発生、重力方向は悪魔。魔力を足に集中させて身体強化。昔は常時使ってたけど、今は必要になる場面が全く無いのが寂しい。身体能力だけで比べたら怒神に負けるし。


 私の今の全力。準備は終わった。まずは空中の岩を蹴る!次に変な方向に行かないように風で微調整!水と炎をぶつけで水蒸気爆発で更に加速!これに闇の反重力を重ね掛け!止まるのが大変だけど、今は気にする必要は無い。一秒以下の超速移動。もう加速する必要は無い。


「さよなら、お父さん!」

 私の魔法は、魔王と呼ばれた頃から変わった。全てを破壊する魔法から、前に進む魔法に。そう変わったと信じてる。


 これで終わり、この速度のまま私の全力全霊全魔力を込めた、凍えた世界に抗う意志を込めた、この炎の魔法で!


{貴様ぁぁ!……エンデェェェールゥゥゥゥ!!!}


 炎に呑まれて、崩れて、悪魔は……私の中から消えた。私が加速し過ぎて一瞬しか見えなかったけど、炎の中、お父さんが微笑んだように見えた。流石に、気のせいかな。


「ふぅ……」

 やっと、終わった。




 ……眩しい。

「おい!大丈夫か?!エンデ、エンデ!」

『やはりこの場合はキスで目を覚ますのでは?』

「いい加減その冗談はやめろ!」

「……ぷっ、はははは!」


 そんな会話が寝起きに聞こえたら、笑うしか無いだろ。怒神が一緒になってから、会話に事欠かないな。怒神とルーダとの会話がここまで笑えるなんて。


「おはよう。ルーダ」

「……ようやく起きたか。おはよう、エンデ」


◆◇◆◇

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